講談社文芸文庫作品一覧

黒髪・別れたる妻に送る手紙
講談社文芸文庫
京都の遊女に惹かれて尽し、年季明けには一緒になろうとの夢が、手酷く裏切られる転末を冷静に書いた「黒髪」。家を出てしまった妻への恋情を連綿と綴る書簡体小説の「別れたる妻に送る手紙」と、日光までも妻の足跡を追い捜し回るその続篇「疑惑」。 明治9年、岡山に生まれ、男の情痴の世界を大胆に描いて、晩年は両眼ともに失明、昭和19年没した破滅型私小説作家の“栄光と哀しみ”。

反悲劇
講談社文芸文庫
本来反小説な神々や英雄の悲劇の世界を、現代小説に直接「移植」する試みのなかで、古代ギリシャ人の行動様式や神話的モチーフは、そのグロテスクな陰惨さのままに、今もわれわれの内に息づき生き延びているのではないかということを問いかける。「向日葵の家」「酔郷にて」「白い髪の童女」「河口に死す」「神神がいた頃の話」の5篇から成る連作集。

日本文壇史16 大逆事件前後
講談社文芸文庫
明治43年、荷風は鴎外、敏の推薦で慶応義塾の教授になり、5月創刊「三田文学」の編集長も兼ねた。年長の大石誠之助らとは別に、幸徳秋水の周辺に若い社会主義者達が集った。4月、武者小路、志賀ら「白樺」創刊。6月、秋水逮捕。9月、谷崎ら第二次「新思潮」創刊。11月、パンの大会開催。大逆事件の発端・経緯と日本文壇の関係を勁い意志で究明し明治の終焉・大正文学胎動の諸相を情熱をこめて展開。

テレ-ズ・デスケルウ
講談社文芸文庫
自分の夫の毒殺を計ったテレーズは、家の体面を重んじる夫の偽証により免訴になった が、家族によって幽閉生活を強いられる。絶対的な孤独のなかで内なる深淵を凝視するテレーズは、全ての読者に内在する真の人間の姿そのものなのだろうか―─遠藤周作がノーベル賞作家フランソワ・モーリアックと一心同体となって、昂揚した日本語に移しかえたフランス文学の不朽の名作。

魯庵の明治
講談社文芸文庫
明治文壇を代表する批評家であり、小説も書き、外国文学の紹介者でもあった内田魯庵。彼の旺盛な好奇心と洋の東西におよぶ該博な知識は文学を越えて、民俗学そして文明論的な拡がりをもつに至る。江戸から明治への時代の推移は、急激な西洋化に伴い、ある種の伝統の断絶でもあり日本的ハイカラ文化の誕生でもあった。
両者をバランス良い視点から眺め綴る自由主義者魯庵、神髄発揮のエッセイ。

ユ-トピア紀行 有島武郎・宮沢賢治・武者小路実篤
講談社文芸文庫
有島武郎の北海道ニセコ「狩太共生農団」跡。宮沢賢治の始めた岩手県花巻郊外「羅須地人協会」跡。武者小路実篤の埼玉県毛呂山と九州日向の「新しき村」。“ユートピア”未だ消えぬ核心は何か?3人の理想家の燃焼と苦闘の跡地を北から南へと辿る。現地の人々を訪ね、資料、作品と対話し、その実践の意味を現代に問う。
3つの精神の営為に深く共鳴する著者の魂。平林たい子賞。

五月巡歴
講談社文芸文庫
突然舞い込んだ「メーデー事件第二審の証人として法廷に出て頂きたくお願い申し上げる次第であります」との手紙。20年前の己れの遠い過去の甦りに、怯えを隠せぬ男の、同時に捲き込まれる現勤務先での一就業規則違反事件。昭和27年、高揚するメーデーのデモ隊に加わって、皇居前広場に乱入し逮捕された者、逃げ惑った学生らのその後の時間の重みと心の傷の襞を鮮烈に追う長篇力作。

