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1969.07.04発売
嫉妬やつれ
講談社文庫
夫がポケットにしのばせていた、女文字の手紙。《夫を愛している女性がいる》……三千代はとまどった。40歳をこして、冬眠した動物のように、枯れきっていた夫に、そんな情熱が、どうして甦ったのだろう……。相手は若い女なのだろうか? 三千代は、夫の後をつけた。そして見た、夫の情熱を呼びさました冴子という女を。突然、三千代は乾きを覚えた。忘れていた性の乾き。雑踏の中で、稲妻のように体を突き抜けた思いに、三千代は戦慄する。《私も夫を裏切ってみたい!》……中年夫婦の愛情の危機を繊細な筆でえがく、『嫉妬やつれ』はじめ、全10篇。

1969.06.04発売
身がわりの夜
講談社文庫
それは少女だけに許された、幻のような記憶かも知れない。下宿人だった画学生の杉浦が、正子の裸体を熱っぽくデッサンし、鮮紅色の乳房に、ふと触れた日の感傷は……。正子は、いま新宿・元青線のバー勤め。マダムの弥生は画家の未亡人で、かつて杉浦を愛した過去をもつ女だ。「杉浦はパリの安宿で病いに臥せている」と耳にした正子は、パリ行きを決意した。彼女は幻影を追って稼ぐ。ある夜、正子がとった男は甘美な肉体の香に酔いながら、奇妙な述懐を始めた……。女の感傷の傷跡を描く表題作ほか、全10篇。

1969.05.28発売
肌色あつめ
講談社文庫
女に声をかけて、親しくなる。さり気なく胸のふくらみの反応を、指でたしかめる。大町の指にかかると、女は、間もなく、ホテルの一室で、服を脱ぎ始める。女が裸になって行くときの顔を見るのが、大町は好きだった。女体への冒険旅行にのみ生き甲斐があると信じている大町だったが、あるとき手に入れた女に、彼は、ひとりの男の影がまとわりついていることに気がついた。そしてその影が、親しい仲の男であることを知ったとき大町は、ふしぎな快感をおぼえるのだった。……性を通じて、男女の心理のメカニズムを、あざやかにえぐり出した「失神派」の快作長編!

1969.05.06発売
情事の配当
講談社文庫
結婚7年め、子宝に恵まれぬのは、夫の体質が原因だと診断されたとき、絹子はむなしい虚脱感を味わった。頼りきっていた12歳年長の夫の姿が、ひどく老化してみえる。豊かな肉体をもてあましつつ、「ゴルフウィドウ」に甘んじなければならぬ絹子……情事への誘惑が心をゆさぶる。相手は、証券セールスの時岡という青年だ。夫の出張の夜、ついに彼女は甘美な悦楽にはしった――。「この情事の配当がほしいわ」絹子の胸に悪魔がささやく。彼女は夫に迫った「ね、私、人工授精をうけようかしら」。が、事態は一変した。時岡が事故死したのだ――という表題作ほか全10篇。

1969.04.28発売
誘惑の午後
講談社文庫
挿絵画家の井野は、ニコチン中毒者が、細くて白い煙草へ、つい手を伸ばしてしまうように、女に手をのばすのだった。まず、女に近づくためのさまざまな作戦があり、そして、それが成功したあとは、女体を征服し味わい尽すためのさまざまな試みがあった。井野は、しかし、女の体の上に重なりながら、たまらなく虚しくなることがあった。その虚しさに耐えきれなくなると、また街へ出て、他の女をさがし求めるのであった……。現代のもっとも異色的な作家として、あくことなく「性」を追求しつづける作者が、人間の原質を追求した、本格的長篇小説である。

1969.04.20発売
春の渇き
講談社文庫
郷子は、手島によって、女としてめざめた。郷子が結婚したあとも、手島は「会いたい」といい、彼女もまた、会いたくなるのだった。郷子の中の「女」は、彼女の意識を離れて、1匹のけもののように、生きていた。そのくせ彼女は、夫の小池との間を、なんとか平常の形で保っていきたいと努力していた。そんな郷子が、手島との違和を感ずるときが来た。彼女のからだは、小池でなく、渇きを充たしてくれる第三の男を求めるのだった……。セックスと心理のひだひだを、まさぐるように描いた「春の渇き」の他に、「不妊の歌」「犬と情熱」「声と楽器」など、全9篇を収めた珠玉集。

