講談社学術文庫作品一覧

ル・コルビュジエ
講談社学術文庫
20世紀を代表する、最も有名な前衛建築家、ル・コルビュジエ(1887-1965)。
「全ての建築家にとっての強迫観念(オブセッション)」「近代建築の言語そのもの」……。
スイスの若き時計工芸家は、なぜこれほどまでの世界的名声を勝ち得たのか。
師との出会いと決別、数多のコンペティション落選や学界との論争、生涯転身し続けた作風の背景――。
建築界の巨匠を“人文主義者”という視点で捉え直し、豊富な図版と共に、その全体像をクリアに描き出す!
「あなたが何か新しいことを考えたと思っても、
コルブ(=ル・コルビュジエ)はそれをもうやってしまっている」
―イギリスの建築家アリソン・スミッソン(「序章」より)
目 次
序 章 ル・コルビュジエとは誰か?
第一章 見出されたもの
第二章 「開かれた目」と「ものを見ない目」
第三章 「建築を擁護する」
第四章 「彎曲の法則」
第五章 「直角の詩」
第六章 「開かれた手」
年譜
あとがき
学術文庫版あとがき
本書の原本は、1983年9月、岩波書店より20世紀思想家文庫として刊行されました。

自然科学の歴史
講談社学術文庫
地質学者として大学の教壇に立った著者は、多くの学生が、高校の自然科学4教科、地学・物理学・化学・生物学のうちの二つくらいしか履修していないことに気付いた。しかし、自然科学のさまざまな分野を独立の学問として学ぶだけでは、その学問の意味を本当に理解することはできない。全体を見渡す「自然科学史」の視点から、個別のテーマが自然科学の発達史のなかでどんな位置にあるかを知ることが必要なのである。
本書は、この4分野をそれぞれ、宇宙・地球観の歴史、物質観の歴史、技術の歴史、生命観の歴史に区分し、人間と科学・技術の歴史として描き出す。
古代、どの文化圏でも、最初に生まれた科学は天文学と医学だった。古代ギリシアの自然哲学に始まったヨーロッパ科学は、中世にはアラビア人が伝統を受け継いで発展させ、シチリア島やスペインでそれらをヨーロッパに伝えた。一方、古代以来、中国の科学と技術はヨーロッパを凌いでいたが、中世末期に中国から伝来した技術を背景に、ヨーロッパにルネサンスと科学革命が起こる。やがて産業革命は蒸気機関と、さらに電気の時代を生み出していく。そして20世紀末に至り、人類は核エネルギー開発による放射能汚染と、遺伝子操作という「神の領域」に触れる難題を抱え込むようになったのである。『自然科学史入門』(1998年、東海大学出版会刊)を改題して文庫化。
目次
まえがき
序章 科学史概観
第一章 宇宙・地球観の歴史
1 古代自然哲学における天文学
2 ニュートンによる天体力学の完成
3 二〇世紀初期までの地球観
4 現代の宇宙論
5 二〇世紀後半の地球観
第二章 物質観の歴史
1 哲学的原子論と錬金術
2 科学革命と近代的原子論・分子論
3 有機物質の化学
4 物質の究極的構造の解明│現代物理学の誕生と発展
5 二〇世紀後半の合成有機化合物
第三章 技術の歴史
1 技術の起源と古代の技術
2 中世から近世初期の技術
3 産業革命と技術の近代化
4 電磁気学の発展とその応用
第四章 生命観の歴史
1 古代・中世の医学
2 生物学の近代化
3 産業革命後の生物学
あとがき
自然科学史年表
人名索引

