文芸(単行本)作品一覧

青二才の頃 回想の1970年代
文芸(単行本)
今よりは少し貧乏で今よりはずっと元気だった日本!当代の小説家が快調に綴る思い出エッセイ。
1970年は昭和でいうと45年。昭和22年生まれの私が、1年浪人しているので大学4年生になる年だ。いきなり個人的な話になるが、いろんな意味でアセっていた頃だった。その頃の私はもうはっきりと、将来は作家になりたいと決めていた。──(本文より)

ファウスト
文芸(単行本)
ゲーテ生誕250年記念!
世界文学の金字塔、新しきメフィスト-フェレスが千年期末に甦る。『されどわれらが日々──』の小説家柴田翔によって躍動するファウスト世界。
第1部・第2部完全版S・リシャール氏による挿絵入り。
●ファウスト
ああ哲学は言わでものこと
医学に加えて法律学
無駄なことには神学までも胸を焦がして学びぬいたが今ここにいるこの阿呆は昔と同じ阿呆のままだ!狐疑逡巡など俺は知らぬ 地獄も悪魔も恐れはせぬ──。がその代償は喜びなしの人生だ。このままじゃ犬だってもう生きるのはご免こうむる!と思えばこそ俺は魔術に精を出すことにしたのだ……
●メフィスト
それならためらうことはない。さあ契約だ。この地上にある限りの日々 私の魔術の数々を楽しませて差上げます 人間がまだ見ぬものを見るのです。あなたには目的も制約もつけません。盗み食いも自由なら逃げるついでの駄賃も手当たり次第 気に入るものはみんな頂き。だから抜け目なくおやりになることですな!

はやぶさ新八御用帳(十)幽霊屋敷の女
文芸(単行本)
御番所に届けられた毒入り見舞酒で3人の死者が出た。幕府の威信を揺るがす事件の陰に、2年前の哀しい出来事があった。賄賂の横行、私利私欲の政治に翻弄される旗本を描く表題作ほか、5編。
●「はやぶさ新八御用帳」登場人物
【隼新八郎】根岸肥前守直属の家臣。南町奉行所内与力
【根岸肥前守】南町奉行。新八郎の主君。
【お鯉】根岸肥前守の侍女。新八郎とは、かつて一夜を共にした。
【大久保源太】定廻り同心。仕事熱心で、新八郎とは刎頸の交わりを結ぶ。
【鬼勘】湯島の名岡っ引、勘兵衛の呼称。今は隠居の身。
【小かん】鬼勘の娘。本名はお初。男まさりで口八丁手八丁。
【藤助】駒込の岡っ引。大久保源太を通じて新八郎を知り、今では一の子分の気でいる。

高山右近
文芸(単行本)
「世の栄達に何の値あろうぞ」
激動の戦国時代を揺るぎない信の道で貫いた高潔のキリシタン大名の生涯
時代に惑わぬ信とは何か?
今という時代に翻弄される日本人必読の書
「右近殿の名前は、マニラでは有名です。日本のキリシタン大名の代表であり、秀吉大王と現在の家康大王の伴天連追放と迫害の時代に信仰を守って生き抜いてきたことに敬意を覚え、ぜひともマニラ全市をあげて歓迎したいと言っているのです」「それはかたじけないし、名誉なことですが、拙者はそのような歓迎に値しない」と右近は言った。

御町見役うずら伝右衛門(下)
文芸(単行本)
国の財政が苦しい時こそ、贅沢すべし。
質素倹約で享保の改革をすすめる吉宗に、唯一対抗し豪奢に暮らす尾張藩は、江戸の敷地内に架空の町を造り出す。町造りから御町見役まで、うずら伝右衛門が引き受けた!
嘘の町の支配者に任ぜられた侍が、自由闊達すすぎる主君のもと、「享保」という巨大な遊園地を右往左往する。
この戯作的な発想を我ながら、ちょいと気に入っている。なぜなら、現代を生きる我々も、主より従、内容よりディテールを気にしつつ、平成という妙な時代村を迷い続けていると思うからだ。──(著者あとがきより)

御町見役うずら伝右衛門(上)
文芸(単行本)
うずらの番人は世を忍ぶ仮の姿。
御三家のひとつ、尾張藩主・宗春の命を受け、幕府の締め付けに逆らう伝右衛門の痛快無比の生き様を描く。江戸の妖術と官能を満載した大長編。享保の世に、こんなに面白い男がいた!

