講談社学術文庫作品一覧

訳注「淮南子」
講談社学術文庫
淮南王劉安(前一七九~前一二二)が招致した数千の賓客と方術の士に編纂させた思想書『淮南子』。老荘を中心に、儒家・兵家・法家・墨家思想も取り入れ、紀元前の中国における、知の百科全書である。前漢の武帝に愛秘されたが、その思想性よりも芸文性の高さが評価されていた。魅力的な『淮南子』の全貌を、コンパクトな形で紹介。【電子書籍】『訳注『淮南子』 増補改訂版』は、「人間万事 塞翁が馬」を収録、新解説を追加。
道家、儒家、法家、兵家、墨家の諸子百家思想と、天文・地理・時令・説話の知識を最大限網羅した、古代中国の思想の百科全書!!
淮南王劉安(前一七九~前一二二)が招致した数千の賓客と方術の士に編纂させた思想書『淮南子』。老荘思想を中心に、儒家・兵家・法家・墨家思想も取り入れた紀元前の中国における、知の百科全書である。前漢の武帝に愛秘されたが、実際はその思想性よりも芸文性の高さが評価されていた。魅力溢れる『淮南子』の全貌を、コンパクトな形で紹介する。
本書『淮南子』は、劉安が中国各地より招致した多数の賓客(数千人とも言われる諸子百家)に命じて、書かせ編纂した思想書である。『淮南鴻烈(わいなんこうれつ)』とも称される。……本書の編纂の開始は、景帝が崩御した前一四一年、完成は武帝即位の翌年(前一三九)である。
劉安は、春秋・戦国以来、前漢初期に至るあらゆる諸子百家の多様な思想を打って一丸となし、当時必要とされていた統一国家の理論を構築して、即位したばかりの青年皇帝武帝の政治に影響を与えようとしたのである。――<「始めに」より>
※本書の原本『淮南子 知の百科』は、小社より1989年に刊行されました。文庫化にあたり、全面的に改稿し関係論著目録も大幅に増やしました。
◎【電子書籍】『訳注『淮南子』 増補改訂版』は、「人間万事 塞翁が馬」を収録、新解説を追加。

ソシュールを読む
講談社学術文庫
近代言語学の父、フェルディナン・ド・ソシュール。残された手稿と「一般言語学講義」聴講生のノートから三度の講義内容を復元し、コトバを手がかりに文化や社会の幻想性を解明・告発する、その思想と方法を精緻に読み解く。二〇世紀の諸科学、とりわけ構造主義やポスト構造主義に多大な影響を与えた思想の射程と今日的な可能性が、あざやかに甦る。(講談社学術文庫)
コトバが指す実体はなく、そこには差異しか存在しない。
その差異に意味は生じる――ひらかれてゆくコトバの謎
近代言語学の父、フェルディナン・ド・ソシュール。残された手稿と「一般言語学講義」聴講生のノートから三度の講義内容を復元し、コトバを手がかりに文化や社会の幻想性を解明・告発する、その思想と方法を精緻に読み解く。二〇世紀の諸科学、とりわけ構造主義やポスト構造主義に多大な影響を与えた思想の射程と今日的な可能性が、あざやかに甦る。
そもそもソシュールの文化記号学とは「読み」の営為なのである。そこで読まれるものは自己完結的な作品ではなくテクストであり、或るテクストを読むことが、既成の思考形式を批判し、これをバネとして変形的実践を行いながらもう一つのテクストを生産するという意味でのエピステモロジーでもある。ソシュールにあっては、「読むこと」と「書くこと」と「生きること」との間には柵がない。――<本書「あとがき」より>
※本書の原本は、1983年6月、岩波書店より刊行されました。
![吉田茂=マッカーサー往復書簡集 [1945-1951]](https://dvs-cover.kodansha.co.jp/0000211599/LuBO3LjHTa4DDcbpsK1QQfPEaKMAwfN0FkKx3MtN.jpg)
吉田茂=マッカーサー往復書簡集 [1945-1951]
講談社学術文庫
ジョン・ダワー、激賞!
戦後反動の系譜を明らかにする、第一級資料集!
「この比類ない書簡集は日米の相互関係に関するわれわれの理解をかぎりなく増してくれるでしょう」
――ジョン・W・ダワー(MIT名誉教授)
*
「戦争で負けても外交で勝つ」ことをモットーにした吉田茂は、
マッカーサーとの外交に最大のエネルギーを注いだ。
それが占領下日本における政治のすべてだからであった。
存在さえも隠されていた幾多の書簡は、
占領軍との間で繰り広げられた手に汗にぎる折衝の全容を明らかにする。
何を「護持」したかったのか? いったい何が「保守」できたのか?
孤軍奮闘、臣茂。民主改革、阻むため。
※本書の原本は2000年に法政大学出版局より刊行されました。原本には書簡の英語正文が収録されています。