日本の珈琲
講談社学術文庫
珈琲は、いつ、どのようにして日本に伝わり、広まったのか。世界の珈琲発見伝説・珈琲の異名熟字一覧・日本初の珈琲店の話から、江戸時代の長崎での交流、海外渡航者、はたまた海外漂流者の体験まで――膨大な史料を渉猟し、驚きに満ちた珈琲の歴史を明らかにする。生活文化史の古典である幻の名著、待望の復刊!(序・古波蔵保好/解説・旦部幸博)
[本書の内容]
序によせて 古波蔵保好
一、珈琲の始まり
二、世界の珈琲
三、日本の珈琲の始まり
四、珈琲研究に手掛かりを与えた人々
五、日本の珈琲文献
六、珈琲異名熟字ほか
七、日本への渡航者と珈琲
八、海外漂流者の珈琲記事
九、海外渡航者の珈琲記事
十、新日本と珈琲
十一、その後の日本の珈琲
十二、珈琲の栽培
あとがき
解説 旦部幸博

韓非子 全現代語訳
講談社学術文庫
鋭い人間洞察が時を超えて突き刺さる、不滅の君主論!
人間は利のために動く。君臣の間に愛はない。
徹底した現実主義的人間観に基づく実践的君主論にして、春秋戦国の乱世下に法家が磨き上げた統治思想の極致。
「矛盾」「守株」など秀逸な譬えを交える軽妙さ、
理想的統治を語る峻厳さ、
儒家への鋭い批判、
そして不合理な現実政治への悲憤―
抑揚に富んだ語り口を生き生きと伝える碩学の名訳で、全文を読む。
【本書「解説」より】
人間性一般についての洞察の鋭さ、権力の場における人間関係の分析の綿密さ、独裁国家という枠内でではあるが、君主の心術探究の深刻さ、という点ではいずれも韓非のほうがマキャベリより一段と精彩があり、ルネサンス期のマキャベリと比べても、不思議に古くないのである。韓非の眼がその時の瑣々たる政治現象をつきぬけて、人間の本質に迫っている故であろう。
【本書の内容】
[第一巻] 初見秦/存韓/難言/愛臣/主道
[第二巻] 有度/二柄/揚権/八姦
[第三巻] 十過
[第四巻] 孤憤/説難/和氏/姦劫弑臣
[第五巻] 亡徴/三守/備内/南面/飾邪
[第六巻] 解老
[第七巻] 喩老/説林上
[第八巻] 説林下/観行/安危/守道/用人/功名/大体
[第九巻] 内儲説上七術
[第十巻] 内儲説下六微
[第十一巻] 外儲説左上
[第十二巻] 外儲説左下
[第十三巻] 外儲説右上
[第十四巻] 外儲説右下
[第十五巻] 難一/難二
[第十六巻] 難三/難四
[第十七巻] 難勢/問弁/問田/定法/説疑/詭使
[第十八巻] 六反/八説/八経
[第十九巻] 五蠹/顕学
[第二十巻] 忠孝/人主/飭令/心度/制分
解説・年表・地図
*本書は1969年に刊行された筑摩叢書をもととして1996年にちくま学芸文庫より刊行された、『韓非子』(上下巻)を原本とするものです。

写経入門
講談社学術文庫
「真心をこめて綴れば、その一字ずつが仏になっていく」。
七世紀末、仏教流通のための経典書写から始まった写経は、
信仰の拠り所となり、室町時代には文字を護摩符として服用するのが流行るほど
霊験あらたかなものでした。
何故これほどまでに、写経は日本人の心を虜にできたのか。
そのはじまりや写経所作の歴史的意味、一七字詰めの理由や
美しい書体バランス考察や毛筆の選び方・使い方まで、ていねいに説明。
仏教や日本文化を深く知るための「写経」という知見を、
現代仮名書壇の基礎を築いた名書家が、豊富な手本図版とともに細やかに披露する。
この底本は1971年、創元社より刊行されました。
文庫化にあたり、巻頭カラー頁を図版解説項へ移し、
付録頁を「講談社BOOK倶楽部」内『写経入門』サイトへ移行しています。
目次
1 写経とは
2 感謝の生活
3 神と仏
4 神仏混淆ということ
5 信仰と信念
6 清浄心
7 写経のはじまり
8 写経の方式
9 写経の作法
10十七字詰の解
11写経の用度
12写経の順序
13願文の書き方
14皇室と心経
15観音さま
16心経の略説
17心経の書写文字
18学習にはーー手本のこと
19筆写体と辞典体
20細楷の練習法
21装幀について
22所用料紙数の概算
23文人墨客の写経
24写経と私
図版一覧
図版解説

