講談社学術文庫作品一覧

江戸娯楽誌
講談社学術文庫
軽業、落語、万歳、花見、蛍狩り……多彩な娯楽が彩った江戸
江戸は娯楽の宝庫であった。軽業(かるわざ)、曲独楽(きょくごま)、のぞきからくり等、修練の極をしめす街頭の芸人の至芸や珍奇さを売り物にした見世物・大道芸、宝引(ほうび)きや蛍狩りといった四季折々の好楽、大山詣りや富くじ等の信仰と結びついた行事や遊び……。江戸の暮らしに潤いとリズムを与えた娯楽の数々を、庶民の飾らない心の内を映し出す小咄・川柳を配して紹介する。

紀貫之
講談社学術文庫
『古今集』撰進1100年
日本美を創出した偉才の歌と生涯
我が国最初の仮名文日記『土佐日記』の作者、また、『古今和歌集』の編者で、その代表的歌人、紀貫之。国風文化を隆盛に導いた平安期文人は、いかなる生涯を送り、日本文学史にどんな刻印を残したのだろうか。余情妖艶な風趣、花鳥風詠の和歌、彫琢された日本語。日記文学研究の第一人者が、先学の論考と著作を踏まえ、独自の視点から日本人の美意識誕生の秘密を解き明かす。
日本人特有の四季美意識やこまやかな心情表現の型や優雅な歌ことばの数々を創り出した『古今和歌集』ほど、古典の名にふさわしい作品は他にないといえよう。その『古今和歌集』を編集した中心人物が紀貫之である。彼は「仮名序」で和歌文学の本質と歴史について初めて明言し、理想の和歌を「心」だけでなく「言葉」との調和に求めた。晩年には、『土佐日記』を書いて仮名文日記という最初の試みに挑み、明るいユーモアと沈痛な心情とを旅日記の虚構をかりて巧みに表現した。――<本書より>

昭和天皇(下)
講談社学術文庫
「意思なき君主」か「意思ある大元帥」か
日本人にとっての天皇とは
2001年ピュリッツァー賞受賞作
広がる戦火、そして敗戦。天皇は帝国日本の御輿にすぎなかったのか、それとも軍事情報に精通し作戦指導にも関与する、実質を伴う大元帥だったのか。戦後の占領政策と昭和天皇像が「日米合作」によって作られたことを解明し、日本の戦後史におけるアメリカの役割を鋭く批判。そして天皇は「意思なき君主」か否かという、近現代史最大のテーマに迫る。

ハンニバル
講談社学術文庫
エブロ河を越えアルプスを越え、南イタリアの地カンナエでローマ軍団を打ち砕いたハンニバル。戦いに勝ちながら、最終的にローマという果実を刈り取らなかったのは何故なのか――。地中海世界の覇権をかけて大国ローマを屈服寸前まで追いつめたカルタゴの勇将、アレクサンドロス・カエサル・ナポレオンに比肩する天才の戦略と悲劇的な生涯を描く。(講談社学術文庫)
大国ローマと戦ったカルタゴの英雄の生涯。地中海世界の覇権をかけて激突した古代ローマとカルタゴ。大国ローマを屈服寸前まで追いつめたカルタゴの将軍ハンニバルの天才的な戦略と悲劇的な生涯を描く。

海をわたる蝶
講談社学術文庫
海面で昼寝する蝶、18億匹の大移動
謎に満ちた蝶の生態
私たちの周りで美しく舞いながら飛ぶ蝶。人間と蝶の間には、密接で深い、意外な関係が存在する。1分間に数千匹が山を越え移動するイチモンジセセリ。日本列島をさまよいながら生きるウラナミシジミ。外国から海を越えてくる蝶、また、海面で昼寝をする蝶。なぜ旅をするのか、どのくらいの距離を動くのかなど、本書は、謎に満ちた蝶の不思議な生態を解き明かす。
「先生、イチモンジセセリが、今度はすごい数ですよ」。なるほど昨日とは桁違いの移動である。あるものは低く、露にぬれた草すれすれに、あるものは高く3メートルほどの所を、波打つようにリズミカルに、西へ西へと飛んでゆく。この大移動は数の盛衰こそあったが、午後2時ごろ私たちが下山するまで続き、最盛期には牛島君の可視範囲で1分間に3000~4000匹に達した。いったい、どれだけの蝶が葛城山を越えて奈良側から大阪側へ移動したであろうか。――<本書第1章より>