象形文字入門
講談社学術文庫
ヒエログリフからアルファベット、そして漢字まで
古代エジプト発、文字の始原をめぐる冒険
練習問題「ヒエログリフの読み方」&単語集つき
古代エジプトの文字世界を、ヒエログリフの読み方にはじまり、数々の物語などを交えて、あざやかにレクチャー。さらには未開社会の絵文字と象形文字との比較から文字の起源を問い、アルファベットの誕生や世界の象形文字、日本の文字文化へと思いを馳せる、格好の入門書にして縦横無尽に展開する文字論。ヒエログリフの単語集、解読練習問題付き。
エジプト人は、文字をつくったのが自分たちの祖先だとは思っていなかった。朱鷺(とき)(またはヒヒ)の姿をした知識の神トトが創造したものと信じていた。(中略)トトは文字を発明するとともに、「神々の書記」としておさまっていた。エジプトでは神々も字が読めるとはきまらなかったのである。もちろん言葉や文字を神聖視したり実用以上のものと考えることは、エジプト人にかぎらない。わが国にも「ことだま(言霊)」の思想があり……――<本文より>
※本書の原本は、1962年11月に、中公新書として刊行されました。

フィレンツェ
講談社学術文庫
文藝春秋より1994年に刊行後、文春文庫として1999年刊行の同名書籍の学術文庫化。

政治の教室
講談社学術文庫
〈ムラの政治〉の地に足つけて、日本型・草の根民主主義のすすめ。
政治はあなたが手作りするもの。無党派層とか言わせない。
日本人に民主主義は可能か? 民主主義はもっともすぐれた政治制度だと唱える本書は、それが、全員一致と連帯責任のムラ政治をつづけてきた日本の伝統とは相反することを認めるところから出発する。
ムラ原理がもたらす破滅とは何か?
民主主義を手づくりするには何からはじめればいいのか?
「可能なこと」の提示と呼びかけにつとめる実践の書。
***
――民主主義の原点は、「公衆」である。「いい大人が大勢集まる」ことが究極、最高の公共性のありかたであり、これ以上はないのだ。この感覚が、腹の底までしみ渡ることが、草の根民主主義にとって、とっても大切だと思う。本書の最後でのべた「草の根グループ」は、まさに「いい大人が大勢集まる」ことだった。これができなければ、民主主義の育ちようがないのも明らかだ。――<本書「あとがき」より>
※本書の原本は、2001年10月に、PHP研究所より刊行されました。

