講談社現代新書作品一覧

素顔の医者 曲がり角の医療を考える
素顔の医者 曲がり角の医療を考える
著:中川 米造,その他:國米 豊彦,装丁:杉浦 康平,装丁:赤崎 正一
講談社現代新書
なぜ日本の医者は権威主義的か? 患者数が増え続ける理由は? 日本の医者の源を追いつつ医者養成システムをつぶさに検討し、現代医療の構造的問題に迫る。 人体解剖実習――学生たちは最初、一般的な注意があたえられた後、実習室に入る。防腐剤にまじって異様な臭いが漂っている。ずらりと並んだ解剖台の上に、シーツでおおわれた死体がそれぞれ横たえられている。一台に5人ないし6人の学生が配される。シーツを取ると、固く冷たくなった裸の身体が目にとびこんでくる。おもわず目をそらして、自分が担当させられている、手や足に目を移す。学生はそれぞれ右手、左手、右足、左足というように部分をわりあてられて、そこを解剖するのである。…… 最初の数日は、学生たちはすべてがはじめての体験ばかりで、混乱する。夕食をとるにも、食欲がなくなっている。肉などが視野にはいると、吐き気を覚えるという学生もいる。「なんでこんな実習をしなければならないのですか」と泣きながら先輩に訴える女子学生もいる。――本書より
素朴と無垢の精神史 ヨーロッパの心を求めて
素朴と無垢の精神史 ヨーロッパの心を求めて
著:ピ-タ-・ミルワ-ド,訳:中山 理,装丁:杉浦 康平,装丁:赤崎 正一
講談社現代新書
待たざること、自然の内に生きること――心の黄金を求める情熱は素朴な生の形を選ぶ。富や贅沢に背を向けた西洋のシンプリシティの系譜を辿る。 西洋の心とは――私たちがまず気づかなくてはならないことは、文化や文学や芸術は、私たちを取り巻いている今日の富や贅沢の中からではなく、質素で純朴で自然と密接に結びついた生活から生まれるということである。富に支えられた贅沢な生活ではなく、むしろそのような状況にあってこそ、人間とは何か、シェイクスピアのいう「アダムの艱苦」を味わいながら大自然とともに生きるとはどういうことか、善なる神の被造物になるとなどういうことかを肌で感じられるようになるのだ。――本書より
都市のコスモロジ- 日・米・欧都市比較
都市のコスモロジ- 日・米・欧都市比較
著:オギュスタン・ベルク,訳:篠田 勝英,装丁:杉浦 康平,装丁:赤崎 正一
講談社現代新書
シカゴの摩天楼と伊勢神宮。平安京と田園調布(ガーデン・シティー)……。都市に隠されたモチーフを縦横に比較し、喪われた「都市の意味」=「都市性」の回復を問う。 日本/西洋の弁証法──「西洋の都市」と呼べるようなモデルは存在しない。パリとロサンゼルスの間、あるいは地中海の町とミズーリ州の「ミドル・タウン」の間には根本的な相違があって、同じ都市性について語ることはできないのだ。……都市性に関するかぎり、日本型に対比できるような「欧米タイプ」が存在すると考えるのはばかげている。実際、自然との関係のような基本的なものを含めて、さまざまな点において、日本の都市とアメリカの都市は、アメリカの都市とヨーロッパの都市よりも近い関係にあるといえる。……本書が構想されたのは、したがって、日本(人)という実体と欧米(人)という実体をあまりにも簡単に対立させてしまうような日本(人)論の紋切型を打破するためである。──本書より
自閉症からのメッセ-ジ
自閉症からのメッセ-ジ
著:熊谷 高幸
講談社現代新書
もの言わぬ、静かな子供たちが示す、優れた空間認識や記憶力。ときには破壊的なまでの、習慣や物事の同一性への固着。認知心理学を通じて見た自閉症が私たちに語る、人間の心と脳のしくみ。 循環する時――私たちは、時間を一次元的な軸の上を進むものとして解釈している。過去の出来事は時がたてばたつほど遠いセピア色の世界となっていく。だからこそ、自分にとっては時間の果てにあると感じられる誕生日の曜日を、息子にぴったりと当てられた母親は「怖いような」「気持ちの悪いような」気分になるわけである。しかし、自閉症者は、私たちがイメージしているような時間軸というものをはたして意識しているのだろうか。M君とN君は、カレンダーを記憶する方法は少し違っていた。しかし両名とも、カレンダーという二次元空間の上を移動しながら指定された日付の曜日を探しに当てていた、という点では共通している。つまり、彼らは地図を見ていたのであり、二次元的なパターンを操作していたのだということができる。――本書より