そば学大全 日本と世界のソバ食文化
講談社学術文庫
日本が誇る伝統食にして健康食、そば。しかし、植物であると同時に作物でもあるソバの文化は、日本だけのものではない。ソバの本場・信州で研究を積んだ農学者が、世界のソバ食文化を探訪して日本のそばの魅力を再発見する。さらにその栄養と味覚、健康食品としての機能や、品種改良についても解説。
江戸の農書に表れる「ソバめくそ」「めくそ飯」とは何か? 「普通種」よりも収量が多くて安定しているダッタンソバ、ニガソバは、なぜ日本で栽培されなかったのか? なぜ「手打ちそば」が上等なのか? 朝鮮半島のシミョン、カルクッス、中国の「猫の耳たぶ」マオアルドウ、ネパールのソバの腸詰、ウクライナのソバカーシャ、スロベニアのソバ団子、フランスのガレットに、イタリアのポレンタ・・・各地のソバ食レシピをみれば、日本の「そば切り」を本流とする麺食ばかりがソバではない。縄文時代から親しまれる、ソバをもっと楽しむ本。〔原本:平凡社、2002年刊〕

中国戦乱詩
講談社学術文庫
太平の時は常に稀にして戦乱の世は常に多し。――古来より、中国では戦争が絶えなかった。歴代の詩人たちは、あるがままの現実を作品に昇華し、人々の叫び出でたる声として残した。中国古典文学研究の泰斗が、蘇武・李白・杜甫・文天祥といった、周代から清朝の名詩・四十一首を精選する、味わい深い名著。(まえがき・川合康三/解説・小川環樹)
[本書の内容]
学術文庫版まえがき 川合康三
序
周詩
漢魏晋詩
六朝隋詩
唐詩(上)
唐詩(下)
宋詩
清詩
解説 小川環樹

異常の構造
講談社学術文庫
臨床の場に身を置きつづけながら、綺羅星のような著作および翻訳を遺した稀代の精神病理学者木村敏(1931-2021年)。その創造性は世界的に見ても人後に落ちない。
著者の名を世に広く知らしめるとともに、社会精神医学的な雰囲気を濃く帯びていることで、数ある著作のなかでもひときわ異彩を放つ名著に、畏友・渡辺哲夫による渾身の解説を収録。
「異常」が集団のなかでいかに生み出され、また「異常」とされた人々のうちでなにが生じているのか、社会および個人がはらむ「異常の構造」が克明に描かれる。私たちはなぜ「異常」、とりわけ「精神の異常」に対して深い関心と不安を持たざるを得ないのか。「自然は合理的である」という虚構に支配された近代社会が、多数者からの逸脱をいかに異常として感知し排除するのか。同時に患者のうちで「常識の枠組み」はどのように解体され、またそのことがなぜ「正常人」の常識的日常性を脅かさずにはおかないのか――。
「あとがき」に刻印された「正常人」でしかありえない精神科医としての著者の葛藤は、社会における「異常」の意味を、そして人間が生きることの意味を今なお私たちに問いかけ続けている。(原本:講談社現代新書、1973年)
【本書の内容】
1 現代と異常
2 異常の意味
3 常識の意味
4 常識の病理としての精神分裂病
5 ブランケンブルクの症例アンネ
6 妄想における常識の解体
7 常識的日常世界の「世界公式」
8 精神分裂病者の論理構造
9 合理性の根拠
10 異常の根源
あとがき
解 説(渡辺哲夫)

