講談社文芸文庫作品一覧

槿
槿
著:古井 由吉,解説:松浦 寿輝
講談社文芸文庫
男の暴力性を誘発してしまう己の生理に怯える伊子(よしこ)。20年も前の性の記憶と現実の狭間で揺蕩う(たゆたう)國子。分別ある中年男杉尾と二人の偶然の関係は、女達の紡ぎ出す妄想を磁場にして互いに絡み合い、恋ともつかず性愛ともつかず、「愛」の既成概念を果てしなく逸脱してゆく。 濃密な文体で、関係の不可能性と、曠野の如きエロスの風景を描き切った長篇。谷崎潤一郎賞受賞。 男の暴力性を誘発してしまう己の生理に怯える伊子(よしこ)。20年も前の性の記憶と現実の狭間で揺蕩う(たゆたう)國子。分別ある中年男杉尾と二人の偶然の関係は、女達の紡ぎ出す妄想を磁場にして互いに絡み合い、恋ともつかず性愛ともつかず、「愛」の既成概念を果てしなく逸脱してゆく。 濃密な文体で、関係の不可能性と、曠野の如きエロスの風景を描き切った長篇。谷崎潤一郎賞受賞。
電子あり
石川啄木歌文集
石川啄木歌文集
著:石川 啄木,解説:樋口 覚
講談社文芸文庫
明星派の詩人として出発し、三行書きの短歌で歌壇に新風を吹き込み、〈大逆事件〉との出会いにより現実を凝視、明治という時代を考察して、結核と貧窮のうちに夭折した、天才詩人・石川啄木。非凡な才能で先駆的思想を所有した彼の歌集『一握の砂』『悲しき玩具』などから短歌200首、「性急な思想」「時代閉塞の現状」などエッセイ6篇、「はてしなき議論の後」「飛行機」ほか詩12篇を収録。
電子あり
せみと蓮の花・昨日の恥
せみと蓮の花・昨日の恥
著:坪田 譲治,解説:砂田 弘
講談社文芸文庫
「人間はみな死ぬる。解り切ったことである。然し誰しも直ぐ死ぬるようには考えていない。」(「せみと蓮の花」)ーー老境の童話作家が、過ぎ去った起伏の多い人生と、なつかしい人々への愛憎こもごもを、昔語りにも似た闊達自在さで描いた10篇。幼少期の思い出、肉親との葛藤、師の鈴木三重吉、小川未明のことなど、〈童心の文学〉といわれた譲治の心の陰影が、ユーモアに包まれて独得の味わいを醸し出す。 人間はみな死ぬる。解り切ったことである。然し誰しも直ぐ死ぬるようには考えていない。――(「せみと蓮の花」) 老境の童話作家が、過ぎ去った起伏の多い人生と、なつかしい人々への愛情こもごもを、昔語りにも似た闊達自在さで描いた10篇。幼少期の思い出、肉親との葛藤、師の三重吉、未明のこと等、<童心の文学>といわれた譲治の心の陰影がユーモアに包まれて独得の味わいを醸し出す。
電子あり
死霊(3)
死霊(3)
著:埴谷 雄高
講談社文芸文庫
黙狂の矢場徹吾が遂に口を開く。<決していってはならぬ最後の言葉>を語り始める第2の山場。そして翌日の昼、主要人物が一堂に会する津田安寿子の誕生祝いの席上、果して何が起こるのか。 7章から最後の9章までを収録。精神の<無限大>をつきつめ、文学の窮極大飛翔をはかった傑作、埴谷雄高の『死霊』は幕を閉じる。だが、埴谷が生涯かけて追究した<存在の革命>は未来へ託された――。 20世紀の傑作。わが国初の形而上小説。 遂に文庫化! 黙狂の矢場徹吾が遂に口を開く。<決していってはならぬ最後の言葉>を語り始める第2の山場。そして翌日の昼、主要人物が一堂に会する津田安寿子の誕生祝いの席上、果して何が起こるのか。 7章から最後の9章までを収録。精神の<無限大>をつきつめ、文学の窮極大飛翔をはかった傑作、埴谷雄高の『死霊』は幕を閉じる。だが、埴谷が生涯かけて追究した<存在の革命>は未来へ託された――。
