講談社学術文庫作品一覧

言葉・狂気・エロス 無意識の深みにうごめくもの
講談社学術文庫
言葉の音と意味の綴じ目が緩んだとき現れる狂気、固定した意味から逃れ生の力をそのまま汲み取ろうとする芸術、本能が壊れたあとに象徴的意味を帯びてイメージ化されるエロティシズム。無意識レベルの欲動エネルギーを覆う言葉の網目をかいくぐって現れる人間的活動のありようとは? ソシュール研究で世界的に有名な著者が言葉の深層風景に迫る。(講談社学術文庫)
無意識レベルの欲動と意識の存在様式を読む意味を固定させることなく激しく滑り流れる欲動のエネルギー。言葉の活動の場、狂気・エロスの発現の場から人間は何をみにまとうのか。スリリングな哲学の冒険。

ルネサンスの文学 遍歴とパノラマ
講談社学術文庫
遍歴の精神と鋭い自意識 多彩で豊穣な作品群
大航海時代、文学の世界でも、中世という枠を乗り越え、多くの人々が未知への探究心を抱き新しい旅へと出た。果敢な挑戦心、リアルな人間認識、横溢する創造力。個性が溢れ、新時代の息吹が躍動する多彩な作品群。『ドン・キホーテ』『阿呆船』『ガルガンチュア物語』や『ユートピア』『君主論』『エセー』等の作品を通して、ルネサンスという時代の特徴とその精神を解析する。
ルネサンスの文学は枠の緩んだ、あるいははずれたところから始まる。中世の文学が神への絶対の信仰と地上の君主への忠誠という厳しい枠のなかに置かれていたのにたいして、人間の欲望の解放とともに動き出す。チェリーニの『自伝』のなかの言葉「私は自由にうまれついていたのだから自由に生きるつもりである」こそが、ルネサンスの文学を流れる精神となる。――<本書「まえがき」より>

アルチュセール全哲学
講談社学術文庫
「真空の哲学」の核心 〈認識論的切断〉とは
「認識論的切断 coupure epistemologique」とは何か。『マルクスのために』『資本論を読む』でマルクス研究を一新し、フーコー、デリダ、ブルデュー、ドゥルーズらを育てたルイ・アルチュセールは、精神的肉体的苦闘、あるいは自身の「認識論的切断」を経て、いかなる地平に到達したのか。その思想的全生涯をもれなく論じた、第一人者による決定版!
形而上学の名前で呼ばれうる西欧哲学がその可能性を出し尽くしつつある現在、この伝統的思考様式を可能にした条件と地平を露出させ、同時にそれとはまったく異質の軌道がどういうものでありうるかを、われわれは徹底的に考えることを要請されている。そのひとつの模範的思索をアルチュセールはわれわれに遺産としてのこしてくれたのである。そのバトンを受けとるのは、われわれである。――<本書より>

新訂版 桃太郎の母
講談社学術文庫
桃太郎、一寸法師、ハナタレ小僧様、瓜子姫……
これらの「小サ子」は、なぜ水界に関係しているのか?
人類学の名著が、新解説(小松和彦)を加えて完全版で待望の登場
桃太郎や一寸法師の中に見られる〈水辺の小サ子〉の背後に潜む母性像の源流を原始大母神と子神にまで遡る。併録の「月と不死」「隠された太陽」「桑原考」「天馬の道」「穀母と穀神」はいずれも、数万年のスパンで人類の精神史を描く、壮大な試みに取り組んだ画期的考察である。口絵図版を追加して復活し、さらに、日本民俗学の第一人者である小松和彦の解説を加えて、名著がここに甦る。
わたしが石田の仕事を再考しながら気づいたことの一つは、意外に思うかもしれないが、フランスの構造人類学者クロード・レヴィ=ストロースの試みとの類似であった。(略)石田より5年ほど遅れて1908年に生まれたレヴィ=ストロースもまた、文化人類学とか民族学といった学問に、太古の人類文化を明らかにするという壮大な人類史の構築の夢を託していたらしいということである。(略)方法も結論もまったく違っていたが、石田もレヴィ=ストロースも共に太古の時代までも視野を広げた人類の壮大なドラマを人類学という学問を通じて思い描いていたのである。(略)ひるむことなくいかにしてその壮大な夢を引き継いでいくかを改めて考える時に来ているのである。――<小松和彦『新訂版 桃太郎の母』解説より>

