文芸(単行本)作品一覧

無私の感触
文芸(単行本)
他人も自分もない。
ただじわじわと生きている感じがするだけだ。
戦争が終わった。人々はどこか傷ついていた。
〈日本人の心の原点を描く連作小説集〉
昭和20年代の青春と日常は「今」と確実に繋がっている。
「風邪でもひいたのか少し発熱していた。……それでも、この体験は志郎にある不思議な感じを残した。それは黒木の微笑や配慮からきたものである。黒木の示したものは、好意や親切というだけのものではなかった。戦争で傷ついた者が、そのようであり得るのかと驚かされた柔和さだった。感触だった。」――『無私の感触』
「「あの人はこれで二度死のうとしました」母親はいった。……「空襲で逃げた時と今度と。きっと私にはわからない理由があるんです」」――『そばにいる』

美しい顔
文芸(単行本)
愛と哀しみの傑作!
人間の顔とは何か?
北海道を舞台に、小児ガンの子をもつ飛びきり美しい母親と青年医師の悲痛な愛のゆくえをさぐる清新な筆致!
本書は、日進月歩の最新医療現場を舞台に、医学とは何か、という根源的テーマを扱った最も今日的な医学小説である。
小児ガンを患い顔の半分を失うことになった子どもをめぐり、医療行為の迷路に踏み込んだ青年医師と、その両親を中心に、医療現場の関係者たちの緊迫したドラマが重厚かつクールな筆致で描かれている。特に医師と美しい母との間で展開する“死と生”を凝視した密度の濃い愛憎劇は、現代人にとって“癒し”とは何かを問いかけており、胸に迫るものがある。人間を書ける大型新人の出現を素直に喜びたい。
待望久しい医学恋愛長篇の誕生である。――(菊池仁)

いい歳旅立ち
文芸(単行本)
人生なかば?出会いは続く
“いい日”を夢見て“いい歳”になった
今からだって遅くない 旅立ちはこれからだ!
爽快エッセイ集・サワコヒストリー
確認家族
臨時ヒメゴジラ
四十娘
東京ゆかりの地
父娘撮影
干支の宿命
伯母の教訓
いたずらの年季――(目次より)

絶対零度
文芸(単行本)
孤独な魂たちが引き起こす戦慄のテロリズム
若者の間で、密かにその存在を囁かれる“おやじ殺しゲーム”。
体験者はやがで妄想に取り憑かれ、実際に無差別殺人を始めるという――。
現代社会の闇を抉る、渾身の書下ろしサスペンス900枚!
絶対零度。マイナス273度。
物質から熱を奪っていけば、その値に限りなく近づき、それ以下には絶対下がらない極限の温度だという。
生きる途上で次々に熱を奪われ、ついには究極の温度までたどり着いた。全ての生と死が等価となった、凍てついた世界。

黄昏という名の劇場
文芸(単行本)
黄昏の世界に迷えし、子羊どもに救いは――?
太田忠司が紡ぎ出す妖かしの物語
太田忠司、待望のホラー短編集。
メフィストで連載し、好評を博したホラー短編に、書き下ろしの表題作を加えた短編集。情感たっぷりの太田ワールドを、装丁・挿画の藤原ワールドが一層盛り上げる。
そう、君が見る世界には、実際にはそこにないものが満ち溢れている。君にはその区別ができない。(中略)
そして、ないものというのは、決して存在しないというわけではない。存在というのは君が思っているほど単純ではないのでな。ないものも存在するのだよ。――本文より

幕末気分
文芸(単行本)
大混乱時に人はこう動く
テロに不況の現代と同じく、わけのわからなくなった将軍藩主兵隊たちの焦りと遊びの意外な実相
サントリー学芸賞受賞の学者が暴く幕末期。
幕府軍の兵隊の異様な遊びっぷり、吉原へ攻め込んだ寄せ集め兵、芝居そのままに狂乱の終末を迎える様を上野彰義隊や徳川慶喜の実像など新資料で描く歴史エッセイ。

真説 猿飛佐助
文芸(単行本)
幸村果てしあと、家康の首級はおれが奪(と)る
豊臣方に乞われ、佐助は大坂ノ陣に参戦した。精気漲(みなぎ)る宮本武蔵との戦場での邂逅、天守閣を舞台に繰り広げられた服部半蔵との死闘。武士の戦に加わった、忍びの者の葛藤を描く渾身の書下ろし長編小説。
武将たる者にとって、自己表現の手段は合戦しかないのかもしれぬ。それにしても、武士の本懐とはなんと傍迷惑かつ手前勝手なものであろうか。
佐助は思わずにはいられないのである。――(本文より)

