講談社学術文庫作品一覧

岡倉天心「茶の本」をよむ
岡倉天心「茶の本」をよむ
著:田中 仙堂
講談社学術文庫
茶道を通じて、日本文化の真髄と日本人の美意識を西洋に広めるために、岡倉天心が英語で著し、1906年にニューヨークで刊行された『茶の本』を、大日本茶道学会の新会長である著者が、新たに日本語訳し、わかりやすく解説。難解な名著をやさしく読み解く工夫として、本書は 『茶の本』を最終章からさかのぼって読んでいく。西洋文明に対峙し続けた天心の「日本」への想いは、世界と向き合う現代の日本人へのエールでもある。 『茶の本』は、茶道を通じて日本の文化の真髄を西洋に広めるために、岡倉天心が英語で著し、1906年にニューヨークで刊行された。東洋の伝統的精神文化を説く文明論として、『東洋の理想』『日本の覚醒』とならぶ天心の代表作である『茶の本』は、茶に関する名著というだけでなく、茶道を嗜まない人々にも、日本文化の美意識を伝えるものとして読み継がれており、学術文庫でも桶谷秀昭氏の訳でロングセラーになっている。 本書は、本年、大日本茶道学会の会長に就任した著者が、この天心の名著『茶の本』の新しい日本語訳と、それに対する解説を試みたものである。とかく難解といわれる『茶の本』を、現代の茶道の実践者であり、芸術社会学者として大学の教壇にも立つ著者が、わかりやすく読み解いていく。 『茶の本』の難しさは、100年前の西洋人に向けて書かれていること、英語によるレトリックを駆使した文体などにあるが、もう一つは、巻頭から茶道の本質や哲学、道教とのつながりなど、思想的な議論に踏み込んでいることが上げられる。そこで本書は、『茶の本』の最終章から遡って読むという工夫をしている。第一章から読み始めるより、最終・第七章の「茶人」、第六章の「花」という具体的なことに言及する章から読み始めるのが親しみやすく、また後ろの章の内容を先に知って読むと、天心が前の章で用意した伏線に気がつく…というわけである。 なお、本書は、大日本茶道学会の研究誌、月刊「茶道の研究」に6年間にわたって連載された「『茶の本』入門一歩前」を加筆・修正のうえ、1冊にまとめたものである。
電子あり
新版 平家物語(二) 全訳注
新版 平家物語(二) 全訳注
訳:杉本 圭三郎
講談社学術文庫
「おごれる人も久しからず」――権力を握った平清盛の専横は、平氏一門の運命を栄華の座から滅亡へと転回させる。東国の源氏が決起し、頼朝追討の平家の大軍は、富士川で敵前逃亡。ついで木曾義仲も挙兵し、平家に危機が迫る。そして清盛は、自らの体で湯が沸くほどの熱を発して、ついに――。かつて刊行された講談社学術文庫『平家物語』全12巻を4冊にまとめ、新版として刊行。第二巻は巻第四から第六までを収録。 12世紀末、日本が古代から中世へと大きく転換した時代に頭角を現した平家は、たちまちに権力の座に就くものの永く維持できず、東国の源氏勢によって急速に滅ぼされる。この平家一門の栄華と滅亡を軸に、歴史過程を物語ったのがこの『平家物語』である。 「おごれる人も久しからず」――権力を握った平清盛の専横は、平氏一門の運命を栄華の座から滅亡へと転回させる。東国の源氏がついに決起し、清盛は福原への遷都を断行。そして頼朝を追討せんと富士川に赴くも、あろうことか敵前逃亡。ついで木曾義仲も挙兵し、平家に危機が迫る。そして清盛は、自らの体で湯が沸くほどの熱を発して、ついに――。 疾風怒濤の歴史をたどる『平家物語』は、日本史上もっともあざやかな転換期の全容を語る叙事詩であり、民族的遺産といえるものである。 かつて刊行された講談社学術文庫『平家物語』全12巻を4冊にまとめ、新版として刊行。第二巻は巻第四から第六までを収録。
電子あり
星界の報告
星界の報告
著:ガリレオ・ガリレイ,訳:伊藤 和行
講談社学術文庫
ガリレオにしか作れなかった高倍率の望遠鏡に、宇宙はどんな姿を見せたのか?──1609年7月に初めて製作した望遠鏡の倍率は3倍。その4カ月後には、他の誰にも追随できない20倍の倍率を実現したガリレオは、翌年初頭から天体観測を開始した。人類が初めて目にしたレンズの先には、月の表面の起伏が、天の川をなす無数の星が、そして木星をめぐる四つの衛星が現れた。人類初の詳細な天体観測の貴重な記録、待望の新訳! 物体の落下法則を発見したことで有名なガリレオ・ガリレイ(1564-1642年)は、コペルニクス、ケプラー、ニュートンと並ぶ「近代科学革命」の中心人物として知られている。 そのガリレオが初めてみずからの手で望遠鏡を製作したのは1609年7月のことだった。