講談社文芸文庫作品一覧

湯葉・青磁砧
講談社文芸文庫
没落した幕臣の娘が、15歳で神田の湯葉商の養女となり、養父を助けその半生を捧げる名作「湯葉」。すぐれた陶器や陶芸家に魅せられる父と娘の、微妙な心の揺曳を抒情的に描く「青磁砧」(女流文学賞受賞作)。男に執着する娼婦上りの女の業に迫る「洲崎パラダイス」。「青果の市」で芥川賞を受賞した著者の、中期を代表する3篇を収録。

天国が降ってくる
講談社文芸文庫
主人公・葦原真理男は、九州の没落した旧家の末裔。新聞社に勤める父親の転勤によりロシアに暮すが、高校受験のために単身で帰国。父の友人の若い大学助教授・中之島妙子の家に寄寓し、異国からの転校生として特異な日常が始まる。高速回転する真理男の精神は、やがて晩年の感覚を所有し、自己昇華をめざす。パロディを駆使し、自意識を追究した、島田文学の初期集大成。

ロード・ジム(下)
講談社文芸文庫
船員をやめたジムは、自分自身の抱く誠実にして高邁な自己像の実体を求めて「白人社会」を離れて行く。語り手マーロウ船長の友人でサマランで商社をいとなむシュタインは、ジムをスマトラのパトサン出張所に派遣する。パトサンで原住民から伝説的な名声を得たジムは理想的な統治者としてふるまうが、悪漢ブラウンの出現で平和な村に事件が起こる。

ロード・ジム(上)
講談社文芸文庫
一等航海士のジムは、遭難した老朽船パトナ号に800人の乗客を残したまま、切迫した状況下、船を見捨てて船長ら3人とボートで脱出してしまう。船は助かったがジムの悔恨は大きく、果てしない放浪が始まる。ジョゼフ・コンラッドは1857年ポーランド生まれ。17歳の時マルセイユで船員生活に入り、1886年イギリスに帰化。94年に船員をやめ、創作に専念。

神秘の詩の世界 多田不二詩文集
講談社文芸文庫
心霊的なものに心惹かれて、都会の夜の神秘をよんだ2冊の詩集『悩める森林』『夜の一部』の出現により、1920年代詩に光芒を放つ異色の詩人多田不二(1893-1968)。ドイツの詩人デーメルに共鳴し、「鬼怒川のほとりにて」「求愛」「女」等の恋愛詩を作り、芥川龍之介をして「夜の精霊の幻覚が生々しいほど迫ってくる」と言わしめた実存的な新神秘主義の唱導者の全貌を甦らせる詩篇とエッセイ。

椋鳥日記
講談社文芸文庫
ライラックの蕾は膨らんでいても外套を着ている人が多い4月末のロンドンに着いた主人公は、赤い2階バスも通る道に面した家に落ち着く。朝早くの馬の蹄の音、酒屋の夫婦、なぜか懐かしい不思議な人物たち。娘や秋山君との外出。さりげない日常の一齣を取りあげ、巧まざるユーモアとペーソスで人生の陰翳を捉え直す、純乎たる感性と知性。ロンドンの街中の“小沼文学の世界”。平林たい子賞受賞。

おろおろ草紙
講談社文芸文庫
天明の大飢饉に見舞われた奥州八戸藩での凄惨な人肉食を鉄砲隊足軽小十郎の日録を追いながら苛烈に描写。飢饉による死者たちの嘆き、生に執着する人々の業を直視し、人間存在の根本に迫る代表作「おろおろ草紙」。ほかに、「暁闇の海」「北の砦」「海村異聞」の歴史小説3篇を収録。著者の郷里に材を得、庶民の強靱な生きざまを鮮やかに描いた傑作小説集。
天明の大飢饉に見舞われた奥州八戸藩での凄惨な人肉食を、鉄砲隊足軽小十郎の日録を追いながら苛烈に描写。飢饉による死者たちの嘆き、生に執着する人々の業を直視し、人間存在の根本に迫る代表作「おろおろ草紙」。ほかに、「暁闇の海」「北の砦」「海村異聞」の歴史小説3篇を収録。著者の郷里に材を得、庶民の強靱な生きざまを鮮やかに描いた傑作小説集。