少年トレチア
文芸(単行本)
都市のまどろみは怪物を育む。
みんなが云う。
悪いのはトレチア。殺したのはトレチア。
-欲望と邪意を見つめる熱く暗い傑作-
「キジツダ」謎の少年が囁く死の呪文とは?
新興住宅地で次々おこる殺人事件。目撃された学帽と白い開襟シャツの少年は何者か。都市伝説を通して“恐るべき子供たち”の真実を捉え、未来を予見するホラー!
楳原崇(うめはらたかし)――うしろ暗い少年期を隠した学生。
佐久間七与(さくまななよ)――ニュータウンを撮り続ける女。
蠣崎旺児(かきざきおうじ)――夜ごとダウジングする漫画家。
新宅晟(しんたくあきら)――難病とともに生きる邪悪なこども。

流星ワゴン
文芸(単行本)
家族小説の新境地。直木賞受賞後の初の長篇。
ひきこもり、暴力をふるう息子。浮気を重ねる妻。会社からはリストラ寸前……死を決意した37歳の僕は、死んだはずの父子が運転する不思議なワゴン車に乗り込んだ。
37歳・秋
「死んでもいい」と思っていた。
ある夜、不思議なワゴンに乗った。
そして――自分と同い歳の父と出逢った。
僕らは、友だちになれるだろうか?
28歳のときぼくは父親になり、父は「おじいちゃん」と呼ばれるようになった。親になってからの日々は、時間が重層的に流れる。小学5年生の長女を見ていると、小学5年生の頃の自分を思いだし、その頃の父のことも思い出す。少しずつ、昔の父のことがわかってきた。こどもの頃はあれほどおっかなかった太い腕が、じつは決して太くはなかったんだとも気づいた。長生きしてほしい、なんて口に出すのは嫌だから、ぼくは父親と家庭の物語を紡ぐ。――(重松清)

職人たちの春
文芸(単行本)
津和野に集まった職人たちの技と心。受け継がれてゆく伝統の美しさ。2001年春、津和野の町に和風建築の美術館が完成するまでを、職人たちの言葉を通して描く、書き下ろし長篇エッセイ。
◎「サクラが咲いていた。あの日は卒業式のようなもの……職人たちの春であった。」
◎「この本は、美術館の中身とは別に、和風建築のことや、ここに関わった職人たちとわたしの「生活と意見」を書き残しておきたいと考えて書いた。この建築物のあちこちに残っているところの「職人の仕事」の跡を見ていただきたいと思う。」<本文より>

江戸のまかない 大江戸庶民事情
文芸(単行本)
常識は覆された
お江戸では……
●戸のない木戸がほとんど。
●農地が約半分。
●子供の90%は手習いに。
●庶民は遊び大好き、旅も好き。
●酒場で燗徳利は使わない。
江戸の本当の姿は目から鱗のことばかり。

暴力恋愛
文芸(単行本)
生きてゆくのが辛かった――。
私を見て。
私を触って。
私は望まれないのにここにいる
「私のすべてを受けとめて」
心にあいた大きな穴を、あなたに埋めてもらいたい。
「好き」という気持ちが、相手をどんどん追い詰める。
自伝『生き地獄天国』著者、映画「新しい神様」主演女優、雨宮処凛の「心が痛くなる」長編小説。

張騫
文芸(単行本)
皇帝劉徹、53年の治世 中国歴史名品集!
武帝の時代、西域を拓いた張騫、若き日の司馬遷、青州刺史の雋不疑(しゅんふぎ)。青い夢に魅了された3人の男を描く秀作。
草原の南風に微かな他の春の匂いを感じたのか、先ほどから、夫が遠くを見て動かない。彼の視線の先にあるのは、女などではない。頂の所々がまだ白く輝く祁連山脈である。
山とはいっても、中国本土の風景とはかなり違う。鬱蒼とした樹木の密生などほとんど見られない。岩石と砂だけの地肌に、風雨の浸食した跡だけが、高齢者の皺のように長く深い。
恐らくは、何千年もかかった自然の繰り返しの結果だろう。――漢人と言われた夫は、都の長安から来たのである。この地に滞在するためでなく、もっと西の大月氏国へ、使節として条約を結ぶためだった。

蔦かずら
文芸(単行本)
ラスト・ラブ。この恋を失ったらもう二度と人を愛せない。自分を囲っていた男が危篤になったときに抱く熱い恋心、年若の同僚に躰をゆだねられない切なさ、夫の不義を許してしまった妻の寂しさ――。曲がり角で愛に揺れる女性達の心の襞を描いた、8つの連作集。
ラスト・ラブ
この恋を失ったらもう二度と人を愛せない
自分を囲っていた男が危篤になったときに抱く熱い恋心、年若の同僚に躰をゆだねられない切なさ、夫の不義を許してしまった妻の寂しさ――。曲がり角で愛に揺れる女性達の心の襞を描いた、8つの連作集。
(全て書きおろし)
前作の『想ひ草』では、時間というものの、残酷性とぬくもりを、主人公達の来し方に重ねて描いてみましたが、今回は、その時その時を、いつくしんで拾い上げようとする8人の女性を描いてみました。――著者あとがきより