最初に完成したものは倍率が3倍ほどしかなかったが、そこから改良を進めて8月中旬には9倍、そして11月末には20倍の倍率を実現する。これは当時の技術レベルでは驚異的な水準で、これほどの性能をもつ望遠鏡を製作できたのはガリレオただ一人だった。 この圧倒的な優位を得て、ガリレオは天体観測を開始する。まず月から始められた観測は、月表面に起伏があることを明らかにした。翌1610年1月には望遠鏡を恒星に向けたガリレオは、天の川が無数の星々から成ることを見出し、さらに木星の周囲をめぐる四つの衛星を発見するに至る。早くも同年3月に出版された本書は、望遠鏡の話から始まり、月、恒星、そして木星の衛星の詳細な観測記録を含む、生々しいドキュメントにほかならない。 本書が与えた衝撃は、やがて伝統的な宇宙観を打ち壊す動きをもたらすことになる。地上世界と天上世界は異なる世界ではなく、同じ法則に従っている、という前提の下で「近代科学革命」が人類を大きく変えていく。 このような計り知れない意義をもっている本書を、世界の第一線で活躍する研究者が新たに訳出し、詳細な解説を書き下ろす。人類が初めて宇宙の姿の詳細を目の前にした時の貴重な記録、決定版が登場。
電子あり
ガリラヤからローマへ 地中海世界をかえたキリスト教徒
ガリラヤからローマへ 地中海世界をかえたキリスト教徒
著:松本 宣郎
講談社学術文庫
イエスはローマ総督によって処刑された。しかし、まだそれは帝国にとっては辺境属州のささいなできごとでしかなかった。彼を神の子と信じる人びとの群れは大多数の帝国人からは無視されるか、まともに扱われることのない、いかがわしい、忌まわしいと見なされる状況にあったが、徐々に教徒の数と伝道の地域を拡大していった。それは結果的に地中海の心性を、そして社会のあり方そのものをも変化させるほどの影響を残したのである。 歴史のなかにあらわれたキリスト教徒を、現実の世界、あるいは社会とのかかわりのなかでとらえることを本書はめざす。ことばをかえれば、だいたい紀元前一世紀なかばから三世紀後半までの、地中海世界の人間、おおざっぱにそれはローマ帝国の住民ともいえるが、彼らの心性の一部をになうものとして、この世界にあらたに参入してきた初期キリスト教徒の周辺を、キリスト教の側からでなく、ローマ帝国史あるいは古代地中海世界のほうからながようとのもくろみである。ナザレのイエスは、ローマ帝国の属州の一辺境の田園地方から、人間の救いを告知する伝道をはじめた。彼は神と人との関係を、たとえば富んだ者より貧しい者が評価されると主張して、逆説的にとらえようとした。人目をひく奇跡や、魔術的な行為もなしたが、それらは社会的な弱者のためにほどこされることが主であった。彼の行為にはたしかに、独特の不思議なものがあったが、この時代のローマ帝国全域とまではいわずとも帝国東方、もっと狭くはユダヤだけでも、人びとに語り、不思議をおこない、しがらみのなかにある人間の解放を告げる予言者めいた人は少なからずいたのである。イエスを神の子と信じる人びとの群れが原始キリスト教徒集団を形づくった。教会という組織づくりと、外への宣教で天才的な力量を発揮したパウロの働きがあって、帝国の都市を拠点とする宗教集団がうまれた。ローマ帝国はその領域内に1000から2000の都市を有していた。帝国の行政の単位と、文化の舞台は都市であり、ローマ帝国の人間の本来的生活とは都市にしかない、と考えられていた。この都市で、最初のキリスト教徒はローマ帝国社会と直接ふれあうことになったのである。そのことはキリスト教徒がローマ帝国社会のなかで歓迎されていたことを意味しはしない。キリスト教徒はたしかに大多数の帝国人からは無視されるか、まともに扱われることのない、いかがわしい、ある人びとにとっては忌まわしいと見なされる状況にあった。それでも徐々に教徒の数と伝道の地域を拡大していったキリスト教は、この状況にたいして独特の対応をしめした。それは結果的に地中海の心性を、そして社会のあり方そのものをも変化させるほどの影響を残したのである。
電子あり
哲学塾の風景 哲学書を読み解く
哲学塾の風景 哲学書を読み解く
著:中島 義道
講談社学術文庫
カントにニーチェ、キルケゴール、そしてサルトル。哲学書は我流で読んでも、じつは何もわからない。必要なのは正確に読み解く技術。“闘う哲学者”が主宰する「哲学塾」では、読みながら考え、考えつつ読む、〈哲学の作法〉が伝授される。手加減なき師匠の厳しくも愛に満ちた授業風景を完全再現。万人に開かれた哲学への道がここにある!
