文芸(単行本)作品一覧

アガタ
アガタ
著:首藤 瓜於
文芸(単行本)
「見えているのに見えないもの、それを捜すのよ」 オシャレすぎる女性警視が新米刑事に突きつけた言葉の意味は? 美大に通う女子学生が背中をめった刺しにされて殺された。しかし、指紋も足跡もなく、防犯カメラの映像も残っていない。警視庁の捜査一課に異動したばかりの青木一は捜査本部に呼ばれ、地元の有力者の息子がストーカーだったという噂を耳にして、無断で本人に接触したため管理官から大目玉を食らう。一方、鵜飼縣は警視庁本部庁舎の片隅であらゆる犯罪情報を収集分析して汎用性の高い検索システムを構築している。スタッフの桜端道が投資詐欺事件の情報をつつきまわすうちにたどり着いた謎の闇サイトには殺人現場の生々しい写真が。縣は秘かに美大生殺害事件の捜査の進み行きを探り始める……。 『脳男』の作者による規格外の警察小説の誕生!
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天涯図書館
天涯図書館
著:皆川 博子
文芸(単行本)
小説の女王・皆川博子が百年近くの歳月をかけ耽溺してきた、永遠に残したい本の数々。 生まれ変わっても本の山野に埋もれていたい。知るほどに読むほどに好きになる。 『辺境図書館』『彗星図書館』に続く、完全保存版ブックガイド。 (短編2本も追加収蔵) 《この天涯図書館には、皆川博子館長が蒐集してきた名作・稀覯本が収められている。知らない、読んだことがない、見つからない――。そんなことはどうでもよろしい。読みたければ、世界をくまなく歩き、発見されたし。運良く手に入れられたら、未知の歓びを得られるだろう。(天涯図書館・2代目司書)》
泥酔文士
泥酔文士
著:西川 清史
文芸(単行本)
会社を辞めて、毎日が日曜日になった。 もう、締め切りが待っているわけでもないし、損益計算書とにらめっこする必要もなくなった。目が覚めたら起きる。眠くなったら眠るし、腹が減ったら食べる。 面白そうな映画が封切られたら急いで見に行き、楽しそうな本はできるだけ手に入れる。それに飽きたら、似た身の上の友人を誘いだして、喫茶店でやくたいもないお喋りにうつつを抜かす。時間はいくらでもあるのだ。 こんな感覚、どこかで味わったことがあったなと思ったら、五十年近く前の学生時代に似た生活を送っていたのだった。なんだか懐かしい毎日である。 瘋癲老人のいちばんの醍醐味は、ベッドに寝転がって、何の役にもたたない本を読むことである。つまらなければ投げ出せばいいだけで、努力して読む必要は、全くない。今夢中になっているのは、昭和期に生きた文士たちの随筆である。今ではもう考えられないことなのだが、昭和の文士たちは、みんなで集まってよく酒を飲み、議論を交わし、挙句の果ては殴り合いの喧嘩をしたりしていた。 本の中で、彼らはまったく溌溂としている。 だが、実は全員、すでにあの世の人となっている。 深夜、そんな彼らの口吻や一挙手一投足を一人静かにページの中に追う。 鬼籍に入った人たちは安心できる。もう、裏切られることは絶対にないからだ。 ひとり燈のもとに文をひろげて、見ぬ世の人を友とするぞ、こよなう慰むわざなる。 兼好法師の気持ちが痛いほどよくわかる。 そんな風にして、文士たちの随筆を芋づる式に次から次へと読んでいるうちに、目に余る酔っ払いたちに出くわすようになった。 困ったひとだなあ。 思わずため息と微苦笑が口元に浮かぶ。でも彼らは、もう死んでこの世にはいないのだ。どんな愚行と醜態を繰り広げようと、もういなくなってしまった人たちは、みんななんだか愛おしい。 そんな、どうにも困った、愛おしい酔っ払い文士たちの面影をひとりずつ追ってみようと思いたった。なにしろ、時間だけはたっぷりあるのだから。 (「はじめに」より)