パリ万国博覧会 サン=シモンの鉄の夢
講談社学術文庫
絶景、奇怪、絢爛。"物神【フェティッシュ】の聖堂"のスペクタクル!
現在も世界各国が競って開催する万国博覧会。
それは、サン=シモンという男が思い描いた「産業という宗教」を奉ずる者たちが、物神たる機械と商品の数々によって荘厳した神殿として創められた。
万博というものを、単なる近代産業技術のひとこまとしてではなく、来たるべきユートピアとして構築され、資本主義文明の展開そのものを懐胎した運動であったことを活写する、この著者だからこそ書けた万博論の決定版!
【本書「まえがき」より】
もしこの万博理念の形成過程史が解明され得るなら、それは、むしろ実際の万博の歴史よりも、絶対に面白いはずだ。なぜなら、それは単なるモノの歴史ではなく、モノに関するイデアの歴史、さらに言うなら近代文明についての観念の歴史となるはずだからである。
【本書の内容】
まえがき 万博の神学、あるいは万博史の逆説
第1章 サン= シモンの鉄の夢
第2章 転向サン= シモン主義者ミシェル・シュヴァリエ
第3章 パリ万国博覧会にむけて
第4章 万博理念の確立
第5章 サン= シモン主義のユートピア、一八六七年パリ万
国博覧会
第6章 アミューズメントとしての万博会場
第7章 博覧会場の外で
第8章 新たなユートピア〈恒久的万国博覧会〉にむけて
文献目録
※本書の原本は、『絶景、パリ万国博覧会』として1992年に河出書房新社より、その後2000年に小学館文庫より副題「サン・シモンの鉄の夢」として刊行されたものです。

日本茶の世界
講談社学術文庫
12世紀末に臨済宗開祖・栄西が中国から持ち帰って以降、
日本人に欠かせない飲み物となった日本茶。
その味と製法はどのように変わり、私たちに受け継がれたのか?
茶畑の日光状態とうまみの関係、番茶・煎茶が誕生した理由、
幕末の海外輸出秘話から、多彩な茶葉の特徴と製法、淹れ方や茶器選びまで――。
長く深く愛された、日本の「心」を味わい尽くす!
*本書は2006年に刊行された『お茶は世界をかけめぐる』(筑摩書房)を改題したものです。
内容
プロローグ 日本茶セミナー
第一章 村上の春
第二章 煎茶以前のこと
第三章 煎茶の発明
第四章 世界に旅立つ日本茶
第五章 世界をめぐる日本茶
第六章 日本茶故郷へ帰る ーー台湾から見た日本茶の高度成長
第七章 日本茶の現在
エピローグ 釡炒り茶の復権
内容紹介)
三代将軍家光の時代には、宇治から江戸まで碾茶の新茶を運ぶ、お茶壺道中が定例化されます。(中略)あの、「♪ズイズイズッコロバシ……」という戯れ唄にある「♪茶壺に追われてトッピンシャン、抜けたらドンドコショ……」という一節は、十万石の大名行列と同等の格式をもって旧暦六月前後の農繁期に行われたお茶壺道中に対する、沿道からの怨嗟(えんさ)の反応でした。「またあの面倒なお茶壺が来るなあ」―――第二章「煎茶以前のこと」より
あとがき
コラム〈日本茶データファイル〉
1 碾茶
2 煎茶
3 玉露
4 釡炒り茶
5 蒸し製玉緑茶
6 お茶の葉の選び方

