講談社学術文庫作品一覧

地図の歴史 世界篇・日本篇
講談社学術文庫
文字よりも古い歴史をもつといわれる地図には、その時代の人々の世界観が描かれる。それは豊かな想像力と確かな科学や測量が融合した、時代の観念の具象化だった。世界と日本それぞれに、人類はどのような観念を地図に描き、そして現実の世界とつなげようとしてきたのか。斯界の泰斗が、興味深い数多くのエピソードに160点超の豊富な図版を交えてつづる地図の歴史。長く読み継がれてきた歴史地理学の入門書、待望の文庫化!

新校訂 全訳注 葉隠 (中)
講談社学術文庫
佐賀藩士・山本常朝が語り、田代陣基が筆録した武士道書『葉隠』は、「死ぬ事と見付たり」に代表される過激な文言と、切れのいい文体で、多くの人をひそかに魅了し続けてきました。本書は、天保本を、はじめて底本として採用し、新たに綿密な校訂を施して、原文の息づかいをそのまま伝える本文の再現に努めました。独特の文体の魅力を堪能してください。中巻は、武士の生態が生々しく伝わってくる条文の連続です。
佐賀藩士・山本常朝が語り、田代陣基が筆録した武士道書『葉隠』は、「死ぬ事と見付たり」に代表される過激な文言と、切れのいい文体で、多くの人をひそかに魅了し続けてきました。
本書は、天保本を、はじめて底本として採用し、新たに綿密な校訂を施して、原文の息づかいをそのまま伝える本文の再現に努めました。
独特の文体の魅力を堪能してください。
また、読みやすい現代語訳をつけ、類書を大幅に凌駕する詳細な注を付した。
「武士道書中の武士道書」と言われ、「死ぬ事と見付たり」に始まり、「恋の至極は忍恋」「奉公と諌言」など、次々に繰り出される条文は、武士の死生観から、職務、日常生活、教養に至るまで、幅広く、かつ深い人間洞察にあふれた内容になっています。それを、身近に味わえる訳と注です。
『葉隠』は十一の「聞書」から成っており、本書では、三巻に分けて刊行します。
中巻は、「聞書四」から「聞書七」までです。

はだかの起原 不適者は生きのびる
講談社学術文庫
裸は適応的な進化だったはずはない――。では、ヒト科ではただ一種だけの例外的な形質、生存のためには圧倒的に不利な裸化は、なぜ、そしていつ起こったのか。一方で、ハダカデバネズミ、ハダカオヒキコウモリなど、ごく少数の裸小型哺乳動物は、それぞれが独特の生態を持つ。では、人類が生きのびるための術とは? 自然淘汰説や人類海中起原説などの説を検討し、遺伝学・生物学などを参照しつつ、現代人類の特質の起原を探る。
裸は適応的な進化だったはずはない――。では、ヒト科ではただ一種だけの例外的な形質、生存のためには圧倒的に不利な裸化は、なぜ起こったのか、そしてそれは人類誌のなかで、いつのことなのか。
一方で、ハダカデバネズミ、ハダカオヒキコウモリなど、同様にごく少数の裸小型哺乳動物は、それぞれが独特の生態を身につけるに到った。では、人類が獲得した、生きのびるための術とは?
ダーウィンの自然淘汰説や人類海中起原説などこれまでの説を批判的に検討し、遺伝学・生物学などの成果を参照しつつ、ホモ・サピエンスの特質の起原を探る。