英語表現をみがく<名詞編>
英語表現をみがく<名詞編>
著:豊田 昌倫,装丁:杉浦 康平,装丁:佐藤 篤司
講談社現代新書
最重要語の70%を占める名詞は、英語品詞の王。その誕生物語から、品位ある名詞とない名詞、単数と複数のふしぎ、英語と米語の差などまで。名詞をその基礎から理解し、英語感覚をみがく。 プリーズといいなさい──外国人の観光客や学生が“Victoria Station.”(ヴィクトリア駅)のように目的地だけを告げると、駅員が“Say please.”(プリーズといいなさい)と注文をつけるのを何回も耳にした。これは“Victoria Station please.”とていねいにいうべきだとの忠告なのである。……レストランで食事が終わり、飲み物を注文するときはどうか。客だからと横柄にかまえて、“Coffee.”(コーヒー)とか“Tea.”(’ティー)と名詞止めで注文するのは、英語の慣習にそぐわない。……この場合は下降よりも上昇調のイントネーションが好ましい。pleaseの1語を軽くそえるだけで、笑顔が返ってくるはずだ。──本書より
イスラ-ム復興はなるか 新書イスラ-ムの世界史(3)
イスラ-ム復興はなるか 新書イスラ-ムの世界史(3)
編・その他:鈴木 董,編・その他:坂本 勉,その他:加藤 博,その他:小松 久男,装丁:杉浦 康平,装丁:佐藤 篤史
講談社現代新書
イラン革命、湾岸戦争、ユーゴ紛争、原理主義……。イスラームにいま何が起きているのか。西欧優位の時代が生んだ近代化改革と、イスラーム復興運動のあいだで苦悩する、イスラームの近・現代を描くシリーズ最終巻。 息を吹きかえすイスラーム――ホメイニーの登場とイラン革命の成就によって、前章までにおいて述べてきた、第一次世界大戦直後の時期にその輪郭がつくられた国民国家の体制は、くさびを打ちこまれた。このような社会変動は、イラン一国だけにとどまるものではない。ほかの地域でも同じように体制自体の動揺・破綻・崩壊がすすんでいる。それはトルコやアラブ諸地域においては、ナショナリズムにもとづく国民国家の体制のゆきづまりとしてあらわれ、中央アジアやザカフカスでは、社会主義体制からの訣別というかたちをとった。このような体制変革にエネルギーをあたえているのは、いうまでもなくイスラームであろう……。いまやイスラームは失地を回復し、新しい活力をえて復興しようとしている。ヨーロッパ的な政治・法・社会のシステムに毒され、妥協をくり返してきた従来の世俗主義・モダニズムの体制を見直し、根本原理にたち戻って変革していこうとする動きが出てきた。イスラーム復興運動、原理主義運動などとよばれるものがそれである。――本書より
私の万葉集(一)
私の万葉集(一)
著:大岡 信,装丁:杉浦 康平,装丁:赤崎 正一
講談社現代新書
古代日本最初の歌集に収められた4500首余りのなかから、現代詩人の心が選りすぐる秀歌の数々。巻一から巻四までの鑑賞と読解。 現代に生きる『万葉集』――『万葉集』が現在でも、古典としてのみならず、それほど努力しなくとも現代人が味わい、楽しむことのできる「生きた」歌集として私たちの前にあるということは、否定しよのない事実です。こういう古代詞華集の存在は、世界的にいってもきわめて稀れでしょう。たしかに日本よりもずっと古い時代から偉大な文明を花開かせた国々または民族はたくさんあります。しかし、それらの国々や民族の古代文化の産物である詩や散文のうち、現在でも「生きた」ものとして現代人に愛読されているものは、はたしてどれほどあるでしょうか。宗教分野での聖なる書物を除くと、その数は実に寥々たるものとなるに違いありません。――本書より
