来たるべき内部観測 一人称の時間から生命の歴史へ

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来たるべき内部観測 一人称の時間から生命の歴史へ

キタルベキナイブカンソクイチニンショウノジカンカラセイメイノレキシヘ

講談社選書メチエ

「過去、現在、未来」から成り、前後関係を定めることができるような「時間」を、私たちも、そして科学者も疑っていない。しかし、私たちがすべてを経験するのは常に持続する「今」なのだとすれば、二つの時間をともに捉えなければならない。「内部観測」の発見者である著者が、自身の理論をバージョンアップするべく試みる大胆な挑戦。さまざまな科学の最前線を横断しながら展望される、前人未到の領域を目撃せよ!


「時間」とは何か?──そう問われたとき、人は「過去、現在、未来」から成る流れのようなものを想像するだろう。その時間の中では「過去」、「現在」、「未来」が明確に区別され、それらの前後関係を定めることができると考えられている。そのような時間は、経験科学も自明の前提としてきたものである。しかし、その一方で、私たちは常に「今」に生きていて、「今」から離れることはできない。つまり、私たちがあらゆる経験をする現場は「今」以外ではなく、そこには「過去」も「未来」もない。
だとすれば、ここにある「現在」と「今」は同じものなのか。本書は、この問いを出発点にして、前後関係としての時間に依拠する経験科学が、経験の現場である「今」を捉える方法を探っていく。
そのためのカギになるのが、著者が発見し、世界的に影響力を及ぼし続けている「内部観測」という方法にほかならない。内部観測とは、個物が他の個物と関係をもつとき、相手から受ける影響を相互に同定しながら相手を観測する、という私たちが経験の現場で日々行っている事実を指す。すでに『内部観測とは何か』(2000年)でその概要を示したこの方法をバージョンアップするべく、著者は私たちがもっている「言語」に注目する。
通常、言語は「過去」、「現在」、「未来」を区別する「時制」をそなえている。しかし、時制は三人称で捉えられるものであり、それは一人称でしかありえない経験を捉えることはできない。ところが、物理学をはじめとする経験科学は、三人称での記述を行うものとして、確立・発展してきた。そこで扱われる対象は、すでに完了形になった「過去」のものでしかないが、経験というのはいつでも進行中であり、完了とは無縁の一人称のものである。では、経験科学は一人称を捉えることはできないのか? 量子論、熱力学、インフォメーション現象から「生命の起源」に至るまで、さまざまな科学の最前線を横断しながら、著書は前人未到の領域を目指して大胆な可能性に挑戦していく。


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  • 次巻

目次

はじめに
第I章 アーサー・プライアーの謎
 1 論理に訴える
 2 観測に訴える
 3 時制の変換を司る今現在
 4 決定性を担う一人称
第II章 量子論からの決定性
 1 経験を記述すること
 2 観測量と観測値
 3 量子絡みをもたらす
 4 一人称の立ち上げ
 5 相対状態の現れ
 6 三人称を超える一人称の行為体へ
第III章 熱力学からの一人称
 1 断熱過程を見直す
 2 フーリエの熱伝達則:再訪
 3 持続する物質交換へ
 4 熱力学現象が支える行為体
第IV章 一人称行為体からの量子論
 1 持続する内部観測体
 2 持続する化学反応へ
 3 循環物質が担う親和性
 4 指標としての循環物質
 5 分子再生を容認する量子過程
 6 反事実条件法からの肯定性
 7 持続を担う条件付き確率
第V章 インフォメーション──抽象から具体へ
 1 時間の与格
 2 時の流れとその同一性
 3 抽象から具体をもたらす時の流れ
 4 時制変換を司るインフォメーション
 5 連続性と離散性の統合
 6 予期をともなうインフォメーション
第VI章 意識を操ること
 1 統合する意識
 2 今、ここからの予期
 3 三人称現在形を超える今
 4 進行形と完了形との統合
第VII章 時制をまたぐ脳
 1 ベイズの主観を支える物理過程
 2 因果作用と能動性
 3 抽象に随伴する具体
 4 イメージをもたらす運動
第VIII章 生命の起源にたどりつく
終 章 持続する今をもたらす親和性
あとがき

書誌情報

紙版

発売日

2016年05月11日

ISBN

9784062586269

判型

四六

価格

定価:1,815円(本体1,650円)

通巻番号

623

ページ数

256ページ

シリーズ

講談社選書メチエ

電子版

発売日

2016年05月27日

JDCN

0625862600100011000L

著者紹介

著: 松野 孝一郎(マツノ コウイチロウ)

1940年生まれ。1971年、マサチューセッツ工科大学物理学科博士課程修了。長岡技術科学大学名誉教授。専門は、生物物理学・内部観測理論。主な著書に、『プロトバイオロジー──生物学の物理的基礎』(東京図書、1991年)、『内部観測──複雑系の科学と現代思想』(共著、青土社、1997年)、『カオス』(共著、青土社、1997年)、『アフォーダンス』(共著、青土社、1997年)、『内部観測とは何か』(青土社、2000年)ほか。

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