建武政権――後醍醐天皇の時代
講談社学術文庫
北条得宗家の執政体制下、幕府は武士の支持を失い、朝廷は大覚寺統と持明院統の対立と両統迭立(てつりつ)の中にあった鎌倉時代後期に出現した公家一統体制。それは復古反動か、封建王政か? 延喜(えんぎ)・天暦(てんりゃく)の治を理想とする天皇の政権はどのように誕生し、どんな構成と性格を有し、短期間で滅んでいったのか。史料の精緻な読みを通し、後醍醐の夢と挫折を解明する。
混沌の中世に一瞬、開花した公家一統体制 それは復古反動か、封建王政か?
後醍醐の夢と挫折
北条得宗家の執政体制下、幕府は武士の支持を失い、朝廷は大覚寺統と持明院統の対立と両統迭立(てつりつ)の中にあった鎌倉時代後期に出現した公家一統体制。それは復古反動か、封建王政か? 延喜(えんぎ)・天暦(てんりゃく)の治を理想とする天皇の政権はどのように誕生し、どんな構成と性格を有し、短期間で滅んでいったのか。史料の精緻な読みを通し、後醍醐の夢と挫折を解明する。
※本書の原本は、1980年11月、教育社より刊行されました。

暗号 情報セキュリティの技術と歴史
講談社学術文庫
ソーシャル、モバイル、クラウド、スマート……。爆発的発展を遂げる情報化社会は、有史以来、軍事・外交の「秘匿」を担った暗号の役割を、「認証」へと一変させた。情報セキュリティを担う現代暗号の特性とは? 「共通鍵暗号」「公開鍵暗号」「零知識対話証明」の数理も平易に解説。暗号の歴史と倫理、その技術基盤のすべてがわかる格好の入門書。(講談社学術文庫)
軍事・外交の道具からクラウド時代の基盤技術へ
シーザー暗号、エニグマ暗号、紫暗号……を超えて登場した共通鍵暗号・公開鍵暗号の意義と数理の魔術とは?
ソーシャル、モバイル、クラウド、スマート……。爆発的発展を遂げる情報化社会は、有史以来、軍事・外交の「秘匿」を担った暗号の役割を、「認証」へと一変させた。情報セキュリティを担う現代暗号の特性とは? 「共通鍵暗号」「公開鍵暗号」「零知識対話証明」の数理も平易に解説。暗号の歴史と倫理、その技術基盤のすべてがわかる格好の入門書。
一九八〇年代に入ると、科学技術史上、火薬の発明にも匹敵すると言われる公開鍵暗号が利用され始め、「軍事・外交以外の分野でも暗号が役に立つらしい」ということが話題に上るようになった。二〇一〇年前後から、ソーシャル・ネットワーキング・サービスやスマート・フォンが日常生活に溶けこみ、情報環境は大きな変革期に入った。暗号研究の分野でも、暗号化したまま、平文(ひらぶん)に戻さずに加算・乗算や統計処理などを自由に行う方法の研究が活発に行われている。……個人情報や企業の機密情報の流出が深刻な社会的懸案となっている。情報漏洩を防ぐ有効な手段は、公開鍵暗号による本人確認と共通鍵暗号による秘匿である。こうした背景の中で、暗号の重要性が再認識されている。――<「学術文庫版まえがき」より抜粋>
※本書の原本は、弊社より1996年に刊行された『暗号――ポストモダンの情報セキュリティ』です。

逸楽と飽食の古代ローマ―『トリマルキオの饗宴』を読む
講談社学術文庫
『トリマルキオの饗宴』は、古代ローマが生んだ風刺小説の金字塔『サテュリコン』の最も有名な場面である。そこに描かれた山海の珍味と美酒、かしずく少年奴隷たち、黄金の腕輪と銀の尿瓶……解放奴隷の成金富豪が催す饗宴の一部始終を解読。厖大な文献、考古・美術資料を駆使して、繁栄を謳歌するネロ帝時代の社会と、人々の人生観を再構築する。(講談社学術文庫)
風呂につかって、遊び、笑う。
それが人生だ!
ネロ帝時代の大宴会を再現。古代風刺小説の金字塔『サテュリコン』のハイライトシーンを徹底解読。
『トリマルキオの饗宴』は、古代ローマが生んだ風刺小説の金字塔『サテュリコン』の最も有名な場面である。そこに描かれた山海の珍味と美酒、かしずく少年奴隷たち、黄金の腕輪と銀の尿瓶……解放奴隷の成金富豪が催す饗宴の一部始終を解読。厖大な文献、考古・美術資料を駆使して、繁栄を謳歌するネロ帝時代の社会と、人々の人生観を再構築する。
ネロの治世前半は文字どおり平和と繁栄の時代だった。都の住民は市民権をもつ限り、どのように貧しくとも最低限の食糧が皇帝によって保障されていた。市民の最大の関心事は、いかに生きるかというよりもいかに楽しむかであった。したがって、歴代の権力者たちは娯楽施設の整備に余念がなかった。最低限の食糧給付と催し物の提供、つまり「パンとサーカス」こそが皇帝の都における義務であり政策だった。(本書・第一章より)
※本書は、1997年に中央公論社より刊行された『トリマルキオの饗宴―逸楽と飽食のローマ文化』を文庫化にあたり改題したものです。

