文芸(単行本)作品一覧

手もちの時間
文芸(単行本)
●暮しを見つめる最新随筆集68篇
過ぎた時の折々の想いと懐しい風景
手もちの時間を彩るあれこれ
それにしても、昔は寒かった。母の手にはつま切れがきれ、私の耳や手には霜やけがたえなかった。夜廻りの拍子木がカチ、カチ、カチカチと音を刻んで近付いてくる。家の角から横町に向って、火の用心と声を掛けて又、遠退いてゆく。しみじみ外の寒さが思われる。刺子の半纏を羽織っても拍子木を持つ手はつめたかろう。寒さが寂しさに感じられるときであった。──本文より

異色忠臣蔵大傑作集
文芸(単行本)
300年記念!奇妙なる忠臣蔵
現代作家の感性が描き出す新「忠臣蔵」選。

半パン・デイズ
文芸(単行本)
「少年」ってさ、マジ、カッコよかったんだよね。
『ナイフ』『エイジ』に続き、少年の日々を描ききった山本周五郎賞受賞第1作。
いまや、「少年」はボロ負けである。少年犯罪だの少年法だの、ろくなことにつかわれない。でも、’70年代に小学生だったぼくは「少年」に憧れていた。「おとな」になるよりも、マンガに出てくるヒーローたちのような「少年」になりたくてたまらなかった。「少年」が元気だった頃を知っているひと、負けっぱなしの「少年」を、いま背負っている人……ぼくたちみんなの自伝として『半パン・デイズ』を読んでくれたらうれしい。──重松清

ミステリー主義
文芸(単行本)
謎とジョークをあなたの伴侶に。
短篇の名手は生き方の達人でもあった。不安を抱えてのデビュー、持病のこと、街で拾った新作ジョーク……日常はヒントに満ち満ちている。
それに……ヘンテコな日本語を使うけれど、私は被説得力がすこぶる旺盛だ。(中略)自分の死だってきっとうまく説得するだろう。──みんな死ぬんだし。逆に200歳まで生きたら困るぞ──と考えるにちがいない。被説得力とあきらめの才能があれば、さほど悩むことではあるまい。──本文より

後家長屋
文芸(単行本)
なんでもあり。浪速は自由性愛の都だった。
奔放な性を謳歌する大坂の女たち。武士を捨て貸本屋を始めた町之介は色好みの世界に浸った。
人生の歓びを味わい尽くす異色時代小説
お糸は声をあげた。町之介の指が動きだすと、たちまち呼吸があわただしくなる。「びしょびしょだっしゃろ。な、びしょびしょになってるワ」自慢でもするようにお糸は口走った。──(本文より)

葬神
文芸(単行本)
絶望の時代(とき)、神は我らを裏切るのか!?
天草四郎は神の子に仕立て上げられた少年なのか?島原の乱で殉教したキリスト者たちの姿を活写し、日本人にとっての神とは何かを問う!混沌の世に魂の到達点を模索する瞠目の書下ろし長篇時代小説。
切支丹(キリシタン)への厳しい弾圧が始まった慶長年間、人々は神を待っていた。海を歩き、卵のなかから経文を取り出したという奇跡を起こした神の子・天草四郎の出現に、切支丹は熱狂し、崇め奉った。彼のもとに結集し、キリストこそ真実の神と幕府軍に抵抗する農民たち。だが、1人、絵師・山田右衛門作(えもさく)だけが、四郎の存在に疑念を持っていた……。

支店徹退
文芸(単行本)
なぜ俺の店が切り捨てられるのか!?
銀行上層部は大蔵省やマスコミの顔色をうかがい、生け贄を差し出すように、老舗支店の廃店を決定した。ふるさと再生に燃え、業績を向上させても地元出身支店長の奮闘は無駄だったのか……。
元銀行支店長、悔恨の書下ろし経済小説

火怨(下)
文芸(単行本)
蝦夷は獣にあらず、鬼でもない。
宿敵・坂上田村麻呂(さかのうえのたむらまろ)ひきいる朝廷軍の逆襲に、命を捨てて蝦夷の未来を救ったアテルイ。
朝廷の大軍を退けた蝦夷たちの前に、宿敵・坂上田村麻呂が立ちふさがる。武人として信頼するに足る敵将の出現で、アテルイは命を捨てる覚悟を固めた。「都と対等の国家」を建設する夢のために、蝦夷の勇者たちが1人、また1人と北の大地で果てていく。

