講談社文芸文庫作品一覧

僕が本当に若かった頃
講談社文芸文庫
障害をもつわが子と妻との日常、そして夥しい量の読書。少年の日の記憶、生の途上における人との出会い。「文章を書き、書きなおしつつ、かつて見たものをなぞる過程でしだいに独特なものを作ってゆく」という方法意識の作家「僕」が綴る、表題作等9篇の短篇小説。切迫した震える如き感動、特にユーモアと諧謔をたたえて還暦近づき深まる、大江健三郎の精神の多面的風景。

角鹿の蟹
講談社文芸文庫
岩本素白を論じ、「世間に目立つようなことの一切を好まれなかった」(「素白随筆二則」)と評した著者も亦、素白その人であった。美術に造詣深く、文章極めて豊潤。論考の底流には自ら文学作品が存在する。先学、友人等との交流や身辺の様々、折々の随想を綴った「南禅寺の山門」「外村繁」「水引の花」「會津八一先生」ほか53篇収録。表題の〈角鹿(つぬが)〉は著者の故郷〈敦賀〉の古名。

日本文壇史11 自然主義の勃興期
講談社文芸文庫
西園寺が日本のアカデミー・雨声会を開催した明治40年、新文学が明確な潮流となった。白鳥「塵埃」、青果「南小泉村」、三重吉「山彦」、虚子「風流懺法」等が出、朝日入社の漱石は「虞美人草」を連載、白秋、露風ら若き詩人達が活躍し始めた。9月、日本自然主義の方向を決定した花袋「蒲団」が発表され、藤村のモデル問題で暮れたこの時、谷崎らの青春もあった。盛衰・新生、文壇の諸相を重層的に捉える伊藤文壇史!

薔薇くい姫・枯葉の寝床
講談社文芸文庫
自分のことにしか興味が持てない著者が、現実との感覚のずれに逆上して《怒りの薔薇くい姫》と化し、渾然一体となった虚構と現実が奇妙な味わいを醸し出す「薔薇くい姫」、男同士の禁断の愛を純粋な官能美の世界にまで昇華させた「枯葉の寝床」「日曜日には僕は行かない」の3篇を収録。

天上の花
講談社文芸文庫
萩原朔太郎の知遇を受けた詩人三好達治に幼い頃から慈しまれた著者が、詩人を懐かしみその人間像を鮮烈に描写。越前三国の愛と憎悪に荒ぶ詩人と著者の叔母との逃避行「慶子の手記」では三好の隠された三国時代を、鋭い観察力と強靱な感性で凄絶に描く。詩人の深奥の苦悩に激しく迫る傑作。田村俊子賞、新潮社文学賞受賞。

教祖の文学・不良少年とキリスト
講談社文芸文庫
“人間は悲しいものだ。切ないものだ。苦しいものだ。……”“それでも、とにかく、生きるほかに手はない。……”“生きる以上は、悪より、良く生きなければならぬ。”孤独を“わがふるさと”として生き、混沌を混沌のまま生き、その坩堝の中から決然と掬いとった生き続けるための精髄。21世紀を生き抜くための強力な精神賦活の弾機!

絶望の精神史
講談社文芸文庫
貧しい空寺の番人で絶望の生涯を終えた金子光晴の実父。恋愛神聖論の後、自殺した北村透谷。才能の不足を嘆じて自分の指を断ち切り芸術への野心を捨てた友人の彫刻家。時代の奥の真裸の人間を凝視する明治生まれの詩人が近代100年の夢に挫折した日本人の原体験をたどり日本人であるがゆえの背負わされた宿命の根源を衝く。近代史の歪みを痛烈に批判する自伝的歴史エッセイ。

草の花
講談社文芸文庫
基督教系の女子学院で、級友に「あなたは感情が強いのよ。そして正直なのよ、いゝ人なのよ」と言われた著者。継母との間も円満にいった思春期の幸福な一時の後に、やがて「わがまゝな父、負けていないはゝ、短気でおこりっぽい弟、決して平和とはいえない」日常が来る。後年の幸田文の資質と文学の原形が鮮やかに描き取られた回想の記「草の花」に、「身近にあるすきま」ほかを併録。

おじいさんの綴方・河骨・立冬
講談社文芸文庫
幼い弟の突然の死と同時に木山捷平にも同じ災厄があった。祖父、父、母、懐かしい山や川、風と土と光。幼年この道に花、青春この道に鳥、壮年風雪の中、木山捷平は都会や満州での苦難に打ち克ち独自の飄飄とした文学を創る。暖かさ、懐かしさ、優しさ溢れる初中期の中短篇秀作集。

火の誓い
講談社文芸文庫
人間国宝や文化勲章に推挙されても応じることなく、一陶工として独自の陶芸美の世界を切り拓き、ついには焼き物の枠を超えた無私普遍の自在な造形世界に自らを燃焼させた河井寛次郎が、美しい物に隠れている背後のものを求めての歩みを詩情豊かな文章で記した、土と火への祈りの書ともいうべき名エッセイ。