チャンドス卿の手紙 アンドレアス
講談社文芸文庫
19世紀末より今世紀にかけ戯曲、小説等多彩な作品を書いたホフマンスタールは、ユダヤ人、イタリヤ人、ドイツ人の混った血統と伝統の都ウィーンの文化に育まれた。 「チャンドス卿の手紙」は17世紀イギリスの貴族チャンドス卿が友人にあてた手紙という形式をとり、表現とその根底にある認識を追求した作品で、「アンドレアス」と並んで現代小説の出発点である。

日本文壇史15 近代劇運動の発足
講談社文芸文庫
自然主義の影響は演劇界にも波及。逍遥・抱月の文芸協会が演劇研究会となった明治42年、小山内薫と左団次が画期的近代演劇集団・自由劇場を創立、秋、鴎外訳「ジョン・ガブリエル・ボルクマン」試演。漱石は「朝日文芸欄」を創設。43年1月、藤村『家』、上田敏『うづまき』、鏡花『歌行灯』等紙誌を賑わす。横瀬夜雨と「女子文壇」の投稿家たち、赤旗事件後の幸徳秋水ら――社会・文壇とも怒濤の新時代の機運。

腐敗性物質
講談社文芸文庫
《一篇の詩が生れるためには、/われわれは殺さなければならない/多くのものを殺さなければならない/多くの愛するものを射殺し、暗殺し、毒殺するのだ》(「四千の日と夜」)現代文明への鋭い危機意識を23の詩に結晶化させて戦後の出発を告げた第一詩集『四千の日と夜』完全収録。『言葉のない世界』『奴隷の歓び』表題詩「腐敗性物質」他戦後詩を代表する詩人田村隆一の文庫版自撰詩集。

さようなら、ギャングたち
講談社文芸文庫
詩人の「わたし」と恋人の「S・B(ソング・ブック)」と猫の「ヘンリー4世」が営む超現実的な愛の生活を独創的な文体で描く。発表時、吉本隆明が「現在までのところポップ文学の最高の作品だと思う。村上春樹があり糸井重里があり、村上龍があり、それ以前には筒井康隆があり栗本薫がありというような優れた達成が無意識に踏まえられてはじめて出てきたものだ」と絶賛した高橋源一郎のデビュー作。

やきもの随筆
講談社文芸文庫
志野・黄瀬戸・織部──桃山古陶を評価・再興した著者が、実作者の立場から、小野賢一郎、北大路魯山人、青山二郎、益田鈍翁らの功績と共に日本のやきもの鑑賞の歴史を語る「やきものの見方のうつりかわり」、「土から窯びらきまで」とピカソ陶器ほか、学術研究の一端「やきもの東と西」の3部。既成の権威に抗し、天衣無縫の探究心で独自の境地を拓いた現代陶芸の巨人・唐九郎のやきもの魂、卓見横溢のエッセイ。

斗南先生・南島譚
講談社文芸文庫
漢学の家に育ち、幼時から深い素養を身につけ、該博細緻な知識の世界を生きて非凡な才を評価されながら夭折した中島敦。古代中国や南洋に材をとる作品のほか、苦悩の青春を綴る身辺小説など珠玉の傑作短篇集。伯父を描いた大学時代の創作「斗南先生」を始め、「過去帳」(「かめれおん日記」「狼疾記」)、「古譚」(「狐憑」「木乃伊」「山月記」「文字禍」)、「南島譚」、「環礁」を収録。

管絃祭
講談社文芸文庫
有紀子の同級生の夏子や直子は、「広島」で爆死した。夏子の妹は、4人の肉親を失う。皆、その後を耐えて生きる。沈潜し耐える時間――。事物は消滅して初めて、真の姿を開示するのではないか、と作者は小説の中で記す。夏の厳島神社の管絃祭で、箏を弾く白衣の人たちの姿は、戦争で消えた「広島」の者たちの甦りの如くに見え、死者たちの魂と響き合う。広島に生まれ育った作家が「広島体験」を描いた、第17回女流文学賞受賞作。
有紀子の同級生の夏子や直子は「広島」で爆死した。夏子の妹は4人の肉親を失う。皆その後を耐えて生きる。沈潜し耐える時間──。事物は消滅して初めて真の姿を開示するのではないか、と作者は小説の中で記す。夏の厳島神社の管絃祭で箏を弾く白衣の人たちの姿は、戦争で消えた「広島」の者たちの甦りの如くに見え、死者たちの魂と響き合う。第17回女流文学賞。