コ-ランと聖書の対話
コ-ランと聖書の対話
著:久山 宗彦,装丁:杉浦 康平,装丁:赤崎 正一
講談社現代新書
イスラーム国エジプトには総人口の10パーセント強のキリスト教徒=コプトの人たちが住んでいる。少数派コプトの歴史と文化を浮き彫りにし、神の啓示という共通の根を持ちながら対立のみが目立つ両教の相互理解の道を、エジプトの人々との交流をふまえ考察する。 モーセの山、シナイ山──まわりのシナイ連山を瞼にやきつけながら一歩一歩踏みしめていくと、岩肌に朱色のサリーブ(十字架)と白色の“アッラー・アクバル”(偉大なる神)の文字が並べて記されてあるのにでくわした。実に感動的であった。このガバル・ムーサ(モーセの山=シナイ山)を一歩一歩時間をかけて登っていくことの大きな意味の1つは、とくにユダヤ教徒、クリスチャン、モスレムたちがモーセにまで立ち返ることになれば、皆は充分一体感が持てるようになることを身をもって体感していくところにあると言えよう。──本書より
ユ-ゴ粉争―「多民族・モザイク国家」の悲劇
ユ-ゴ粉争―「多民族・モザイク国家」の悲劇
著:千田 善,装丁:杉浦 康平,装丁:佐藤 篤司,イラスト・その他:浅沼 テイジ
講談社現代新書
「民族浄化」という狂気のもと、蓄積された民族主義と武器が、かつての隣人を殺戮していく。わずか73年で崩壊。戦争状態となった“自主管理・非同盟”の国家・旧ユーゴ。悲劇の歴史的背景を辿る。 計画的、組織的かつ大規模――わたしが聞いた難民たちの証言をまとめると、セルビア側の「民族浄化」作戦はボスニア戦争開始直後の92年5月から7月までの約3ヵ月間に集中しておこなわれた。犠牲者の大半はこの時期に村を追われたり、命を落とした。支配地を拡大するために住民を大量虐殺し、家々を焼き払う。殺し方も、ナイフで喉をかき切るなどの残忍な方法が意図的にとられる。わざと一部を生きたまま逃がすのは、「セルビア人の蛮行」を周囲の村々に伝えさせるためだ。セルビア人を恐れて自分から逃げてもらえば、殺すよりも手間はかからない。集落ごと「無傷」で手に入れることができる。殺さない場合でも、男は家畜小屋などを改造した「強制収容所」に閉じ込める。女には性的暴行を加え、あるいは殺しあるいは妊娠したことを確認してから釈放する。――本書・
「葉隠」の叡智 誤一度もなき者は危く候
「葉隠」の叡智 誤一度もなき者は危く候
著:小池 喜明,装丁:杉浦 康平,装丁:佐藤 篤司,イラスト・その他:山本 匠
講談社現代新書
戦国も既に遠い泰平の時代、武士の道は「奉公人」の道となる。「志」を勧め、「名利」を説く「葉隠」に、治世を生きる人間哲学を読む。 「奉公人」への道──ひとは一般に、「葉隠」の語り手山本神右衛門常朝について、どのような印象を抱いているであろうか。なにしろ「死ぬ事と見付たり」の御本人である。あるいは言うかもしれぬ。彼こそは武の人、強者、古武士の典型なり、と。だが私の見るところはちがう。彼は文の人、弱者、分別ある治世の「奉公人」である。(中略)強い武士というものは、「勝つ」ことだけを考えて、いちいち「死」を覚悟したりなどしない。これに対し、弱者になればこそ「死の覚悟」によりみずからをふるいたたせる必要があるのである。──本書より
パクス・イスラミカの世紀 新書・イスラ-ムの世界史(2)
パクス・イスラミカの世紀 新書・イスラ-ムの世界史(2)
編:鈴木 董,その他:杉山 正明,その他:羽田 正,その他:堀川 徹,その他:加藤 博,その他:小名 康之,その他:中原 道子,その他:家島 彦一,装丁:杉浦 康平,装丁:佐藤 篤司
講談社現代新書