大いなる小屋 江戸歌舞伎の祝祭空間
講談社学術文庫
櫓、看板、積物、衣裳、橋、桟敷、幕、鼠木戸、船、紋……神と魔が出現する「戯場国(けじょうこく)」を生む美意識と心性を徹底解明する最高・最良の劇場論!
江戸時代と現代の歌舞伎との断絶。その最たるものが、劇場空間と社会的位置づけの違いである。辺境にある「悪所」は噎(む)せ返るほどの祝祭性を発散し、役者と観客は渾然一体となって別天地に酔った。歴史学、民俗学、人類学などの知見も総動員し、江戸時代の芝居小屋を活写再現する。「紙の上に劇場を建てた」(渡辺保)と評された劇場空間論の決定版。
老中水野忠邦は……劇場を指して「大造ノ小屋」と称している……為政者の命名による「大造ノ小屋」とは「物」(建物)としての劇場を指していた。しかし、近世都市民の精神史にあって、この「小屋」は、「物」の大きさをはるかに超える大きな存在であった。彼らは、その独特な空間において役者の肉体が創り出す、目くるめく劇的宇宙を幻想し、憧憬し、体験することにより、これを「偉大なる小屋」に転換せしめた。それは「大いなる小屋」の名で呼ぶことこそもっともふさわしかった。(「芝居小屋論序説」より)
※本書は、1994年に刊行された『大いなる小屋――江戸歌舞伎の祝祭空間』(平凡社ライブラリー)を底本にし、新たに雑誌『歌舞伎 研究と批評』(歌舞伎学会、発売・雄山閣)に収録された対談を付録として追加しました。

愚管抄 全現代語訳
講談社学術文庫
天皇家・摂関家内部の権力抗争が武力衝突に発展し武士の政界進出の端緒となった保元の乱。そこに、乱世の機縁をみた慈円は、神武天皇以来の歴史をたどり、移り変わる世に内在する歴史の「道理」を明らかにしようとする。摂関家に生まれ、仏教界の中心にあって、政治の世界を対象化する眼をもった慈円だからこそ書きえた歴史書の、決定版全現代語訳。(講談社学術文庫)
乱世に「道理」はあるか!? 源平の盛衰、宮廷の動静、天皇の歴代、神仏の世界と人間の世界
史上稀有な歴史書を、読みやすい訳文と、文中の丁寧な訳注で読む!
天皇家・摂関家内部の権力抗争が武力衝突に発展し武士の政界進出の端緒となった保元の乱。そこに、乱世の機縁をみた慈円は、神武天皇以来の歴史をたどり、移り変わる世に内在する歴史の「道理」を明らかにしようとする。摂関家に生まれ、仏教界の中心にあって、政治の世界を対象化する眼をもった慈円だからこそ書きえた歴史書の、決定版全現代語訳。
年のたつにつけ、日のたつにつけて物の道理ばかりを考えつづけ、年老いてふと目ざめがちな夜半のなぐさめにもしているうちに、いよいよわたくしの生涯も終りに近づこうとしている。(略)神々の時代のことはわからないが、人間の天皇の御代となった神武天皇以後、王は百代といわれているのに、すでに残りは少なく八十四代にもなっている中で、保元の乱が起こって以後のこと、また『世継の物語』(『大鏡』)のあとのことを書きついだ人はいない。(略)この乱世のことを案じてばかりいる自分の心を安らかにしたいと思って、この書物を書きしるすのである。――「巻第三」より
※本書の原本は、1971年6月、「日本の名著 9『慈円・北畠親房』」として、中央公論社より刊行されました。本書は、中公バックス版「日本の名著9」(1983年刊)を底本としました。

