講談社文芸文庫作品一覧

毒薬としての文学
講談社文芸文庫
学生時代、マスメディアに劇的に登場、常に現代文学に挑戦し続ける著者の『わたしのなかのかれへ』『迷路の旅人』『磁石のない旅』『最後から二番目の毒想』『夢幻の宴』の全エッセイ集から、1.日常と文学の周辺、2.作家・詩人関係に集約編集。「性と文学」「文学的人間を排す」他、坂口安吾、澁澤龍彦、三島、埴谷等、35篇。独創的世界を展開する著者の文学観、発想の源流を示す文芸文庫版エッセイ集。

セバスチャン・ナイトの真実の生涯
講談社文芸文庫
1899年ロシアの名門貴族として生まれ、米国に亡命後「ロリータ」で世界的なセンセーションを巻き起こしたナボコフが初めて英語で書いた前衛的小説。早世した小説家で腹違いの兄セバスチャンの伝記を書くために、文学的探偵よろしく生前の兄を知る人々を尋ね歩くうちに、次々と意外な事実が明らかになる。

オブジェ焼き
講談社文芸文庫
京都五条坂の陶芸家の長男として、1918年に生まれ、自己内部の純粋な感情表出としての作品を求めた末に、非実用のオブジェ焼きに到達した造形作家の八木一夫。「ザムザ氏の散歩」等の実用を排した多くの傑作を残した戦後陶芸界の推進者が京都での幼少、青年期を語り、精神の拠り所を示して、独自の芸術を凛然と宣言する。天才的個性の内奥を知る凝縮された文章。解説・梅原猛

詩は友人を数える方法
講談社文芸文庫
ニューヨークもワシントンもアメリカでなく、ローカリズムそのものがアメリカである。広大な北アメリカ大陸で現代詩人は自分の住んでいる土地を唱う。本書で紹介する67篇の詩はいずれも著書による全訳、5篇をのぞいて初訳といった具合いにわが国には知られていない。著者は詩を読み解き、現実のアメリカを旅することで、総体たるアメリカを読む。解説・亀井俊介

デカメロン(下)
講談社文芸文庫
14世紀のヨーロッパを襲ったペストがフィレンツェにもたらした死の影の下で、ボッカッチョは完全な精神の自由を獲得し、過去のくびきから解き放たれて、10日10話、100篇からなる多種多様な物語を書き上げた。ルネサンスの息吹きを伝え、近世小説のさきがけとなった屈指の古典『デカメロン』を見事な日本語に移しかえた名訳。(第7日、第8日は省略)

西国巡礼
講談社文芸文庫
見事な滝の景観で有名な第一番那智山の青岸渡寺、第二番紀三井寺、大和の長谷寺、滋賀の石山寺、洛中洛外の清水寺、六波羅蜜寺、琵琶湖の竹生島等に、三十三番美濃の華厳寺、番外の花山院。全て自らの足で巡り、観音信仰の広大無辺、自然の中での精神の躍動を、自己の存在を賭けた言葉で語る著者初めての巡礼の旅。後の多くの名著の出発点となった美と魂の発見の旅、西国三十三カ所巡り。解説・多田富雄

灰色の午後
講談社文芸文庫
「何と云われようと、知らないことは知らないんだから、僕はそう云うしかないんですよ」とあくまで居直る惣吉。突然に出現した女の存在に崩解しだした作家夫婦の危機。反動化し戦争に向う困難な時代に、共に立ち向うはずの折江の夫が、逆に女のことで家を出ようとする。取り乱し、媚び、たじろぐ女としての自己の崩れを見据る作家佐多稲子の文学世界の最高の達成点。
「何と云われようと、知らないことは知らないんだから、僕はそう云うしかないんですよ」とあくまで居直る惣吉。突然に出現した女の存在に崩解し出した作家夫婦の危機。反動化し戦争に向う困難な時代に、共に立ち向うはずの折江の夫が、逆に女で家を出ようとする。取り乱し、媚び、たじろぐ女としての自己の崩れを見据る作家佐多稲子の文学世界の最高の達成点。解説・川村湊

悩ましき土地
講談社文芸文庫
対象との距離を微妙にはかりながら、すれすれのところで短篇として成立させる、吉行淳之介の短篇集。作者自身の幅を反映して、対象は読者から、バーの女給、エロ雑誌の編集者、棟梁、作者とおぼしき主人公の周辺に登場する諸人物は、いずれも一癖あるが、それを冷静に、ときには諷刺をまじえて、面白さをひきだす。表題作のほか、「青い映画の話」など12篇収録。

デカメロン(上)
講談社文芸文庫
14世紀イタリアのフィレンツェでペストが猛威をふるった時、7人の淑女と3人の紳士が森の館に避難し、毎日交代で面白い物語を話して聞かせることになった。──イタリア・ルネサンス期の巨人が残した世界文学史上不滅の古典に新たな生命を吹きこむ苦心の訳業。本巻には前半の第5日第7話までを収録(第3日、第4日は省略)。

山之口貘詩文集
講談社文芸文庫
「お国は?と女が言った/さて僕の国はどこなんだか、」沖縄の清高な魂と風土をたっぷりと身につけて生まれ育ち、20歳の頃失恋の痛みを抱え、上京。自虐的なまでの深い自己擬視を独特のユーモアに解き放った詩人山之口貘(1903~1963)。その心優しい詩「妹へおくる手紙」「会話」「夢を見る神」「沖縄よどこへ行く」等の78篇と、自伝的小説2篇、詩論随筆12篇を以てこの希有の現代詩人の宇宙を集成。

