講談社文芸文庫作品一覧

荊棘の冠
荊棘の冠
著:里見 とん
講談社文芸文庫
昭和9年に書かれた小説。美しき天才ピアニストの少女とその父に焦点をあて嫉妬や矛盾する人間の機微を描ききっている。初の文庫化。
酔っぱらい読本
酔っぱらい読本
編:吉行 淳之介,著:丸谷 才一,著:佐多 稲子,著:大岡 昇平,著:阪田 寛夫,著:坂口 謹一郎,著:内田 百けん,著:埴谷 雄高,著:堀口 大學,著:太宰 治,著:阿川 弘之,著:吉田 健一,著:草野 心平,著:大岡 信,著:井伏 鱒二,著:檀 一雄,著:安岡 章太郎,著:江國 滋,著:志賀 直哉,著:室生 犀星,著:武田 泰淳,著:山口 瞳,著:田辺 聖子
講談社文芸文庫
古今東西、酒にまつわる名作エッセイを、吉行淳之介が選らんだ『酔っぱらい読本』を再編集。酔っぱらいによる酔っぱらいのための本。
深夜の人・結婚者の手記
深夜の人・結婚者の手記
著:室生 犀星
講談社文芸文庫
結婚 芥川君 関東大震災――犀星の見つめる生と死。生涯で膨大な作品を残した室生犀星。大正から昭和初期にかけての著作の中から、結婚や家族を対象にしたもの、芥川龍之介を中心とした交遊関係に言及したもの、関東大震災を経験し生と死について触れたものを各章に分けて編纂。小説、詩歌のみならず、日記や書簡からも犀星の文学に対する姿勢や精神を読み解く作品集。 犀星の最愛なるもの 結婚 芥川君 関東大震災――犀星の見つめる生と死 没後五十年 生涯で膨大な作品を残した室生犀星。大正から昭和初期にかけての著作の中から、結婚や家族を対象にしたもの、芥川龍之介を中心とした交遊関係に言及したもの、関東大震災を経験し生と死について触れたものを各章に分けて編纂。小説、詩歌のみならず、日記や書簡からも犀星の文学に対する姿勢や精神を読み解く作品集。 高瀬真理子 犀星は芥川に学び、芥川は、犀星の言語感覚に羨望しながら、友人たちへの書簡や随筆、評論の話題にし続けていたのである。―(略)―犀星は芥川の死に対して「自分自身に役立たせるために此の友の死をも摂取せねばならぬ」と言う。文学の転換期に倒れた芥川の側から、堀辰雄や中野重治を後見しながら生き延びていく犀星の新しい文学は、転換期を迎えてここからのたうって行くのである。――<「解説」より> ※本書は、新潮社刊『室生犀星全集』(1964~1968年)を底本としました。
電子あり
亡き母や
亡き母や
著:阿川 弘之
講談社文芸文庫
歳月の流れの中で見送ってきた人々。母を語り、父を語り、そして自らの人生を見つめる。いつしか別離の繰り返しとしての家族史・・・。おかしみを湛えながらも、芳醇な文章で綴った阿川弘之の自伝的到達点。作家の、肉親への、哀惜を込めた長篇小説。 母を思い父を語り、自らの原点をさぐる長篇小説。 歳月の流れの中で見送ってきた人々。母を語り、父を語り、そして自らの人生を見つめる。阿川弘之の過去、現在、未来は、いつしか別離の繰り返しとしての家族史となる。おかしみを湛えながらも、芳醇な文章で綴った著者の自伝的到達点。作家の肉親への哀惜をこめた長編小説。 小山鉄郎 これら阿川家の息子・娘の癇癪の遺伝子に接してだろうか。自分の癇癪持ちは「独自の個性でも何でもなく、単に亡母の遺伝子をそっくり受け継いでいるだけではないか」と阿川さんは思うようになってきた。「このけったいな遺伝子の出所を調べてみたい」と思って書かれたのが、この家族小説である。――<「解説」より>
スフィンクスは笑う
スフィンクスは笑う
著:安部 ヨリミ
講談社文芸文庫