日本文壇史10 新文学の群生期
講談社文芸文庫
明治39年、独歩は短篇集『運命』で作家の地位を確立、啄木は徴兵検査を受けた。漱石『草枕』、二葉亭『其面影』発表。明治40年、“命のやりとりをするような”“烈しい精神”で文学をやりたい漱石は「朝日新聞」入社を決意、大学に辞表を出した。白鳥は新進作家となり、露風、白秋、牧水ら詩歌に新しい才能が出、幸徳ら社会主義者の活動が盛んになった。多岐多彩な文学の流れを遠大な構想で捉える伊藤整の史観。

評伝中原中也
講談社文芸文庫
中也の詩の神秘的な魅力は何処からやってくるのか。『中原中也全集』全5巻を共同編纂した著者が、確実な伝記的事実を基に詩人中也の生涯と魂を刻む。随所に創見のみられる的確な叙述は、大岡昇平をして《伝記主義を排する独自の「伝記」》と評せしめた。今回の文庫収録にあたり、既刊本を改稿し、定稿とした。

こういう女・施療室にて
講談社文芸文庫
日本の敗戦を機に再びペンを執る自由を与えられた平林たい子が、留置所での凄絶な闘病生活の有様を、マグマが噴出するような勢いで書きつけた「こういう女」(第1回女流文学者賞受賞)「一人ゆく」「私は生きる」、プロレタリア作家としての地位を確立した初期代表作「施療室にて」の他、「うた日記」「野の歌」「鬼子母神」「人生実験」「人の命」を収録した。

少年たちの戦場
講談社文芸文庫
「私は怖れていたのだ。私などが絶対に踏み込んでは行けない場所を頑なに守っている生徒という他人が怖かったのだ」ーー敗戦の色濃くなった昭和20年の初め、農村に学童疎開した34名の少年たちの、不安と飢えの日。最もおとなしいはずの生徒の脱走の波紋。没後見つかった引率教師の当時の日記に綴られた、激しく揺れる文字。少年らの裡に生まれる孤独を見据えて描く、鮮烈な秀作。

父たちの肖像
講談社文芸文庫
名篇「自転車」「人生の一日」や「司令の休暇」「千年」を持つ、惜しまれて逝った著者の、初期から昭和52年までの全随筆から、海を愛し、読書を愛し、先輩・知友を想い、父と子を辿る、真摯にして豊饒な人間理解を追尋する、自選エッセイ集。自然であることを大切に考えた、著者の秀れた人間考察がここにある。
名篇「自転車」「人生の一日」や「司令の休暇」「千年」を持つ、惜しまれて逝った著者の初期から昭和52年迄の全随筆から、海を愛し、読書を愛し、先輩・知友を想い、父と子を辿る、真摯にして豊鐃な人間理解を追尋する阿部昭選エッセイ。自然であることを大切に考えた著者の秀れた人間考察。

魯迅入門
講談社文芸文庫
魯迅を気にしないでは、生きることができない。そして、気にすればするほど、魯迅は私の内側で深さをましてくるのである。──「読者へ」──近代日本文化の根源的歪みを指摘し、批判し続けた著者の戦時下の名著『魯迅』に呼応する戦後の代表的魯迅研究。「伝記」「歴史的環境」「作品の展開」「魯迅精神について」の4部構成に、略年譜、参考文献を附す。

心に残る人々
講談社文芸文庫
小説家から政治家まで各界著名人を訪ねて、〈人生の達人たち〉の生き方の真髄を伝える随想訪問記。小林秀雄、青山二郎、自分の祖父の明治の軍人樺山資紀ら、先達への深い敬愛の情、はじらい、時に俗的な一面への反発をも隠さず、それが著者自身の告白となり、さらには白洲正子の心の世界をなす。その他、梅原龍三郎、正宗白鳥、室生犀星、田村秋子、渋沢栄一、吉田茂等収載。

白い人・黄色い人
講談社文芸文庫

日本文壇史9 日露戦後の新文学
講談社文芸文庫
「ホトトギス」関係の虚子、坂本四方太らや、帝大の学生たちが漱石の周辺に集りだした明治38年10月、象徴詩の源泉上田敏の訳詩集『海潮音』が刊行。翌39年島村抱月らによる「早稲田文学」が1月再刊。3月、藤村は文学史を画する自然主義小説『破戒』を、独歩は『運命』を刊行。社会主義者の動向、蘆花、小山内薫らの活動等、新時代の到来を告げた。“伊藤文壇史”の真骨頂、日露戦後の多彩な文学世界の展開。

浄土
講談社文芸文庫
遥かな幼い頃共に遊んだ一少女への回想から人生至福の境涯へと限りなく近づく「浄土」、注連寺滞在時代の一挿話「吹きの夜への想い」、森敦宇宙の核とも言うべき「杢右ヱ門の木小屋」。死もまた美しい蘇りの如き仏教的宇宙観を、生涯を賭して生きた森敦晩年の、気韻生動の名品5篇。