講談社学術文庫作品一覧

フィレンツェ名門貴族の処世術
講談社学術文庫
波乱のルネサンスを生きたイタリア貴族の知恵
メディチ家とも親交があり、有能な政治家や大使を輩出した名門に生れたグィッチャルディーニ。28歳でフィレンツェ共和国のスペイン大使になり、共和国崩壊後はメディチ家出身の教皇に仕えて教会領行政官として活躍。動乱のルネサンス・イタリアを常に敵に囲まれながら生き抜き、その体験を子孫に書き残した。冷静な眼で人間の真実を赤裸に描いた本書は、現代に通ずる貴重な処世の書といえる。
君の気がすすまないなにごとかを申し入れられた場合、できうるかぎりひき延ばすように努力するがよい。四六時中見てのとおり、このようなやっかいから逃れさせてくれるような突発事がおこってくるものだ。──(「リコルディ」B76)

現代人の仏教
講談社学術文庫
無相とは、この世の中にあるすべてのものは無常なるものであることを明確に透徹した目で観ることから成り立つ。この現世は永遠であり、絶対だと思うところから出発する有相の価値観に比し、この現世は仮の宿に過ぎないと考える無相の価値観。日本人の精神生活に大きな影響を与えたこの仏教のこころ「無相の価値観」を見直し、いまこそ混迷の時代を生きるわれわれ現代人の指針とすべきだと説く好著。

アルプス登攀記
講談社学術文庫
魔物の棲む山と恐れられ、有史以来人間を拒み続けてきたアルプスの名峰マッターホルンは、1865年、ウィンパー隊によりついに征服された。初めての挑戦から足かけ5年、9度目のトライでつかんだ栄光であった。しかしそれもつかの間、登頂直後の下山中に思わぬ悲劇がメンバーを襲う……。精緻な木版画多数をちりばめ、アルプス登山史を彩る最大のドラマを克明に綴った山岳文学の記念碑的作品。

白旗伝説
講談社学術文庫
紅白戦で知られるように日本では源氏の旗であり、また弔いの旗でもあった白旗。日本人がその降伏の意味を知ったのは、1853年に来航したペリーが、交戦となって降伏したければこれを掲げよと幕府に白旗を送りつけた時であった。日清・日露戦争までは、戦場において白旗の国際ルールを尊重した日本が、太平洋戦争ではそれを無視して野蛮な戦争を敢行した。日本人が忘却した白旗の歴史を語る力作。

庭園の世界史
講談社学術文庫
アルハンブラやヴェルサイユなど、世界の名園を歴史家として著名な筆者が歴訪。庭の創造は、人間の自己表現への欲求の最高の段階であるとし、ヨーロッパだけでなく、イスラム、日本、中国の庭の理想と精神をも明快に考察。バラの咲き乱れるバビロンの架空園を追慕し、トスカーナではメディチ家のロレンツォが構想した幻の大庭園を紙上に再現して、その魅力を語る。地上の楽園=庭の3千年の歴史。

法然
講談社学術文庫
13歳で叡山に登り30年に及ぶ南都北嶺での修行の後、無知な人びとをも救いたいという思いから、難行を捨て阿弥陀仏の本願に救いを求める称名だけを選びとった浄土宗の祖・法然上人。専修念仏により善人、悪人にかかわりなく往生できるとする法然思想の形成過程や浄土宗の成立・発展、鎌倉新興仏教の先駆者ゆえの苦難にみちた80年の生涯を鮮やかに描出。法然研究の第一人者による書き下ろし。

シュリーマン旅行記 清国・日本
講談社学術文庫
トロイア遺跡の発掘で知られるハインリッヒ・シュリーマン。彼はその発掘に先立つ6年前、世界旅行の途中、中国につづいて幕末の日本を訪れている。3ヵ月という短期間の滞在にもかかわらず、江戸を中心とした当時の日本の様子を、なんの偏見にも捉われず、清新かつ客観的に観察した。執拗なまでの探究心と旺盛な情熱で、転換期日本の実像を生き生きと活写したシュリーマンの興味つきない見聞記。
これまで方々の国でいろいろな旅行者にであったが、彼らはみな感激した面持ちで日本について語ってくれた。私はかねてから、この国を訪れたいという思いに身を焦がしていたのである。──(第4章 江戸上陸より)

漱石とあたたかな科学
講談社学術文庫
夏目漱石は当時の文人としては異例な科学好きであった。『三四郎』で野々宮理学士が行う「光線の圧力測定」の実験などには、手作りの装置でこつこつと自然の謎を解明しようとする科学者の純朴な姿がある。現代科学には失われてしまった人肌のぬくもりを持つ1世紀前の科学は、漱石の作品に味わい深さと膨らみを与えた。科学をこよなく愛した文豪を、同時代の科学史的背景と共に描いた異色の漱石論。

ウィトゲンシュタイン
講談社学術文庫
第一次世界大戦では志願兵として戦い、数々の勲章を受ける一方で20世紀哲学の金字塔といわれる「論理哲学論考」を構想したウィトゲンシュタイン。ユダヤ人の大富豪の家庭に生まれながら、復員後に父親から相続した財産をすべて放棄。山村の小学校教師や修道院の庭師、建築家を経てケンブリッジ大学にもどり再び哲学の道を歩む。その波乱に満ちた生涯と思想の真髄を、鮮やかに説き明かした必携の書。

日本歴史再考
講談社学術文庫
あなたは、日本の歴史をどれだけ知っていますか。日本史上、中心的リーダーとして歴史を動かした人を何人知っていますか。本書は、その代表的人物といわれる菅原道真や橋本景岳らの生き方を学ぶとともに、日本の年号制度、年中行事や祝祭日、即位儀礼と神宮への親謁の意義などを考察。日本のさまざまな歴史事象を多面的・総合的な立場から見直すことにより日本民族文化の原点を探った必読の書。