政治学への道案内
講談社学術文庫
「政治学は何の役に立つ?」
幾度もの改訂を重ねながら読み継がれてきた伝説の「教科書」に著者最後の増補原稿を加え、完全版として待望の復刊。
政治学におけるあらゆる分野の基礎知識を平易に解説する本書は、統治の学から自治の学へととらえなおす視点で貫かれ、
入門書でありながら我々にとっての政治学の実用価値を知らしめる。
復権、市民教養!
【本書の内容】
序 政治学は何の役に立つ?
第1章 政治学
1 歴史・分野・特質
第2章 政 治
1 政治とは何か
2 政治の〈原理〉について
第3章 国家とナショナリズム
1 近代国家の特質
2 日本人であること
3 民族と国民
第4章 国際政治と日本
1 国際社会の政治構造
2 国際法と国際機構
3 第二次大戦後の世界
4 二一世紀の国際社会
第5章 権力と支配
1 政治権力
2 権力の構造化――国家権力の成立
3 権威と支配
4 支配の状況化
第6章 リーダーシップ
1 政治的リーダーシップ
第7章 シンボルとイデオロギー
1 シンボルとイデオロギー
2 やさしい心――政治における「事実」と「イメージ」
第8章 政治意識と政治的人間
1 政治意識とは何か
2 政治的無関心のタイプ
3 政治的人間の論理
4 家庭と政治
第9章 民主主義
1 民主主義――意味と力学
2 民主主義――歴史と類型
第10章 議会主義
1 議会とは何か
2 近代議会主義と国民代表制
第11章 政治運動
1 政治運動への視角
2 大衆運動の論理と構造
3 市民参加の論理と展望
第12章 現代政治
1 現代政治のダイナミクス
2 独裁について
3 全体主義とファシズム
4 現代革命の思想と論理
第13章 日本の政治
0 まえがき
1 日本の政治的風土
2 近代日本の政治
3 戦後日本の政治構造
4 戦後日本の政治過程
5 現代日本の権力構造――政財官複合の形成
第14章 政治理論
1 現代の政治理論
◎文献案内/あとがき/解説(五十嵐暁郎)/索引

ヘーゲル「精神現象学」入門
講談社学術文庫
「意識」から「絶対知」へ
ギリシャ以来の壮大な知の体系の再構築に挑んだ、哲学史上最も難解にして重要な著作へのいざない
感覚、知覚、悟性、自己意識、理性、精神。意識は経験をとおして高次に向かい、「絶対知」へと到達する――。近代西洋哲学史上、最も重要にして最も難解とされる大著の核心を、精緻な読解と丁寧な解説で解き明かす。「絶対的な真理」を秘めた神話的な書物という虚妄のベールを剥いで立ち上がる、野心的な哲学像の実現に挑んだヘーゲルの苦闘の跡とは。
非常に難解ではあるが、マルクスやサルトルを魅了し、ハイデガーもけっして無視することができなかった、この哲学史上の名著を、誰でも読めるように、引用と要約と解説を組み合わせて、全体の面白さがわかるようにしたいというねらいだった。さまざまな迷路があり、高台があり、行き止まりのところがあるという、複雑に入り組んだ『精神現象学』という世界の名所案内と地図とを兼ねた書物にしたいと思った。――本書「はしがき」より
※本書の原本は、1996年1月、有斐閣より『ヘーゲル「精神現象学」入門〔新版〕』として刊行されました。