知られざる傑作 安部公房を生んだ幻の名作 大正13年3月、不世出の作家・安部公房生誕の二週間後に刊行された、実母ヨリミによる生涯唯一の小説。恋愛に至上の喜びを見いだす男女五人の愛憎劇は、やがて人間の本質へ迫るドラマへと一変していく。瑞々しい感性と深い洞察力、簡潔で凛乎たる文章――資料的重要性もさることながら、文学性の極めて高い、21世紀の今、さらなる輝きを放つ、幻の名作。 私達の胎内の子供は大きくなって行った。私はそれを思って恐怖に捕えられた。私にはもっともっと、静かな二人の生活がほしかった。しかし、彼は心から三人になる事を喜んでくれた。(略)子供の愛が霧のように私を包む頃には大正十二年も暮れようとしていた。/来年は私達の赤んぼの出来る年だ。/来年は私達の本の出来る年だ。/私達は嘗て春を待った心持で来年を待ち、物思いの無い、希望に輝いた年を、私達の此の小さな家で迎えた。――<「跋」より> ※本書は、1924年3月異端社刊『スフィンクスは笑ふ』を底本としました。
意味の変容・マンダラ紀行
意味の変容・マンダラ紀行
著:森 敦
講談社文芸文庫
独創的な思索の結晶 柄谷行人 岩井克人 中上健次 浅田彰が驚愕した奇跡の書 光学機械工場、ダムの工事現場、印刷所……異色の職歴と放浪の作家、森敦の経験と思索は、日本文学史上例を見ない、奇跡的な作品を創造した。宗教的、哲学的、数学的な論述を透過しながら、本作は「比類のない私小説」として読むこともできる。柄谷行人、岩井克人、浅田彰、中上健次による解説付き。空海の足跡を辿り真言密教の謎へ迫る「マンダラ紀行」併録 柄谷行人 私が羨望をおぼえるのは、森さんの思考が極度に抽象的でありながら、どれひとつとして実際の事象や経験から遊離したものがないということだ。光学工場、ダム工事現場、印刷屋、……おおよそ「哲学」と程遠い場所と経験が、ここではその具象性と多様性をうしなうことなくとぎすまされたロジックとして結晶している。私が類比的に想いうかべるのは、レンズみがきを職業としていたスピノザのような哲学者だ。――<「解説」より> ※本書は、1991年3月刊ちくま文庫『意味の変容』、及び1993年3月筑摩書房刊『森敦全集』第2巻を底本としました。
更紗の絵
更紗の絵
著:小沼 丹
講談社文芸文庫
ユーモア漂う独自な世界 敗戦後の混乱期、再建途上の学園をめぐる回復と新生の物語 敗戦後の復興の時代――。学園を再建しようと努力する義父のもとで、中学主事を引き受けた青年教師・吉野君。進駐軍と旧軍需工場との交渉役を押しつけられ、できの悪い生徒のいたずらや教師同士のもめごと、喰いつめた友人の泣きごとにも向きあいながら、吉野君は淡々として身を処していく。時代の混乱と復興の日々を、独特なユーモア漂うほのぼのとした温かい筆致で描いた青春学園ドラマ。 清水良典 敗戦後の荒れ果てた武蔵野における教師生活の、一見のどかな時間の流れに染まっているが、その背後には日本軍の最大軍事拠点であった工場の空襲被害とその跡地の歴史が横たわっている。その意味で本書は、小沼の中学教師時代を描いた自伝的作品であると同時に、「大きな飛行機工場」の跡地にまつわる敗戦後の生々しい記憶を刻みつけたモニュメントともいえるのだ。――<「解説」より> ※本作品は、1967年7月から1968年12月まで「解脱」に連載され、単行本は、1972年6月、あすなろ社より刊行されました。本書では、未知谷刊『小沼丹全集』第2巻(2004年7月)を底本としました。
ベトナム報道
ベトナム報道
著:日野 啓三
講談社文芸文庫