電子あり
新編 石川啄木
新編 石川啄木
著:金田一 京助,解説:齋藤 愼爾
講談社文芸文庫
10代で夭逝した天才歌人・石川啄木と、同郷の先輩で親友、言語学者として大成した著者は、啄木の才能を惜しんで、時に生活を共にし、陰に陽に物心両面で彼を支えた。後年、折にふれて綴った啄木追慕の文章は、人間啄木の素顔を活写し、『定本 石川啄木』として本に纏まった。本書は、『定本 石川啄木』に「啄木の追慕」「啄木の終焉」など5編を増補し、新たに編集したものである。
電子あり
鬼火・底のぬけた柄杓
鬼火・底のぬけた柄杓
著:吉屋 信子,解説:川崎 賢子
講談社文芸文庫
焼跡の一軒家で起きた貧しい女の悲惨な自殺を凄艶な美へと昇華させた女流文学者賞受賞作「鬼火」、隠れ切支丹の遺児であった修道女の謎めく焼死を追った「童貞女(びるぜん)昇天」等、幻想的短篇7作に、薄幸な俳人の生涯を意欲的に掘り起こし、温かい筆致で描く「底のぬけた柄杓」等、俳人論3篇を併録。少女小説、新聞小説の世界で一時代を劃した吉屋信子のもうひとつの魅力をあますところなく示す精選作品集。
死霊(2)
死霊(2)
著:埴谷 雄高,解説:鶴見 俊輔
講談社文芸文庫
不可能性の超出に挑んだ世界文学。深更、濃霧の中を彷徨って帰宅した三輪与志に、瀕死の兄高志が語り始める。自ら唱える《窮極の革命》理論に端を発した、密告者のリンチ事件と恋人の心中、さらに《窮極の秘密を打ち明ける夢魔》との対決。弟の与志はじっと聴きいる。外は深い、怖ろしいほどの濃闇と静寂。兄の告白は、弟の渇し求める〈虚体〉とどう関わるのか。『死霊』第一の山場5章を中心に4章6章を収録。
電子あり
ファウスト(下)
ファウスト(下)
著:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲ-テ,訳:柴田 翔
講談社文芸文庫
4人来るのが見えたが帰って行ったのは3人。何やら困難とかいう言葉が聞こえ――。それに合せて追いかけた言葉は死……。悪魔に魂を売り渡して超人的な力を手に入れたファウストは、権謀渦巻くドイツ宮廷からギリシャの神話世界へ、さらには生命の始原に向かい旅立つが……。60年の歳月をかけ完成した世界文学史に屹立する名作。新訳文庫化。 宇宙と生命を巡る果敢なる精神の冒険劇。新訳文庫化! 4人来るのが見えたが帰って行ったのは3人 何やら困難とかいう言葉が聞こえ―― それに合せて追いかけた言葉は死・・・。 悪魔に魂を売り渡して超人的な力を手に入れたファウストは、権謀渦巻くドイツ宮廷からギリシャの神話世界へ、さらには生命の始原に向かい旅立つが・・・。 60年の歳月をかけ完成した世界文学史に屹立する名作。新訳文庫化。
電子あり
歳月
歳月
著:安藤 鶴夫,解説・その他:槌田 満文
講談社文芸文庫
独得の語り、卓越した鑑賞眼 古きよき時代の東京・寄席 8代目竹本都太夫を父に持つ著者は、新聞記者を経て文筆生活に入った。東京浅草に生まれ、久保田万太郎に心酔し、卓越した鑑賞眼で寄席・下町の世界を描く。伝統芸に対する鋭い批評、折々に記した下町の風物詩や身辺雑記を情感溢れる語り口で綴った随筆集『雪まろげ』『わたしの寄席』『わたしの東京』『雨の日』『年年歳歳』から表題作ほか25篇を精選収録。
城・ある告別
城・ある告別
著:辻 邦生,解説:菅野 昭正