ペリー日本遠征随行記
講談社学術文庫
幕末の黒船、ペリー艦隊で来日し、ペリー自身の日記や公式記録とは異なる視線で日米交渉の一部始終を目撃した首席通訳による貴重な記録。
1837年、日本人漂流民を送還しようと浦賀に来航した米商船モリソン号に同乗したサミュエル・ウィリアムズは異国船打払令により砲撃を受けマカオに退去したが、日本人船員から日本語を習い、ペリー日本遠征の通訳として1853年艦隊に同行。沖縄、小笠原諸島を経て久里浜に上陸し、開国を求める米大統領フィルモアの親書を浦賀奉行に渡した。翌年再び日本に来航して神奈川条約を締結した。鎖国の重い扉をこじ開ける「むずかしい任務を達成するための欠くべからざる奉仕」に尽力したとペリー提督が称賛した首席通訳の随行記には、遠征への冷静な目と日本人に対する優しい眼差しがあった。
下田で密航を企て黒船に乗り込んだ吉田松陰、金子重之輔に応対し、「明らかに教養のある人物だった」とその人柄を見抜く眼力も備えていた。また黒船来航の報に急遽出島から駆け付けたオランダ大通詞・森山栄之助など幕府の様々な役人や沖縄の宮廷高官とも交流。さらに散策で訪れた横浜、下田、箱館などでの植物や魚類、花鳥風月から住民の風俗、性格まで好奇心のままに詳細に観察、外国人による幕末日本の貴重な記録としても高く評価される。〔原本:『新異国叢書8 ペリー日本遠征随行記』雄松堂出版、1970年刊〕

イギリス貴族
講談社学術文庫
政・官・軍のリーダーとして大英帝国を支えつつ、空前の豊かな生活を送った貴族たち。その知られざる実態とは!?
イギリスの貴族は、国の主導者として法律を作り、政治を司り、軍隊を指揮する一方で、宏壮な邸宅では社交、狩猟、スポーツに熱中した。今では世界中に広がる「英国的」な文化にも、彼らエリートが育んだものが多い。イギリスを知るには、貴族への理解が不可欠なのだ。とはいえ、そうした貴族の実態は、多くのイギリス人にとって謎に包まれてきた。
たとえば、貴族の身分はどのように決まるのか、カントリー・ハウスでの豪奢な生活はどのようなものか。貴族と紳士の違いは何か。どのような社会的役割を果たし、他方で社交に興じていたのか。そもそも、貴族の起源とは? 多くの事例とともに、軽妙な語り口でわかりやすく紹介する好著。(解説・新井潤美)
プロローグ――大英帝国の先頭に立つ者
第一章 貴族は稀族
第二章 貴族の豊かな生活
第三章 貴族の教育
第四章 ノブレス・オブリージュ
第五章 金と暇が生み出したもの
第六章 貴族の生き残り作戦
エピローグ されど、貴族
参考文献
あとがき
解説 新井潤美

物語論
講談社学術文庫
人間はなぜ物語を必要とするのか?
精神分析、政治、戦争、神話、歴史、そして昔話、小説、うた――。
物語は社会のいたるところにある。
平家物語などの「語り物」やアイヌのユカラとの対比、源氏物語の婚姻制度と母殺しの阿闍世コンプレックス……日本列島の物語を起源から、そして世界文学との比較から考える。
「もの」とはなにか。
「語り手」は誰なのか。
物語理論の金字塔となる、伝説の東大講義18講、待望の文庫化!
【目次】
I 物語理論の進入点
1講 ものがたり と ふること
2講 うたとは何か
3講 うたの詩学
4講 語り手を導きいれる
II 物語理論の基底と拡大
5講 神話から歴史へ
6講 神話的思考
7講 語り物を聴く
8講 口承文学とは何か
9講 昔話の性格
10講 アイヌ語という言語の物語
III 物語理論の水面と移動
11講 物語人称
12講 作者の隠れ方
13講 談話からの物語の発生
14講 物語時称
15講 テクスト作りと現代語訳
IV 物語理論の思想像
16講 『源氏物語』と婚姻規制
17講 物語と精神分析
18講 構造主義のかなたへ