地図から読む歴史
講談社学術文庫
過去の景観の残片は、さまざまな形で地図に姿を留めている。地名や地形、道路、寺社などの位置関係と実地の検分から、そこに生きた人々の「地表経営」とその意図を解明する<歴史地理学>の楽しみ。聖武天皇の都・恭仁京の全貌、信長の城地選定基準、江戸建設と富士山の関係など、通常の歴史学ではアプローチできない日本史の側面に新たな光をあてる。
原本は、『景観から歴史を読む―地図を解く楽しみ』(1998年、日本放送出版協会刊)

日本美術全史 世界から見た名作の系譜
講談社学術文庫
20世紀後半以降、日本の美術作品が海外でも紹介されるようになりましたが、その興味はあいかわらず異国趣味によるものであり、特殊なものとして扱われる傾向があります。一般人でも理解できるような「芸術作品」として「普遍的」な価値観をきちんと提出できるならば、批評の対象としての「日本美術」が「世界美術史」の中で正当な位置を占めることができるはずと筆者は考え、あらためて日本美術史を編み直すことに挑戦します。
普遍的な価値とはなんでしょうか? 理想主義、人間主義、そして「気韻生動」(「リズミックな生動感または生動の中のリズム」ローレンス・ピンヨン『極東の絵画』)が、普遍性につながる特徴といえると考えます。また、写実性や真実性もその特徴になりうるでしょう。
上記のような普遍的な価値をもとに、縄文から現代にいたる日本美術の作品を縦横に論じ、新たに編み直していきます。取り上げられた作品数も500点以上。もうひとつの日本美術史がここにあります。

百代の過客 〈続〉 日記にみる日本人
講談社学術文庫
遣欧米使節、鷗外、漱石、子規、蘆花、荷風
有名無名の人々が見た近代日本の光と陰
幕末から明治へ――「若い時代」を生きた日本人のこころ
西洋との鮮烈な邂逅で幕を開けた日本の近代。遣欧米使節、諭吉、鷗外、漱石、植木枝盛、子規、啄木、蘆花、荷風――。有名無名の人々が遺した三十二篇の日記に描かれる、幕末・明治という日本の「若い時代」に現出したさまざまな異文化体験。そこに浮かび上がってくる、日本人の心性と日本人像、そして近代日本の光と陰。日記にみる日本人論・近代篇。
私が取り上げた日記の中で、私の関心を最も惹いたものは、日記作者その人の声にほかならなかった。私はいつも、なにか心からの声に、耳を傾けようと努めた。表現された感情のいかんにかかわらず、単に熟達した文体ではなく、なにかはっきりと、個性的な音色のようなものを聞こうとした。私はまた、文学史家が誰一人注目することのない日記の中にさえ、それを読む今日の読者が、何百年も昔に生きたその作者に突然一種の親近感を抱くような、なにか感動的な瞬間がないかと探し求めた。――本書「序」より
※本書は、1988年に朝日新聞社より刊行された同名書籍の上下巻を合本にしたものです。なお、初出は、1986年10月13日から1987年10月29日にかけての朝日新聞での連載です。

インフレとデフレ
講談社学術文庫
世界恐慌、ドイツ・ハイパーインフレ、昭和恐慌、リーマン・ショック……。
本書は歴史的検討に基づいて二つの悪夢、インフレとデフレの発生メカニズムを解明し、そのコントロール法を考える。
インフレ目標政策とは何か?
1990年代以降の経済理論の新知見と長期化する日本デフレを踏まえて新章を書き下ろし。
格好の経済学入門にして提言の書。