火怨(上)
文芸(単行本)
最強の将は東北にいた。
8世紀、黄金を求めて押し寄せる朝廷の大軍を相手に、蝦夷の若きリーダー・アテルイは遊撃戦を展開した。
得体の知れない蝦夷と蔑まれながらも、陸奥の民は東北の地で平和に暮らしていた。だが8世紀、金の産出や伊治鮮麻呂(いじのあざまろ)の反乱をきっかけに、朝廷の陸奥支配は本格化する。圧倒的な戦力を誇る朝廷軍に対し、18歳の将・アテルイが立ち上がる。すべての蝦夷の期待を背負って……。

礫(れき)
文芸(単行本)
立ちこめる都市の硝煙。
吹きぬける絶望の風。
現代文学の射手が放つ傑作長篇小説。
都会の青年の孤独と焦燥を撃つ藤沢周の傑作
主人公宮瀬はペット業界紙「コンパニマル」の記者。「卍新聞」へ転職をさそわれている。結婚を控えた環という恋人がいるがその仲は冷えようとしている。

短篇歳時記
文芸(単行本)
季節感あふれる百の秀句に呼応して生まれた。短篇百趣。
深く温かな眼差しと透徹した筆で編み上げた小説版歳時記。
俳句17字を題名とした短篇を、6年ばかりのあいだに百、書いた。それぞれの短篇の発想を俳句から借りているもの、あるいは文章と俳句が相補って、作品になっているもの、ただ並行しながら拮抗して、そこで平衡をたもっているようなものなど、あれこれと工夫をしてみた。17字という短形式の文学と競合を試みた。
俳句と小説との幸福な婚姻が成立している、と認めてもらえるならば作者冥利につきる。

淳和院正子
文芸(単行本)
仏道に生きた皇后の生涯!
仏教徒として、天皇家ではじめて夫を火葬・散骨した淳和皇后・正子の一生を描く、書下ろし長篇。
「すべてが異例ずくめの大葬なのだ。正子はひどく自由な心境になっていた。岑継(みねつぐ)が畏って、仕丁の1人1人にも上皇の御骨を渡す有様を、これまで経験したことのない悦びに浸って眺めながら、数珠を押し揉み、上皇の書き記した文言を読み続けた。──天珠のごとく渉入して虚空に遍じ、重重無礙(じゅうじゅうむげ)にして利塵(せつじん)に過ぎたまえるを帰命(きみょう)したてまつる──正子が3度ばかり文言を唱えるあいだに、淳和上皇の骨は陽の光を反射して輝きながら谷あいの濃い緑のなかへ吸いこまれて消えた」──(本文より)

おやすみ、夢なき子
文芸(単行本)
少女は夢を見たことがなかった。
朋余(ともよ)から夢を奪った恐ろしいものは何?28年ぶりに発見された幼なじみの死体……。それは連続殺人事件の幕開けだった。
子供のころ夢を見た記憶がない主婦・田所朋余は28年ぶりに死体で発見された友人の秘密を調べ始める。次々と起こる殺人事件は失った“夢”の代償なのか……!?

妃・殺・蝗
文芸(単行本)
すべて書下ろし、飛びきり新鮮な3異色作。
●井上祐美子「妃紅」から──南海のまぶしい陽光の中を、船はゆっくりとすべりだした。6月、真夏の風の中を、廈門(アモイ)の港と、その背景の風景が遠ざかる。
●塚本青史「殺青」から──司馬遷が、この険阻な蜀の桟道を通るのは2度目である。最初に来たのはもう10年以上も前だ。若さに任せて諸国を流浪し、地方に埋もれた伝説や偉人豪傑の逸話を発掘しに歩いた頃であった。
●森福都「黄飛蝗」から──東都洛陽の北、黄河の南に横たわる芒山(ほうざん)は、東西330里余りにも及ぶ大丘陵である。その芒山で飛蝗──飛び蝗が大発生したとの報が朝廷に届いたのは、開元7年の夏、麦もすっかり色づいた5月1日のことだった。