『エセー』読解入門 モンテーニュと西洋の精神史
講談社学術文庫
ミシェル・ド・モンテーニュ(1533-92年)の名は『エセー』とともに知られています。全訳だけでも5種類を数えるほど日本ではなじみのある著作ですが、岩波文庫で全6冊という分量、そして著者身が全2巻の初版(1580年)公刊後も改訂を続け、1588年には第3巻を増補するとともに最初の2巻に加筆を行った版を出し、さらに没年まで改訂を進めたため、さまざまな時期に書かれた文章が混在した書物になっていることから、決して分かりやすいとは言えないこともまた事実です。
そうした事情ゆえ、これまで『エセー』の入門書や概説書が陸続と出版されてきました。しかし、本書はそのどれとも異なる、決定版と断言できる1冊になっています。
断言できる理由は明確です。『エセー』第3巻第2章で、モンテーニュは「ここでは、私たち、つまり私の本と私自身が一致してひとつの道を進んでゆく。よそでは作者のことをわきに置いて作品をほめたりけなしたりできるが、ここではだめである」と記しています。つまり、「私の本」である『エセー』と「私」であるモンテーニュは不可分であるというわけですが、ここに示されているのは、作者の意図を知らなければその著作を理解できない、といった単純なことではありません。直後には「そのことをわきまえずに私の作品を判断する者は、私をというよりも、むしろ自分自身を傷つけることになるだろう」という言葉が続いているのですから。
なぜ『エセー』をモンテーニュから切り離して読む者は「自分自身を傷つける」ことになるのか――本書は、この問いに答えるために、『エセー』をモンテーニュから切り離すことなく、ていねいに読んでいきます。『エセー』を一度も読んだことがなくても、モンテーニュについて何も知らなくても、名前を聞いたことがあるだけでも読めるように書かれています。むしろ、そのような人のためにこそ、本書は書かれました。
本書によって大著の全容を知ることができるのはもちろん、本書を通して『エセー』を読むことは人間が紡いできた精神の歴史そのものを読むことにほかならないと気づくでしょう。そのような著作は他にありません。そして、そのことをありありと伝え、実践する『エセー』についての書物も、これまでありませんでした。渾身の書き下ろしによる1冊、ここに自信をもってお届けいたします。
[本書の内容]
第I部 若すぎた世紀
第1章 宗教戦争
第2章 十六世紀ルネサンス
第3章 モンテーニュのほうへ
第II部 「自分」・「私」・〈魂〉
第4章 執筆開始
第5章 マニフェスト
第6章 だれが?――〈魂〉が
第III部 〈魂〉の軌跡
第7章 もうひとつの背景
第8章 ソクラテスへの視線
終 章 百姓のかたわらで

北条時宗と安達泰盛 異国合戦と鎌倉政治史
講談社学術文庫
生まれながらに執権の地位を約束された若き執権北条時宗と、彼を支え無謀にも思える大胆な幕府改革を試みた硬骨の政治家安達泰盛。二人が中核を担う13世紀の日本に、ユーラシア大陸を席巻したモンゴルの嵐が迫る――。
「救国の英雄」では決してなかった時宗の素顔とは? 泰盛の弘安徳政は、幕府が構造的に抱えていた限界にどのように挑んだのか。二人を主人公に、絵巻や彫刻、宗教など多様な視点を取り入れ、血なまぐさい権力闘争相次ぐ政治史を、著者ならではの手腕で立体的に編み上げた労作!(原本:日本放送出版協会、2001年)
はしがき――時代、世界、個人
プロローグ――若君誕生
第一章 時宗誕生前後の幕府政治
第二章 北条得宗と御家人安達氏
第三章 蒙古襲来のなかで
第四章 絵にみる時宗時代
第五章 時宗と日中禅宗世界
第六章 時宗死後の政治改革
エピローグ――記憶のなかで
あとがき
付録1 書評と紹介 川添昭二著『北条時宗』
付録2 研究余滴 大河ドラマあやかり本の大罪
学術文庫版あとがき
主要人物の生没年
安達泰盛の経歴
北条時宗の履歴書