レッスンズ
文芸(単行本)
私たち、自分で強くなるしかないんだよ。
壊れそうな心をもつ少女と愛に臆病な家庭教師が、二人で重ねた明日へのレッスン。
勇気をくれるピュア・ストーリー
母ギツネが3匹生まれたうちの1匹だけを虐待し、執拗に追いかける。すると子ギツネは母と闘うのではなく、母に傷つけられる前に自分で自分の足を噛み始めたのだ。
リコは、キツネではない。とても頭のいい15歳になりたての少女だった。私は彼女の柔らかさと多感が愛おしかった。そして、彼女が壊れそうな心といつも必死に闘っているのをずっと見てきた。まるで立会人を必要とされているかのように。――本文より

砦なき者
文芸(単行本)
テレビを信じてはならない。
“4年後の『破線のマリス』”と呼ぶべき傑作サスペンス!
映像という手段を知り尽くし、若者のカリスマとなった邪悪な男。彼を生み出してしまったテレビ業界の男たちが挑んだ戦いとは――?
視聴率というものが表現する大衆が、不気味でならない時がある。
「閉じた社会」には、行き場を失った暗いエネルギーが満ち満ちている。1千万人が1人のカリスマの登場によって「絶対的な総意」としてひとつにまとまったらと想像すると、背筋が凍る。
だが、本物の恐怖はその先にあるように思えてならない。――野沢尚

防風林
文芸(単行本)
記憶が嘘をついたのか
冬の大地に埋めたはずの事件。
赤いコートの女が、封印された過去へ男を誘う。
気鋭の長編サスペンス!
札幌を離れて17年経った今、再びここで暮らすことを決意して戻ってきた。
雪が深い。この一帯は原生林に近い混交林が続いている。雪を冠した木立の向こうに、楡の巨木が見えている。
あるべきものがそこにある。たったそれだけのことが、実に大きな慰めに、あるいは励ましになる。――(本文より)

二十歳のあとさき
文芸(単行本)
オリンピックを控え、改造されゆく東京で私は成人式を迎えた。
佃の渡しは廃止され、赤線は修学旅行生の宿になった。急激に姿を変える町で、少年期を脱皮していく仲間たち。ほろ苦くも懐かしい、自伝的青春小説。
その晩、店を閉めたあと、主人が私の前に、でんっと日本酒の一升瓶を据えた。
「二十歳おめでとう」そう言って、コップを私に受け取らせた。
「今夜から堂々と酒が飲めるわけだ。まず、これを干しなさい」とコップになみなみと注いだ。
「ゆっくり、ゆっくり、のどを鳴らさぬように飲む。一滴残らず、あけなさい」
主人は私の飲みっぷりを観察している。「よし」とうなずいた。――(本文より)

噂の娘
文芸(単行本)
あの娘たちは、今どうしているのだろう
時はゆらぎ、光はきらめき、記憶は風と共に散る
-傑作長篇小説-
1950年代、夏から秋にむかう季節の数日間、幼い弟と〈私〉は母親の友達の女世帯の美容院にあずけられる。遠いどこかの町で、父親が突然病気で入院したから……。
〈私〉のあやふやな不安と夢想が物語の微熱を発し、若い娘たちは恋愛小説を読み、恋をして、髪を結い、映画(メロドラマ)を見て、爪を染め、ドレスを縫い、夢見ては、吐息をつく。
商店街の片隅の美容院の鏡に映じて消える重層的な映像(イマージュ)。おびただしい噂話の破片とメロドラマが〈歴史〉のなかに無数のかけがえのない瞬間を刻み込む。

二重奏
文芸(単行本)
次に死ぬのは、あなた。
死の予兆が見えてしまう18歳・香子は、異能を捨て、普通のOLとして生きていこうと決心した。だが、危険な“予感”は次々と浮かび……。
予知夢、幽霊(ゴースト)――赤川ミステリー最新作
今入って来た2人の男の周辺で、空間が歪んだ。(中略)
1人の男が血まみれになって床に転っていた。身悶えし、手足が空しくカーペットをつかもうとする。血がどんどんふき出して、男は叫び声を上げた――。(中略)
フッと我に返る。ああ……。今のは……幻?これから起こることだとすれば、あの2人は――。(本文より)