竈神と厠神 異界と此の世の境
講談社学術文庫
かつて日本家屋の暗い領域に存在した イエの神の民俗学
土間の柱に異形の面を取り付け、火難よけや家の守護神として祀られた竃神(かまどがみ)。偶像化はされず、精霊的な存在として河童譚や出産の習俗などと深く結びついた厠神(かわやがみ)。日本家屋の暗所に祀られたこれらの神々は、生死や新旧を転換する強力な霊威をもち、此の世と霊界との出入口に宿った。昔話や儀礼、禁忌など伝承を博捜し、家つきの神の意味と役割を探る。
本書は、竃神、厠神、納戸神といった民家の私的領域に祀られている屋内神を中心に考察したもので、(略)日本の民俗社会では、生命や富、豊穣といったものが一体どこからやってくると考えてきたのかという世界観や宇宙観の問題を、屋内神を事例に論じたものともいうことができる。その背景にある基本的な考え方の一つが(略)民家の奥、裏、土間、天井などの私的な暗い領域には神秘的な神霊が宿っているという伝統的な日本人の信仰であった。――<「学術文庫版あとがき」より>

ヘレニズムの思想家
講談社学術文庫
多島海イオニア地方に起こり、ソクラテス、プラトン、アリストテレスへと繋がる古典期のギリシア哲学。自由・真理の探求を旨とする思想は、アレクサンドロス大王以降のヘレニズム期にどのように展開したのか。エピクロス、ストア派のゼノン、クレアンテス、セネカ、懐疑派のピュロンなど、運命への関心、生き方の探求を主眼とした思想家たちを紹介。(講談社学術文庫)
古典ギリシアを継承するヘレニズム期の思想。アレクサンドロス没後紀元前30年頃まで、ギリシア哲学は誰に受け継がれ、いかに発展したのか。エピクロス派、ストア派、懐疑派など独特の思想傾向を紹介する。

禅語散策
講談社学術文庫
挨拶 血脈 投機 面目 行雲流水 日日是好日……
日常に息づく禅の世界
挨拶とは、心で心を読むことである――。日常語になった禅のことば、著名な禅語の一つ一つに、人生の機微に触れる深い意味が込められている。人としてのあり方を示す禅語があり、さとりの風光をあらわす語句がある。活路を見出す教えがある。禅とは自己の本来性に目覚めることを教えるもの。禅のこころを生き生きと味わうための、「読む禅語辞典」。

人物アメリカ史(下)
講談社学術文庫
マーク・トウェイン、フォード、キング牧師……
個人が輝き 時代が動く
人物の伝記を連ね綴り、アメリカ的特徴とは何かを探る。シカゴの貧民窟で闘った女性解放運動家アダムズ、近代化の矛盾に目をつむった自動車王フォード、
非暴力に徹し、黒人の権利向上に邁進したキング牧師、苦節の末の栄光と屈辱に満ちた没落を味わったニクソン。多様な人間模様、多面的な視点、意欲的な構成と記述、個人が輝き、歴史が息づく異色のアメリカ史。

人物アメリカ史(上)
講談社学術文庫
コロンブス、フランクリン、リー将軍……
伝記で読むアメリカの歴史
アメリカはどのように形作られてきたのだろうか。
大陸発見の道筋を切り開いたコロンブス、ピューリタンの新天地建設をめざしたウインスロップ、独立宣言を起草したフランクリンやジェファーソン、インディアン連合を組織しアメリカと戦ったテカムセ。巧みな構成、自由な語り、多彩な人物の伝記を並べ綴るおもしろさ抜群、魅力あふれるアメリカ史。
歴史家にふさわしい研究課題は人である。伝記的方法を採用することによって、歴史研究は生気を与えられる。この方法を選ぶ理由は簡単である……人々は人々に興味を抱くものだから。歴史は人々に関心を寄せるし、また、寄せねばならない。歴史をひとつづきの伝記と考えることによって、人生そのものと同じように血湧き肉躍る歴史書を書くことができるようになる。――<本書「まえがき」より>

天皇制国家と宗教
講談社学術文庫
国家神道が君臨した近代
「戦後政治の総決算」とは宗教において何を意味するのか。キリシタン弾圧、仏教への打撃政策、民間宗教の禁圧等により、天皇中心の神道的国民教化に乗り出した明治政府。やがて国家神道は全国民に強制され、昭和期に入ると、政府は治安維持法と不敬罪を武器に宗教弾圧を繰り返し、屈した宗教は戦争協力に狂奔した……。維新から敗戦までの歴史を通じて「国家と宗教」を問い直す。