楽しみの日々
文芸(単行本)
病いに倒れてのちの家族や友人との心の交流。
「群像」連載時から大きな反響を呼んだ、脳出血に倒れた筆者を支える家族や友人との交流を綴った日記。記憶のうちから甦る情景や夢、童謡が深い感動を誘います。
7月13日から夢うつつの中に漂っていた。その日の朝に倒れ、夜には完全に意識を失って皮膚だけが反応を示したそうだ。深夜の手術のおかげで翌朝意識を取り戻した私は「机の上に「七里湖」の原稿が出来上がっているから群像の編集部に渡して」と家人に言ったそうだ。
その後芥川賞や紫式部賞の選評のコメントをしたりしてから再び意識は混濁して、もっぱら夢の中にいたようだが記憶は一向に定かではない。脳死体験のようなものは何もなく、ただただ自分の頭はどうもおかしいなと思いながら何か文学のことを喋っていたような覚えがないでもない。
うわごとに付き合った家人は、私の脳の奥底をかいま見たような気になって、ただただ驚き呆れ、そして憐れに思ったと言う。決して仕事の鬼だの、美談だとは言ってくれない。――「まほろしの七里湖」より

津本陽自選短篇20
文芸(単行本)
永遠なる迫真の短篇!
人と人の世の凄絶をみつめる非情と有情、群を抜く描写力。
津本陽は『深重(じんじゅう)の海』で直木賞を受賞したが、それにさかのぼるほぼ10年前、短篇「丘の家」によって自身1回目の直木賞候補となった。『下天は夢か』等の長篇歴史小説の傑作は数々あるが、同時に人間の深い闇を凝視した凄みのある短篇に秀作が多い。類のない一書を贈る!

八月のマルクス
文芸(単行本)
現代の放浪作家が人生を賭けた渾身のサスペンス
第45回江戸川乱歩賞受賞作!
レイプ・スキャンダル。私はお笑い芸人を引退した。5年後、余命わずかな相方の失踪が、過去を甦らせる……。
●選評より
・赤川次郎氏――入り組んだ、よく考えられたプロット。
・大沢在昌氏――芸能界を「罠」によって去らざるをえなかった男の屈折が滲み、バー「ホメロス」の描写など、秀逸である。
・北方謙三氏――輻輳(ふくそう)した人間関係の中での物語の展開は、読ませる。
・宮部みゆき氏――何よりも楽しめた。

盤上の敵
文芸(単行本)
善と悪の戦いを描いた長編ミステリー問題作。
善と悪の戦い、強い者と弱い者、食う側と食われる側。そして、男性と女性。日本推理作家協会賞受賞作家が、世の中の二極対立を精緻な筆致で描いた長編ミステリー。
これからやるのがチェスだとすれば、まず駒組みを完成させなければならない。借り物は、すんだ。つまり、陣型は整った、というところか。だが、準備完了というわけではない。その前に、最も重要な大駒の配置をする必要がある。それが無理なら、この勝負は最初から投げ出すしかないのだ。――-本文より-

密命
文芸(単行本)
企業という戦場で男の真価が問われる。
君のような敗者でも復活できる――。回収不能債権は商社マンを地獄に落とした。『架空取引』から2年、現代の勇気を描く書下ろしビジネス・サスペンス。
大手商社の扶桑通商は赤字決算になり、希望退職の募集を始めた。法務部に籍を置く芦田慎二は、ある日専務に呼ばれ、左遷を言い渡される。半年前、部長のポストを後輩に奪われて以来、慎二は出世競争から脱落していたのだ。異動先で最初に命じられたのは、ヤクザ相手の不良債権回収だった。