天皇の歴史6 江戸時代の天皇
講談社学術文庫
「天子諸芸能のこと、第一御学問なり」と禁中並公家中諸法度で規定され、政治的には無力であったとされた江戸時代の天皇。しかし、後水尾天皇や霊元天皇は、学問や和歌を奨励して権威を高め、光格天皇は天明の飢饉の際に幕府から救い米を放出させたばかりでなく、応仁の乱以降に失われた御所を復古再建させた。老中・松平定信が説いた大政委任論など、幕末動乱の中で孝明天皇を権力の頂点に押し上げた原因を究明する。
講談社創業100周年企画として刊行され、高い評価をえたシリーズの第6巻。徳川幕府の支配のもと政治的には無力だった江戸時代の天皇が、なぜ幕末に至って求心力をもち急浮上したのか。後水尾天皇、霊元天皇は、学問や和歌を奨励し、権力者の徳川将軍に対抗して権威を高める一方、現皇室の直系の先祖に当たる光格天皇は、天明の飢饉に際して飢えた民衆のため幕府に救い米を放出させた。尊王思想のもと孝明天皇が幕末に政治権力の頂点を極めるまで、天皇は武家や民衆からどのように見られ、どんな役割を果たして実質的な君主に大きく変貌したか、その軌跡を明らかにする。
〔原本:『天皇の歴史06巻 江戸時代の天皇』講談社 2011年刊〕

ヨハネの黙示録
講談社学術文庫
終末は永遠の滅びか、永遠の救いか――? 新約聖書の最後で世界の終わりを暗示する「ヨハネの黙示録」。歴とした正典ながら謎のメッセージとして不吉なイメージを背負う問題の書。「七つの○○」「666」「大いなるバビロン」……その強烈な個性は絶えず異端視する声を喚び、独特なカタルシスを生む。ギリシア語原典からの全訳に加え、訳者と図像学者による解説をそれぞれ収録。(原本:岩波書店刊、1996年)
終末は永遠の滅びか、永遠の救いか――? 新約聖書の最後で世界の終わりを暗示する「ヨハネの黙示録」。全体を貫く不吉なイメージに、誰がいつ書いたかもよく分からない(福音書のヨハネとは別人らしい)成立過程。歴とした正典でありながら、強烈な存在感を背負わされた問題の書。七つの○○、「666」、大いなるバビロン、千年王国、迫害と勝利……その強烈な個性は絶えず異端視する声を喚び、独特のカタルシスを生む。西洋美術、文学、思想から現代の漫画やゲームに致まで、深い影響を与えている謎の正典のすべてを、第一人者によるギリシア語原典からの全訳と解説で明らかにする。また82点にわたる図像をちりばめ、図像学者による解説を加える。(原本:岩波書店刊、1996年)

エスの本 ある女友達への精神分析の手紙
講談社学術文庫
「人間は、自分の知らないものに動かされている」。フロイトの理論に大きな影響を与えた医師グロデックが、フロイトへの書簡を元に、架空の女友達にむけて「エス」を説明したのが本書である。「知ろうとするのをやめ、空想する決心をすれば、無意識の奥深く突入することができます」。混沌として論理的な世界の理をあかし、「病」の概念すら変える心身治療論。

明治維新史 自力工業化の奇跡
講談社学術文庫
幕末から維新、そして明治へ。めまぐるしく展開した幕末・維新の四半世紀は、近代国家日本の揺籃期であり、その光と影は現代にまで続いています。では、この時代の実相とはどのようなものだったのでしょうか。本書は、黒船来航から西南戦争まで、複合的な要素を内包するなかで、近代国家のありようを模索した激動の時代を、政治や社会、文化の側面を丁寧に整理するとともに、経済・産業面の実像を精緻な論により描き出す。
幕末から維新、そして明治へ。めまぐるしく展開した幕末・維新の四半世紀は、近代国家日本の揺籃期であり、その光と影は現代にまで続いています。では、この時代の実相とはどのようなものだったのでしょうか。
本書は、黒船来航から西南戦争まで、複合的な要素を内包するなかで、近代国家のありようを模索した激動の時代を、政治や社会、文化の側面を丁寧に整理するとともに、経済・産業面の実像を精緻な論により描き出した、他に類のない重層的な明治維新通史です。
原本刊行後、一般読者の根強い支持を受ける一方、研究の基本文献としての評価も高い、日本経済史の碩学ならではの名著を、今回、本文庫のために全面的に手直ししています。
「明治150年」の今年、近代国家・日本を問いなおし、また、我々が直面する諸問題を歴史を遡って考えるための必読の一冊です。
〔原本:1989年、小学館「大系 日本の歴史」12巻『開国と維新』〕