ユーラシアを覆う「イスラームの平和」が生み出した空前の大交易時代。オスマン帝国など強大な三帝国の下で、イスラームの繁栄は第2のピークを迎える。イスラームから世界史を読み直すシリーズ第2巻は拡大と成熟の時代を描く。 染付コレクションが語るもの――イスラーム世界は、7世紀後半における成立以来、一貫して旧世界の三大陸の陸と海の交通が輻輳するところでありつづけた。当時の世界各地を結ぶ交通ネットワークは、移動の文明であるイスラームの支配下にあった。つまり、イスラームの歴史そのものが、すべて「大交通時代」であったとさえいえよう……。こうしたイスラームの大交通時代の繁栄の一端は、イスタンブルのトプカプ宮殿にいまも残る、膨大な中国陶磁器コレクションにみることができる。宋の青磁と白磁、明の赤絵、そして世界最大の規模をほこる元の染付コレクション。こうした貴重な陶磁器は、「陶磁の道」を経て、ムスリムたちによってオスマン帝国へと運ばれたものであろう……。ヴァスコ・ダ・ガマのいわゆるインド洋航路「発見」も、大西洋から喜望峰を回ってインド洋への入口を発見しただけで、そこからの彼のインドへの道は、まさにムスリムのインド洋ネットワークに頼ってすすめられたのだった。――本書より
画像検査で読む人体
画像検査で読む人体
著:鈴木 篤,その他:国米 豊彦,その他:山本 匠,装丁:杉浦 康平,装丁:赤崎 正一
講談社現代新書
最新のハイテク医療技術が映し出すからだの内側。従来のX線検査に加えて、CT、超音波(エコー)、MRIなど、多様化する画像診断法を紹介し、知っておきたい各種検査の意味と、賢い受診のための基礎知識を提供。 画像検査の意義──医療情報が乱れ飛ぶ今日の社会状況のなかで、患者さんが画像検査に対する認識を深めることの意義は、どこにあるのだろうか。それはまず、今日の画像診断の特徴や利点や限界またその背景などを、患者さん側も、ある程度は理解しておき、より適切な診療を受ける機会を自らつかむことではなかろうか。それはまた、人々がさまざまな検査を円滑に受け入れられる、市民的な理解の素地を作ることにもなると思われる。そこで、このような視点から、今日の臨床現場で多く利用されている画像診断の一端を、案内してみようと思う。──本書より
コミュニケ-ションの英語
コミュニケ-ションの英語
著:大内 博,その他:タイガー立石,装丁:杉浦 康平,装丁:赤崎 正一
講談社現代新書
英語表現を覚えるにはまずその文化背景から。感謝は誰が何にするのか?相手を否定しない不同意とは?言葉を裏付ける非言語表現とは?他者と「思い」を共有した言語関係(コミュニケーション)への道案内。 言葉以外のことば――最期にアドバイスを1つ。それは、どうぞ観察してくださいということである。英語を話す・聞くだけでなく、その言葉とともにどんな非言語行動がなされているかを観察してみると、今まで見えなかったようなことに気づくはずである。言葉によるコミュニケーションと非言語によるものとの両方が意識された時、その人のコミュニケーション能力は飛躍するに違いない。そして、この観察の対象は、コミュニケーションの相手に対して向けられるだけでなく、自分自身の行動にも向けられるべきである。自分の文化の中で無意識のうちに身につけてきた非言語行動がどんなものなのか、そして、それが異文化と接触した際、どんな意味をもつのかを観察する中で、いうなれば、「文化を超えた」自分独自の非言語行動のパターンも可能になるのではないだろうか。――本書より
「孫子」を読む
「孫子」を読む
著:浅野 裕一
講談社現代新書
人間心理の奥底を見つめ、「必ず勝つ」方法を冷徹に追求しつづけた孫子。勝算の冷静な分析、無勢で多勢に勝つ方法、リーダーに迫る5つの罠――など、しなやかな知と逆転の発想にみちた「最古最高の用兵理論」を読みとく。 百戦百勝はベストではない――『孫子』の兵学の特色は、軍事についてきわめて柔軟な発想を展開している点である。たとえばその柔軟さは、戦争イコール戦闘とは考えないといった形で現れてきている。…… 「交を伐つ(敵の外交関係を断ち切る)」(謀攻篇)といった外交戦術であったり、「謀を伐つ(敵の陰謀を未然に葬る)」(謀攻篇)といった謀略活動であったりする方が、金もかからず、血も流れず、はるかに効率がよいことになる。…… 孫子にいわせれば、決戦以外の戦闘をいかに巧みに回避して行くかが、将軍の腕の見せどころであって、百戦百勝を誇るのは、すでに百戦した点で凡将と称すべきである。――本書より