亡国のイージス
文芸(単行本)
よく見ろ、日本人。
これが戦争だ。
現在、本艦の全ミサイルの照準は東京首都圏に設定されている。海上自衛隊護衛艦《いそかぜ》。その弾頭、通常に非ず。
江戸川乱歩賞受賞第1作、戦慄の書下ろし巨編。
自らの掟に従い、15歳で父親を手にかけた少年。
1人息子を国家に惨殺され、それまでの人生をなげうち鬼となった男。
祖国に絶望して叛逆の牙をむく、孤独な北朝鮮工作員。
男たちの底深い情念が最新のシステム護衛艦を暴走させ、
1億2千万の民を擁する国家がなす術もなく立ちつくす。
圧倒的筆力が描き出す、慟哭する魂の航路。

吃逆
文芸(単行本)
大陸的ユーモアあふれる中国歴史ミステリー
吃逆(しゃっくり)が男の運命を変えた。
科挙には合格したが職はない。新聞社に探偵としてスカウトされた。
私が危うく杯を取り落としそうになったのは、突然鳩尾(みずおち)のあたりを襲った、大きなしゃっくりのせいである。「承知してますよ、陸兄の不思議な癖は……しゃくりをするたびに、奇妙な光景が頭に浮かんだり、人には見えない物が見えたり、とんでもない思いつきが閃いたりするそうですね」「だからと言って、この癖のおかげて得をしたことは、ただの一度もないのだが」――本文より

優しい侍
文芸(単行本)
歴史文学賞作家が斬新な視点で描く秀作集!
荒木村重一族処刑の前夜、光秀の陣を訪れた侍のことばは、妻を救ってほしいという意表外のものだった――。関ヶ原の前後に際立つ侍の人間的弱さをみつめた注目作。
夕刻になって、予定されていたすべての処刑が終わると、残る五郎右衛門とその妻甲が引き出された。切腹のために座っている五郎右衛門の側を、今は憔悴しきって、両脇を足軽に抱きかかえられた甲が引き立てられていった。これから杭に縛りつけられ、鉄砲で撃たれるのである。
「死にたくない!」改めて五郎右衛門の姿を見ると、甲は再び激しく泣き叫びはじめた。午前中の、粛然として死んでいった人々とは対照的に、自ら転がり、泥だらけになりながら、その抵抗はやまない。髪はほどけ、白い膝前が乱れた。
「静かにおし」そのとき、男の声が響きわたった。それは泣き叫ぶ女をいたわる優しい声だった。処刑場が一瞬しんと静まり、女も足軽たちもはっとして活動を停止させた。――(本文から)

転形期と思考
文芸(単行本)
中野重治、椎名麟三、吉本隆明、福本和夫、萩原朔太郎……。内部の論理を社会の現実と拮抗させうる場所はどこにあるか? 期待の俊英の長編評論。
中野重治、椎名麟三、吉本隆明、福本和夫、萩原朔太郎……
内部の論理を社会の現実と拮抗させうる場所はどこにあるか
期待の俊英の長編評論
フォイエルバッハに関するテーゼにおいてマルクスは唯物論の、観照(理論)から活動(実践)への、受動(情念)から能動(行動)への、説明から変更への転回を定式化しているが、唯物論のこのマルクス的転回には、たとえば椎名麟三が死をめぐる倫理的葛藤(ペシミズム)の末たどりついたような「たたかうユーモア」が必要なのだ。それなしには、唯物論はいつまでも「世界」を即物的に解釈しつづけるだけだろう。そこからは「世界」を「変える」実践は出てこない。「政治的な社会的な諸問題に対してほんとうにたたかって生きて行くということ」が出てこない。「コラムニスト」でありマテリアリストであるには、認識論上の切断ではなく、椎名が「ユーモア」と呼ぶ倫理的な転回が不可欠なのである。――本文より
●山城むつみ氏は、私が近年最も注目する批評家である。
一見して穏やかで地味だが、つねに最も困難な問題に取り組む姿勢には凄みを覚える。――柄谷行人