単位の進化 原始単位から原子単位へ
講談社学術文庫
「メートル」「キログラム」の来歴は?
碩学が語る、単位の波瀾に満ちた物語
体の部分や身の回りの動植物を用いて長さや体積を表した時代から、高精度になり「メートル」「キログラム」などが国際的に統一されてゆくまで、単位はどのように定められてきたのか。それは時の権力に翻弄されながら研究を続けた先人たちの苦難の道程であった。身近な単位に秘められた波瀾万丈の歴史を、著者独自のユーモア溢れる語り口で易しく解説する。毎日出版文化賞受賞作。
筆者はこの小さな本のなかで“単位の偉大な躍進”の足どりをたどってみたいのである。それも、“最後の一歩”のはなやかさにのみ目を奪われてしまうことなしに、そこに至る何十歩、何百歩の足跡を筆者なりに勉強しながらたどってみたいのである。時として現代ばなれしているとも思われるような、そんな古い足跡になぜこだわるのか?(略)まじめに答えれば、『それを知らざれば最後の一歩の意義を解しえず』だからである(略)。――<本書より>

夏王朝 中国文明の原像
講談社学術文庫
伝説とされた中国最古の王朝の実在が明かされる
中国の古代国家はいつ誕生したのか。『史記』に伝えられながら近代歴史学によって存在を否定された夏王朝。殷に滅ぼされた王朝とは伝説だったのか。
しかし古典籍の徹底的な洗い直しと考古学の最新の成果により、二里頭を最後の王都とし高度な文化をもつ中国第一王朝の実在は確実となった。4000年前とも考えられる最古の文明と文化を検証する。

日本妖怪異聞録
講談社学術文庫
妖怪に秘められた敗者たちの怨み声を聞く
大江山の酒呑童子、那須野の妖狐・玉藻前、是害坊天狗、大魔王・崇徳上皇……
妖怪は山ではなく、人の心に棲息している。妖怪とは幻想である。そして、自分たちの否定的分身である。国家権力に滅ぼされた土着の神や人々の哀しみ、怨み、影、敵が形象化されたものである。
酒呑童子、玉藻前、是害坊天狗、崇徳上皇、紅葉、つくも神、大嶽丸、橋姫。日本妖怪変化史に燦然と輝く鬼神・妖怪たちに託されたこの国の文化史の闇を読み解く。
酒呑童子は山の神や水の神と深いつながりを持っている。彼ら鬼たちは龍神=大蛇=雷神のイメージと重ね合わされており、酒呑童子が大酒飲みと描かれているのは、近江誕生説にしたがえば、彼がヤマタノオロチ=伊吹大明神の血を引く異常な「人間」であったからである。酒呑童子は仏教によって、もともと棲んでいた山を追われてしまう。それは山の神が仏教に制圧されたプロセスと同じであろう。(中略)酒呑童子の物語から、土着の神や人びとの哀しい叫び声が聞こえてくる。征服者への怨み声が……そしてその声は、自然それ自体が征服されていく悲鳴であるのかもしれない。――<「第一章 大江山の酒呑童子」より>

チャップ・ブックの世界 近代イギリス庶民と廉価本
講談社学術文庫
行商人が提供した本と読書の楽しみ、そして大衆文化への拡がり
18世紀のイギリスで、行商人チャップマンが日用品とともに売り歩いた素朴な廉価本――チャップ・ブック。安価で手軽に面白い話が読めることで、庶民に大いに愛された。占い、笑話、説教、犯罪実録、『ロビンソン・クルーソー』などの名作ダイジェスト……その多様なジャンルの読み物を人々はどう楽しんだのか。本の受容を通して、当時の庶民の暮らしぶりを生き生きと描き出す。
金に余裕のある上流階級や貴族はともかくとして、一般の労働者や庶民にとっては、いわば英文学の本道を行くような作品は高嶺の花だったと言うことができよう。1週間なり1ヵ月なりを飲まず食わずで過ごして本を買うなどというのは、恐らくよほどの酔興でなければ考えつかないことだったのである。その意味で、1ペニー、2ペンスという値段で買えるチャップ・ブックは、貴重な存在であった。――<本書より>

