講談社学術文庫作品一覧

中世の音・近世の音 鐘の音の結ぶ世界
講談社学術文庫
音に託された意味の変化から中近世の日本社会を読む。中世において誓いの場や裁判の場で撞かれていた神聖な鐘は、次第に日常的な音になり、危険や時刻を知らせる役割を果たすようになった。神の世界と人間をつなぐ音から、人間同士をつなぐ音へ。その変遷を、史料に加え民俗学の成果も多分に用いて考察する。記録には残りにくい当時の人びとの感性や感覚を追うことで、中近世の社会・文化を描き出す。
響きわたる鐘の音は人びとに何を告げたのか。古くは神の世界と人間とを繋ぐ音であった鐘の音は、次第に危急や時を告げる人間同士の合図となった。その意識の変化に着目し当時の社会・文化に迫る独自の論考。

イザベラ・バードの日本紀行 (上)
講談社学術文庫
1878年、横浜に上陸した英国人女性イザベラ・バードは、日本での旅行の皮切りに、欧米人に未踏の内陸ルートによる東京―函館間の旅を敢行する。苦難に満ちた旅の折々に、彼女は自らの見聞や日本の印象を故国の妹に書き送った。世界を廻った大旅行家の冷徹な眼を通じ、維新後間もない東北・北海道の文化・習俗・自然等を活写した日本北方紀行。(講談社学術文庫)
大旅行家の冷徹な目が捉えた維新直後の日本明治11年に行われた欧米人初の東京-北海道間内陸踏破の記録で、随所に日本の文化・自然等への鋭い観察眼が光る。新訳により原典初版本を完訳。挿画も全点掲載

英語の冒険
講談社学術文庫
英語はいつ、どこで生まれたのか。いかに成長していったのか
英語はどこから来てどのような経過で世界一五億人の言語となるに到ったのか――。1500年前にフリースランドからブリテン島に入り込んだゲルマン人の言葉。わずか15万人の話者しか持たなかった英語の祖先は、衰退と絶滅の危機を乗り越え、やがてイングランドの公用語から世界の「共通語」へと大発展してゆく。周辺言語との格闘と成長の歴史。
※本書の原本は2004年5月、(株)アーティストハウスパブリッシャーズより刊行されました。

バガヴァッド・ギーター
講談社学術文庫
古代より愛誦されつづける「神の歌」 珠玉の聖典
「神の歌」を意味する『バガヴァッド・ギーター』は、叙事詩の傑作〈マハーバーラタ〉中の最も感動的挿話であり、インドの人びとが古来愛誦してきた珠玉の聖典である。「私利私欲を離れ、執着なく、なすべき行為を遂(は)たせ」と神への献身的愛を語り、今日なお、多くの人の心に深い感銘を与える。本書は懇切な訳注と詳細な事項索引を付す原典訳である。
ここに提出するのは、今日なお、多くの人びとの心に深い感銘を与え、高い精神的意義を持ち続けているインドの古典『バガヴァッド・ギーター』の全訳である。大学在学当時、初めてこの詩章の美しい内容に触れ、「私利私欲を離れ、執着なく、なすべき行為を遂たす」という教えにいたく感動した。これが全篇の翻訳を思い立った次第である。――<本書「まえがき」より>
※本書の原本は、1998年4月、中央公論社から刊行されました。

生き残った帝国ビザンティン
講談社学術文庫
ローマ皇帝の改宗からコンスタンティノープル陥落まで
「奇跡の1000年」興亡史
栄華の都コンスタンティノープル、イコンに彩られた聖ソフィア教会……。興亡を繰り返すヨーロッパとアジアの境界、「文明の十字路」にあって、帝国はなぜ1000年以上も存続しえたのか。キリスト教と「偉大なローマ」の理念を守る一方、皇帝・貴族・知識人は変化にどう対応したか。ローマ皇帝の改宗から帝都陥落まで、「奇跡の1000年」を活写する。