荘子の哲学
講談社学術文庫
千葉雅也氏推薦!
「中島先生の荘子がなければ、僕の哲学も文学もなかった。ここからすべてが始まったのです。衝撃的なこの「変化の哲学」を、皆さんにもぜひお読みいただきたい。」
中国・日本はもちろん、これまであまり言及されてこなかった欧米圏での研究をも渉猟。「無為自然」や「万物斉同」といった概念に替え、自己および世界の変容を説く「物化」思想をその核心として取り出し、ドゥルーズら現代の西洋哲学と突き合わせることで、言語、道、他者、自由にかかわる荘子の思索を新たな相貌のもとに甦らせる。世界の哲学に通暁する著者がダイナミックに描く、新時代の標準たる驚くべき読解の書!
[本書の内容]
プロローグ
■第1部 書物の旅路 『荘子』古今東西
第一章 『荘子』の系譜学
第二章 中国思想史における『荘子』読解――近代以前
第三章 近代中国哲学と『荘子』――胡適と馮友蘭
第四章 欧米における『荘子』読解
■第2部 作品世界を読む 物化の核心をめぐって
第一章 『荘子』の言語思想――共鳴するオラリテ
第二章 道の聞き方――道は屎尿にあり
第三章 物化と斉同――世界そのものの変容
第四章 『荘子』と他者論――魚の楽しみの構造
第五章 鶏となって時を告げよ――束縛からの解放
エピローグ
参考文献ガイド
『荘子』篇名一覧
学術文庫版へのあとがき

グリム兄弟とアンデルセン
講談社学術文庫
「ヘンゼルとグレーテル」や「赤ずきん」を伝えた勤勉な学者肌のグリム兄弟と、「人魚ひめ」や「マッチ売りの少女」を生んだ奔放な旅人アンデルセン。対照的な人生を送った童話の巨星たちのあいだには、しかし実際の接触のみならず、意外な共通点もあって……。
童話の最高峰と並び称される両者の著作と生涯を突き合わせることで見えてくる、童話に秘められた深層、そしてそこに表れる深い人間理解とは?
全集の翻訳も手掛けたドイツ文学の第一人者が共感あふれる筆致で綴った、忘れがたい一冊。
[本書の内容]
まえがき
1 アンデルセンとグリム兄弟との出会い
2 グリム兄弟の生涯
3 アンデルセンの生涯
4 学究者と作家――著作の比較
5 生の軌跡――愛と孤独
6 メルヒェンの語り手
7 グリム兄弟と私
8 アンデルセンと私
9 結び
グリム兄弟とアンデルセンの年表

儒教・仏教・道教 東アジアの思想空間
講談社学術文庫
儒教と道教、そして仏教。この三つの異なる宗教は、長い歴史のなかで渾然と併存してきた。
そのような不思議な思想空間は、なぜ、いかにして成り立っているのか。
死生観、自然認識、民間信仰などの視点から、衝突・妥協・調和を繰り返すダイナミズムをとらえる意欲作。
矛盾しながら共存する東アジア的宗教の本質を、シンクレティズム=習合というキー概念から鋭く分析し、
軽妙な筆致でやさしく語る!
◇本書「はじめに」より―
シンクレティズムとは「ごたまぜ」という意味である。儒教と仏教と道教がごたごたまぜ
まぜになっている。純粋ではない。けれどゆたかさがある。そしてこれこそが宗教というも
のの現実の姿ではないか。
◆主な内容
第1章 シンクレティック東アジア―宗教の実像を求めて
第2章 かばいあう親子のどろぼう―情にあふれ馴れあう心性
第3章 翼をなくした天女たち(上)―ユーラシアの西から東へ
第4章 翼をなくした天女たち(下)―孝との調和と相克
第5章 人を呪わば穴ふたつ―心がすさむとき求められるもの
第6章 草も木もみな仏になる―宗教をぬりかえる自然認識
第7章 スモモの下で世直しがはじまる―くりかえされる予言の力
第8章 永遠の休息をあたえたまえ―湿潤温暖地域の死生観
第9章 東アジアの思想空間へ―思想を生みだす時と場所