たった一人の反乱
講談社文芸文庫
出向を拒否して通産省をとび出し、民間会社に就職した馬淵英介は、若いモデルと再婚する。殺人の刑期を終えた妻の祖母が同居し始めたことから、新家庭はとめどなく奇妙な方向へ傾き、ついに周囲の登場人物がそれぞれ勝手な「反乱」を企てるに到る。――現代的な都会の風俗を背景に、市民社会と個人の関係を知的ユーモアたっぷりに描いた、現代の名作。谷崎潤一郎賞受賞作。
出向を拒否して通産省をとび出し民間社会に就職した馬淵英介は若いモデルと再婚する。殺人の刑期を終えた妻の祖母が同居し始めたことから、新家庭はとめどなく奇妙な方向へ傾き、ついに周囲の登場人物がそれぞれ勝手な「反乱」を企てるに到る。──現代的な都会の風俗を背景に、市民社会と個人の関係を知的ユーモアたっぷりに描いた現代の名作。谷崎潤一郎賞受賞。

私説聊斎志異
講談社文芸文庫
官吏の登竜門である科挙の試験に生涯落第し続けて、その鬱屈をバネに幻想怪異譚『聊斎志異』16巻を書いた、清代の蒲松齢。著者・安岡章太郎は、己れの屈折した戦時下体験をこの作者に重ね合わせつつ、回想小説風に筆を進める。時代と社会と個人の根っこの関係を自在に描いて、人間存在の不可思議な面白さを生きいき剔出する。後の『流離譚』などの作品とも通ずる名篇。

運命・幽情記
講談社文芸文庫
明の太祖朱元璋を継いだ太祖の嫡孫建文帝と、帝位を簒奪して3代皇帝となった建文帝の叔父永楽帝との覇権を巡る争い、敗れて僧となり雲南の地をさまよう建文帝の姿を、雄大な叙事詩調で描いた傑作「運命」、宋朝以降、元、明、清の時代の美しい詩詞をちりばめた歌物語風小品13篇から成る「幽情記」を収録。

人間の悲劇
講談社文芸文庫
敗戦後の日本、総アメリカ化へ向って一気に転身する渾沌として歪められたその精神構造を鋭く捉え人間存在の根源に迫る。「いきのびることは/なんたるむごいことなのだ」と刻んだ〈焼土の歌〉や〈亡霊の歌〉など韻文と散文とを一体化させ、「No.1航海について」から「No.10えなの唄」までの10章で構成。戦後の金子光晴を決定づけた自伝的傑作詩集。読売文学賞受賞。

日本文壇史14 反自然主義の人たち
講談社文芸文庫
若い詩人達が新詩運動に熱中していた明治42年3月、近代詩を画す白秋『邪宗門』刊行。荷風『ふらんす物語』発禁。臨風、宙外ら反自然主義の文芸革新会発足。5月、ベンガル湾船中で二葉亭客死。7月、鴎外「ヰタ・セクスアリス」発表、月末に発禁。9月、露風、詩集『廃園』刊。10月、花袋は名作『田舎教師』刊行。鴎外等その立場を異とする人々の中からも自然主義文学の影響のもと香気溢れる文学作品続々誕生!

蕁麻の家
講談社文芸文庫
著名な詩人である洋之介の長女に生まれた嫩(ふたば)は、8歳の時母が男と去り、知能障害の妹と父の実家で、祖母の虐待を受けつつ成長した。家庭的不幸の“救いようのない陥穽”。親族は身心憔悴の「私」の除籍を死の床の父に迫る。『父・萩原朔太郎』で文壇的出発をした著者が、青春の日の孤独と挫折の暗部を凄絶な苦闘の果てに毅然と描き切った自伝的長篇小説、3部作の第1作。女流文学賞受賞。