ベトナム戦争の見えない真実 一人の特派員 日野啓三は戦地で“何”を見たのか 初文庫化 のちの芥川賞作家・日野啓三がベトナム戦争の特派員時代を書いた戦争報道の日常。米国の通信社へ反発し独自の記事を送っていた裏でどのようなことが起こり、どう感じていたのか――筆者の戦争を見つめる鋭い眼差しと人間関係が精緻な文章から浮かび上がってくる。その後の作家人生に大きな影響を与えた作品。 日野啓三 時間とは過去から未来へと一方的に流れてゆくものではないのだ。――(略)――「何だろう。いやなことにならないといいがな」空港ターミナルに降りると、改札口はしまっている。事情があって出発を三十分延期しますと係員がいった。「おかしいぜ」私たちは空港の建物の二階にのぼって、空港とそれに隣り合う空軍基地の方をみた。乾ききった地面には陽炎が燃え、その中を先程の戦車が全速力で走りすぎてゆく。――<「本文」より> ※本書は、現代ジャーナリズム出版会『ベトナム報道 特派員の証言』(昭和41年11月刊)を底本としました。
鞆ノ津茶会記
鞆ノ津茶会記
著:井伏 鱒二
講談社文芸文庫
秀吉の暴威と隠者の酒宴。『黒い雨』に通底する最晩年の傑作――茶会の作法や規則なども全く知らないが、鞆ノ津の城内や安国寺の茶席で茶の湯の会が催される話を仮想した……秀吉の九州攻略から朝鮮出兵へと至る時期。作家の郷里・備後を舞台に、小早川隆景に恩顧を受けた、武将や僧侶が集まる宴で噂話に花が咲き、戦国末期の生々しい世相や日常が、色鮮やかに甦る。著者の想像力に圧倒される、最晩年の名作。 〇『黒い雨』が、原爆投下になぎ倒された戦争という「大きな物語」の中にありつつ、片隅の「小さな世界」で変わらない生命の希望を浮かびあがらせるように、この作品は、天下統一、朝鮮侵略をへて関ヶ原にいたる戦国時代の天上暴風の「大きな物語」のもと、同様にぼんやりと「位低く」光ることをやめない、何やら変わらぬ「正しさ」のありか、その平地の地温を伝える。<加藤典洋「解説」より> ※本書は、1989年1月福武文庫版『鞆ノ津茶会記』、1999年1月刊『井伏鱒二全集27』(筑摩書房)を底本としました。
電子あり
陽気なクラウン・オフィス・ロウ
陽気なクラウン・オフィス・ロウ
著:庄野 潤三
講談社文芸文庫
こよなく愛したC・ラムを巡る英国への旅。香り高き紀行文学ーー英国の名文家として知られ、今もなお読み継がれているチャールズ・ラム(1775~1834)をこよなく愛した著者が、ロンドンを中心に、ラムゆかりの地を訪れた旅行記。時代を超えた瞑想が、ラムへの深い想いを伝え、英国の食文化や店内の鮮やかな描写、華やかなる舞台、夫人とのなにげない散歩が、我々を旅へと誘ってくれる。豊かな時間の流れは、滞在記を香り高い「紀行文学」へ。 ◎「この『陽気なクラウン・オフィス・ロウ』では、作者がいわばロンドンの空気の中に丸ごと溶け込み、心ゆくまでロンドンという大都会の古びた湯船にゆったりと身を横たえ、ラムへの尽きぬ思いに浸っているということだろう。この滞在記にただよう一種沁み沁みとした哀感は、ここに由来する。」<井内雄四郎「解説」より>
電子あり
風立ちぬ ルウベンスの偽画
風立ちぬ ルウベンスの偽画
著:堀 辰雄
講談社文芸文庫
生と文学。強くしなやかな精神。堀辰雄の不朽の作品集。 婚約者への愛と、サナトリウムの生活、そして死を描いた名作「風立ちぬ」。著者の文学のテーマともいうべき「楡の木」(「物語の女」の改稿)は、やがて「菜穂子」へと続く……。ぎりぎりの生と文学の美しさと、またその底流を支える強靭な精神。堀辰雄の原点ともいえる作品集。 佐々木基一 清らかな、美しい世界を書くということは、やはり自分の内面に相当強く耐えるものがあったと思います。その耐える力の強さが、(中略)何か人間の根源に触れたみたいな力を感じさせる。そこが堀文学の生命だと思います。それと病気ということとが重なって、生の極限というか、生命の極限の場所でぎりぎりに生きている。――<「昭和の文学 堀辰雄」より> ※本書は、講談社刊『日本現代文学全集・増補改訂版』第76巻(1980年5月)を底本とし、「楡の家」のみは、新潮文庫(1968年11月)を底本としました。