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霜月記
霜月記
著:砂原 浩太朗
文芸(単行本)
『高瀬庄左衛門御留書』『黛家の兄弟』に続く、「神山藩シリーズ」最新作。 名判官だった祖父・失踪した父・重責に戸惑う息子――町奉行を家職とする三代それぞれの葛藤を描く。 18歳の草壁総次郎は、何の前触れもなく致仕して失踪した父・藤右衛門に代わり、町奉行となる。名判官と謳われた祖父・左太夫は、毎日暇を持て余す隠居後の屈託を抱えつつ、若さにあふれた総次郎を眩しく思って過ごしている。ある日、遊里・柳町で殺人が起こる。総次郎は遺体のそばに、父のものと似た根付が落ちているのを見つけ、また、遺体の傷跡の太刀筋が草壁家が代々通う道場の流派のものではないかと疑いを持つ。 さまざまな曲折を経て、総次郎と左太夫はともにこの殺人を追うことになるが、果たして事件の真相と藤右衛門失踪の理由とは。 ~「神山藩シリーズ」とは~ 架空の藩「神山藩」を舞台とした砂原浩太朗の時代小説シリーズ。それぞれ主人公も年代も違うので続き物ではないが、統一された世界観で物語が紡がれる。
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鷹の惑い
鷹の惑い
著:堂場 瞬一
文芸(単行本)
世の中は変わる。変わる世の中に対応するのが、警察の仕事だ。 21世紀に沸く平成日本。海外逃亡していたはずの極左の最高幹部が突然仙台に現れ、公安に衝撃が走った。 身柄の移送を担当した公安一課の海老沢は、警察官人生最大の痛恨の失敗を犯す。 一方、捜査一課の高峰は目黒の空き家で殺害された元代議士秘書の身辺を探る。被害者の経歴には6年間の不自然な空白があった。 新聞記者からの思わぬ情報。死の床にある元刑事の父の言葉。そして海老沢に下った極秘の特命捜査ーー事件の様相は一変する。 公安一課と捜査一課。父の系譜をたどる息子たち。警察小説の騎手による大河シリーズ「日本の警察」平成ミレニアム編!
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ウェルテルタウンでやすらかに
ウェルテルタウンでやすらかに
著:西尾 維新
文芸(単行本)
推理作家「私」のもとへ現れた、不審な自称「町おこしコンサルタント」の男。彼は「私」に、町おこしのために小説を書いてほしいと依頼する。小説の力を利用して、寂れゆく町・安楽市を自殺の名所にしたいと嘯くのだ。承諾した「私」だが、密かにその計画を阻止することを決意する。なぜなら安楽市は、「私」の故郷なのだから――。
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天災ものがたり
天災ものがたり
著:門井 慶喜
文芸(単行本)
磯田道史氏、絶賛! 「人は自然の力に左右される。昔はなおさら。それを描ききったこの本こそ、私が出会いたかった歴史小説」 地震、津波、火事、飢饉、豪雪、火山の噴火、河川の氾濫……。日本史上に起こった大災害を直木賞作が克明に記した圧巻の連作短篇小説集。 (以下、収録作品) 江戸時代初期「囚人」・・・時は明暦。小火に始まる火事はからっ風のあおりを受けて、江戸を焼き尽くす。その時、日本橋小伝馬町の牢屋に入っていた男を救った奇跡とは? 明治時代「漁師」・・・百二十七年前に東北を襲った三陸沖地震。その復興に至る道のりは、現代社会の防災上の大きな教訓と学びとなった。 昭和時代「小学校教師」・・・昭和三十八年。新潟から上京する列車に乗った女性教諭を襲ったのは、記録的な豪雪だった。これは、天災だけでなく、発達した交通網による人災の記録でもある。 (ほか3篇)