電子あり
ハイデガー入門
ハイデガー入門
著:竹田 青嗣
講談社学術文庫
「20世紀最大の哲学者」として今なお読み継がれるマルティン・ハイデガー(1889-1976年)。その影響力は、現代思想、解釈学、精神病理学、文学研究に至るまで、あまりにも大きく決定的だった。本書は巨人ハイデガーの思想の全容を1冊で理解できる最良の入門書、待望の文庫化である。『存在と時間』の明快な読解から難解な後期思想の見取り図を掲げ、さらには今日再燃しつつあるナチズム加担問題に大胆に切り込む名著。 「20世紀最大の哲学者」として今なお読み継がれるマルティン・ハイデガー(1889-1976年)。その影響力は、サルトルからフーコー、デリダに至る現代思想、ガダマーに代表される解釈学、ビンスワンガーやミンコフスキーらの精神病理学、そしてバタイユ、ブランショといった文学研究まで、あまりにも大きく決定的だった。本書は、その巨人ハイデガーの思想の全容を1冊で理解できる、と長らく定評を得てきた名著、待望の文庫化である。 著者は、ハイデガーの生涯を概観した上で、「「ある」とは何か」という前代未聞の問いを掲げた『存在と時間』(1927年)を豊富な具体例をまじえながら分かりやすく読解していく。その理解を踏まえて難解で知られる後期思想の世界に分け入り、読者をたじろがせる膨大な著作群に明快な見通しが示される。その上で、20世紀末に突如として勃発した、ハイデガーのナチズムへの加担問題という微妙な話題にも躊躇することなく取り組み、この問題をどのように考えればよいのか、最良のヒントを与えてくれる一書ともなっている。ここにある「学問と政治」の関係という問題は、温暖化問題や原発問題など、今日世界中で次々にクローズアップされてきていることは誰の目にも明らかである。ハイデガーについては、「黒ノート」と呼ばれる草稿の公刊を機に、再び反ユダヤ主義と哲学の関係が取り沙汰されるようになってきている。 このように、今日ますます切迫した問題と深く関わるハイデガーの思想にアクセスするための最良の第一歩として、本書は他に類を見ない価値をもっている。学術文庫版のための書き下ろしをも加えた決定版、ついに登場。
電子あり
新版 平家物語(一) 全訳注
新版 平家物語(一) 全訳注
訳:杉本 圭三郎
講談社学術文庫
「おごれる人も久しからず」――権力を握った平清盛の専横は、平氏一門の運命を栄華の座から滅亡へと転回させる。院庁と山門の紛争、天台座主明雲の流罪、鹿ヶ谷の謀議。清盛激怒の末の鬼界が島への流罪と、俊寛の客死。さらに後白河法皇鳥羽離宮幽閉などなど、物語序盤にして時代は末期的様相を呈する。かつて刊行された講談社学術文庫『平家物語』全12巻を4冊にまとめ、新版として刊行。第一巻は巻第一から第三までを収録。 12世紀末、日本が古代から中世へと大きく転換した時代に頭角を現した平家は、たちまちに権力の座に就くものの永く維持できず、東国の源氏勢によって急速に滅ぼされる。この平家一門の栄華と滅亡を軸に、歴史過程を物語ったのがこの『平家物語』である。 「おごれる人も久しからず」――権力を握った平清盛の専横は、平氏一門の運命を栄華の座から滅亡へと転回させる。院庁と山門の紛争、天台座主明雲の流罪、鹿ヶ谷の謀議。清盛激怒の末の鬼界が島への流罪と、俊寛の客死。さらに後白河法皇鳥羽離宮幽閉などなど、物語序盤にして時代は末期的様相を呈する。 疾風怒濤の歴史をたどる『平家物語』は、日本史上もっともあざやかな転換期の全容を語る叙事詩であり、民族的遺産といえるものである。 かつて刊行された講談社学術文庫『平家物語』全12巻を4冊にまとめ、新版として刊行。第一巻は巻第一から第三までを収録。
電子あり
死に至る病
死に至る病
著:セーレン・キェルケゴール,訳:鈴木 祐丞
講談社学術文庫