志賀直哉・天皇・中野重治
志賀直哉・天皇・中野重治
著:藤枝 静男
講談社文芸文庫
医師として、遅咲きの小説家として、独自の文学世界を築きあげた藤枝静男。平野謙と本多秋五という刺激を与え続けた友人、そして深く傾倒した師・志賀直哉の存在。志賀直哉に関わる作品を中心に名作「志賀直哉・天皇・中野重治」など、藤枝文学の魅力をすくいとった珠玉の随筆選。文学の師に関わる思いと藤枝文学の底流が、ここにある! 文学の師に関わる思いと藤枝静男の底流が、ここにある 医師として、遅咲きの小説家として独自の文学世界を築きあげた藤枝静男。平野謙と本多秋五という刺激を与え続けた友人、そして深く傾倒した師・志賀直哉の存在。志賀直哉に関わる作品を中心に名作「志賀直哉・天皇・中野重治」など、藤枝文学の魅力を掬い取った珠玉の随筆選。 藤枝静男 「批評家なんて無用の長物だ」。突然はげしく云い、批評家の多くが自分から小説の方へ足を運ぶという努力をしないで、自分のつくったワクに作品をあてはめて好い悪いを判定するのは不愉快だという意味のことを主張した。私は気圧されて金縛りにあったように固くなっていた。――<「本文」より> ※本書は、講談社刊『藤枝静男著作集』第一巻(1976年7月)を底本としました。
電子あり
風俗小説論
風俗小説論
著:中村 光夫
講談社文芸文庫
花袋『蒲団』を一刀両断。明晰な論理で描く日本近代リアリズム興亡史ーー「『破戒』から『蒲団』にいたる道は滅びにいたる大道であったと云えましょう」。日露戦争の直後に起こった文壇の新気運のなかで、その後の日本文学の流れを決定づける2作品が誕生した。日本の近代リアリズムはいかに発生し、崩壊したのか。自然主義から誕生した私小説が、日本文学史に与えた衝撃を鋭利な分析力で解明し、後々まで影響を与えた、古典的名著。※本書は、1969年5月改版新潮文庫『風俗小説論』を底本としました。 〇千葉俊二 圧巻は何といっても小栗風葉の「青春」、島崎藤村の「破戒」、田山花袋の「蒲団」を取りあげながら、日本における「近代リアリズムの発生」を論じた最初の章である。中村は、誰にでも多くの可能性をはらんだ青春の一時期があるように、時代精神の巨大な流れのなかにもそうした時期があり、夏目漱石が「吾輩は猫である」を発表した一九〇五年から、花袋が「蒲団」を書いた一九〇七年までが、まさに明治文学史における青春期だったと指摘する。――<「解説」より>
電子あり
大阪文学名作選
大阪文学名作選
編:富岡 多惠子,著:川端 康成,著:折口 信夫,著:宇野 浩二,著:武田 麟太郎,著:小野 十三郎,著:織田 作之助,著:山崎 豊子,著:庄野 潤三,著:河野 多惠子,著:野坂 昭如,著:阪田 寛夫
講談社文芸文庫
笑いの底に強靱な批評精神を秘め 愛しき人の世をリアルに描く名品十一 西鶴、近松から脈々と連なる大阪文学は、ユーモアの陰に鋭い批評性を秘め、色と欲に翻弄される愛しき人の世をリアルに描く。川端康成「十六歳の日記」、折口信夫「身毒丸」、宇野浩二「子の来歴」、武田麟太郎「井原西鶴」、織田作之助「木の都」、庄野潤三「相客」、河野多惠子「みち潮」、野坂昭如「浣腸とマリア」、小野十三郎「大阪」(抄)、山崎豊子「船場狂い」、阪田寛夫「わが町」(抄)の名品十一。 富岡多惠子 現在までのところ、近松資料館、西鶴文学館のごときものが大阪市内にあるとは聞かない。まして近代文学に関しては推して知るべしというところで(中略)この手の大阪の「つれなさ」は冷淡とはちがって、どこか含羞とつながっていないだろうか。文芸、文学というのは「もっともらしい」ことを嫌うはずだ、それを「もっともらしい」エライものにしてしまっては――という気持があるのかもしれぬ。――<「解説」より>
丸本歌舞伎
