講談社文芸文庫作品一覧

近代日本の批評2 昭和篇(下)
講談社文芸文庫
戦後の批評は、はたして「戦争」の後の批評たりえただろうか。……「戦争」の前の批評たりえただろうか。(柄谷行人「あとがき」)
従来の戦後という認識を、昭和中期・昭和後期として、新たな視点から批評史を分析。敗戦から高度成長期を経て戦後体制の終焉までの文学と思想の歴史を徹底的に検討。浅田彰、柄谷行人、蓮實重彦、三浦雅士による共同討議第2弾。1945年から1989年にわたる批評史略年表を付す。

夜ふけと梅の花・山椒魚
講談社文芸文庫
「ああ、寒いほど独りぼっちだ!」。内心の深い想いを岩屋に潜む小動物に托した短篇「山椒魚」。新興芸術派叢書の1冊として、昭和5年4月に刊行された『夜ふけと梅の花』収録15篇に、同人誌『世紀』掲載の「山椒魚」の原型でもあった著者の処女作「幽閉」を併録。さまざまな文学的潮流が拮抗した昭和初年代の雰囲気を鮮やかに刻印し、著者の文学的出発をも告げた画期的作品群。

野いばらの衣
講談社文芸文庫
小児麻痺で左足が不自由なカメラマンの「わたし」=郡司。彼が高校時代、憎悪を爆発させた体操教師・木宮。その娘で、郡司の憧憬と愛の対象、体操選手・とし子。偏執的人形師・英三三夫。左手に障害のある超能力者・亜矢……。人体の極限の美を追求する者と障害のある者――「わたし」は常に計り知れない距離と対峙する。二つの極を軸に、肉体と精神の微妙な領域を、“「わたし」の視点”で捉えた渾身の長篇力作。

鳩の翼(下)
講談社文芸文庫
デンシャーを慕ってイギリスに渡った大富豪のミリーはラウダー夫人の手引きで社交界に華々しくデビューする。「人よりはやく生きる」ために、病身のミリーはヴェニスの由緒ある宮殿を借り切って住みはじめる。ロンドンからデンシャーと恋人のケイト、ラウダー夫人たちがやってきて、物語はミリーの死とともに結末をむかえる。

司馬遷―史記の世界
講談社文芸文庫
「司馬遷は生き恥さらした男である。」に始まる本書は、武田泰淳の中国体験もふまえた戦中の苦渋の結晶であり、それまでの日本的叙情による歴史から離れて、新たな歴史認識を展開した。世界は個々人の集合であり、個の存在の持続、そして、そこからの記録が広大な宇宙的世界像と通底する。第1篇「司馬遷伝」、第2篇「史記」の世界構想。

ある人の生のなかに
講談社文芸文庫
作家御木麻之介の平凡で静かな生活は、宿命的な過去に纒わりつかれ、次第に崩れてゆく。妻順子、息子好太郎、娘やよい、嫁芳子、娘の婚約者、友人の娘と愛人……。複雑に入りくんだ人間関係、怨念と狂気に搦めとられ人生の亀裂の間に生きる人々。平穏な日常に生と死を透視させ、生命の根源的なテーマを淡々と描く問題作。長い中絶の後晩年に完結、没後単行本刊行された傑作長篇。

日本文壇史(18) 明治末期の文壇
講談社文芸文庫
明治44年、蘆花「謀叛論」を一高で演説。与謝野寛「誠之助の死」、佐藤春夫「愚者の死」発表等、大逆事件は大きな衝撃を与え、啄木は思想的変革を来たし、「呼子と口笛」ほかを書き始めた。虚子と碧梧桐の対立。久保田万太郎ら「三田文学」の新人登場。漱石の推薦で、秋声「黴」、長塚節「土」連載。文壇的新たな一様相を端的に描出。次巻第19巻からは、中道に倒れた伊藤整の遺志を旧友瀬沼茂樹が継承、全24巻で完結。

鳩の翼(上)
講談社文芸文庫
莫大な財産を相続した天涯孤独の娘ミリーは病身で早死の運命を予感している。取材に来たイギリスの記者デンシャーに好意を持つが、残り少ない余命を人生体験を極めるために費すべく、ヨーロッパへ向けて旅立つ。20世紀文学の源流をなすといっても過言ではないアメリカの巨匠ヘンリー・ジェイムズの円熟期の傑作。

由煕 ナビ・タリョン
講談社文芸文庫
在日朝鮮人として生れた著者の、37歳で夭逝した魂の記録。差別と偏見の苦しい青春時代を越えて、生国・日本と母国・韓国との狭間に、言葉を通してのアイデンティティを探し求めて、ひたすらに生きた短かい一生の鮮烈な作品群。芥川賞受賞の「由熙」、そして全作品を象徴するかのような処女作「ナビ・タリョン」(嘆きの蝶)、「かずきめ」「あにごぜ」を収録、人生の真実を表現。

閉ざされた庭
講談社文芸文庫
高名な詩人の娘嫩は、「B29機帝都に侵入す」る戦時下、手縫いのワンピースを着、男の田舎の神社で式を挙げるが、初めの日から「真面目な人」のはずの夫と行き違う。互いに傷つけあい、ささくれ立った年月の末、不妊手術をし、戦後に離婚、自立するまでのアパート「木馬館」での生活。「蕁麻の家」に続く、自伝的長篇3部作の第2篇。