宇治拾遺物語 下 全訳注
講談社学術文庫
鎌倉時代前期に成立した代表的説話集の一つ。上巻に引き続き人の耳目をひく話を集める。都の巷から鄙の里、震旦・天竺まで、世の奇異なものへと開かれる好奇心。仏菩薩の霊験には純朴な感情で、えせ聖や詐欺師・幻術師の行為には分別わきまえた言葉で、民衆の反応がさまざまに語られる。古本系統『伊達本』を底本として94話を全訳・解説。
鎌倉時代前期に成立した代表的説話集の一つ。上巻に引き続き人の耳目をひく話を集める。都の巷から鄙の里、震旦・天竺まで、世の奇異なものへと開かれる好奇心。仏菩薩の霊験には純朴な感情で、えせ聖や詐欺・幻術師の行為には分別わきまえた言葉で、民衆の反応がさまざまに語られる。古本系統『伊達本』を底本として94話を全訳・解説。

天皇の歴史5 天皇と天下人
講談社学術文庫
織田信長、豊臣秀吉、徳川家康ら「天下人」に、天皇はいかに渡り合ったのか。正親町天皇が発した日本史上初めての「キリシタン禁令」を無視した信長。秀吉の権威を天下に誇示することとなった後陽成天皇の聚楽第行幸。大明国征服の野望を抱いた秀吉の「皇居の北京移転計画」。家康の意向に従わざるを得なかった後陽成の譲位と後水尾天皇の即位。信長上洛から家康の死まで、激動の時代を天下人ではなく天皇を主人公として描き出す。
講談社創業100周年企画として刊行され、高い評価をえたシリーズの学術文庫版、第5巻。
本巻では、織田信長、豊臣秀吉、徳川家康ら「天下人」と、同時代の天皇たちの虚々実々の駆け引きをたどり、天下統一の過程での天皇の役割を究明する。
正親町天皇が発した日本史上初めての「キリシタン禁令」を無視した信長。秀吉の権威を天下に誇示することとなった後陽成天皇の聚楽第行幸。大明国征服の野望を抱いて朝鮮に出兵した秀吉の無謀な計画「皇居の北京移転」を、後陽成はいかに阻止したのか。そして、新たな幕府を開いた家康の意向に従わざるを得なかった後陽成の譲位と後水尾天皇の即位。さらに、天寿を全うして「神」となった家康の「神号決定」の過程に見られる、新しい時代の「天皇と幕府の関係」とは。
信長上洛から家康の死まで、激動の時代を天下人ではなく天皇を主人公に描き出す。
〔原本:『天皇の歴史05巻 天皇と天下人』講談社 2011年刊〕

哲学の練習問題
講談社学術文庫
私たちの身体と心には、まだ開発されていない能力が無数にある。しかし、それは「学習」では開発できない。発達をリセットして、能力を形成すること。それは「名詞」ではなく「動詞」の経験であり、そのためには実際にやってみるのが唯一の方法である。本書では、オートポイエーシスの第一人者として知られる著者が、一人でもできるエクササイズを数多く紹介している。これらを実行したその先には、未知の自由が待っている。
後ろ向きに走ることができますか? たぶん、多くの人は全身に「違和感」が生じて、数メートルも走れたら上出来でしょう。
それが難しければ、今度は横歩きしてみましょう。身体の右を前にしても、左を前にしても、身体は同じように動いてくれるでしょうか。
──本書は、こんなエクササイズを身体だけでなく心や思考にも施して、もっと自由に生きられるようになるための教科書です。
身体にせよ、思考にせよ、私たちにはまだ開発されていない能力が無数にそなわっています。でも、「学習」によっては、それを開発することはできません。大事なのは、能力を作り出すこと。そのために、発達をリセットすること。本書には、それを一人でも実行できる具体的なエクササイズが数多く紹介されています。
経験は「名詞」ではなく「動詞」です。本書を手引きに、触覚とイメージを使ったエクササイズを実行してみれば、今まで知らなかった自由の中にいることが分かるでしょう。それこそが「哲学」の力です。
さあ、未知の自由に向かって一歩を踏み出しましょう!
【本書の内容】
練習問題1 創造性への屈伸運動
練習問題2 浦島太郎の玉手箱の秘密
練習問題3 意味の手前で……
練習問題4 目盛りを変える、目盛りをなくす
練習問題5 見えないのに知っている、触れている
練習問題6 目はいかにして生まれたか
練習問題7 スチュアート君の指先
練習問題8 寺田寅彦とともに
練習問題9 日常性のほんの一歩先
練習問題10 見えないが自明な行為の手がかり
練習問題∞ レッスンの終わりに

