講談社文芸文庫作品一覧

情人
情人
著:北原 武夫
講談社文芸文庫
「それから、仕事の合間を見て、男は週に3度は確実に女の部屋を訪れるようになった。」──還暦に近い作家と、27歳の女とはとても思えない、「ある稚い清々しさが漂っている女」との濃密な恋愛を、〈男〉と〈女〉という抽象化された存在として客観視し、男女の肉体と心理の微細な襞を追ってゆく。蠱惑的に揺れる女を描き尽くした北原武夫文学の達成点。第1部「霧雨」、第2部「黄昏」。
ペテルブルグ(上)
ペテルブルグ(上)
著:アンドレイ・ベ-ルイ,訳:川端 香男里
講談社文芸文庫
ペテルブルグの街の闇に現れた〈赤の道化〉の正体は? 1880年モスクワに生まれたベールイはモスクワ大学理学部に入学するが、象徴主義や神秘主義に傾倒して世紀末から革命に至る時代をひたすら文学に没頭する。1916年に刊行されたこの『ペテルブルグ』は、幻影の都市ペテルブルグで繰り広げられる緊迫したテロを描き、ナボコフも『ユリシーズ』『変身』『失われた時を求めて』と共に、20世紀初期を代表する傑作と絶賛した。
日本文壇史総索引
日本文壇史総索引
編:講談社文芸文庫
講談社文芸文庫
伊藤整、瀬沼茂樹の渾身の力作『日本文壇史』全24巻の各巻に収録の索引を増補し、その厖大な索引を新たに1.人名索引2.書名・作品名・叢書名索引3.事項索引4.新聞・雑誌索引の4種類に構成。総目次を収録。口絵に登場人物の顔写真を多数掲載。壮大な人間ドラマを「総索引」で追う。
評伝 長谷川時雨
評伝 長谷川時雨
著:岩橋 邦枝,解説:松原 新一
講談社文芸文庫
「女流文壇の大御所」といわれた、美しき作家・長谷川時雨。明治末期、歌舞伎界初の女性作家として華々しくデビュー。至福と修羅に揺れた、流行作家・三上於菟吉との生活。昭和初年代、女性のための雑誌「女人芸術」創刊、輝ク会結成、林芙美子・円地文子・佐多稲子ら多くの女性たちを支援、育成した偉大な業績。著者は関係者を訪ね、資料を博渉し、そのドラマティックな生涯を浮彫りにする。新田次郎文学賞受賞作品。
電子あり
欺かざるの記抄
欺かざるの記抄
著:国木田 独歩,解説:本多 浩
講談社文芸文庫
人生の思索を記した独歩の日記「欺かざるの記」から、佐々城信子との恋愛、結婚、離婚を経て、26歳で処女作「源叔父」を完成する迄の、日記の後半を全文収録。愛する女性を得た無上の喜びと煩悶、妻の家出、別離へ至る浪漫的恋愛と、明治人の近代的自我の内面が刻明に綴られ、時代の制約の中を強く生きる女性の行動の軌跡が知られる。名作「武蔵野」を発表する以前の、若い日々の著者の精神史。
生命ある若者
生命ある若者
著:パオロ・ピエル・パゾリ-ニ,訳:米川 良夫
講談社文芸文庫
盗み、女漁り、夜遊び──内省には無縁なローマの貧しい若者たちの、猥雑かつ純粋な生命の息吹き。1950年代のイタリアで〈まず情念を!〉と戦闘的な文学活動を繰りひろげ、60年代になって「テオレマ」「アポロンの地獄」「王女メディア」などで実験的な映像の世界を追究するさなか、17歳の青年によって非業の死を遂げたパゾリーニの問題作。
未葬の時
未葬の時
著:桐山 襲,解説:川村 湊
講談社文芸文庫
「パルチザン伝説」で衝撃的なデビューをし、全共闘運動とは何であったかを問いながら、42歳で病死した作家・桐山襲。死の直前まで書き続けられた表題作は、癌で死んだ男を火葬する話。ほかに、1970年代内ゲバで負傷し、言葉を失した友人に宛てた4通の書簡で構成する「風のクロニクル」、「スターバト・マーテル」を収める。全共闘世代を代表する著書の代表作3篇。
日和下駄
日和下駄