ベルクソンの哲学 生成する実在の肯定
講談社学術文庫
「生の哲学」を提唱しノーベル文学賞を受賞した、フランスを代表する哲学者、アンリ・ベルクソン(1859-1941年)。彼は、伝統的な哲学を根本的に批判し、転覆させた特異な存在です。
その影響は、20世紀の名だたる哲学者たち、ハイデガー、ウィリアム・ジェームズ、サルトル、レヴィナス、メルロ=ポンティ、デリダ、西田幾多郎など、多方面に及びます。そして何より、生成のリアリティーを巡る思考の原理を徹底させ、ベルクソンを蘇らせたのが、ジル・ドゥルーズでした。
本書は、ドゥルーズのすぐれた読解に身を寄せながら、ベルクソンの主著を丹念にたどり、その核心を浮かび上がらせます。同時に、ドゥルーズ自身の哲学の出発点ともなった、斬新で独創的なベルクソン解釈を提示してもいます。
ベルクソンにとって実在とは、持続とは何か。どのようにして、直観によって本質的な差異を見出すのか。他者のない、否定性のない、そして外との弁証法的な統合もない哲学とは、どのようなアイデアなのか。
著者によるベルクソンの現代思想における位置づけ、主要著作を通した整理、これ以上なくクリアで精密な解読は、ベルクソンに取り組もうとする読者にとって、最良のガイドとなるでしょう。解説には、『物質と記憶』の訳者である杉山直樹氏の書き下ろし原稿を収録しました。
[本書の内容]
学術文庫版まえがき
序 論 ベルクソンの哲学とその位置
第一章 連続的で異質的な持続――『試論』について
第二章 知覚の機構と実在する過去――『物質と記憶』について
1 純粋知覚について
2 記憶と認識の機制
3 記憶の即自存在とその心理的な働き
4 持続の存在論
第三章 分散する一者としての生命――『創造的進化』について
第四章 持続の一元論/結晶と層――ベルクソンの存在論について
あとがき
解説 杉山直樹
ベルクソン関連略年表

世界鉄道文化史
講談社学術文庫
鉄道とは、人類のドラマである!
その胸躍る軌跡のすべて
鉄道誕生から約二〇〇年――そこには、爛熟する豪華列車もあれば、等級制が生み出す人間模様もある。廃線問題が起こる一方で、座席や照明は進化し、激化するスピード競争はついにリニア開発までいきついた。他に類を見ない独特な文化を生み運んできた鉄道の全軌跡を、第一人者が新聞や文学、写真や絵画を渉猟して描き切る、壮大にして無二の世界史!
□初めて鉄道を知った日本人
□毎日記録更新! 万国スピード競争
□コンパートメントは犯罪の温床
□「旅の読書」誕生の秘密
□見知らぬ二等客男女の途中下車
□女性客も高級官僚も、トイレは我慢できない!
□日本にもあった、幻の「一帯一路」計画
□松本清張に新幹線小説がない理由
□プレゼンスを増す中国リニア開発
□最速から最適へ 中速列車で行こう!
□収益と公益のあいだで揺れる廃線問題
[目次]
第一章 のびゆく鉄道
第二章 コンパートメントと大部屋式
第三章 無謀なスピード競争は終わったが、スピードはわが命
第四章 鉄道旅行の時代
第五章 鉄道快適化物語
第六章 等級制と社会
第七章 日本にもあった「一帯一路」
第八章 鉄道はデザインの宝庫
第九章 高速鉄道の時代
第一〇章 豪華列車からクルーズ列車へ
第一一章 芸術が描いた鉄道
第一二章 リニア新時代と鉄道の公益性
「二等車は一等車の上流と三等車の大衆を分かつ、ちょっと曖昧な漠とした中間ゾーンであるだけに乗客心理は微妙であった。誰でも二等車に乗ると、あるいは乗れる身分になると、ほっと安心する。それでいい気になって、不遜な態度で乗務員に接する、知らぬ男女の二等客が思わぬ不倫関係で突如途中下車してゆく……」(「第六章 等級制と社会」より)