イソクラテスの修辞学校
講談社学術文庫
イソクラテスの思想の真髄
「善き言論」は「善き思慮」のしるし
古代ギリシアの教養理念に一大潮流を形成したイソクラテス。プラトンらが教養の原理に数理諸学や哲学を置いたのに対し、彼は弁論・修辞学を対置し、教育を実践した。やがてイソクラテスを源泉とする修辞学的教養はローマ、ルネサンスと受け継がれ、遠く近世にまで多大な影響を及ぼすことになる。イソクラテスの理想と教育を生き生きと描いた好著。

昭和天皇(上)
講談社学術文庫
神格化されたベールの下の人間像に迫る
初めて解明された昭和天皇像
2001年ピュリッツァー賞受賞作
君主としての人間形成はどのようになされたのか。明治天皇を範とする帝王教育や大元帥になるための軍事教育を受けた皇太子時代から、即位を経て政治的君主へと変貌していく過程を、新たに発表された膨大な資料をもとに克明に描出する。神秘のベールに包まれた昭和天皇をひとりの人間としてとらえ、実像に迫る出色の研究書。ピュリッツァー賞受賞作。

日本文化の形成
講談社学術文庫
日本列島を徹底踏査した民俗学の巨人が、『古事記』『日本書紀』『万葉集』『風土記』などの古代文献を読み返し、それらと格闘の末、生まれた日本文化論。稲作を伝えた人びと、倭人の源流、畑作の起源と発展、海洋民と床住居など、東アジア全体を視野に入れた興味深い持論を展開する。長年にわたって各地の民俗を調査した著者ならではの着想を含む遺稿。(講談社学術文庫)
民俗学の巨人が遺した日本文化の源流探究。生涯の実地調査で民俗学に巨大な足跡を残した筆者が、日本文化の源流を探査した遺稿。畑作の起源、海洋民と床住居など、東アジア全体を視野に雄大な構想を掲げる。

正法眼蔵(七)全訳注
講談社学術文庫
道元の言葉は、何故人の心を揺り動かすのだろうか。袈裟や鉢盂を伝持する意味を深く追究した「鉢盂」。虚空をつかむことができるかどうかを論じ合う「虚空」。仏教者の融通無礙なる境地を語る「王索仙陀婆」。仏道の要諦は経巻や仏祖が正伝する知識に裏打ちされた自証自悟にこそあると説く「自証三昧」。綿密でかつ噛んで含めるように仏法を説く巻々を収める。

中世都市 鎌倉
講談社学術文庫
世界遺産登録を目指し、発掘調査の進む鎌倉。武家屋敷跡、陶磁器、銭貨等、出土した遺物は、国内はもとより遠く中国からも膨大な物資や技術を引き寄せ、呑み込んだ消費都市鎌倉の実相を物語る。文献史料だけでは見えてこない武士の栄華の実態、庶民生活、食文化等々、興味深い事象を考古学的洞察で究明、読者を中世史学の新たなフィールドへと誘う。

北京物語
講談社学術文庫
千年の都に躍動する庶民と英雄達の実像
10世紀、契丹(きったん)人が都城を構えて以来、数々の王朝の都として繁栄した北京。元の都・大都を築いたフビライ、異民族支配を脱して紫禁城の主となった明の永楽帝など権力者の野望に迫り、『金瓶梅』『紅楼夢』などの文学から明・清時代の世相を描出。千年の都に躍動する庶民と英雄たちを活写する一方、西太后と頤和園(いわえん)など、名所旧跡の来歴も興味深くたどる。
マルコ・ポーロが描いた大都の繁栄、壮麗な紫禁城を舞台にした明・清時代の政治抗争など、10世紀に遼が都城を構えて以来の都の栄光と、フビライ、永楽帝、康熙帝など権力者の素顔を活写。また『金瓶梅』『紅楼夢』などの小説から明・清時代の世相を読み取り、老舎の作品から日中戦争に翻弄された庶民の哀感も痛切に描く。万里の長城、明の十三陵、天壇など名所旧跡の由来も解説した、北京を知るための必読書。