虐殺された詩人
講談社文芸文庫
多情な女マカレと旅芸人の間に生まれた主人公は、母と養父を失い、長じて詩人となるが、反詩人運動家たちの迫害により殉死する──夢と幻想と怪奇趣味に彩られた自伝的小説「虐殺された詩人」を冒頭に置き、科学と迷信と魔術、エロチズムとピューリタニズム、人形劇や腹話術など、まばゆいばかりのアラベスクをなす多彩な短篇から構成されたシュルレアリスト小説の精華。

雲・山・太陽 串田孫一随想集
講談社文芸文庫
哲学、文学、音楽、美術など、多方面のジャンルにわたる厖大な著作から、山行と旅に関わる芳醇なエッセイを収録。さりげなく、平易、明晰な言葉で語る、人と自然との関係・対話、深い思索と瞑想、その豊かな叡知の世界。「春の富士」「北穂高岳」「遠い未来の山人に」「風光る日」など、若き日から60年を越える、独創的山の文学の精髄。哲学者・詩人・希有な登山家・串田孫一の、山と旅の随想集。

私のソーニャ・風祭 八木義徳名作選
講談社文芸文庫
「工人招募」の貼紙に応募してきた吃音の大男が、周囲から愚弄されながらも勇者として認められるまでを描いた1944年芥川賞受賞作「劉廣福(リュウカンフウ)」、苦界に生きる女性とのかかわりに〈私〉の心の彷徨を重ねた戦後の代表作「私のソーニャ」、異母兄との交流を綴った読売文学賞受賞作「風祭」、ほかに文学に纏わる随想など八木義徳の代表的作品を1冊にまとめた名作選。

浦島草
講談社文芸文庫
広島で被爆した女性●子(●=さんずいに令)が、庭先に浦島草の咲く東京の家でひっそりと暮らす。そこへ11年ぶりにアメリカ留学から主人公の雪枝が帰って来る。後を追う恋人のマーレック。●子には雪枝の兄・森人との間に、自閉症の息子・黎がいた。多くの人物が広島の滅びの光景を引きずり、物語が進む。人間の無限の欲望と、その破滅を予感する作家が、女たちの眼を通して創出した、壮大で残酷な詩的小説世界。
広島で被爆した女性冷子が、庭先に浦島草の咲く東京の家でひっそりと暮らす。そこへ11年ぶりにアメリカ留学から主人公の雪枝が帰って来る。後を追う恋人のマーレック。冷子には雪枝の兄森人との間に、自閉症の息子黎がいた。多くの人物が広島の滅びの光景を引きずり、物語が進む。人間の無限の欲望と、その破滅を予感する作家が女たちの眼を通して創出した壮大で残酷な詩的小説世界。

カルメン・コロンバ
講談社文芸文庫
セビリアの煙草工場の衛兵ドン・ホセは、騒ぎを起こした女工のカルメンを護送中にわざと逃がす。これをきっかけに激しい恋に落ちたドン・ホセは嫉妬から上官を殺しカルメンの手引きで盗賊団に加わる──余りにも有名な名作「カルメン」の他に、コルシカの旧家の娘が、父の仇をうちたいとの執念から予備役中尉の兄を強引に誘う復讐譚「コロンバ」を併せて収録。

蕪村集
講談社文芸文庫
伝統的俳句を継承しつつも俳句の近代化を追求して人間探求派と称された『万緑』の著者による俳句評論集。蕪村の俳句の口語訳と解釈を中心にした「俳句編」では、〈新年の部〉〈春の部〉〈夏の部〉〈秋の部〉〈冬の部〉に分けて「蕪村を歴史的に価値づけている」俳句作品をほぼ採録。芭蕉の句とも対比させ、実作者の立場から鋭く独創的な蕪村論を展開。ほかに「俳諧編」「俳文編」「俳論編」など。