1969.04.16発売
異常の心理学
講談社現代新書
物質文明に縛られた現代人にとって、“異常の真理”は、けっして無縁ではない。たとえ自分はどんなに健康だと思っても、異常な状態や環境におかれたりすると、自分の心を失って流されてしまう。合理性の背後に、不意にしのびこむ異常性――人種的偏見、政治的な憎しみ、群集心理などは、日常生活にも、しばしば顔をのぞかせる。本書は、われわれの心にひそむ異常性を、社会的な、文化的な、さらに歴史的な視野で把え、それが現代社会にどう反映しているかを解明する。
心にひそむ悪魔――われわれは、科学の恩恵に浴して、快適な合理的な生活をおくっている。しかし、その背中合わせに物質文明の呪術が、日常生活、人間関係、政治の中で息づいていることを、忘れてはならない。ヒットラーをまつまでもなく、1人1人が呪術師の役割をになって、いまでも、中世の魔女狩り的な精神状態を醸成しているかもしれない。現代といえども、まだ魔女や悪魔たちが活躍していた中世の時代を何らかの形でひきついでいる。自分をみつめるためにも、心にひそむ異常性を知らねばならない。――本書より

1969.04.15発売
夜行性人間
講談社文庫
はじめて会った女性と、その日のうちに肉体の交わりを持ち、名も知らぬままに別れた経験が、高原にはあった。彼は、それを「完璧の情事」と呼んだ。そんなことは一度だけだったが、魅力を感じた女性を、自分のものにするために、高原は、あらゆる努力と術策を、惜しまなかった。相手が、良家の夫人であろうと女子高校生であろうと、彼は、いつも成功するのだった。社会的に産業デザイナーとして通っている男が、夜行性の超人として、ラブ・ハントのあらゆるテクニックを展開する……。都会の小ぎれいな生活の中から、裸の人間をシニカルにえぐり出した、個性的な長編である。

1969.04.04発売
最終都内版
講談社文庫
新聞休刊日には大事件が生れる……というジンクス通り、9月23日の昼下り、警視庁桜田クラブの東京日報のデスクへ「女を殺して新宿の北向八幡の境内に埋めた」と、犯人だと称する男から電話が入った。捜査班も各社の記者も急行したが、本当に若い女性の腕が出てきた。バラバラ事件である。捜査一課はもちろん、各社の取材競争が始った……。やがて被害者は、キャバレーのホステスと判明、彼女のアパートからは、客となった者らしい200数十名の名刺が発見された。日報の山崎、タイムスの矢島記者の頭脳作戦! 続いて第2の殺人事件発生! 猟奇とスリル横溢の長編小説。

1969.03.16発売
美しい日本の私
講談社現代新書
雪、月、花に象徴される日本美の伝統は、「白」に最も多くの色を見、「無」にすべてを蔵するゆたかさを思う。美の真姿を流麗な文章にとらえた本書は、ノーベル賞受賞記念講演の全文に、サイデンステッカー氏による英訳を付した、日本人の心の書である。
「山水」といふ言葉には、山と水、つまり自然の景色、山水画、つまり風景画、庭園などの意味から、「ものさびたさま」とか、「さびしく、みすぼらしいこと」とかの意味まであります。しかし「和敬清寂」の茶道が尊ぶ「わび・さび」は、勿論むしろ心の豊かさを蔵してのことですし、極めて狭小、簡素の茶室は、かへって無辺の広さと無限の優麗とを宿してをります。1輪の花は100輪の花よりも花やかさを思はせるのです。開ききった花を活けてはならぬと、利休も教へてゐますが、今日の日本の茶でも、茶室の床にはただ1輪の花、しかもつぼみを生けることが多いのであります。――本書より