新版 法然と親鸞の信仰
講談社学術文庫
「信仰というものは、生きるために必要な、日々に欠くことの出来ない、実際に役立つものでなくてはならぬ。心の平和のためにも、また身体をいわゆる肉弾となして、実生活にぶっ突かって行く時にもなくてはならない最後の『拠りどころ』でなくてはならぬ」と考える著者が、法然と親鸞の信仰について、情熱をかたむけて説いた名著。法然「一枚起請文」の奥義、歎異抄の全てを語りきった!
「信仰というものは、生きるために必要な、日々に欠くことの出来ない、実際に役立つものでなくてはならぬ。心の平和のためにも、また身体をいわゆる肉弾となして、実生活にぶっ突かって行く時にもなくてはならない最後の『拠りどころ』でなくてはならぬ」と考える著者が、法然と親鸞の信仰について、情熱をかたむけて説いた名著。

オスマン帝国の解体 文化世界と国民国家
講談社学術文庫
民族・言語・宗教が複雑に入り組み、多様な人々を包み込む中東・バルカン。その地を数世紀の長きにわたり統治したオスマン帝国の政治的アイデンティティ、社会統合、人々の共存システムとはどのようなものだったのか。帝国の形成と繁栄、解体の実像、そして文化世界としてのイスラム世界の伝統を世界史的視点から位置づけ、現代にまでつながる民族紛争の淵源を探る。

天皇の歴史4 天皇と中世の武家
講談社学術文庫
12世紀末、日本史上初めての本格的な内戦、治承・寿永の内乱の結果、新しい武士の政治組織、鎌倉幕府が誕生。政治体制は、それまでの朝廷の単独支配から、明治維新まで続く朝廷・幕府体制へと大きく変化する。父子一系の皇統をめぐる朝廷の動揺と、朝廷再建を図る源頼朝、後醍醐天皇、足利義満の構想など、朝廷・幕府体制の展開を探りながら、古典を鑑として秩序を求めた人々の営為を明らかにする。
講談社創業100周年企画として刊行され、高い評価をえたシリーズの学術文庫版、第4巻。平安時代末期の源平の争乱から、鎌倉時代を経て室町時代後半に至る中世日本における天皇と武家の役割を究明する。中世に重視されたのは、父子一系でつながる一筋の皇統=正統(しょうとう)であり、多くの天皇が自らの皇統を維持しようと院政を目指した。源頼朝も正統の天皇を護るために武家を創り、鎌倉幕府が後鳥羽上皇と戦ったのも朝廷再建のためだった。室町時代、事実上の院政を執った足利義満など、中世の天皇と武家の実像を明らかにする。
〔原本:『天皇の歴史04巻 天皇と中世の武家』講談社 2011年刊〕

ホモ・ルーデンス 文化のもつ遊びの要素についてのある定義づけの試み
講談社学術文庫
「人間の文化は遊びにおいて、遊びとして、成立し、発展した」。歴史学、民族学、そして言語学を綜合した独自の研究は、人間活動の本質が遊びであり、文化の根源には遊びがあることを看破、さらに功利的行為が遊戯的行為を圧する近代社会の危うさに警鐘を鳴らす。「遊びの相の下に」人類の歴史の再構築を試みた不朽の古典をオランダ語版全集から完訳。