夫婦善哉
講談社文芸文庫
しっかり者の新地の芸者蝶子は若旦那柳吉と駆落して所帯を持ち、甲斐性なしの夫を支えて奮闘する──大阪の庶民の人情を自在な語り口で描いて新進作家の地位を確立した「夫婦善哉」のほか、「放浪」「勧善懲悪」「六白金星」「アド・バルーン」、評論「可能性の文学」。作家生活僅か7年、裏町人生のニュアンスに富んだ諸相を書き続けて急逝した織田作之助の代表作6篇を収録。

評伝森外
講談社文芸文庫
「近代文学」同人の中にあって、戦後文学を独自の立場で擁護した著者の啓蒙的鴎外論。日本の西欧文学理解に一批判を示し、人間の内面に根ざす視点が捉えた鴎外像は4章で構成。
第1章では鴎外の生涯を詳述、第2章でその文学世界を追求、鴎外の文学観に迫る。第3章では「舞姫」ほか代表的作品17篇を論じ、第4章に文学史的評価を紹介。鴎外文学を総括的に跡づけた絶好の入門書。

光の中に
講談社文芸文庫
日本の戦争と侵略による苛酷な時代に、在日朝鮮人作家の先駆となり、多くの傑作を残し逝った金史良の代表作9篇。
1914年(大正3年)、朝鮮・平壌(現・ピョンヤン)に生まれ、渡日して旧制佐賀高校、東京帝大に学び、同人誌に執筆。少年と南先生の心の交流を描く、「光の中に」で評価を得、鋭い風刺の力業「天馬」他を書き、弾圧を避け戦時下に帰国。後、朝鮮戦争で人民軍に加わり、戦病死。幻の名作群の甦り。

巴里芸術家放浪記
講談社文芸文庫
芸術史上に輝かしい足跡を残した芸術家たち――ピカソ、ユトリロ、モディリアニ、ローランサン、アポリネール、そして無名のまま消えた画家や詩人たち。第1次世界大戦の前の古き良き時代のパリ――モンマルトルやカルチエ・ラタンを舞台に、奔放な青春時代をすごした若い芸術家たちの姿を伝える、情感溢れる青春回想記。

青葉の翳り
講談社文芸文庫
戦時中に青春を過した主人公は、学徒動員で海軍に入隊。戦友の多くが死んでいったなかで、現在も生きているのはほんの偶然の結果だという感覚に支配されている。戦後社会との違和に直面しながらも、生活者として中年にいたった現在を描く代表作「青葉の翳り」。他に「霊三題」「鱸とおこぜ」「野藤」「スパニエル幻想」「空港風景」「さくらの寺」と短篇的趣向の名品を収録。

続 年月のあしおと(下)
講談社文芸文庫
本郷菊富士ホテルの出逢いで始まったX子との関係は、泥沼のような生活を強いた。真杉静枝の誘いで出かけた、脱出にも似た台湾旅行から起こす下巻は、敗戦の日、8月15日の感情で終る。戦時下の暗鬱と苦悩のなか、志賀直哉、青野季吉、中野重治らとの交流を通じ、みずからの辛い日常、作家たちの風貌を鮮明に描く、自伝的文壇回想記。野間文芸賞受賞『年月のあしおと』の続篇。上下2巻完結。

覗くひと
講談社文芸文庫
時計の行商をするために生まれ育った離島にやってきたマチアスは、直前ヴィオレットという若い女性を殺していた──外界とマチアスの意識との有機的な関係を、事物そのものに迫る数学的にまで昇華された文体で描くことによって、青年の荒廃した深層心理をうかび上らせたヌーヴォー・ロマンの傑作。

伊豆の踊子・骨拾い
講談社文芸文庫
川端康成の最初期から色濃い異性への思慕と、人間の孤独の、2つの源流を11の短篇によって凝縮させた作品世界。
旧制一高時代、初恋の女性への想いを書いた習作「ちよ」と、その頃の伊豆への一人旅を後年発酵させた「伊豆の踊り子」。
相継ぐ親族の死を幼時に体験した悲しみが生んだ「骨拾い」「十六歳の日記」「油」「葬式の名人」「孤児の感情」等に、亡き親への純化された思い出を一人称で綴る「父母への手紙」。

埴輪の馬
講談社文芸文庫
日本文学には数少ない、ヒューモアに富んだ私小説集。
滑稽というより、生活の事実を淡々と書きながら、思わず笑ってしまうといった味わいで、文学の師である井伏鱒二や友人たちとの交友を描く。表題作「埴輪の馬」では、埴輪様式の土器の馬を購入のため、師井伏鱒二や友人と出かける。地方都市の駅には先方のお迎えの車が、それも消防自動車が来ていて、それに乗車することの困惑。他10篇収録。

眼の皮膚・遊園地にて
講談社文芸文庫
なにげない夫婦と子どもの、幸せな光景の背後に忍び寄る、得体の知れぬ不安と戦きを衝いた、短篇小説「眼の皮膚」。ふと外へ歩き出した団地住まいの妻が、サーカスを見ての帰り、若者に誘われた、白昼夢的な現実「象のいないサーカス」。日常誰もが心の裡に抱え込んでしまった、平凡な現代人を理由もなく突発的に襲う、空虚感や精神の崩れを描いて、先駆的都市小説となった、著書の60年代の代表作6篇。