「死に至る病とは絶望のことである」。──この鮮烈な主張を打ち出した本書は、キェルケゴールの後期著作活動の集大成として燦然と輝いている。本書は、気鋭の研究者が最新の校訂版全集に基づいてデンマーク語原典から訳出するとともに、簡にして要を得た訳注を加えた、新時代の決定版と呼ぶにふさわしい新訳である。「死に至る病」としての「絶望」が「罪」に変質するさまを見据え、その治癒を目的にして書かれた教えと救いの書。 実存主義の祖セーレン・キェルケゴール(1813-55年)の主著、待望の新訳! 「死に至る病とは絶望のことである」。──この鮮烈な主張を打ち出した本書は、キェルケゴールの後期著作活動の集大成として燦然と輝いている。本書は、気鋭の研究者が最新の校訂版全集に基づいてデンマーク語原典から訳出するとともに、簡にして要を得た訳注を加えた、新時代の決定版と呼ぶにふさわしい新訳である。 キェルケゴールは、本書の第一編で、まず人間を普遍的かつ非キリスト教的な視座から描き、人間の特定のあり方が「死に至る病」としての「絶望」であることを明らかにした上で、絶望がさまざまな仕方で具現化されるさまを見ていく。そして続く第二篇では、キリスト教的な視座から人間を改めて捉え直し、その考察を通して、心理学的な概念である「絶望」がキリスト教的な概念である「罪」に変質していくことを指摘する。そうして、その罪がさまざまな仕方で具現化されるさまが描き出されて本書は閉じられる。 このようにして「絶望」と「罪」の精緻を極める診断が行われる目的は「死に至る病」を治療することにあった。キェルケゴールはこう言っている。「この書全体において、私は信頼できる航路標識にしたがって舵をとるように、信仰にしたがって舵をとっている」。そうして読者の一人一人をキリスト教の信仰に導き、「死に至る病」を治癒させること。キェルケゴールが生きたキリスト教世界からは遠く離れた現代日本であるが、人間が「絶望」から無縁ではいられない存在であるかぎり、本書は限りない教えと救いを与えてくれるに違いない。
電子あり
アーネスト・サトウの明治日本山岳記
アーネスト・サトウの明治日本山岳記
著:アーネスト・メイスン・サトウ,訳:庄田 元男
講談社学術文庫
アーネスト・サトウの名は、幕末明治の日本に訪れたイギリスの外交官として知られている。しかしサトウが、日本の「近代登山の幕開け」に大きく寄与したことを知る人は案外少ない。本書は、サトウの登山家としての著作を抜粋・編集。富士山、日本アルプス、日光と尾瀬、吉野と熊野。描かれる明治の登山道は、現在はすでに廃れて使われなくなっていたり、逆に今もそのままの景色が読み取れるなど、興味をそそる。詳細な地図も掲載。 アーネスト・サトウの名は、幕末から明治の日本に赴任したイギリスの外交官としてよく知られているだろう。サトウは、幕末維新期には通訳官として活動し、いったん帰国した後、1895年(明治28年)には駐日公使として再来日を果たした親日家であった。サトウの自叙伝『一外交官の見た明治維新』は、いまも維新史研究の重要史料とされている。  しかし、サトウが、ウォルター・ウェストンやウィリアム・ガウランドと並んで、もしくは、むしろ彼ら以上に、日本の「近代登山の幕開け」に大きく寄与した人物であったことを知る人は案外少ないのではないだろうか。本書は、そうしたサトウの登山家としての仕事を、彼の残した著作から抜粋し、編集したものである。 抜粋・編集にあたっては、サトウが克明に記していた手書きの「旅日記」(邦題『日本旅行日記』平凡社東洋文庫)と、彼が欧米人向けに執筆したガイドブック『中央部・北部日本旅行案内』(邦題『明治日本旅行案内』平凡社)を底本とした。『日本旅行案内』は、東京近郊はもちろん、北は北海道・青森から、南は長崎・鹿児島までを網羅し、六十余の旅のルートを紹介した大部なものだが、それらのなかから本書では、富士山や日本アルプス、日光と尾瀬、吉野と熊野など、現代の日本人にも人気のある観光地、世界遺産の地を選んで掲載した。本書に描かれる明治期の登山道は、現在ではすでに廃れて使われなくなっていたり、また逆に今もほとんどそのままと思われる景色も読み取れるなど、おおいに興味をそそられるものである。詳細なルート案内と地図も掲載。
電子あり
新版 雨月物語 全訳注
新版 雨月物語 全訳注
著:上田 秋成,その他:青木 正次
講談社学術文庫