1969.03.08発売
度胸時代
講談社文庫
桑名藩十万石・松平下総守直正(ただまさ)の世子に生まれながら、生後まもなく怪盗百夜の弥吉の反抗的悪戯から、身投げ女の赤ん坊とすりかえられて育った左右吉は、生来の利発さと度胸のよさで、思いもうけぬ人生経験を豊富にする。日光東照宮の修築をめぐって、苦境に立つ桑名藩の側頭役・奥町丹左衛門の苦衷と、世子誘拐を策する公儀目付・竜道寺源五郎の執拗な魔手と、公儀隠密群の暗躍。市井の浪人・太郎左と名のる若年寄・小笠原相模守の隠密・武四郎は、怪盗百夜の弥吉から左右吉の出生の秘密を打ち明けられて庇護するが……。意表を衝く結末にいたる奇想天外な左右吉の度胸っぷりを描く巨篇。

1969.03.04発売
夜のパスポート
講談社文庫
婚約者に裏切られ、国際見本市アフリカ隊の一行に加わってモロッコにやって来た、羽仁生節子。眠れぬ夜、睡眠薬を飲んで床に着こうとしていた節子を、隊員のひとり、一の瀬が訪れた。翌朝、同じベッドに横たわる男の醜悪な体を発見して、節子は絶望する。スキャンダルは広がった。砂漠の古都・フェズで節子に求愛した若い大使館員・北沢も、噂を知ると冷たくなった。傷ついた節子の行手に待つものは……。異国の空の下、孤独な男女に忍びよる危険と誘惑、行きずりの愛、歪んだセックスを描いて、現代人の心の傷をユニークなタッチで抉る異色作。

1969.02.20発売
おぼろ忍法帖(下)
講談社文庫
「将軍家病篤し」の報に、紀州大納言は今や藩を挙げて命運を賭すべく、魔界より甦った怪異の剣士を供に江戸へ向った。この天下覆滅の大陰謀に立ちはだかる柳生十兵衛! その秘剣をかざして天草四郎と対決するが、父但馬守が魔人として敵中に在ることを知り、彼の心は悩乱する。が、――魔剣士を操る森宗意軒の大陰謀は大詰に達し、遂に対決の時いたる! 月明暗き柳生谷で柳生但馬守と、伊賀は上野鍵屋ノ辻で荒木又右衛門と、波蒼き伊勢の船島で宮本武蔵と。――隻眼まなじりを決し、孤剣を抱いて馳せ向う柳生十兵衛! 壮絶無比の大死闘はいよいよ最高潮に。全3巻、完結編。

1969.02.20発売
おぼろ忍法帖(中)
講談社文庫
妖雲は紀州藩を覆った。天草一揆の首謀者・森宗意軒の忍法「魔界転生」により、魔人として蘇生した宮本武蔵、柳生但馬守、荒木又右衛門、天草四郎ら7人の剣鬼が和歌山城内に潜んだのだ。しかも紀伊大納言頼宣もまた魔界への転生を希い、忍体となる美女狩りを続ける。追いつめられた3人の美女は救いを剣の師・柳生十兵衛に求めた。 天下に冠たる大剣士の群れに対し、孤剣隻眼の十兵衛はついに起った! 西国札所第一番青岸渡寺で妙剣・田宮坊太郎と、怒涛逆巻く紀州三段壁で名槍・宝蔵院胤舜と、廃墟の道成寺で豪剣・柳生如雲斎と。――死闘の勝敗は果していずれに!? 疾風怒濤の全3巻。

1969.02.20発売
おぼろ忍法帖(上)
講談社文庫
心をこの世に残しつつ死の際に立った男が愛する女と交る――と、ひと月後にその女胎を裂いて男は再誕する。妖異凄絶の忍法「魔界転生」! 血風の中に甦る剣鬼たちは天草四郎を筆頭に、曰く宮本武蔵、荒木又右衛門、柳生宗矩、柳生兵庫、宝蔵院胤舜、田宮坊太郎。背後でこれを操るは天草の乱に敗れた森宗意軒と、そして由比正雪。 彼等は紀伊大納言頼宣を唆かし、徳川の天下を潰乱に導くべく、魔人と化した「転生七人衆」を紀州に送り込んだ。これに対決しうるは隻眼の剣手、柳生十兵衛あるのみ。妖雲は腥気をはらみ、十兵衛を窺って紀州から柳生の庄に迫った。全3巻、痛快忍法小説。