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もぬけの考察
もぬけの考察
著:村雲 菜月
文芸(単行本)
第66回 群像新人文学賞受賞作! この部屋の住人は、みんないなくなる? 都市の片隅にあるマンションの一室、408号室に入れ替わる住人たち――。奇想天外な物語が、日常にひそむ不安と恐怖を映し出す。 同じ部屋で前の時間が見えないまま孤独と恐怖を積み重ねていく構成で細部まで考えられていた。 理不尽さと暴力的な状況がスリリングで、多様な恐怖を描ける人だと思った。――柴崎友香 一連の奇想天外な考察は、インスタレーションと呼ばれる空間芸術の手法とも似ていて、 日常性からの逸脱を効果的に演出するにはうってつけだ。 ――島田雅彦 ある〈部屋〉のみを舞台にすることで、作品の〈空間〉は限定されている。 が、前の住人、その前の……と過去を連鎖的に想像可能で、今後の住人という未来も延々の想像が可で、その意味で〈時間〉が限定されない。そこに越境のポテンシャルが満ちている。――古川日出男
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ジューンドロップ
ジューンドロップ
著:夢野 寧子
文芸(単行本)
わたしたちには家族をめぐる秘密がある 母の不妊治療の失敗、凶暴な白い光と共に襲ってくる片頭痛。 しずくとタマキは、持て余した心を抱えて 縛られ地蔵に会いに行く――。 傷つき、傷つけ、思いあう。痛切な家族の愛のかたち。 「ふと脳裏に、幼い未発達の実が木から落下する光景が過りました。 どうして自分は彼らと同じ道をたどらなかったんだろう」 第66回群像新人文学賞受賞作!
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我が手の太陽
我が手の太陽
著:石田 夏穂
文芸(単行本)
第169回芥川賞候補作。 鉄鋼を溶かす高温の火を扱う溶接作業はどの工事現場でも花形的存在。その中でも腕利きの伊東は自他ともに認める熟達した溶接工だ。そんな伊東が突然、スランプに陥った。日に日に失われる職能と自負。野球などプロスポーツ選手が陥るのと同じ、失った自信は訓練や練習では取り戻すことはできない。現場仕事をこなしたい、そんな思いに駆られ、伊東は……。 “「人の上に立つ」ことにまるで関心がなかった。 自分の手を実際に動かさないのなら、それは仕事ではなかった。” ”お前が一番、火を舐めてるんだよ” ”お前は自分の仕事を馬鹿にされるのを嫌う。 お前自身が、誰より馬鹿にしているというのに” 腕利きの溶接工が陥った突然のスランプ。 いま文学界が最も注目する才能が放つ異色の職人小説。
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無限の月
無限の月
著:須藤 古都離
文芸(単行本)
中国のある町で起こった奇妙な出来事。真夜中、パソコンのディスプレイに「誰かたすけて」の文字が、いくつも表示された。しかも、1軒だけではない。次から次に、異変は連鎖する。何者かによるハッキングが原因かと思われたが、犯人はわからない。日本では、脳科学をテクノロジーに昇華させ「時代」を作ったやり手のIT経営者の妻が、階段からころげ落ち、大怪我を負った。相手の不倫が原因で別居をしていた夫と、妻は久しぶりに会う。そして、気づく。この人は、私が愛したあの人じゃない。別人だ……。メフィスト賞満場一致の受賞作『ゴリラ裁判の日』で注目を集めた著者がおくる待望の第2作。中国と日本を舞台に、予想を裏切る角度と速度で展開するノンストップエンターテインメント!