講談社文芸文庫
パリの街並、ギリシアの光。 旅から生まれた初期作11篇 辻邦生のパリ留学時代は、自らの小説の根拠をさぐる旅の日々であった。家々の向うの丘に現れたパルテノンに、永遠の精神の結晶を発見した恍惚を語る「ある告別」、夕景に浮かぶ街並に、高貴なる秩序への意志を感取する「西欧の光の下」等、この期の旅に材をとった作品を中心に11篇収録。西欧の風光から啓示を受けて出発した辻文学の誕生の秘密を明かす初期作品集。
死霊(1)
死霊(1)
著:埴谷 雄高
講談社文芸文庫
晩夏酷暑の或る日、郊外の風癲病院の門をひとりの青年がくぐる。青年の名は三輪与志、当病院の若き精神病医と自己意識の飛躍をめぐって議論になり、真向う対立する。三輪与志の渇し求める<虚体>とは何か。三輪家4兄弟がそれぞれのめざす窮極の<革命>を語る『死霊』の世界。全宇宙における<存在>の秘密を生涯かけて追究した傑作。序曲にあたる1章から3章までを収録。日本文学大賞受賞。 半世紀をかけた畢生の傑作 埴谷雄高作品、初の文庫化 晩夏酷暑の或る日、郊外の風癲病院の門をひとりの青年がくぐる。青年の名は三輪与志、当病院の若き精神病医と自己意識の飛躍をめぐって議論になり、真向う対立する。 三輪与志の渇し求める<虚体>とは何か。三輪家4兄弟がそれぞれのめざす窮極の<革命>を語る『死霊』の世界。 全宇宙における<存在>の秘密を生涯かけて追究した傑作。序曲にあたる1章から3章までを収録。日本文学大賞受賞。
電子あり
ファウスト(上)
ファウスト(上)
著:ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲ-テ,訳・解説・その他:柴田 翔
講談社文芸文庫
(ファウスト)俺の喜びはただこの大地から生まれこの世の太陽だけが俺の悩みを照らすのだ。(メフィスト)それならためらうことはない。さあ契約だ。……地上にある限りの日々……人間がまだ見ぬものを見るのです。神ならぬ人間の身で世界のすべてを究めたい欲求に憑かれたファウストは、悪魔メフィスト―フェレスと契約を結ぶ。文豪ゲーテ畢生の対策が柴田翔の躍動する新訳で甦る。 躍動する新訳、文庫化! 人間と悪魔、火花散る魂のドラマ。 (ファウスト)俺の喜びはただこの大地から生まれこの世の太陽だけが俺の悩みを照らすのだ。 (メフィスト)それならためらうことはない。さあ契約だ。・・・地上にある限りの日々・・・人間がまだ見ぬものを見るのです。 神ならぬ人間の身で世界のすべてを究めたい欲求に憑かれたファウストは、悪魔メフィスト―フェレスと契約を結ぶ。文豪ゲーテ畢生の対策が柴田翔の躍動する新訳で甦る。
電子あり
朽葉色のショール
朽葉色のショール
著:小堀 杏奴
講談社文芸文庫
父の日常生活は常に規律正しかった。……生活の総てに秩序ある静けさが漂っていた……(「離脱」) 森鴎外の娘である著者が父に纏る様々なエピソードを記す。姉茉莉のこと、父を訪れた人々の素顔、身辺の雑事を始め鴎外を敬慕してやまなかった太宰治のことや中勘助の詩について、永井荷風と著者との関わりなど、鍛えられた見事な文章で綴るエッセイ39篇。
歯車・至福千年
歯車・至福千年
著:堀田 善衞,解説:川西 政明
講談社文芸文庫