物部氏の伝承
講談社学術文庫
大和朝廷で軍事的な職掌を担っていたとされる物部氏。しかし、その一族の実像は茫漠として、いまだ多くの謎に包まれている。記紀の伝承や物部氏の系譜を丹念にたどり、朝鮮語を手がかりに解読を試みると、そこには思いがけぬ真実の姿が浮かび上がってきた。既存の古代史観に疑問を投げかけ、作り上げられた物部氏の虚像を看破する著者独自の論考。(講談社学術文庫)
「物部氏」とは何者だったのか?
大和朝廷で軍事的な職掌を担っていたとされる物部氏。しかし、その一族の実像は茫漠として、いまだ多くの謎に包まれている。記紀の伝承や物部氏の系譜を丹念にたどり、朝鮮語を手がかりに解読を試みると、そこには思いがけぬ真実の姿が浮かび上がってきた。既存の古代史観に疑問を投げかけ、作り上げられた物部氏の虚像を看破する著者独自の論考。
はじめに、この本の主人公である物部氏について、私の考えた結論を、かんたんに述べておこう。一言で言って、「物部氏」という氏族は存在しなかった。(略)「物部氏」というのは、この物部連のことであり、かつ、物部八十氏をひっくるめてすべて同族と見なし、「物部氏」と呼び慣らわしてきているのである。だが、それはとんでもない誤りである。――<「はしがき」より>
※本書の底本は1977年、吉川弘文館より刊行されました。

アフォーダンス入門 知性はどこに生まれるか
講談社学術文庫
アフォーダンスとは環境が動物に提供するもの。身の周りに潜む「意味」であり行為の「資源」となるものである。地面は立つことをアフォードし、水は泳ぐことをアフォードする。世界に内属する人間は外界からどんな意味を探り出すのか。そして知性とは何なのか。20世紀後半に生態心理学者ギブソンが提唱し衝撃を与えた革命的理論を易しく紹介する。(講談社学術文庫)
知覚・認知に関する近代的常識を覆す理論。20世紀後半生態心理学者ギブソンが提唱した概念は広い領域に衝撃を与えた。外界は人間に対してどんな意味を持つのか、知性とは何なのか、新理論の核心を解説。

ベーダ英国民教会史
講談社学術文庫
古代ローマ時代から8世紀初めまで、アングル人、サクソン人、ジュート人、そしてさまざまな侵略者たちは、いかにしてイングランド人として統合されていったか。初代カンタベリ大司教アウグスティヌスを始めとする伝道者たちの行跡、殉教者の苦難、さらに世俗権力の興亡を活写し、「イギリス史の源泉」と称される尊者ベーダ畢生の歴史書。アルフレッド大王版で読む待望の新訳。(講談社学術文庫)
アルフレッド大王版で読む「イギリス史の父」畢生の名著
古代ローマ時代から8世紀初めまで、アングル人、サクソン人、ジュート人、そしてさまざまな侵略者たちは、いかにしてイングランド人として統合されていったか。初代カンタベリ大司教アウグスティヌスを始めとする伝道者たちの行跡、殉教者の苦難、さらに世俗権力の興亡を活写し、「イギリス史の源泉」と称される尊者ベーダ畢生の歴史書。アルフレッド大王版で読む待望の新訳。
「キリストの下僕であり、司祭でありますベーダはもっとも敬愛すべきケオウルフ王へご挨拶申し上げます。そして最近わたしがサクソン人およびアングル人について記しました『歴史』をご都合のよろしい折にお読みいただきましたうえで、ご批判を賜り、さらに複写して、あまねくほかの皆様にもご紹介いただきたく思い、贈呈申し上げます」――<本書「序文」より>

人間存在論
講談社学術文庫
西田も一目おいた京都学派哲学者の代表的著作
人間の現実を、その可能性を含めて、全体的に見極めること、これを哲学の根本的な仕事と考える著者は、アリストテレス的なコスモスの体系とヘーゲルの歴史の体系を軸に、哲学史の中で人間がどのように考えられてきたかを探り、師・西田幾多郎の絶対無に対する自らの立場を明らかにする。三木清、務台理作らと同世代、京都学派哲学者の代表的著作。
われわれは経験なくして現実を知ることはできないが、人間の自己経験とはいかなるものであるか、それと他人及び外界の物の経験との関係はどうであるか。そのような事柄がまず考察されねばならない。……人間についての科学の認識とも、直観的実感的な人生論とも異なる哲学の人間研究の特性がそこにある。――<本書より>
※本書の原本は、1966年8月、勁草書房より刊行されました。なお、収録にあたって、人名などの表記を一部改めました。

狂気と王権
講談社学術文庫
元女官長の不敬事件、虎ノ門事件、田中正造直訴事件、あるいは明治憲法制定史、昭和天皇「独白録」の弁明など、近代天皇制をめぐる事件に「精神鑑定のポリティクス」という補助線を引くと、いったい何が見えてくるか。「反・皇室分子=狂人」というレッテル貼り。そして、「狂気の捏造」が君主に向けられる恐れはなかったのか? 独自の視点で読み解くスリリングな近代日本史。(講談社学術文庫)
近代天皇制と精神医学の間で働く政治学とは。皇室関係者は精神異常時の不敬として、不起訴になり、ある者は、狂気の疑いがあったが、鑑定を受けずに死刑を受けた。巨大な権力と狂気との不思議な関係を暴く。