都市の文明イスラ-ム 新書イスラ-ムの世界史(1)
都市の文明イスラ-ム 新書イスラ-ムの世界史(1)
編:佐藤 次高,編:鈴木 董,装丁:杉浦 康平,装丁:佐藤 篤司
講談社現代新書
百万都市に集まる世界の巨富、コスモポリタンとして生きる人々。イスラームから世界史を読み直すシリーズ第1巻は、中東文明の継承者が世界文明をリードした時代を描く。 アーバン・ライフの達人たち――8世紀のイスラーム社会では、官僚や軍人の棒給はすべて現金で支払われた。これは驚くべきことといってよい……。これを実行するためには、現物で徴収された租税を商人に売り渡して現金に変え、この収入を基礎に精密な予算を組む必要があった。つまり、高度に発達した貨幣経済と官僚組織がすでに整えられていたのである……。イスラーム時代に入って、西アジアの都市はらさに洗練されたおもむきを呈しはじめる。市場は世界各地からもたらされた商品であふれ返り、現金さえあれば何でも買うことができた。遠隔地との取引をおこなう大商人は、現代の総合商社にも匹敵するといってよい。各地に代理人を派遣し、その情報にもとづいて有利な売買をおこない、その決済に手形や小切手が用いられた。豊かな生活を享受し、イスラームについての知識をみがくこと、これが都市に生きる人々の理想であった。イスラーム社会は、ヨーロッパに先がけて、都会的な生き方のマナーを身につけ、これを積極的に楽しむ人々を生みだしたのである。――本書より
蘇州―水生都市の過去と現在
蘇州―水生都市の過去と現在
著:伊原 弘,装丁:杉浦 康平,装丁:佐藤 篤司
講談社現代新書
長江下流域デルタ地帯、背後に広大な太湖、点在する湖沼、縦横に走る大小の運河、この水豊かな地に“大輪の花”のごとく栄えた古都・蘇州。その繁栄と衰微のさまをあとづけながら、東洋の水の都の運命を探る。豊かな水の恵み――江南の大小さまざまな都市のいずれもが水運を巧みに利用した形態をもち、その恩恵をたっぷりと受け取っていることは、都市形態や産物を見ればわかる。いずれの都市も交通および流通手段として水路を活用している。産物は魚や米。織物とて水がなくては良いものができない。場所は違うが名酒を産する紹興もまた水性豊かな一帯である。かくのごとく、水は江南のひとびとにたっぷりと恵みを施した。これは、近年も変わらない。近年の工業の隆盛もまた、豊かな水に頼っている。太湖の最近の産物に加わったものに淡水真珠があるが、これもまた水性豊かな一帯なればこその産品である。江南の豊かな水は、今日もなおひとびとに恵みを施し続けているのだ。――本書より
ロシア市場経済の迷走
ロシア市場経済の迷走
その他:伊藤 嘉英,編:陸口 潤
講談社現代新書
ロシアに市場経済は定着するのか。92年価格自由化に始まる改革意図とは裏腹に、苦境にあえぐ市民生活。表と裏が入りまじる混乱経済の実態を追跡。 経済改革への流れ――われわれはこのロシアの市場経済化への実験の軌跡をなんとか追跡して、記録しようと試みた。だが、広大な国、1億5000万人も住む国の動きがそう簡単につかまえられるものではない。そこで、政策の送り手ではなく、受け手の現場を追ってみようと、首都モスクワと極東のウラジオストクに観測の定点を決め、そこでの住民の生活、仕事、考え方などの変化の動きを中心に追跡してみた。(中略)ロシア市場経済の行方はまだ定かではないが、長い間の社会主義思考に染められ、画一的な考え方しかできなかったロシア人が、大混乱、混沌の中で戸惑いながらも少しずつ変わろうとし、変わりつつある姿だけは浮き彫りにされたのではないかと思っている。――本書より
心身症
心身症
著:成田 善弘,装丁:杉浦 康平,装丁:赤崎 正一,その他:山本 幸一