精霊の王
講談社学術文庫
柳田國男の代表作に『石神問答』があります。石神=シャグジは四千~五千年前ほど前、この列島に国家が存在しなかった時代へと遡る「古層の神」です。国家が誕生するとこの古層の神は零落してしまいます。しかしながら、この縄文的な精霊は、芸能と技術の専門家たちの世界で、たくましく生き残っていたのです。「宿神(しゅくじん)」という名前で、能や造園といった分野では深く敬愛される存在でした。国家などの秩序を支える神に
柳田國男の代表作に『石神問答』があります。石神=シャグジは四千~五千年前ほど前、この列島に国家が存在しなかった時代へと遡る「古層の神」です。国家が誕生するとこの古層の神は零落してしまいます。しかしながら、この縄文的な精霊は、芸能と技術の専門家たちの世界で、たくましく生き残っていたのです。「宿神(しゅくじん)」という名前で、能や造園といった分野では深く敬愛される存在でした。国家などの秩序を支える神に力をあたえ、秩序の世界に創造をもたらす存在は、中世には「後戸(うしろど)の神」と呼ばれていました。
本書の旅は、蹴鞠の名人・藤原成通の不思議な話から始まります。そして金春禅竹の秘伝書『明宿集』と中世における宿神の奇跡を辿り、縄文的要素の残る諏訪へと向かいます。そこで出会う太古の記憶は不思議な感動を覚えずにはいられません。
そこからさらにユーラシアに散在する宿神的な痕跡をおいかけることで、その人類的な普遍性へといたります。
熱く力強い筆致でわたしたちの前に現出する世界に圧倒されずにはいられません。
本当に世界を動かしている驚くべき力に触れる壮大な人類史を描ききった瞠目の書です。

宇治拾遺物語 上 全訳注
講談社学術文庫
鎌倉時代前期に成立した代表的説話集。貴族・僧などの著名人から、下級官人、侍、庶民、子供まで、登場人物が多様で世俗的傾向の強い話を集める。強力譚、報恩譚、聖譚、不思議譚、艶笑譚など世の万般を描く切れ味鋭い話の数々。本巻には「舌切り雀」「瘤取りの話」「芋がゆ」など現代に伝わる物語をはじめ百余話を収録。古本系統「伊達本」を底本として現代語訳、語釈、解説を付す。

『青色本』を掘り崩す――ウィトゲンシュタインの誤診
講談社学術文庫
「私は他者の痛みを感じることはできない」――このことを出発点として展開されるウィトゲンシュタイン『青色本』の思索を、著者が細部にわたって、詳細に検討。「独我論」とは、いったい何なのか? 哲学的に思考する醍醐味満載の一冊!
『青色本』と名づけられたのは、1933年から1934年にかけての、ケンブリッジでのウィトゲンシュタインの講義録である。
ウィトゲンシュタインの哲学を、『論理哲学論考』を前期、『哲学探究』を後期と分ければ、その中間に位置し、いわば『哲学探究』に向かう時期の講義にあたる。
ここでは、「他者の痛みは、私には感じられない」という、有名な「痛み」についての議論などが展開され、いわゆる「独我論」が主要テーマになっている。
著者・永井均は、この『青色本』の議論に、一文一文、詳細な検討を加え、解読しながら、さらに、著者の哲学を展開していく。
独我論、私的言語、自他の非対称性といった、哲学の永遠の課題に対して、ウィトゲンシュタインと永井均という、ふたりの哲学者の思考がクロスしながら展開する、きわめてスリリングな一冊といえよう。
さながら、ウィトゲンシュタインvs.永井均という様相を呈しているのである。