ヨコハマ・イエスタデーズ
文芸(単行本)
ひとことも英語をしゃべれないぼくが、ある日突然インターナショナル・スクールに入れられて……
’60~’70年代青春グラフィティー
世界で一番くそったれなもの、それは親父とイングリッシュ!
「DON’T TRUST ANYBODY OVER 30!大人を信用しちゃだめよ。ことに日本人のサラリーマンは絶対にね」アメリカ帰りの飛んでる女の子、ミミは言った。はみだし者が集まる港街ヨコハマ、ぼくたちの友情と恋と「あの時代」。笑いと涙のグローイングアップ・ストーリー。

はじまりの記憶
文芸(単行本)
心の原風景を求めて
『犠牲』『「死の医学」ヘの日記』のパートナーふたりが自らの原点を探るduoエッセイ。自己形成のはじまりの瞬間へ分け入り、記憶の深層に眠る情景を掘り起こす。
柳田 自分の原風景探しって、誰にとっても関心事だと思うんです。ひとりで内面を探索するのもいいけれど、表現方法の違う人と刺激し合いながらやってみるのも、意外な発見や展開があっておもしろいだろうというんで、この企画が生まれた。
伊勢 自分探しの旅というのは、いろいろなものを捨てて行くものではないんです。じつは「今」を意識しながら、幼少期の原風景まで戻って行くみたいな旅です。5歳のとき感じたものを思い出すことはできても、今はそのときとは絶対違う歩き方で同じ風景を感じたり見たりしている。そういう意味では一見、後ろを向いているようでいて、本当は前向きの姿勢なのではないかと思うんです。
柳田 そうですね。原風景を探すといっても。それは後ろ向きに昔を回顧するわけじゃない。今の自分の存在理由を確認する作業なんですね。

恋の休日
文芸(単行本)
第121回芥川賞候補作品を緊急出版!!
’95年「午後の時間割」第14回海燕新人賞、’98年『おしゃべり怪談』第20回野間文芸新人賞受賞。若者の今風な生態の中にも深い悲しみが翳を落とす作品集
悲しみの淵に潜っていって戻ってきた者だけが知っているあまりにも透明なせつなさ
「そういえば私ねえ、学校で嘘つきフィンって呼ばれてたことあるんだよ」
フィンは煙がうすく消えていくのを眺めながら言った。
「嘘つきフィン?」
「うん。フィンっていうのはあだ名」
「へえ。なんでフィン?」
「顔が丸くてマフィンみたいだから」
「ひでえ」
良一が咳こむように笑った。

浮かれ桜
文芸(単行本)
●注目の作家、渾身の書下ろし野心作
北村冬馬、26歳。超人気俳優。ちょっとカリスマ。「抱かれたい男」アンケート、3年連続堂々1位。女と芸能界を我がもの顔で渡り歩く、平成の色悪小説決定版!
鬼畜ですみません。
俺はきららの脇腹を、思い切り蹴飛ばした。俺ってこういう男なんだよ、まだわかんねぇのか。きららのたっぷり肥えたからだを俺の脚は、何度も蹴飛ばす。きららは哀しいバレリーナとなってゆるやかに舞い、くねりと床に突っ伏した。
手加減はしたつもりだ。
「……効いちゃった?」
おそるおそる、声を掛けてみる。床に突っ伏したまま、身動きもしない女。俺はだんだん不安になっていった。
「肋骨、折れたとか」
そういう感じ?――(本文より)

幽
文芸(単行本)
芥川賞候補作を含む作品集
入院、退社、離婚という心労の果て、江戸川沿いの古い一軒家に棲みついた男。幽(かそけ)き暮らしに現れた謎の女性との情欲の行方は……
それにしても「幽」というのも不思議な形の文字だと伽村は思った。……真ん中に立つ鏡の両側に「幺」と「幺」とが2人のひとのように立ち尽くしている。1人は実体だが鏡面を隔てたその向こう側に見えるもう1人はただ光が戯れているだけの虚像にすぎず、しかしどちらが実体でどちらがその反映なのかは誰にもわからない。幽明鏡を分かつ鏡面のこちら側と向こう側に、どちらがどちらとも見分けのつかないそっくりそのままの分身2人がただ自信なさげに揺らめいているばかりだ。たぶんその2人はお互いの瞳の中を覗き合い彼ら自身もまた2人とも深い当惑の中で立ち尽くしているのかもしれない。