関東軍
講談社学術文庫
日露戦争直後から太平洋戦争終結までの40年間、満州に駐屯し、日本の対中国政策の尖兵的役割を演じた関東軍。陸軍中央の統制に背いて独走し、軍事的衝突を策した彼らの行動は、日本の運命に重大な影響を及ぼした。張作霖爆殺事件や満州事変、ノモンハン事件等の歴史的大事件を中心に、膨大な史料に基づいて、関東軍の歴史と独走の実態を描き出す。(講談社学術文庫)
対中国政策の尖兵となった軍隊の実像に迫る。日露戦争直後から太平洋戦争終結までの40年間、満州に駐屯した関東軍。時代を転換させた事件と多彩な人間群像を通して実証的に描き出す、その歴史と性格、実態。

中世ヨーロッパの城の生活
講談社学術文庫
牢固とまた堂々と風格を漂わせ、聳(そび)える城。西欧中世、要塞のような城が陸続と建造されていった。城作りはいついかなる理由で始まったのだろうか。城の内外ではどのような生活が営まれていたのだろうか。ウェールズ東南端の古城チェプストー城を例に挙げ、年代記、裁判記録、家計簿など豊富な資料を駆使し、中世の人々の生活実態と「中世」の全体像を描き出す。

英国人写真家の見た明治日本
講談社学術文庫
スコット南極探検隊同行写真家の100枚の写真で甦る100年前の日本
スコット南極探検隊の映像記録を残したポンティングは、世界を旅し、日本を殊の外愛し、この世の楽園と讃えた。京都の名工との交流、日本の美術工芸品への高い評価。美しい日本の風景や日本女性への愛情こもる叙述。浅間山噴火や決死の富士下山行など迫力満点の描写。江戸の面影が今なお色濃く残る100年前の明治の様子が著者自らが写した貴重な写真とともにありありと甦る。
本書の特徴は、著者自身の経験が生き生きと描かれ、さらにさまざまなエピソードが織り込まれている点であり、その意味でユニークな日本滞在記といえるだろう。保津川の急流で泳いだり、富士山の下山の途中、道なき道を下るなど、かなりの冒険もしている。浅間山の山頂で噴火に遭ったときの描写や精進湖の花火の話も大変おもしろい。随所に出てくる風景描写に、さすがに写真家ならではの細かな観察がうかがわれる。――<本書「訳者あとがき」より>

戦国策
講談社学術文庫
奇知縦横の言論、巧智・奸智が彩る戦国乱世を活写
前漢末の学者劉向(りゅうきょう)が、皇帝の書庫にあった「国策」「国事」などの竹簡を編んで作った『戦国策』。33編486章の長編を、人物編、術策編、弁説編の3編100章に再構成して平易に解説。陰謀が渦巻く戦国乱世を生き抜く巧智・奸智や説得の技法とは何か。「虎の威を借る狐」「漁夫の利」「先ず隗(かい)より始めよ」など故事名言の由来と古代中国の奥深い知恵を学ぶ。

菊と刀
講談社学術文庫
第二次大戦中の米国戦時情報局による日本研究をもとに執筆され、後の日本人論の源流となった不朽の書。日本人の行動や文化の分析からその背後にある独特な思考や気質を解明、日本人特有の複雑な性格と特徴を鮮やかに浮き彫りにする。“菊の優美と刀の殺伐”に象徴される日本文化の型を探り当て、その本質を批判的かつ深く洞察した、第一級の日本人論。(講談社学術文庫)
菊の優美と刀の殺伐。今も輝く不朽の日本論日本人の精神生活と文化を通し、その行動の根底にある独特な思考と気質を抉剔。「恥の文化」を鋭く分析し、日本人とは何者なのかを鮮やかに書き出した古典的名著