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キッチン・セラピー
キッチン・セラピー
著:宇野 碧
文芸(単行本)
今夜、ひとりでキッチンに立ちたくなる一冊。 第一話 カレーの混沌 旅先での出来事をきっかけに、人生の「迷子」になってしまった大学院生。 ひと皿:スパイスと「ある物」を使って作るカレー 第二話 完璧なパフェ 家事と仕事と子育てに追われ、自分の好きなものを忘れてしまった母親。 ひと皿:「彼女にとって」一点の曇りもなく完璧なマンゴーパフェ 第三話 肉を焼く キャリアを地道に積み上げるも、周りとのライフステージの変化に思い悩む医師。 ひと皿:生きる力を取り戻すための肉 最終話 レスト・イン・ビーンズ 町田診療所の主、モネの過去が明らかに。いま、豆を愛したある人のことを偲ぶ。 ひと皿:持ち寄った、それぞれの大切な料理 「どうして私たちは、大切なことから真っ先に忘れるようにできているのだろう」
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記憶書店 殺人者を待つ空間
記憶書店 殺人者を待つ空間
著:Chung Myung Seob,訳:吉川 凪
文芸(単行本)
残忍な男によって、目の前で妻と娘の命を奪われたユ・ミョンウ。犯人は捕まらず、未解決のまま15年を迎えた。犯人が古書に異常な執着を持っていることを見抜いたユ・ミョンウは、犯人をおびき出すために古書だけを扱う〈記憶書店〉を開店した。そこに現れた4人の怪しい客。「この中に犯人がいる」と確信し、調査をはじめるが……。 家族を失った怒れる男のかつてない復讐劇が、いま始まる。
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こころをそのまま感じられたら
こころをそのまま感じられたら
著:星野 概念
文芸(単行本)
つらい心がなんとなく楽になって、 少しでもほぐれますように。 人の話を聞くのは簡単ではないけれど、 安心して話せる場所になりますように。 そんなことを考えながらの日々を、注目の精神科医が綴ったエッセイ集。 * * * 「こころ」を「そのまま感じる」とはどういうことなのでしょうか。これは僕の中では、以前から自分が大切だと考えている、分かった気にならない、ということにつながっているようです。 分かる、は、感じる、と違います。分かるというのは、腑に落ちるのを目指すことだと思います。曖昧さがあまり残らない印象です。感じる、は腑に落ちない部分や曖昧さがあったとしても、そういうものとして眺める、受けとめるという感じでしょうか。(本書より) * * * 【目次】 1章 居心地のいい場所 ・鉄道趣味  ・くじけないということ  ・居心地のいい場所 ・ナースのAさん  ・加齢ということ  ・「嫌です」  ・正月の当直  2章 曖昧なものを体感する ・曖昧なものを体感する  ・ラッキーさん  ・杜氏と菌とオペラ  ・自分にむいていること  ・『ゴールドベルク変奏曲』 ・自分ごとのように考える ・対等であること  ・バンドと酒づくり ・何者かになりたい 3章 静かな分岐点 ・カンニングをしたこと ・静かな分岐点 ・対話にまつわる諦めと希望 ・はなれている ~はなれているから考えたこと ・瞑想とバナナとオレンジ ・安心、安全があってこそ ・こころをそのまま感じられたら ~「おわりに」のかわりに
電子あり
絡新婦の理
絡新婦の理
著:京極 夏彦
文芸(単行本)
印刷技術の粋を尽くした永久保存版。 通常書籍には使用していない印刷技術を駆使しており、一冊ごとに印刷を行っています。量産は難しくきわめて稀少な書籍。
ザ・ベストミステリーズ2023
ザ・ベストミステリーズ2023
編:日本推理作家協会
文芸(単行本)
これがミステリーの最前線! どれを読んでもハズレなし、珠玉の短編推理小説が詰まった一冊! 第76回日本推理作家協会賞短編部門受賞作も収録! 2022年に発表された短編推理小説の中から、プロの読み手たちが熟練の目で選び抜いた作品を収録。 長年の愛好者に向けたコレクションとしても、ミステリーの入門書としてもぴったりの一冊。 新鋭からベテランまでキャリアに関係なく、「とにかく面白くて優れた」短篇のみを集めました。 巻末には昨年のミステリー界の動向を記した「推理小説・二〇二二年」に加え、推理小説関係の受賞作を完全網羅したリストも収録!