1969.02.16発売
キリストとイエス―聖書をどう読むか―
講談社現代新書

1969.01.12発売
色名帖
講談社文庫
宇津は、同窓生の初枝と久しぶりに会い、そして彼女の部屋に泊ることになった。初枝が、マリリン・モンローと同じ方式で、眠りの仕度を始めたので、雰囲気がしだいにおかしくなってきた。ちょうどその頃、小見山は、会社勤めの郁子を誘い出すことに成功していた。カメラマンの小見山は、彼女を写真のモデルに使いたいと言ったのだが、ほんとうの目的は、他にあった。小見山は、公園で声をかけた未知の女性でも、その日のうちにモノにできる自信を持っていた。……この小説は、二人の男の行動を通じて、作者が、女性ハントの秘術を語り尽した、長編小説である。

1969.01.01発売
犯罪乱流
講談社文庫
東京新宿百人町のアパートでキャバレーのホステスが殺された。刑務所を仮出所したばかりの男が、情婦の心変わりを怒り、間違えて他の女を殺ってしまったのか? 凶器はピストル。公開捜査中の本部に、続いて殺人の報が届く。――佃河岸にダンス・スタジオ経営の男の死体が浮かび、雑司ヶ谷では深夜密会中の人妻と若い男とが狙われたのだ。事件の連続に色めきたつ記者クラブ。夜討ち朝がけを競って特ダネを追うタイムスの荒木、日日のガンさん、日報の山崎……。現代社会の乱気流が生んだ、凶悪な連続殺人事件の真犯人を追う捜査陣と、事件記者の活躍を描いた力作長編小説。

1968.12.20発売
不倫の巡回
講談社文庫
早田は、友人の野村の家へ遊びに行って、そのまま泊りこむことが多かった。朝、早田は、野村を車で駅へ送る。そして、野村家に引返し、野村の妻の左知子と、熱い情事に耽るのだった。早田は、左知子との不倫を軸にしながら、さまざまな女と、ハプニングな交渉を持つことに、生き甲斐を感じていた。人妻、女子大生、舞踊家、女優などと、早田の愛欲の対象は、めまぐるしく変わった。早田は、そうすることによって、女たちに、何ものかを与えているのだと、信じていた。……これは、セックスを描くことで現代人の虚無感を追求しつづける作者の、野心的な長篇小説である。

1968.12.16発売
キリスト教の人生論
講談社現代新書
四国の裕福な家庭に生まれた少年が、幼くして生家の破産を経験し、富や権勢の空しさを知り人生の真実を求めて洗礼を受けた。以来数10年にわたるキリスト者としての信仰生活、神学者としての思索を倦むことなく続けてきた著者が、愛とは何か、罪とは何かなど、人生の根本問題を静かに語りかける。「意志としての信仰」を貫いた人生の達人のみが持ちうる説得力に満ちた声が、読者の心にしみ入るにちがいない。
やわらぎ――近ごろ、われわれのあいだで重要視されている「話しあい」とか「対話」とかは、たしかに望ましいことにちがいありませんが、いつも「対話」をさまたげる厚い壁のようなものがあり、容易にはおこなわれません。根本的には、私も私の相手も、そして皆のものがまず神とのあいだに「やわらぎ」を得ることが必要です。人間のあいだの話しあいは、私たちそれぞれが、まず神とのあいだに、やわらぎをもつことからはじまります。神と人間の人格的なやわらぎの成立が前提になります。今日、宗教は軽んじられていますが、人と人との出会いにおいても、宗教の意味は人びとが常識的に考えているものよりはるかに深く大いなるものだと私は考えます。――本書より