日米戦争と戦後日本
講談社学術文庫
日本が緒戦の勝利に酔っている頃、アメリカはすでに対日占領政策の立案を始めていた!
「真珠湾」から半年余、わが国が緒戦の戦勝気分に酔っていた頃、米国ではすでに対日占領政策の検討に着手していた。そして終戦。3年の歳月を要した米国による戦後日本再建の見取り図はどう描かれ、それを日本はどう受け止めたか。またそれを通じ、どう変わっていったか。米国の占領政策が戦後日本の歴史に占める意味を鳥瞰する。吉田茂賞受賞作。

旧約聖書の思想
講談社学術文庫
昏迷きわまる現代に、旧約聖書は3000年の時を超えて何を語りかけるか。ニヒリズム、愛、終末等の主題のもとに旧約から24の断章を選び、ニーチェ、キルケゴールら数多の解釈、思想史を渉猟しつつ、新たな読みを提示。時に芸術の内に旧約を見、時に旧約からエイズや援助交際等、現代が抱える諸問題をも考究する。碩学が現代に甦らせる旧約の思想世界。
【目次より】
1.隠れた神 イザヤ書四五章15節
2.ニヒリズム コーヘレス書一章2節
3.偶像禁止の根拠 出エジプト記二○章4節、申命記五章8節
4.創造 創世記一章26―27節
5.愛児の献供(1)哲学者の解釈 創世記二二章1―2節
6.愛児の献供(2)地平の融合 創世記二二章14節
7.沈黙 イザヤ書六二章6―7節
8.知恵 創世記三章4―5節
9.他宗教との関係 出エジプト記二○章2―3節、申命記五章6―7節
10.「宗教」批判 サムエル記下一二章24―25節
11.罪と赦し 詩篇五一篇5―6節
12.頑迷預言 イザヤ書六章9―10節
13.西洋精神史との関係(1)文学・絵画の場合 士師記一六章17節
14.西洋精神史との関係(2)彫刻・音楽・思想の場合 出エジプト記三四章29節
15.西洋精神史との関係(3)アモラリズム ヨブ記三一章35―37節
16.愛(1)愛の3つの形 申命記一○章17b―19節
17.愛(2)新約における愛敵 箴言二五章21―22節
18.愛(3)旧約における愛敵 レビ記一九章18節
19.愛の秩序(1)愛の7つの形 申命記六章5節
20.愛の秩序(2)統合論と代贖論 ミカ書六章8節
21.終末(1)終末論の三類型 アモス書五章18節
22.終末(2)終末論の胡散臭さ アモス書五章24節
23.終末(3)義と愛 アモス書九章14―15節
24.終末(4)苦難の神義論 イザヤ書五三章4―5節

戦後責任論
講談社学術文庫
亡霊のように甦る戦争の記憶と日本の戦後を問う
中国・重慶での反日暴動、従軍慰安婦を巡る諸問題など、ある日突然、亡霊のように甦る戦争の記憶。冷戦構造が崩れて直面したアジアの戦争被害者の声に、日本はどのように応答すべきか。ユダヤ人大量虐殺を否定する歴史修正主義や、台頭する新たなナショナリズムを鋭く批判し、アジアの民衆との信頼関係回復のため戦後責任を問い続ける俊秀の力作。
このような呼びかけに応答すること、レスポンシビリティとしての責任を果たすことは、自分の属する国家がかつて破壊したアジアの諸国民、民衆との信頼関係を回復し、新たに作り出す行為だろうと私は思います。そしてそうであるかぎり、これは被害者側だけでなく加害者側にとっても、けっして「否定的」であったり「抑圧的」であったりする行為ではなく、むしろ「肯定的」で「歓ばしい」ものになるはずではないでしょうか。――(本書<「戦後責任」再考>より)

律令制の虚実
講談社学術文庫
外来文物の日本的受容による古代国家形成と国風文化の開花
東アジアの東端に位置する日本は、大陸や半島の影響を受けつつ古代国家を形成した。しかし、その外来文化は日本的受容によって独自の展開を遂げる。律令国家の誕生から、奈良朝の変遷と絢爛たる天平文化、平安遷都、貴族社会の成立、国風文化の開花、そして武士の擡頭までを描出。奈良~平安時代の社会と文化の底流にある古代日本の特性を追究する。