上田秋成が遺した、江戸中期を代表する怪異小説集。安永5年(1776)刊、5巻9編。執念は彼岸と此岸を越え、死者との対話を繰り広げる。それは夢幻か、現実か――。現代語訳に語注、考釈も加えた決定版。 慕っていた崇徳上皇の御陵に参った西行が見たものとは? ――「白峯」 病に倒れた旅の武士。逗留先の学者と兄弟のちぎりを交わすが――「菊花の約」 怠け者勝四郎、都に上ると里は戦禍に塗れる。そして愛する妻は――「浅茅が宿」 絵が得意な三井寺の僧・興義。求める者には自作画を欲しがるまま与えながら、鯉の絵だけは頑として手放さなかった――「夢応の鯉魚」 高野山へ物見遊山の親子。「仏法」と鳴く鳥に応え歌など詠むも、そこに武士たちが現れ――「仏法僧」 吉兆なら湯が沸き上がるという釜。若い夫婦が祈願したが、釜は虫の声ほどの音も立てなかった――「吉備津の釜」 雨宿り先で邂逅した美しい女を追いかけ、幸せに暮らすはずが――「蛇性の婬」 遊行僧を泊めた老人は、紺染の頭巾をかぶり、「鬼」になった僧の話を始め、あることを懇願した――「青頭巾」 武士・岡左内は、度を越した倹約ぶりで奇人とまで言われた。ある日、黄金の精霊と名乗る老人が枕もとに現れる――「貧福論」
電子あり
江戸の春画
江戸の春画
著:白倉 敬彦,解説:辻 惟雄
講談社学術文庫
色事、濡れ事、笑ひ事――。「枕絵」であり「笑い絵」。公然の秘密であり縁起物。春画には、江戸のイマジネーションと絵師の技がなす、斬新、艶美、愉快な遊びが溢れている。何が描かれ、どう面白いのか。何が仕掛けられているのか。世界を虜にした浮世絵春画の軽さと深さを、豊富な図版とともに解き明かす。日本の春画への偏見を覆した名著にして、最良の入門書! (解説・辻惟雄)
電子あり
『老子』 その思想を読み尽くす
『老子』 その思想を読み尽くす
著:池田 知久
講談社学術文庫
『老子』には、「無為自然」「道」「徳」の根本思想、「小国寡民」「無為の治」の政治哲学、「不争」の倫理思想、養生思想など、古代中国の思想の根幹がある。本書は、『老子』の諸思想を総合的・体系的に解明し、その諸思想の内容を分かりやすく解説。充実の【注】は、『老子』成立の諸事情と思想の内容にも深く立ち入る。原文全文と【読み下し】【現代語訳】も収録。『老子』の初学者から専門家までをカヴァーする決定版。 『老子』には、「無為自然」「道」「徳」の根本思想、「小国寡民」「無為の治」の政治哲学、「不争」の倫理思想、養生思想など、古代中国の思想の根幹があります。 後の世の『荘子』『呂氏春秋』『韓非子』『荀子』『淮南子』などに多大なる影響を与えました。 本書は、『老子』に含まれる諸思想を総合的・体系的に解明して、その諸思想のありのままの内容を分かりやすい形で提供します。その際、馬王堆帛書甲本を始めとする各種の出土資料本『老子』を重視して、古い『老子』の本来の姿を紹介することに努めています。 充実した【注】は、『老子』成立の諸事情を解明するとともに、思想の個々の内容にも深く立ち入るものとなっています。 巻末には、『老子』の原文全文と【読み下し】【現代語訳】を収録しています。 『老子』の初学者から専門家までをカヴァーする決定版です。
電子あり
統合失調症あるいは精神分裂病 精神医学の虚実
統合失調症あるいは精神分裂病 精神医学の虚実
著:計見 一雄
講談社学術文庫
昏迷・妄想・幻聴・視覚変容……これらの症状は何に由来するのか。病名の誕生当初から「人格の崩壊」「知情意の分裂」などと理解されてきた謬見が次第に正されつつある。患者はどうして、どんな不具合を抱えているのか。精神科臨床に長年携わってきた著者が、脳研究の成果も参照し、治療につながる病気の本態と人間の奥底に蠢く「原基的なもの」を語る。
電子あり
アルキビアデス クレイトポン
アルキビアデス クレイトポン
著:プラトン,訳:三嶋 輝夫
講談社学術文庫