古代国家と年中行事
講談社学術文庫
射礼、五月五日節、相撲節、大晦日の儺…
国家儀礼としての行事にこめられた意味とは?
古代の律令国家において、なぜ年中行事は国家的儀礼として行われたのか。天皇と官人の関係を表現した射(じやらい)、礼武力を結集する五月五日節、八月駒牽、相撲節(すまいのせち)、疫鬼を追放する大晦日の儺(な)……現在まで残る民俗の起源でもあるそれらの儀式は、身分や秩序を体現し、権力構造を視覚化するものだった。儀式の過程やその変遷を子細に探究し、天皇を頂点とする国家構造との関わりを解明する。
毎年同じことがくりかえされていく年中行事は、一見無用にみえながら、それを共有していくことが、社会や文化の統合に重要な役割を果たしているのではないか、またその前提に暦があり、暦の存在自体が政治的な意味をもつ前近代社会においては、年中行事自体が王権や国家の支配に不可欠なのではないか、そこから日本律令国家の構造やその展開にせまれないか、という問題意識で本書は構想された。――<「あとがき」より>
※本書の原本は、1993年、吉川弘文館より刊行されました。なお、文庫化にあたり、引用史料の漢文を読み下すなどの修正を加えてあります。

花の民俗学
講談社学術文庫
万葉の花、正月の花、花と祭り……
日本人の生活と文化に花はどのように生きてきたか
日本人にとって花とはいったい何であろうか――。豊かな実りへの願望をこめて開花を待ち、四季折々に花を愛で、その移ろいに「あはれ」を感じ、いけ花という芸術を生んだ日本人。その心の原点を、万葉集、古今和歌集など古典の世界に渉猟し、各地の祭りや正月、雛祭り、端午の節供、重陽の節供など年中行事の民俗に探訪する、花をめぐる生活文化史。
本来、ハナは、実りの先触れ・前兆といった意味をもつのであり、サクラという語は、サは田の神・穀霊のことで、クラは神座の意であったから、田の神の依代と考えられての呼称とみられる。その花は、田の神の意志の発現であると信じられたに違いない。それは、田仕事にとりかかろうとする時期に、パッと咲くみごとな花に名づけられたのであろう。――<本書「花見の伝統」より>
※本書は、1985年4月、雄山閣出版より刊行された『花の民俗学〈新装版〉』を原本としました。

西洋人の日本語発見 外国人の日本語研究史
講談社学術文庫
西洋人の鋭い観察眼と真摯な探究心
16世紀~19世紀、生きた日本語の精緻な記録
1549年に来日したサヴィエル以降、ポルトガル・ロシア・オランダなどの人びとが、布教や交易、漂流民との交流等を通じて日本語に触れた。彼らは、口語と文語の使い分けや敬語など複雑な構成の日本語を、鋭い観察眼で分析し、精緻な辞書を作りあげた。それは、方言や俗語など当時の生きた日本語の貴重な記録でもある。彼らの真摯な研究成果と、日本語観・日本人観を紹介する。

中世民衆の生活文化(下)
講談社学術文庫
身分の固定しない中世民衆内部の差別意識はいかに形作られたのか
中世封建社会が確立するにつれ、乞食(こつじき)非人・河原者などと呼ばれる人々が卑賤視の対象となってゆく歴史的条件とは何か。農耕を中心的生業とする共同体は外来者への警戒、内部規律の徹底によって結束を強めてゆく。また穢れの観念、物忌み意識の深化が生み出す同一階層内での排除。やがて近世的身分制度に組み込まれてゆく賤視された人々の実相を読む。
1962年12月の「中世における卑賤観の展開とその条件」(第7)は、中世史研究者・部落問題研究者いずれの間でも、論議の俎上には上りにくかった。(略)民衆内部の「差別意識」の問題を扱うのは時期尚早と見なされやすく、中世身分制研究に一時期を画したと評される黒田俊雄氏の「中世の身分制と卑賤観念」が最新の論としてこの仕事に言及したのは、10年近くも後の1972年5月のことであり、その間は殆ど学界の陰にあった。――<「学術文庫版『中世民衆の生活文化(下)』に寄せて」より>
※本書は1975年に東京大学出版会から刊行された同名の書の第14刷(1999年刊)を底本とした。文庫化にあたり3分冊にした。