講談社現代新書
ストレスが腰痛を生み、不安が胃潰瘍を生み、行動パターンが病気を誘導する。心身相関に関する最新研究を紹介し、近代医学が引き裂いた「こころ」と「からだ」の統合を目指す新しい医学を提唱する。 すべての病は心身症である――コンサルテーション・リエゾン精神医学の基本にあるのは、すべての病は心身症であるという、広い意味の心身医学の考え方である……。人間においては、その内部において心(脳)と身体各部の間に相互作用が行われると同時に、外部の環境(対人関係を含む)との間でたえず相互作用が行われている。人間の疾病とは、この複雑な相互作用がどこかで何らかの不調をきたしたものと考えられる。したがって人間の疾病をみる場合には、心と身体を二分するのではなく、人間の内外における全体を評価し、治療的立場からどの因子の処理に力を注いだらよいかを判断すべきである。こういう心身相関の考え方に立てば、人間のすべての病は心身症と考えられ、とりわけて心身症という特殊な疾患群を考えたり、心身医学という特殊な学問領域を設けることは不要であるとも考えられるのである。――本書より
反日感情―韓国・朝鮮人と日本人
反日感情―韓国・朝鮮人と日本人
著:高崎 宗司,装丁:杉浦 康平,装丁:赤崎 正一,イラスト・その他:國米 豊彦
講談社現代新書
36年間にわたり隣国を植民地として蹂躙し、人々を強制連行したり、「従軍慰安婦」とした戦前。このことに対し、積極的に償いをしてこなかった戦後。隣国との歴史を再検討し、日本に対する彼らの不信感の根拠を探る。 天皇と責任――朝鮮人は、天皇を朝鮮植民地支配の責任者と考える。なぜなら、形式的にではあれ、朝鮮を植民地にしたのは明治天皇の名においてであったからである。大日本帝国憲法第13条は、「天皇ハ戦ヲ宣シ和ヲ講シ及諸般ノ条約ヲ締結ス」ることを規定していたし、実際に条約の調印にあたる全権代表を任命するのも天皇の仕事であった。また、すべての条約は「天皇の批准に依り完全に確定するものと認められ」ていた……。天皇の批准あるいは裁可がなければ、朝鮮の植民地化もなかったわけである……。さらに、「皇民化」政策と呼ばれた、朝鮮神宮(明治天皇らを祭っていた)などの神社への参拝強要、「皇国臣民ノ誓詞」斉唱の強要、日本語の強要、創氏改名の強要などは、いずれも朝鮮人を昭和天皇の臣民に化そうとするものであった……。1984年に全斗煥大統領が来日したとき、昭和天皇(韓国では「日王」「ヒロヒト」と表記されることが多い)の発言、いわゆる「お言葉」が問題になったのは当然であった。――本書より
巨大銀行の構造
巨大銀行の構造
著:津田 和夫,装丁:杉浦 康平,装丁:赤崎 正一,その他:國米 豊彦
講談社現代新書
預金量世界上位を独占する日本の巨大銀行群。強大な経済支配力、徹底した秘密主義、カネ・人・情報のパワー、証券との死闘、そして厖大な含み資産と不良債権――。日本資本主義を育成した金融の王者たちの光と影を内部から克明に描く。 床柱を背にした銀行――企業は銀行の機嫌を損じてはいけない。そこで、貸付部門の人々や、審査担当の幹部役員などに豪華な宴席や、盆暮れの高価な贈答品提供などの接待攻勢をかけた。「床柱を背にした銀行」と揶揄(やゆ)された光景であった。……諸産業の君臨し、一段と高いところから企業経営の隅々まで関与し、不満足であれば賃金を減らし、時に役員を派遣する。古典的金融理論でいうところの「独占金融資本の産業支配構造」そのものの風景であった。「石橋を叩いて他人に渡らせて自分は渡らない」のが銀行の本質で、「貸渋り」はいま始まったわけではなく、「雨が降ったら傘は取り上げる」のが、わが国の銀行の深層心理に定着していて、そう簡単には変わらない。いまでは、資本市場があるので大企業の銀行依存度は弱まったものの、市況が悪ければ増資や債券発行が難しくなる。やはり銀行に逃げられたら困る。まして中小企業は銀行に頼るしかない。いざとなったら銀行様なのである。――本書より