丸本歌舞伎
著:戸板 康二
講談社文芸文庫
〈丸本歌舞伎〉という名称を創出し、研究と鑑賞を別扱いする従来の演劇学に異を唱え、義太夫狂言の神髄を衝き、戦後の歌舞伎批評の方向性を決定づけた、戸板氏の初期代表作で、今や古典的名著。「型とは何か」の追究から、歴代の演出家=俳優の才智・工夫を発見し、その魅力と真髄を明かしていく。「義経千本桜」など10作品を具体的に読み解く鑑賞編も圧巻。歌舞伎ファンのみならず広く演劇を志す者、必読の書。 劇評を変えた古典的名著 義太夫狂言の神髄を衝き、戦後劇評を決定づけた、古典的名著! <丸本歌舞伎>という名称を創出し、研究と鑑賞を別扱いする従来の演劇学に異を唱え、戦後の歌舞伎批評の方向性を決定づけた、初期代表作。「型とは何か」の追究から、歴代の演出家=俳優の才智・工夫を発見し、その魅力と真髄を明かしていく。「義経千本桜」など十作品を具体的に読み解く鑑賞編も圧巻。歌舞伎ファンのみならず広く演劇を志す者、必読の書。 渡辺 保 戸板康二はあたかも外国人が歌舞伎を見るような視点で、歌舞伎の新しい魅力を発掘した。その美学は一口に言って歌舞伎の新しい価値の発見であり、そのころやはり歌舞伎の将来に危惧を感じていた私たちには未来から射す光明のように新鮮だった。そして同時代の評論家とあきらかに一線を画するものでもあった。――<「解説」より> ※本書は、1949年3月和敬書店刊『丸本歌舞伎』を底本としました。
電子あり
兄 小林秀雄との対話-人生について-
兄 小林秀雄との対話-人生について-
著:高見沢 潤子
講談社文芸文庫
人間小林秀雄を妹が伝えた言葉 敬愛する兄 小林秀雄の考え方を、妹 潤子がわかりやすく伝える 小林秀雄の妹であり、田河水泡の妻である作者が、敬愛してやまない兄の生き方や心、そして難しい作品の意味を、兄との対話によって、わかりやすく伝える。小林秀雄の誠実なものの考え方や精神を、身近にいるからこそ書き表した魂の言葉。美について、批評精神について、読書について……、人間小林秀雄と妹の美しい愛情に溢れた書。 高見沢潤子 わたしは、兄の作品を全部読みかえしました。そして兄を訪ねては、いろいろと質問し、話しあいました。兄の顔をじっとみつめ、その一言一言をかみしめるようにききました。ときには、茶の間でむかいあって晩しゃくのお相伴をしながら、あるいは応接間で音楽をききながら、また鎌倉の美しい山々をながめながら。――<「初刊本まえがき」より> ※本書の底本は、講談社刊『兄 小林秀雄との対話――人生について』(1968年6月刊)としました。
如何なる星の下に
如何なる星の下に
著:高見 順
講談社文芸文庫
昭和十三年、自ら浅草に移り住み執筆をはじめた高見順。彼はぐうたらな空気と生存本能が交錯する刺激的な町をこよなく愛した。主人公である作家・倉橋の別れた妻への未練を通奏低音にして、少女に対する淡い「慕情」が謳い上げられるのだった。暗い時代へ突入する昭和初期、浅草に集う人々の一瞬の輝きを切り取り、伊藤整に「天才的」と賞賛された高見順の代表作にして傑作。 高見順が捉えた昭和十年代の浅草 さらなる戦争へと突き進む時代、浅草に移り住み明と暗の物語を紡いだ高見順の孤高なる「慕情」を窺い知れる代表作 昭和十三年、自ら浅草に移り住み執筆をはじめた高見順。彼はぐうたらな空気と生存本能が交錯する刺激的な町をこよなく愛した。主人公である作家・倉橋の別れた妻への未練を通奏低音にして、少女に対する淡い「慕情」が謳い上げられるのだった。暗い時代へ突入する昭和初期、浅草に集う人々の一瞬の輝きを切り取り、伊藤整に「天才的」と賞賛された高見順の代表作にして傑作。 坪内祐三 浅草は大阪人である川端康成や武田麟太郎の旅情を刺激する。しかし東京人である高見順はそのような「旅心」をおぼえない。しかも、東京人でありながら、山の手っ子である高見順は浅草にそのまま同化することが出来ない。異人である。旅人でもない異人が浅草に部屋を持つ。その時その異人に見えてくる風景は? それが『如何なる星の下に』で描かれている(略)――<「解説」より> ※本書は、中央公論社『日本の文学57 高見順』(昭和40年5月刊)を底本としました。