著:永井 荷風,解説:川本 三郎
講談社文芸文庫
「一名 東京散策記」の通り「江戸切図」を持った永井荷風が、思いのまま東京の裏町を歩き、横道に入り市中を散策する。「第一 日和下駄」「第二 淫祠」「第三 樹」「第四 地図」「第五 寺」「第六 水 附渡船」「第七 路地」「第八 閑地」「第九 崖」「第十 坂」「第十一 夕陽 附富士眺望」の11の章立てに、周囲を見る荷風の独特の視座が感じられる。消えゆく東京の町を記し、江戸の往時を偲ぶ荷風随筆の名作。 荷風の愛した東京の路地裏…… 「一名 東京散策記」の通り「江戸切図」を持った永井荷風が、思いのまま東京の裏町を歩き、横道に入り市中を散策する。「第一 日和下駄」「第二 淫祠」「第三 樹」「第四 地図」「第五 寺」「第六 水 附渡船」「第七 路地」「第八 閑地」「第九 崖」「第十 坂」「第十一 夕陽 附富士眺望」の11の章立てに、周囲を見る荷風の独特の視座が感じられる。消えゆく東京の町を記し、江戸の往時を偲ぶ荷風随筆の名作。
電子あり
俳人蕪村
俳人蕪村
著:正岡 子規,解説:粟津 則雄
講談社文芸文庫
江戸の俳人与謝蕪村の魅力を再発見した正岡子規の名俳論。明治になるまで芭蕉の陰で忘れられていた蕪村の俳人としての高い評価を決定し、近代芸術家としての蕪村像を後代に伝える。併せて、「蕪村と几董」「蕪村風十二ヶ月」「行脚俳人芭蕉」「一茶の俳句を評す」等の江戸期俳句に関する評論を纒め、巻末資料に、当時の漫画「蕪村寺再建縁起」を収録する。
首塚の上のアドバルーン
首塚の上のアドバルーン
著:後藤 明生,解説:芳川 泰久
講談社文芸文庫
マンションの14階から語り手は、開発によって次第に変化する遠景の中にこんもりとした丘を見つけ、それが地名の由来となった馬加(まくわり)氏の首塚と知る。以来テーマはひたすら首塚の探索となり、新田義貞の首塚から、さらに『太平記』『平家物語』のすさまじい首級合戦へとアミダクジ式につながり、時空を越えて展開する。 〈第40回芸術選奨文部大臣賞受賞作〉
アメリカ古典文学研究
アメリカ古典文学研究
著:デ-ヴィット・ハ-バ-ト・ロ-レンス,訳・解説:大西 直樹
講談社文芸文庫
20世紀文学の主要な一翼を担うD・H・ローレンスのアメリカ古典文学を論じて、近代批判にまで及ぶ名著。フランクリン、クレヴクール、フェニモア・クーパー、ホーソーン、メルヴィル、ホイットマンとアメリカ文学の古典たる作品をとりあげ、魂のありかを探る。ヨーロッパから見たアメリカとは、デモクラシーとは。現代アメリカを読み解くための重要な鍵。
ある女のグリンプス
ある女のグリンプス
著:冥王 まさ子,解説:水田 宗子
講談社文芸文庫
ニューヨークとボストンのほぼ中間に位置する古い街ニューヘイヴンは、主人公由岐子の過去への中継地だった。内なるアメリカを問い、過去を奪回し、現在を生き直すために、街はあった。ここで知りあった謎の美女ドロレス、その夫レナード、深い森、呪縛。〈時〉を巧みに交錯させ精密な心理分析を展開して閉塞した自己を解放する文芸賞受賞の表題作に「グランド・リユニオン」を併録。
パン・タデウシュ(下)
パン・タデウシュ(下)
著:アダム・ミツキエヴィチ,訳:工藤 幸雄,解説:久山 宏一
講談社文芸文庫
リトワニアのシュラフタ(小貴族)たちは、ナポレオンのロシア侵攻に呼応して盟友団を結成し、祖国ポーランドへの復帰を期して立ち上る。その間、若きタデウシュは恋人のゾーシャとめでたく結婚にこぎつける。本書は、周辺の強国の支配のもとで苦難の絶えなかったポーランドで、19世紀以来国民的古典として広く読み継がれ、国民の血肉そのものとなってきた。