現代批評の遠近法
講談社学術文庫
ポスト・モダニズムは、その内実がよく理解できるようになるに従って、文学にとっても思想にとっても反動的性格を持つものであることが見えてきた。この評論集1冊は、そういった文学と思想の潮流に対する対抗である……。〈在日〉の苦しみを深く表現した金鶴泳文学への共感に始まり、〈20世紀末の無神論〉としてポスト・モダニズムから、昭和と天皇制の問題をも考察。竹田思想の真髄を示す好著。

歴史学の方法
講談社学術文庫
ヴェーバーは19世紀的科学観を克服すべく社会科学の論理的、認識的諸問題に取り組み、多くの論文を発表した。理念型の導入を提起した有名な「客観性」論文(『社会科学の方法』)もその1つであり、続いて発表された本編はこれを検証、補完し、同論文と対をなす。古代史の碩学E・マイヤーの著作に厳密な批判的分析をくわえ、歴史的な研究の論理的意味を問うヴェーバーの『歴史学の方法』最新訳。

墨子
講談社学術文庫
春秋時代末期に墨子が創始し、戦国末まで儒家と思想界を二分する巨大勢力を誇った墨家の学団。自己と他者を等しく愛せと説く「兼愛」の教えや、侵略戦争を否定する「非攻」の思想を唱え独自の武装集団も保有したが、秦漢帝国成立期の激動の中で突如、その姿を消す。以後2千年を経て、近代中国の幕開けとともに脚光を浴びることになった墨家の思想の全容と消長の軌跡を、斯界の第一人者が懇切に説く。

形象と時間
講談社学術文庫
感性や美の世界における「時間」の役割とは何か?本書は、いわゆる空間芸術たる造形芸術を議論の中心的トポスとした。第1部は、形象を支える物質性に及ぼされる時間の作用として、負の時間、骨董、廃墟等をとりあげ、第2部は、形象があらわす時間の諸相として、記号の時間、馬のエクリチュール等について考察する。形象の〈崩壊〉と〈変容〉を中心に、美的時間についての新たな視点を探る好著。

モンゴルと大明帝国
講談社学術文庫
中国最後の分裂時代、北族王朝の盛衰の中からチンギス・カーンはモンゴル帝国を建設。功臣・耶律楚材の改革を経てフビライの元が史上初めて征服王朝として中国を支配する。しかしモンゴル至上主義への反発から漢民族国家・明が興り、永楽帝による北方遠征や「鄭和の西洋下り」などで栄光の中華帝国を築く。豊富な史料をもとに英雄、皇帝たちの実像と歴史に翻弄された人々の姿を活写する500年史。

ソクラテスの弁明・クリトン
講談社学術文庫
昏迷深まる現代への贈りもの
今こそ、ソクラテスを。
待望の《新訳》登場。
不敬神の罪に問われた法廷で死刑を恐れず所信を貫き、老友クリトンを説得して脱獄計画を思い止まらせるソクラテス。「よく生きる」ことを基底に、宗教性と哲学的懐疑、不知の自覚と知、個人と国家と国法等の普遍的問題を提起した表題2作に加え、クセノポンの「ソクラテスの弁明」も併載。各々に懇切な訳註と解題を付し、多角的な視点からソクラテスの実像に迫る。新訳を得ていま甦る古典中の古典。
「いちばん大事にしなければならないのは生きることではなくて、よく生きることだ」──(「クリトン」より)

古典の読み方
講談社学術文庫
本書は、日本語で書かれた古典文学を本格的に読みこなしてみようと志す人々のために、必要な知識や技術をどれほど身につけたらよいか、従来わかりにくかった点はどう考え直したらよいか、といった問題について、正面から読者とともに考えてみようとする書物である。伝承的なものが日々失われつつある現代こそ、古典に目を向ける時だ。物語や和歌を読みこなす方法を身につけるための最良の入門書。

カフカのかなたへ
講談社学術文庫
20世紀の悪夢を予兆した作家として、第2次大戦後に爆発的なブームが生じたユダヤ人作家カフカ。その明晰透明な表現法は、リアルでありながら大きな謎をはらんでいて、これまでさまざまな解釈がなされてきた。著者は性急な意味付けをしりぞけ、カフカの文学は、たぐいまれな想像力による読んで楽しい〈大人のためのメルヘン〉であると説く。作品そのものに即してカフカの魅力の源泉を語った好著。

ダルマ
講談社学術文庫
「ダルマさん」と呼ばれ、わたくしたちの日常生活にとけこんで久しいダルマ。日本のどこででも、だれにでも親しまれている。本書は、禅の開祖という既成のイメージを離れ、中央アジアから、中国、日本へとダルマのあるいた足あとをたどり、残された数多くの彼の語録や弟子たちのことばから、彼の思想の本質を明らかにする。禅学研究の第一人者が説くダルマのゆたかな思想とその歴史、待望の文庫化。

モラエスの日本随想記 徳島の盆踊り
講談社学術文庫
本書は、モラエスが終(つい)の栖(すみか)と定めた徳島から祖国ポルトガルの新聞に連載した記事をまとめたもので、一市井人の眼で捉えた大正初期の日本人の生活と死生観が讃嘆をもって語られる。殊に死者を迎える祭り「盆」への憧憬は、孤愁の異邦人に愛しい死者との再会を夢想させる。吉井勇が「日本を恋ぬ 悲しきまでに」と詠じたモラエスの「日本」が、現代の日本人の心奥に埋没した魂の響きを呼び起こしてくれる。