敗戦時、混乱を極めた上海を舞台に、時代に翻弄され、組織の非情なメカニズムにとらえられていく人間の姿を、著者自らの体験をもとに描破した「歯車」、教会的権威と民衆の知との対立を追った「メノッキオの話」、宗教的熱狂の意味を問う「至福千年」など、小説5篇に初期詩篇を併録。歴史の中で自らの運命を背負いながら生きる個人を見つめ、戦後文学に新局面を切り拓いた堀田善衛の核心に迫る。
女妖啼笑 はるかな女たち
女妖啼笑 はるかな女たち
著:奥野 信太郎
講談社文芸文庫
「ぼくは生れて眼に麗色をみることを、ことのほか喜ぶ癖をもっている」――この告白で始まる「愛婉癖」の由来を、幼き日の古き良き東京の風景の中に、長じて友との遊興の中に、また戦時下の北京の生活の中に追懐する-ヴィタ・セクシュアリス-。 中国文学者、粋人奥野信太郎が、明治・大正・昭和と移ろう都市風俗と男女の道の風流を、滋味あふれる文体で描く随筆集。
わが荷風
わが荷風
著:野口 冨士男
講談社文芸文庫
もし誰かにあなたの好きな作家はと問われれば、躊躇することなく永井荷風とこたえるだろう……それは私のなかのいちばん奥ふかいところに、いつもあった。(本文より) 荷風の愛読者を自認した著者が、自らの青春への追憶を重ねながら、本所、浅草、小石川……など荷風の作品背景を丹念に踏査。荷風の生涯と作品の全貌を追究して荷風像を構築し、詳細な年譜等も付す画期的評伝。読売文学賞受賞。
路地
路地
著:三木 卓
講談社文芸文庫
名刹が点在し、高級住宅地が広がる古都・鎌倉。 だが、そんな町にも、様々な人生が交錯する「路地」がある。古書店主、観光人力車を曳く男、図書館勤めの小市民……、市井の7人それぞれが、過去に秘めている罪や愛が、彼らの平穏な日常を波立たせる一瞬を犀利に捉え、人生の細やかな真実を温もりとともに掬いあげる短編連作。谷崎潤一郎賞受賞作。
電子あり
自然主義文学盛衰史
自然主義文学盛衰史
著:正宗 白鳥
講談社文芸文庫
私は一般の世間に於いて人生を見るよりも、文壇に於いて人生を見て来たのである。(本文より) 明治末期から大正初期にかけて文壇の主流であった自然主義文学を、当時読売新聞の記者として文芸欄を担当のち作家として文壇の中心にあった著者が、藤村、花袋、秋声等の作品を論じながら回顧。漱石、鴎外、二葉亭にも及び、自然主義文学の盛衰を辿った力作評論。第一級資料。
パルタイ・紅葉狩り 倉橋由美子短篇小説集
パルタイ・紅葉狩り 倉橋由美子短篇小説集
著:倉橋 由美子
講談社文芸文庫
豊饒なる倉橋文学の世界 デビュー作「パルタイ」から怪奇掌篇・寓意譚に至る9篇を収録。 前衛党入党から離反までを、不毛な性愛の日々に重ね、内的手法で描いたデビュー作「パルタイ」以降、日本の文学風土から自由な、徹底した虚構を追究。そこからは、イメージの豊饒さと方法意識に貫かれた<反世界>が現れる。プロメテウスの罰を再現した「囚人」、白昼夢にたゆとう「夢のなかの街」等、初期作品から怪奇掌篇、寓意譚に至る9篇を収録し、著者の孤高なる文学的歩みをたどる。
電子あり
セザンヌの山・空の細道 結城信一作品選
セザンヌの山・空の細道 結城信一作品選
著:結城 信一
講談社文芸文庫
大空襲の夜、劫火に追われて手を離した幼い妻と赤ん坊を死なせた若い夫の慟哭「鶴の書」、死に向かって傾斜する老人の想念に揺曳する死んだ少女像「空の細道」(日本文学大賞受賞)等、短篇12篇。絶え間なく主人公を脅かし、誘惑する「死」を通奏低音に、「永遠の少女」への憧れを飽くことなく描き続けた<いのちの作家>結城信一の代表的作品を精選収録。