関ヶ原合戦 家康の戦略と幕藩体制
講談社学術文庫
秀吉没後、混沌とする天下掌握への道筋。豊臣政権内部で胚胎した諸問題はやがて家康と三成の2大勢力形成へと収斂してゆく。東西に分かれた両軍が衝突する慶長5年9月15日。戦いはどのように展開したのか。関ヶ原に未だ到着しない徳川主力の秀忠軍、小早川秀秋の反忠行動、外様大名の奮戦、島津隊の不思議な戦いなど、天下分け目の合戦を詳述。(講談社学術文庫)
天下分け目の合戦は以下に展開されたのか。豊臣政権内部の主導権争い、家臣団の角逐、統治姿勢の対立。秀吉没後、家康・三成の二大勢力はいかに形成されたのか。両軍の布陣・戦いの経緯はどうだったのか。

哲学者ディオゲネス 世界市民の原像
講談社学術文庫
ギリシアの枠を飛び越えた「犬哲学者」の実像
甕(かめ)の中に住まい、頭陀袋(ずたぶくろ)を下げ、襤褸(ぼろ)をまとって犬のようにアテナイの町をうろつき、教説を説いたシノペのディオゲネス。おびただしい数の逸話で知られる「犬哲学者」の思想とは、いったいどのようなものだったのか。アリストテレス的人間観や当時の伝統・習慣を全否定し、「世界市民」という新しい理念を唱導・実践した思想家の実像を探り出し、われわれ現代人の生き方を模索する。
「犬」と呼ばれたシノペのディオゲネス。ひとは彼についてどれほどのことを知っているだろうか。(略)昼日中にランプを灯してアテナイの雑踏を往来しつつ「わしは『人間』を探している」と言い放ったとか、なにかそういう類の奇抜な逸話が知られているだけではあるまいか。だが、知るべきはこの男の生き方、その根底にあった「世界市民」思想だ。――<「序章」より>

中世の秋の画家たち
講談社学術文庫
“北方ルネサンス”の絵画から読む中世西欧の生活空間
15世紀ネーデルラントはホイジンガによって「中世の秋」と名づけられた一個の生活空間であった。ブリュージュ、ガン、アントウェルペンなどの都市が生み出す活気溢れる文化。ファン・アイク兄弟、メムリンク、ボッスなどのきらびやかな才能が描き出す世界とは?キリスト教のテーマに世俗的な要素を盛り込んだ「北方ルネサンス」の絵画を読む。
※本書は、1981年、小沢書店刊行の『画家たちの祝祭 15世紀ネーデルラント』を底本としました。

史記の「正統」
講談社学術文庫
始皇帝、項羽・劉邦、蘇秦……2200年の謎を解き明かす
1000ヵ所にも及ぶ年代矛盾。取り違えられた王侯、隠蔽された「史実」――。司馬遷らによる編纂過程で、いったい何が起きていたのか。そして『史記』自体の「虚像」はどのようにつくられたのか。膨大な年代矛盾の謎をことごとく解明し、中国古代の帝・王・宰相の「正統観」を明らかにした画期的論考。これで春秋戦国時代の「常識」は塗り替えられる!
※本書の原本は、2000年1月、『『史記』2200年の虚実』として小社より刊行されました。

「世間体」の構造 社会心理史への試み
講談社学術文庫
世間の目を意識する日本人特有の行動原理とは? 世間に対して体面・体裁をつくろい、恥ずかしくない行動をとろうとする規範意識――それが世間体である。唯一絶対神をもたない日本人は、それを価値規準とし、世間なみを保つことに心を砕いてきた。世間の原義と変遷、また日本人特有の羞恥、微笑が生まれる構造を分析し、世間体を重んじる意味を再考する。世間論の嚆矢となった出色の日本文化論。(講談社学術文庫)
「世間体」を通して日本文化の基層に迫る。世間とは、体面とは何か? はじ=羞恥の文化の意義を問い直し、日本人の行動規範である「世間体」に社会心理学からアプローチする。世間論の嚆矢となった名著。

満州国
講談社学術文庫
「王道楽土」「五族協和」と満州国支配の実態
王道政治、五族協和、財閥排除等のスローガンのもと、ソ連社会主義や中国民族主義への砦、鉱物資源や農産物の供給基地という役割を担い、「日本の生命線」として生まれた満州国。しかしそれは出発点から、日本のかいらいとしての宿命を負っていた。以来、建国の理想をことごとく裏切った、14年に及ぶ日本による満州国支配の実態を明らかにする。
※本書の原本は、1978年、三省堂より刊行されました。