ソクラテス哲学の根本を伝える重要な対話篇、初の文庫版で新訳が登場! 『アルキビアデス大』または『第一アルキビアデス』と称されてきた『アルキビアデス』は、一個人としての「この私」と捉えられる「自己」を認識すること、さらには「人間一般」を認識することを目指し、魂と徳の探究に乗り出す。短篇『クレイトポン』では、その魂と徳の探究への疑問が提示され、ソクラテス哲学の極限に向かって対話が進行していく。 ソクラテス哲学の根本を伝える重要な対話篇、初の文庫版での新訳。 本書には二つの対話篇を収めた。 『アルキビアデス』は、古来この表題でプラトン集成に収録されてきた二つの作品のうち、より規模が大きく、『アルキビアデス大』や『第一アルキビアデス』と称されてきたものである。この対話篇は「人間の本性について」という副題が添えられてきたことが示しているように、一個人としての「自己」を認識し、その魂のありようを理解すること、さらには「人間」一般というものを認識することを目的としている。あらゆる人にとって重要な、その認識を実現する唯一の方法こそ、言葉を用いて対話すること、つまり相互主体性の実践としての対話であることが、まさにこの対話篇で実践され、証明されている。その意味で、本対話篇はソクラテス哲学に触れようとする人にとって、最良の入門となるものである。 続く短篇『クレイトポン』には、古来「徳の勧め」という副題がつけられてきた。その名のとおり、ここではソクラテスによる「徳の勧め」(プロトレプティコス)が説かれるが、のみならず、この対話篇でクレイトポンはそれが「勧め」以上のものではなく、どうすれば実際に徳を身につけることができるのかを問い、その方法を教えることはできないのではないか、という疑問を提示する。その意味で、これは『アルキビアデス』で提示された道を限界まで問いつめた作品であり、二つの対話篇を併せ読むことでソクラテス哲学の神髄に触れることができる。 練達の研究者による明快な訳文でソクラテスとともに対話する喜びが、ここにある。
電子あり
再発見 日本の哲学 石原莞爾――愛と最終戦争
再発見 日本の哲学 石原莞爾――愛と最終戦争
著:藤村 安芸子
講談社学術文庫
関東軍参謀として「満州事変」を主導した石原莞爾は、最終戦争論を唱えたことで知られる。王道を掲げる東洋文明の東亜と覇道を掲げる西洋文明の代表であるアメリカを中心とする連合との戦いで、戦争は極限に達するというのだ。彼の思想の背景には、軍事研究と日蓮信仰が、相携わっていた。戦後は、戦争放棄を唱えた彼の思想の本質とは何か。 「再発見 日本の哲学」は、近代日本を建設する上で、その思想上の土台となった思想、哲学を、改めて問い直すシリーズです。 学術文庫収録も、いよいよ10冊目になりました。 石原莞爾は、満州事変の首謀者の一人として知られています。 また、『最終戦争論』を唱え、東洋と西洋が最終的に戦争をして世界を統一する、というような、今から見れば悪しき軍部の理論的支えと聞こえるような主張をしています。 ただし、石原は、何の思想もない軍国主義者ではありませんでした。 軍事研究と法華経研究が、二つのバックボーンとなって、彼の思想は展開していきます。 それが、最終的には、戦争放棄に行き着く。 それは、単なる変節なのでしょうか。 著者はそこに一貫する彼の哲学を見通します。 近代日本と密接に関係する彼の哲学を解明する本書は、テロの世紀、戦争の世紀を迎えている現在のわれわれにとって、必読と言えます。
電子あり
時間の非実在性
時間の非実在性
著:ジョン.エリス・マクタガート,訳・その他:永井 均
講談社学術文庫
マクタガートの「時間の非実在性」は、A系列(過去、現在、未来)・B系列(より前、より後)のふたつの概念を導入し、時間が実在しないことを証明した論文として名高い。これまで日本には全訳がなかったが、ついに、本書が本邦初訳となって登場した。本書は、それだけではない。訳者・永井均氏が、段落ごとに詳細な注解と論評を加えている。訳者独自の付論も掲載。全訳とともに、こちらも必読。まさに「時間の哲学」の決定版だ! マクタガートが1908年に「Mind」誌に発表した「時間の非実在性」(The Unreality of Time)は、時間の哲学についての不朽の名作として名高い。発表から100年を過ぎた今でも、必読の文献とされる。 しかしながら、これまで、邦訳が刊行されていなかった。 本書は、現在、日本の代表的な哲学者の一人である永井均氏が、はじめて全訳し、かつ、きわめて詳細な注解と論評を施したものである。 マクタガートの時間論で、核心をなすのが、時間のA系列、B系列という議論である。 A系列とは、過去・現在・未来と流れていくことに時間の本質を見る。 B系列とは、より前であるか、より後であるか、に時間の本質を見る。 マクタガートの議論を丁寧に解説し、そのうえで、A系列、B系列をもとに、訳者が独自の「注解と論評」を加えた、必読の決定版。