アンリアル
アンリアル
著:長浦 京
文芸(単行本)
両親の死の真相を探るため、引きこもり生活を脱し警察官を志した19歳の沖野修也。 警察学校在学中、ある能力を使って二件の未解決事件を解決に導いたが、推理遊び扱いされ組織からは嫌悪の目を向けられることになってしまう。 そうした人々の目は皆、暗がりの中で身構える猫のように赤く光って見える。それこそが、沖野の持つ「特質」だった。 ある日、単独行動の挙句、公安の捜査を邪魔したことで、沖野は副所長室に呼び出され聞きなれない部署への異動を命じられる。 「内閣府国際平和協力本部事務局分室 国際交流課二係」。 そこは人知れず、諜報、防諜を行う、スパイ組織だった--。 日本を守る暗闘に巻き込まれた沖野は、闇に光る赤い目の数々と対峙していくことになるのだが……。 スパイ小説のシンギュラリティとなる記念碑的作品、ついに刊行。
電子あり
不実在探偵の推理
不実在探偵の推理
著:井上 悠宇
文芸(単行本)
「彼女は実在してる。存在が不確かなだけで、ずっと僕の傍にいるんだ」 大学生の菊理現(くくり・うつつ)が思い出のダイスに触れた途端、長い黒髪に白いワンピースの美しい女性が見えるようになった。 現にしか見えない彼女はしかし、ずば抜けた推理力を持つ名探偵。 藍の花を握りしめて死んだ女性、宗教施設で血を流す大きな眼球のオブジェ。 二人に降りかかるすべての謎は解けている。 あとは、言葉を持たない「不実在探偵の推理」を推理するだけ。 水平思考を巡らせて、「はい」か「いいえ」の答えで真実にたどり着け。 ★絶賛の声、続々!★ こんな手があったか!水平思考ゲームとミステリを融合させる見事な魔法。 ――我孫子武丸 謎解きはついに超シンプルかつ至高の領域へ達する!イエスorノー? ――今村昌弘 この設定を「探偵」の形式(フォーマット)に落とし込むなんて……どうかしてます(誉め言葉) ――井上真偽 とうとう名探偵が消えた。確かに名探偵は推理さえできれば、どんな形でもOK。しかしここまでやるとは。 ――似鳥鶏 謎を解く思考回路を体験する、これは参加したくなるミステリーだ。 ――友野詳 水平思考×名探偵、もうこの設定だけで勝ちです。 ――織守きょうや 不可思議なのに論理的。AIとの対話を彷彿とさせる、現代ミステリの最先端! ――秋口ぎぐる 名探偵の可能性をどこまで広げられるか、という問いの一つの答えである。不実在であるからこそ、この名探偵は遍在する。 ――斜線堂有紀 不実在でありながら圧倒的な存在感を放つ探偵に、あなたはきっと魅了される。 ――五十嵐律人
電子あり
文学2023
文学2023
編:日本文藝家協会
文芸(単行本)
2022年のあいだに各媒体に発表された全短篇のうち12作品を厳選。コロナと戦争の不安下にある社会と人間の姿を凝視した作家の眼。
電子あり
うるうの朝顔
うるうの朝顔
著:水庭 れん
文芸(単行本)
第17回小説現代長編新人賞受賞作! ーー1秒が、あなたを変える。必要なのは「1粒の種」。 奇跡の花と不思議な青年をめぐる、再生の物語。 綿来千晶は、息子に手を上げた夫と離婚したばかりで鬱々とした日々を過ごしていた。彼女は、偶然入った霊園事務所で日置凪という青年に出会う。親しみやすく価値観の合う凪に、ぽつぽつと悩みを打ち明ける千晶。すると彼は「ひとつだけ、おとぎ話をさせてください。」と「うるうの朝顔」という不思議な朝顔の種を取り出した。 なんでもその花を咲かせると、現実とはほんの少しだけ変わった過去をもう一度体験でき、その瞬間から始まっていた心の「ズレ」が直るという。その夜、千晶には、姉が父に殴られた日の記憶がよみがえり……。 キーアイテムとなるうるうの朝顔の使い方が、不思議な力でズレを修正された人物たちに解放感だけでなく一抹の苦味や寂しさを残すところが味わい深さとなっている。――凪良ゆう すべてのエピソードで、安易な解決ではなく、おずおずと未来に踏み出すなにかが描かれているのに好感を持ちました。 ――中島京子