電子あり
朝夕 感想・随筆集
朝夕 感想・随筆集
著:里見 とん
講談社文芸文庫
人間観察の名人が綴る、滋味あふれる随筆集「まごころ哲学」を旨とした、正直作家里見とん。有島武郎、生馬を兄に持ち、最後の白樺派として94年の天寿を全うした鎌倉文士の日常や生い立ちを綴るエッセイ
ルイズ 父に貰いし名は
ルイズ 父に貰いし名は
著:松下 竜一
講談社文芸文庫
講談社ノンフィクション賞! 運命の子から、自立した人へ事実に肉迫する記録者の目が人と時代を照射する 国家権力によって虐殺されたアナキスト大杉栄と伊藤野枝。父母の遺骨を前に無邪気にはしゃいでいた末娘のルイズは、父の名づけた革命家の名と“主義者の子”の十字架を背負い、戦前戦後を平凡に生きた。そして、やがて訪れた、一人の自立した人間としての目覚め。一年六ヵ月に亘る聞き取りと事実に肉迫する記録者の視線が、一女性の人生と昭和という時代を鮮やかに照射する。講談社ノンフィクション賞受賞作。 鎌田 慧 この作品のサブタイトルが、「父に貰いし名は」と題されているのは、せっかく両親がつけた革命的な名前を、改名させた社会の圧迫への抗議がこめられている。(略)留意子がルイにもどるまでの喘ぎが、この作品の重い通低音となっているのだが、苦難の生活のなかから、彼女はしだいに両親の活動を意識するようになり、それをすこしでも引き受けようとする。さわやかに自立の道を歩きはじめたルイと出会った著者の感動が、熱烈な取材交渉と長期のインタビューとなって、ここに結実した。――<「解説」より> ※本書は『松下竜一 その仕事17 ルイズ――父に貰いし名は』(平成十二年三月、河出書房新社刊)を底本としました。
私の東京地図
私の東京地図
著:佐多 稲子
講談社文芸文庫
講談社文芸文庫スタンダード006 知らぬ道にも踏みいり、袋小路に迷いぬいたこともある。ある時は、人に連れ立たれて、歩調を揃えて気負って歩いた道。それらの東京の街は、あらかた焼け崩れた。焼けた東京の街に立って、私は私の地図を展げる。私の中に染みついてしまった地図は、私自身の姿だ。 芥川龍之介、中野重治、小林多喜二らとの出会い、結婚、自殺未遂、出産、離婚、同棲……といった人生を、作家活動や非合法活動で当局に弾圧を受け始めた太平洋戦争へと突入する時代を背景にし、上野、日本橋、神楽坂など、親しんだ東京の街々を生き生きとした人々の息吹のなかに描いた連作短篇集。自らの過去を探り、自らを確かめるような筆が心に響く。 東京が佐多稲子の心象風景として鮮やかに描かれる ――東京の日常――押上橋を渡って京成電車の停留所の横の狭い道を抜けてゆく。石畳の道は、魚屋の水に濡れて、どろどろになっている。ひと山十銭、五銭と盛り上げた八百屋、うどんの玉を売っている店、豆腐屋などごたごたした道は、おかみさんや労働者ですれちがって歩くほど。――そして、関東大震災――大きな建物ごと、ガチャーン、ガチャーンと揺すられるたびに、私は自分を、大きな箱の中に入れられた玩具のひとつのように感じた。だがその箱の周囲は広くて、高くて、箱そのものがいつもの高い天井よりもずうっと恐ろしかった。 講談社文芸文庫スタンダードは、時代の原基としての存在感をたたえ、今なお輝きを放つ作品を精選した新装版です。 ※本書は、講談社『佐多稲子全集』第四巻(昭和53年3月刊)を底本としました。