青春の終焉
講談社学術文庫
かつて人生の核心は青春にほかならなかった! 三島由紀夫、夏目漱石、小林秀雄、ドストエフスキー、太宰治らから滝沢馬琴に遡り、村上龍、村上春樹へ。
近代日本の文学と思想を、鮮やかに解析する!
小林秀雄は、なぜ、青春にこだわらなければならなかったのか。秀逸な小林論でありながらそこにとどまらず、近代日本の文学・思想を博捜し、さらには江戸時代までさかのぼってスリリングに展開する画期的文芸評論。「日本近代文学は青春という病の軌跡にほかならない。その視点に立ってひとつの歴史が語られなければならないと考えた」著者の会心作。
これが、小林秀雄と中原中也が強いこだわりを見せた青春という言葉の沿革である。新しく生み出された言葉が、人の生き方を支配するまでにいたったのだ。さらに文学をまで支配するにいたった。それこそが日本近代文学の実質であるとさえ考えられるにいたったのである。しかし、(略)学生反乱の年として知られる1968年、おそらくその最後の輝き、爆発するような輝きを残して、この言葉は消えていった。なぜか。――<本書「はしがき」より>

西洋中世の罪と罰 亡霊の社会史
講談社学術文庫
エッダ、サガに登場する粗野でたくましい死者のイメージは、中世後期の『黄金伝説』『奇跡をめぐる対話』では、生者に助けを求める哀れな姿となる。その背景には何があったのか? キリスト教と「贖罪規定書」そして告解の浸透……。「真実の告白が、権力による個人形成の核心となる」(M・フーコー)過程を探り、西欧的精神構造の根源を解き明かす。(講談社学術文庫)
ミシェル・フーコーは、ヨーロッパにおける「個人」と「権力」の関係についてこう述べています。
「個人としての人間は、長いこと、他の人間たちに基準を求め、また他者との絆を顕示することで(家族・忠誠・庇護などの関係がそれだが)、自己の存在を確認してきた。ところが、彼が自分自身について語りか得るかあるいは語ることを余儀なくされている真実の言説によって、他人が彼を認証することになった。真実の告白は、権力による個人の形成という手続きの核心に登場してきたのである」
ヨーロッパにおいて12~13世紀にかけて、大きな変化が起こりました。8~9世紀に起こったカロリング・ルネサンス以降、ゲルマン社会はキリスト教化の動きが顕著になっていきます。そこで登場したのが、「贖罪規定書」です。俗信や魔術など迷信的な世界に生きる民衆の日常生活の細部にいたるまで点検し、個々の行動を裁き、罰を与えるものです。その介入は、「自発的な告解」にもとづくものでした。聖書にもとづく生活モデルに合わないことを罪とし、それに細かく罰を与えたのでした。こうすることで「個人」対「国家権力」が西洋的なあり方で成立していきました。
本書では、「贖罪規定書」以前の死者の国(元気な死者たちが暴れ回る)が、だんだんと弱い死者の国(地獄・煉獄からの助けを求める)へと変化していく様子を、様々な資料から読み解いていくものです。
エッダ、サガ、『奇跡をめぐる対話』、『黄金伝説』そして『贖罪規定書』と様々な資料を渉猟しながら、ヨーロッパの精神構造の根源へと迫ります。

仏教誕生
講談社学術文庫
釈尊、その思想の本質
説かれたものは「慈悲」と「救済」だったのか? 生成の場面に光を当て、仏教の根源にせまる
古代インドに生まれ、今もアジアの人々の暮らしに根づく仏教。インドの宗教的・思想的土壌にあって他派の思想との対立と融合を経るなかで、どんな革新性をもって仏教は生まれたのか。その生成の場面に光を当て、比較思想研究の手法によって「経験論とニヒリズムに裏打ちされたプラグマティスト」釈尊の思想の本質に迫る。インド思想史研究の意欲作。
紀元前五世紀ごろから紀元後の一千年紀にわたって、思想史上、仏教はほとんどつねに主導的な役割を果たした。仏教は、今日のヒンドゥー教思想の骨格の重要部分を構成している。しかし、その仏教も、孤高にして超絶という態のものではけっしてなく、他派の思想との対立と融合のなかで生成発展していったのである。――本書「はしがき」より
※本書の原本は、1995年、筑摩書房より刊行されました。