近代日本の批評1 昭和篇(上)
講談社文芸文庫
近代日本の知性の歴史を〈批評〉の観点から検討。1昭和篇上、2昭和篇下、3明治・大正篇の全3巻。第1巻は柄谷行人の論文「近代日本の批評 昭和前期」を中心に、浅田彰、柄谷、蓮實重彦、三浦雅士が徹底討議。昭和という時代を腑分けし狭義の文字批評を越えて、その文学・思想を据え直し、新たな批評史を展開。〈批評〉とは何かを問う画期的企図。批評史略年表を付す。

アルゴナウティカ
講談社文芸文庫
黒海の東の果て、コルキスの地の樫の巨木に張られた金羊毛を持ち帰るように王から命じられた英雄イアソンはアルゴ船の一行と大航海に乗り出した──古代ギリシアの神々や英雄が織りなす雄大な叙事詩の唯一の邦訳。
アポロニオスは、紀元前3世紀頃プトレマイオス朝のアレキサンドリアに生まれ、ロドス島で活躍した詩人。

日本文壇史17 転換点に立つ
講談社文芸文庫
明治43年、漱石は『門』連載終了後、8月胃潰瘍の養生先修善寺で大吐血、危篤に陥った。詩・小説で苦闘した啄木は短歌に自由自在に自己を表現。渋川玄耳は「朝日歌壇」を復活させ、その啄木を選者とした。近松秋江『別れたる妻に送る手紙』連載。夕暮『収穫』、牧水『別離』、啄木『一握の砂』刊。明治44年1月18日「大逆事件」判決。24日刑執行。激動の社会と蘆花、露伴、白鳥、柳浪ら文壇人の去就に焦点。

抹香町・路傍
講談社文芸文庫
文学に憧れて家業の魚屋を放り出して上京するが、生活できずに故郷の小田原へと逃げ帰る。生家の海岸に近い物置小屋に住みこんで私娼窟へと通う、気ままながらの男女のしがらみを一種の哀感をもって描写、徳田秋声、宇野浩二に近づきを得、日本文学の一系譜を継承する。老年になって若い女と結婚した「ふっつ・とみうら」、「徳田秋声の周囲」なども収録。

愛の生活・森のメリュジーヌ
講談社文芸文庫
《わたしはFをどのように愛しているのか?》との脅えを、透明な日常風景の中に乾いた感覚的な文体で描いて、太宰治賞次席となった19歳時の初の小説「愛の生活」。幻想的な究極の愛というべき「森のメリュジーヌ」。書くことの自意識を書く「プラトン的恋愛」(泉鏡花文学賞受賞作)。今日の人間存在の不安と表現することの困難を逆転させて、細やかで多彩な空間を織り成す、金井美恵子の秀作10篇。

響きと怒り
講談社文芸文庫
アメリカ南部の名門コンプソン家が、古い伝統と因襲のなかで没落してゆく姿を、生命感あふれる文体と斬新な手法で描いた、連作「ヨクナパトーファ・サーガ」中の最高傑作。 ノーベル賞作家フォークナーが、“自分の臓腑をすっかり書きこんだ”この作品は、アメリカのみならず、20世紀の世界文学にはかり知れない影響を与えた。

殉情詩集・我が一九二二年
講談社文芸文庫
命がけの恋の世界を歌い、あまりにも有名な『殉情詩集』。人口に膾炙する「秋刀魚の歌」を所収の『我が一九二二年』。強い反俗的批評精神が横溢する「愚者の死」等の「初期詩集」。古今東西の詩人のエッセンスを熟知しつつ、あえて古典的韻律にこめた清新な情感と詩の未来を見すえる凄烈な意志。
多くの抒情詩と一線を画する“佐藤春夫の詩”の出発点から大正15年刊『佐藤春夫詩集』とその「補遺」までを全収録。

わが母の記
講談社文芸文庫
80歳の母を祝う花見旅行を背景にその老いを綴る「花の下」、郷里に移り住んだ85歳の母の崩れてゆく日常を描いた「月の光」、89歳の母の死の前後を記す「雪の面」。 枯葉ほどの軽さのはかない肉体、毀れてしまった頭、過去を失い自己の存在を消してゆく老耄の母を直視し、愛情をこめて綴る『わが母の記』三部作。〈老い〉に対峙し〈生〉の本質に迫る名篇。ほかに「墓地とえび芋」を収録。

HIROSHIMA
講談社文芸文庫
地球上初の原爆実験を行った米国南部の地の一牧童が、対日戦闘機乗員となり撃墜、捕虜となって広島で被爆する。広島には飢えと被差別下の朝鮮人、日系アメリカ人らもいた。 加害が被害に、被害が加害ともなる錯綜した現代史の闇部を多くの登場人物と寓話性をおびた独自の構成と文体で描き、原爆体験、現代の「核」に新しい光をあてた画期的長篇。英訳本、BBCラジオ劇(1996年)ともなった衝撃作。

ワインズバ-グ・オハイオ
講談社文芸文庫
ヨーロッパ文学から離れて、土着派のマーク・トウェインなどと併せて、アメリカ文学として独立した画期的作品。後走者のヘミングウエイ、フォークナーなどに多大な影響を与えた。オハイオ州ワインズバーグ・オハイオという町を設定して、そこに住む人々の生活、精神の内面を描き、現代人の孤独や不安といった現代文学の主要テーマをアメリカ的背景のもとにとりこんだ。全体は22篇の短篇で構成。