結社と王権
講談社学術文庫
日本的王権=天皇制の構造とは?
国家形成に与(あずか)る<結社>の存在とは?
王はどのようなところに生まれ、国家はいかに形成されるのか、また共同体社会とのつながりは? 王権と共同体の間に無限の距離を見出す人類学的な視線を日本文化に向けたとき、どんな姿が浮かび上がるのか。血縁や地域を超えて人々を結びつける幻想的共同体「結社」の存在分析を足がかりに、日本的王権=天皇制の構造と国家形成の道筋を考察する。

近代文化史入門 超英文学講義
講談社学術文庫
今まで何の関係もないと思われていた2つのものが、1つであることを知ることこそ、魔術・マニエリスムの真諦である。そして、これこそが究極の「快」である。光学、辞典、哲学、テーブル、博物学、造園術、見世物、文字、貨幣、絵画、王立協会……。英国近代史を俯瞰し、歴史の裏に隠された知の水脈を、まるで名探偵ホームズのように解明する「脱領域の文化学」の試みである。(講談社学術文庫)
ニュートンと庭と絵と文学はつながっている。科学、美学、社会学、歴史学、哲学、辞典学、庭園術、観相学、博物学……。あらゆる知の領域を繋ぎ合わせて、紡ぎ出す、奇想天外にして、正統な近代視覚文化論。

占領期 首相たちの新日本
講談社学術文庫
吉野作造賞受賞作
「亡国の再生」に挑んだ5人の首相たち
敗戦2日後に誕生した東久邇内閣を皮切りとして、7年後の占領統治の終焉までに、幣原、吉田、片山、芦田、再び吉田と5人の首相、6代の内閣が生まれた。眼前には、非軍事化、民主化、食糧難、新憲法制定等、難問が山積する。占領という未曾有の難局、苛烈をきわめるGHQの指令のもとで、日本再生の重責を担った歴代首相たちの事績と人間像に迫る。
本書は占領下で重い荷を負った「首相たちの新日本」を再現せんとする試みである。戦後日本の再生のドラマを、通史的に描くのではなく、5人・6代の首相たち(吉田のみ再度、政権についた)が、何を想い、何を資源として、この地に堕ちた国を支え上げようとしたか。そして何に成功し、何に行き詰まったか。「人とその時代」を6つ重ね合わせるスタイルで描こうとの試みである。――<本書「まえがき」より>

合戦の文化史
講談社学術文庫
武器、武具、戦闘法、生死観……
戦う者の心情と戦場の舞台裏
時代の最先端の技術が集約される戦争において、古代より武器・武具はどのように進化し、戦闘法はどう変わったのか。また、勇壮な舞台の裏側で死を覚悟した武士は何を思ったのか。「晴れの場」であった戦場における武士のいでたちと戦い方から、死者の葬礼・供養など儀礼にいたるまで、有職故実研究の第一人者が、合戦の知られざる背景を明らかにする。

中世ヨーロッパの社会観
講談社学術文庫
人体に、建造物に、蜜蜂に、チェス盤に――
隠喩で捉えられた社会像
中世ヨーロッパは教皇・皇帝という聖俗権力の下の階層秩序的な社会であった。人体諸器官に喩えれば君主は頭、元老院は心臓、胃と腸は財務官と代官、武装した手は戦士、足は農民と手工業者、そしてそれらは魂であるところの聖職者の支配に服する――ほかに建築・蜜蜂・チェスなどを隠喩として社会の構成と役割を説明する中世人の象徴的思考を分析。

孝経 <全訳注>
講談社学術文庫
人間観・死生観の結晶 儒教の古典を読み直す
本文18章と付篇1章から成る小篇である『孝経』は、
孝道を論じた儒教の経書で、古来永く読み継がれてきた。しかし、単に親への孝行を説く道徳の書ではなく、中国人の死生観・世界観が凝縮された書である。
『女孝経』『父母恩重経』「法然上人母へのことば」など中国と日本の『孝経』周辺資料も多数紹介・解読し、精神的紐帯としての家族を重視する人間観を分析する。
従来、『孝経』と言えば、子の親への愛という、いわゆる親孝行と、孝を拡大延長した政治性という、いわゆる統治思想と、この両者の混在といった解釈がなされることが多く、それが『孝経』の一般的評価であった。そうではない。『孝経』全体としては、やはり死生観に関わる孝の宗教性が根本に置かれている。その上に、祖先祭祀・宗廟といった礼制が載っているのである。――<本書「『孝経』の主張」より>