時代小説の愉しみ(新装版)
文芸(単行本)
人間の面白さ、ここにあり。
信長をはじめとする歴史上の人物の魅力から、小林秀雄との若き日の出会いまで。著者没後10年を経て、さらに味わい豊かな名文45編。
まったくのところ、死者たちの決然とした風貌の見事さはどうだ。長い時間の風化を受けて、その像には鼻が欠け、耳は欠けているかもしれないが、それでも尚、誇らかに己れの志だけは明確に告げているかに思える。1人の人間の知恵など、たかのしれたものであることを、私は30余年にわたるシナリオ・ライターの生活で、身に徹して知っている。だからこそ私にはこの死者たちの助けが何とも有難く、貴重なものに思えるのであり、だからこそ私はない知恵をしぼって、ひとつのロマンの構築に立ち向かうことが出来る。それこそ歴史小説の、いや、時代小説の有難さであり、強みではないか。──(あとがきより)

どんどん橋、落ちた
文芸(単行本)
これぞ“騙し”の真骨頂。欺かるるなかれ!
必要な手がかりはすべて提出された。真相はたったひとつ。無類の稚気とフェア・プレイ精神あふれる綾辻流本格ミステリ、お待ちかねの最新傑作集!
ダブル・ミーニングという技法がある。ひとつの言葉に複数の意味あいを持たせることで、およそミステリでは飽きるほど繰り返し使われてきたテクニックである。この集に収められた一連の作品では、その技法が極限まで展開されている。そこに折りこまれた意味づけのダイナミック・レンジは、ミステリとしての作品それ自体をはみだして、著者個人の歩みや、彼が拓いた新本格というジャンルそのものにまで及んでいる。いわば、これらの作品は、彼自身とミステリに捧げられた哀悼の詩(うた)なのだ。だから、その意味でもこの連作集は、一見そうであるような愛すべき小品集でありながら、ミステリそのものの過去と現在と未来を透視し、封印した、綾辻行人〈中期〉の劈頭を飾る代表作というべきなのである。──竹本健治

Pの密室
文芸(単行本)
御手洗潔は幼年時代から名探偵だった。
あの不思議な力は、5歳の時には既に具わっていた。幼稚園時代と小学校2年生時、現在の御手洗を決定づけた不可解で陰惨な大事件。あの名探偵の過去がここに明かされる!
御手洗の仕事の紹介に手を染めてほぼ20年、私自身まさかこんな原稿を書くことになろうとは夢にも思わなかった。事件に妙な謎があったという興味もあるが、このところ読者にさかんに尋ねられるところの友人の血筋とか、育った環境、また両親についても若干の情報が本件から得られたので、この点も私に、この稿の公表を決意させた理由である。──(本文より)

彼方より
文芸(単行本)
ジャンヌ・ダルクと共に戦った英雄にして幼児虐殺の半獣神
《青ひげ》ジル・ド・レの真実
悪の深淵に魅せられ、極限の祈りを追求する魂の彷徨!
15世紀のフランス。富裕な大貴族であり稀代の快楽殺人者だったジル・ド・レ。究極の悪を犯すため彼に近づいていった若き錬金術師。神と、己の心が欲するものとをひたすら求めた罪深き人間たちが最後に見たものは。構想20年──今も変わらぬ無限の苦悩と救済を描き尽くした著者渾身の一作!

Piss
文芸(単行本)
クレイジーな愛と性を描く最新作品集
ビートたけし氏絶賛!
生きるのに飽きたらムロイを読め。
おじさんがグラスの角度を変えてオシッコを飲みほしはじめたので、
慌てておしぼりを差しだした。ちょっとタイミングが遅れて、
精液が少しあたしの脚にかかった。温かかった。
おじさんはおしぼりのきれいなところで脚を拭いてくれた。
「味見したかったのに」
と笑いながら冗談でいったら、おじさんは小さくかぶりを振った。
「あたし、明日20歳になるの」
おじさんはほほえんだ──本文から

毒針 銀行屋研次郎事故簿(2)
文芸(単行本)
巨大銀行に国家権力の謀略が迫る。金融戒厳令下の日本を舞台に展開する、銀行サスペンス小説!
研次郎は大手都銀の雄「三富銀行」の総務部に籍を置く銀行員だ。東大法学部卒のエリートだが、目下、「特別調査役」の名刺を持ち、特殊な任務を帯びている。──本文より