天皇の歴史3 天皇と摂政・関白
講談社学術文庫
9世紀後半、幼帝清和天皇の外祖父・藤原良房が摂政になり、息子・基経が関白の地位を得て、その後200年におよぶ摂関政治の時代が始まった。醍醐・村上天皇の「延喜・天暦の治」と将門・純友の乱、そして道長の栄華。藤原氏が王権をめぐる姻戚関係を支配するなかで、天皇のみがなしえたこととは何か。「摂関家による政治の私物化」という従来の捉え方を超えて、天皇が「生身の権力者」から「制度」へと変貌していく時代を描く。
講談社創業100周年記念企画として刊行され、高い評価を得た全集がついに学術文庫化。第3巻は、9世紀半ばの文徳天皇から、11世紀半ばの後冷泉天皇まで、16人の天皇の時代を取り上げる。「摂関政治の時代」として知られる200年間である。
一般に「摂関政治の時代」というと、天皇を抑えつけ、勝手気ままな政治を行っていた摂政・関白や、寝殿造りの邸宅で日々、宴にふけっていた貴族たちをイメージするだろう。しかし、こうした「政治を私物化する摂政・関白」という見方は、近代以降の歴史観である。本書では、必ずしも対立するものではなかった「天皇」と「摂関」を、王権を構成する総体としてとらえなおす。
幼帝清和の外祖父、藤原良房から摂関政治は始まった。失脚した菅原道真の怨霊問題、将門・純友の乱、醍醐・村上天皇の「延喜・天暦の治」、そして藤原道長の栄華。王権をめぐる姻戚関係を藤原氏が支配するなかで、天皇のみがなしえたこととは、いったい何か。皇統が錯綜し、政争の続く平安京の内裏を舞台に、天皇が「生身の権力者」から「制度」へと変貌していく過程を描き出す。
〔原本:『天皇の歴史03巻 天皇と摂政・関白』講談社 2011年刊〕

顔氏家訓
講談社学術文庫
6世紀末、王朝の興亡が繰り返された中国六朝時代に、一族流浪の困難を乗り越えて、粱、北斉、北周、隋と4代の王朝に仕え、学問を家業とした名門貴族として生を全うした顔之推。彼が子孫のために書き残した『顔氏家訓』は、家族の在り方から子供の教育法、文章論、養生の方法、仕事に臨む姿勢、死をめぐる態度に至るまで、人生のあらゆる局面に役立つ知恵に満ちている。その英知が分かり易い現代語訳で甦る。

歴史のかげに美食あり 日本饗宴外交史
講談社学術文庫
古来、「歴史のかげに女あり」と言われる。妖艶な美女が歴史を動かしてきた例は少なくない。だが、大事件、外交の舞台裏でより重要だったのは、いかに饗宴を準備するか。相手を懐柔するために、明治の主役たちが「おもてなし」のため頭を悩ませた美食とは。史料から明治の世界を生き生きと描き、52歳の若さで惜しまれつつ逝ったノンフィクション・ライター黒岩比佐子が、12品のフルコースで、歴史ファンをご接待!
古来、「歴史のかげに女あり」と言われる。妖艶な美女が歴史を動かしてきた例は少なくない。だが、考えてみれば大事件、外交の舞台裏でより重要だったのは、美女よりも美食ではなかったか。近代日本の運命を左右したステージに饗宴はつきもの。相手を懐柔するためには、美味が必要だった。明治の主役たちは、いかに「おもてなし」に頭を悩ませたか。
黒船来航のペリーは、なれぬ日本料理に閉口した。フランス料理になじめなかった明治天皇の涙ぐましい努力。暗殺された伊藤博文が日本で最後に食べた河豚の味。日露戦争の勝利に外国武官たちからシャンパンシャワーで祝ってもらった児玉源太郎。フランスからミネラルウォーターを取り寄せていた西園寺公望などなど。
史料から明治の世界を生き生きと描き、52歳の若さで惜しまれつつ逝ったノンフィクション・ライター黒岩比佐子が、12品のフルコースで、歴史ファンをご接待!
(原本 文春新書『歴史のかげにグルメあり』2008年刊)