電子あり
ソビエト連邦史 1917-1991
ソビエト連邦史 1917-1991
著:下斗米 伸夫
講談社学術文庫
プロレタリアート革命が、農民国家ロシアで勃発したのはなぜか? 党が国家を所有するという転倒した関係はソ連に何を引き起こしたのか? 「古儀式派」という宗教と党中枢との知られざる関係とは?1917年の革命~1991年の崩壊。この74年間に失われた人命は、数千万以上。ソ連・ロシア政治研究の第一人者が、ソ連崩壊後明るみ出た数多の資料を読み解いて、人類史上最大の「社会主義国家」の全貌を解き明かす。 1917年の革命で誕生し、1991年に崩壊したソビエト連邦は、20世紀最大の政治事件であったことは異論がないでしょう。 この74年間に失われた人命は、数千万以上です。ロシア革命、内戦、新経済政策、集団化、粛清、第2次大戦に至る一九三〇年代の外交、「大祖国戦争」、なによりも1945年以降、超大国となる冷戦期のソ連、スターリンの死と批判、平和共存とフルシチョフ改革から、ペレストロイカ……。20世紀のもっとも陰惨にして重要な時代を、ソ連国家の中枢で動かした人物が存在しました。モロトフです。 工業化が進展した近代国家の労働者による革命が、農民国家ロシアで勃発したのはなぜか? 党が国家を所有するという転倒した関係はソ連に何を引き起こしたのか? 「古儀式派」という宗教と党中枢との知られざる関係とは? ソ連・ロシア政治研究の第一人者が、ソ連崩壊後明るみ出た数多の資料を読み解いて、ソビエト連邦という人類史上最大の「社会主義国家」の全貌を明らかにします。2002年刊の選書メチエ『ソ連=党が所有した国家』を大幅に増補改訂した新版です。
電子あり
中国侠客列伝
中国侠客列伝
著:井波 律子
講談社学術文庫
「弱きを助け、強きを挫く」侠者たちの壮挙。替天行道、一諾千金……。信義を重んじ、自らの命を賭して果断に行動する侠者たち。血湧き肉躍る痛快事を次々と実現するアウトロー達の強さと優しさを読み解く。 侠客の原点は、信義を重んじ個人的利害を度外視して、時には命がけで弱きを助け強きを挫くことにあります。わが国では、侠なる人々が表立って登場するのは、近世江戸時代以降だが、中国の侠の歴史は、古代にまで遡ります。 中国史上、「侠者」が出現するのは、諸国が分立した春秋時代(前七七〇―前四〇三)以降です。春秋時代も後期に入ると、老子、孔子、墨子など、乱世において、人はどう生きるべきか、社会はどうあるべきかを模索する思想家があらわれ、こうした思想家と侠者の共通性があります。 孔子は、「義を見て為さざるは勇無き也」など、信義を重視しました。また、「言必ず信、行必ず果」など、個人の不屈の意志や行動力を称揚します。老子にも「大道廃れて仁義有り云々」と仁義を強調する発言があり、墨子は大国が小国をむやみに圧迫・攻撃することに反対して、「非攻」論を唱え、「弱きを助け強きを挫く」を実践しました。道家にも墨家にも侠者の精神に通じるものがあるのは確かです。 信義を重んじ、果断に行動する侠者的存在は、乱世のエトスのなかから、儒家、道家、墨家などの思想と軌を一にして生まれたようです。侠の精神に、これらの思想と共通点があるのも当然でしょう。 本書は、歴史と物語の両面から、『史記』『三国志』などの歴史書、『水滸伝』『聊斎志異』や元代の戯曲などから、選りすぐりの中国の侠者の変遷を具体的にたどり、スケールの大きな大陸的「侠」の世界に遊びます。
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革命論集
革命論集
著:アントニオ・グラムシ,編・訳:上村 忠男
講談社学術文庫