日本三文オペラ 武田麟太郎作品選
講談社文芸文庫
後年は風俗小説「銀座八丁」を書いたプロレタリア作家の初期権力との格闘を示す伏字××のある小説「暴力」収録。その後浅草のアパートを舞台に庶民男女の哀歓を活写した「日本三文オペラ」や「市井事」「一の酉」「井原西鶴」と、「川端康成小論」「西鶴町人物雑感」「好色の戒め」等の評論を併録。強靱な散文精神で戦前戦中の激動時代を疾駆した作家武田麟太郎の精髄を1冊に凝縮。

螢の河・源流へ――伊藤桂一作品集
講談社文芸文庫
苛烈な戦場での日々に、死を凝視しつつ、なお友情、青春が息づく、その刻々を淡々と描いた、直木賞受賞作「螢の河」。堪え難い神経痛と耳鳴りに悩む“ぼく”が山奥での岩魚釣り中、不意に“生きてゆくこと”を深く認知する名作「源流へ」。「帽子と菜の花」「帰郷」「溯り鮒」「名のない犬」等、詩人の眼が捉えた、戦場、身辺、釣り、動物達との交歓。伊藤桂一の小説世界を開示する珠玉の名篇全10篇。

白鯨 モービィ・ディック 下
講談社文芸文庫
燃え立つ太陽と薄明の月影、輝く天空と無限の深海の闇、苛酷な人間の運命を暗示するかのような大海原の真っ只中で起った捕鯨船ピークオッド号乗員らの惨劇。巨鯨モービィ・ディックに敗れゆく片脚の老船長エイハブ。禍々しくも、また神々しい巨大な一頭の白鯨をめぐって展開される雄大な海洋冒険小説の趣ある古典的名作を新たな読みやすい訳にしたオリジナル文庫。全2冊。

無盡蔵
講談社文芸文庫
「私の陶芸の仕事は、京都で道を見つけ、英国で始まり、沖縄で学び、益子で育った」日用品の素朴な美を認め、益子に築窯、制作し、民芸運動の創始者として活動した著者が、河井寛次郎、リーチ、柳宗悦、富本憲吉ら生涯の友や、志賀直哉、梅原龍三郎等との出遇い、若き日のことなど半世紀に亘る陶芸人生を綴る。日常雑器を世界の益子焼とした著者の創造精神溢れるエッセイ集。

歌枕
講談社文芸文庫
老舗の主人が身代を投げ出して、店の下働きに来ていた年若い女と、市井の片隅で暮らし始める。一生を棒に振ったも同然ながら、今が生涯で最も幸福な時であると感じるゆったりした生活も、しのびよる老いには勝てず思いがけない結末を迎える──変転の末にゆきついた穏やかな老境を描いた名作「歌枕」(読売文学賞受賞)の他、「きりぎりす」「此の世」「残月」を収録。

日の果てから
講談社文芸文庫
1945年4月、アメリカ軍沖縄本島に上陸。凄絶な地上戦の〈地獄絵〉の中、逃げ惑う住民。刑務所も遊廓も、そこに縛られる人々も何もかも、沖縄は死の渦のなかで回転しやがて敗戦とともに浄化される。神女殿内(のろどんち)の家柄である神屋家を絡め、文化、歴史、風土を背景に太平洋戦争末期の沖縄戦を神話的世界にまで昇華させた傑作長篇。平林たい子賞受賞。

あめりか物語
講談社文芸文庫
明治36年荷風24歳から明治40年28歳まで4年間のアメリカ見聞記を24篇の小説に収める。渡航中の情景を描いた「船房夜話」、癲狂院に収容された日本人出稼ぎ労働者の無惨な話「牧場の道」など。異国の風物に対峙した荷風の孤独感、鋭い感性と批評精神溢れる新鮮な感慨は、閉塞した時代に憧憬と衝撃を与えた。『ふらんす物語』と併称される初期代表作。