足摺岬
足摺岬
著:田宮 虎彦,解説:小笠原 賢二
講談社文芸文庫
死を決意した学生の「私」が四国で巡り合った老巡礼との邂逅、その無償の好意で救われる表題作「足摺岬」、新聞配達少年との心の通い合いと突然の死を伝える「絵本」、敗北する小藩の命運を書く「落城」、初期秀作「霧の中」他。人間の孤独な心に寄りそった、優しい視線の作品世界。
われもまた おくのほそ道
われもまた おくのほそ道
著:森 敦
講談社文芸文庫
『意味の変容』で小説表現の構造を解き明かした著者が、「おくのほそ道」の成り立ちを大きく「起承転結」の4つの要素から眺め、把握し、旅の細部を跡付けてゆく。芭蕉ゆかりの庄内平野での実生活を踏まえて名篇「月山」や「われ逝くもののごとく」を創り出した小説家ならではの経験と思索が長い歳月のうちに発酵した独自の芭蕉作品論。
猿のこしかけ
猿のこしかけ
著:幸田 文,解説:小林 裕子
講談社文芸文庫
「あれはいったい何だったろう」かと、淡いかなしみと共に想い出しつつ、いいものだと思う娘と父の深い係わりを描く「平ったい期間」。各々手応えのある人生を感じさせた「三人のじいさん」。ほかに「葉ざくら」「晩夏」「捨てた男のよさ」など。父・露伴が逝ってからの「十年の長短」を思いはかる著者が、再び父と暮らした日々や娘時代の忘れ難い思いをまとめた「猿のこしかけ」に、同時期の5篇を加えた珠玉の随筆集。
電子あり
絶望の書・ですペら
絶望の書・ですペら
著:辻 潤,解説:武田 信明
講談社文芸文庫
幼時にキリスト教を信仰し、のちダダイストとして登場、自由を求めて絶望を知り、伊藤野枝と結婚し数年で離婚、尺八を吹き各地を流浪の末、巷間に窮死した辻潤(1884-1944)。後年大杉栄の元に行った野枝との回想「ふもれすく」を始め、著作集「浮浪漫語」「ですぺら」「絶望の書」等と未収録エッセイより、小説「三ちゃん」を含む25篇で構成。詩人の魂を持つこの無類の思想家の現代的魅力を伝える。
シングル・セル
シングル・セル
著:増田 みず子,解説:中沢 けい
講談社文芸文庫
椎葉幹央は大学院に籍を置く学生、5歳の時母をなくし16歳の時父と死別、以来1人で生きている。学位論文を書くために山の宿に籠るが、そこで奇妙な女性と出遇う。彼女は彼のアパートについて来、住みついてしまう。他を拒否する〈個〉が互いを侵蝕することなく〈孤〉のまま如何に関わるかを鋭利にみずみずしく捉え、生の深淵に迫る力作長篇。泉鏡花賞受賞。
パン・タデウシュ(上)
パン・タデウシュ(上)
著:アダム・ミツキエヴィチ,訳:工藤 幸雄
講談社文芸文庫
ポーランド国民の誇りと勇気を示す物語詩を格調高い日本語に移しかえた名訳。 ポーランドの第3次分割によりロシアの支配下におかれたリトワニアの若い貴族パン・タデウシュは、切り離された祖国リトワニアのポーランド復帰を夢みて、ナポレオンのモスクワ遠征に期待を寄せる。「国民的古典」とされるアダム・ミツキエヴィチのこの長篇叙事詩は、ポーランド・ロマン主義の最高傑作として世界的に評価が確立している。本邦初訳。
土佐兵の勇敢な話
土佐兵の勇敢な話
著:中山 義秀,その他:中山 日女子,解説:宮内 豊
講談社文芸文庫
武士道精神、サムライの倫理を多分に持って生きた中山義秀は、兵隊としても卑怯なことをせず正義に殉ずる主人公を設定し、父親としては自分の娘たちに対しても頑固一徹な、しかし本当は愛情あふるる父親を描き、歴史小説においては登場人物の苦悩する精神の内面よりも、人事に任せしかし人事を越える剛毅、爽快を好んだ。現代には稀になったある意味での良き日本人像を描く短編7篇を収録。