稀代の革命家アントニオ・グラムシ(1891-1937年)が1914年10月から逮捕・収監される直前の1926年10月に残した論考群。イタリア共産党結成に参加し、逮捕状を出されながらもムッソリーニのファシスト政権と対決し続けたグラムシは執筆活動でも戦闘を展開した。のちの「獄中ノート」に結実する独自の思想の土壌を形成する時期の論考を精選・収録した本書は、その大部分が本邦初訳となる第一級の文献である。 本書は、稀代の思想家アントニオ・グラムシ(1891-1937年)が1926年11月8日、前日に成立した国家防衛法違反の容疑で逮捕・収監されるまでの時期に残した主要な論考を精選した日本独自のアンソロジーである。 グラムシがイタリア社会党に参加した翌年にあたる1914年7月、第一次世界大戦が勃発する。当初は中立を宣言していたイタリア政府はひそかにイギリス、フランスと結び、ドイツ、オーストリアとの三国同盟を破棄して1915年には参戦に至った。イタリア社会党は政府に「絶対的中立」の立場をとるよう要求したが、党機関紙『アヴァンティ!』の編集長を務めていたベニート・ムッソリーニ(1883-1945年)は「相対的中立」を主張して参戦に傾き、社会党を除名される。こうした動きの中で1914年10月末に発表された「積極的かつ能動的な中立」が、本書の冒頭を飾る論考である。 以降、労働者による工場占拠闘争に参加するなど、積極的な行動を執筆と併行して展開したグラムシは、1921年のイタリア共産党結成に際しては、コミンテルン執行委員会のイタリア代表に任命された。その後、党代表としてモスクワを訪れたグラムシには逮捕状が出されるものの、1924年には下院議員に選出されてイタリアに帰国。議員の不逮捕特権を利用してムッソリーニのファシスト政権との対立姿勢を強めたが、2年後には逮捕・収監され、20年4カ月5日間の禁固刑を受けることになる。本書の最後に収められた「南部問題のいくつかの主題」は、逮捕される1カ月前に執筆されたものだった。 その後、1934年10月に仮釈放を認められるまでのあいだに書かれた33冊に及ぶ「獄中ノート」によって、ヘゲモニー論に代表されるグラムシ独自の思想が生まれ、深化させられたことは、よく知られている。しかし、その思想が生まれる土壌となったのが逮捕以前の時期の行動と執筆だったことは疑うべくもない。 本邦初訳の論考を数多く含む本書によって、ついにグラムシという巨人の全貌を目にすることができるだろう。
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再発見 日本の哲学 北一輝――国家と進化
再発見 日本の哲学 北一輝――国家と進化
著:嘉戸 一将
講談社学術文庫
独自の社会主義論と国家論を展開し、二・二六事件の蹶起将校たちの思想的指導者だった北一輝。国体論を批判し、当時の名だたる憲法学者たちとことごとく対決した彼の思想とは、いかなるものか。伊藤博文、有賀長雄、美濃部達吉、井上毅、穂積八束などなど、近代日本の礎となった思想との対抗のなかに北を位置づける快著! 北一輝は昭和11年(1936)の二・二六事件の、蹶起将校たちの思想的指導者として知られる。すなわち、戦前の代表的な国家主義運動家・思想家とされる。 もちろん、そのとおりなのだが、彼は若い頃、独学で当時の国家論や社会主義論を学び、二三歳にして、主著『国家論及び純正社会主義』を自費出版した。ここで、普通選挙制度の導入と議会による社会主義革命を主張し、刊行直後に発禁処分になっている。 以来、在野の活動家・思想家として活動する。 そして、1911年、中国の革命を支援するため上海に渡る。これを機に、一転して、軍隊主導の暴力革命を唱えるようになる。 このような経緯から、これを左から右への「転回」と捉え、思想的な断絶を指摘するのが、従来の北一輝論であった。 本書では、この思想的断絶を認めない。 主著『国体論及び純正社会主義』では、「国家人格実在論」なるものが主張されている。北にとって、国家は、物理的に実在する法人格であり、それは、進化するべきものであった。つまり、国家論と進化論が接合されたところに、北の思想的本質があったのだ。 この国家が進化するという思想は、ある意味では、近代日本の根底を支えた思想でもある。 北一輝を読み直すことは、近代日本に通奏低音としてながれていた国家論の系譜を読み直すことでもあるのだ。 本書は、いわば、「近代日本」という国家論を考え直す試みでもある。
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