畠中尚志全文集

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畠中尚志全文集

ハタナカナオシゼンブンシュウ

講談社学術文庫

「畠中尚志」という名を目にした人は多い。しかし、その名を刻印して書かれた言葉と結びつけて記憶している人は少ない。――本書は、その思いから生まれました。
本書の著者・畠中尚志(1899-1980年)を知る人のほとんどは、『エチカ』をはじめとするスピノザの著作(岩波文庫)の「訳者」として記憶していることでしょう。その訳業はスピノザの全哲学著作に及び、優れた日本語訳をすべて文庫版で読めるようにした功績は、どれだけ称えても足りません。
しかし、その全7作品に収録された訳者解説を通して読んだことのある人はどれだけいるでしょうか。その同じ人が、ボエティウス『哲学の慰め』や『アベラールとエロイーズ』、さらには『フランダースの犬』の訳者でもあることを、雑誌『思想』で論争を繰り広げたことを、そして数々のエッセイを雑誌に寄稿していたことを知っている人がどれだけいるでしょうか。
仙台の旧制二高で学び、東京大学法学部に進んだものの、若い頃から病に苦しめられた著者は、やがてスピノザと出会います。中でも「この書はその後幾度か崩れ落ちようとした私の精神生活をさゝえてくれる支柱の一となった」(「仰臥追想」)と回想される『エチカ』に惹かれた著者は、独学でラテン語を学び、療養生活の中で全訳を完成させるに至りました。淡路島の洲本、東京、軽井沢、富士見、福岡、そして四国への疎開を経て、再び東北へ――各地を転々としつつ悪化する症状と闘いながら翻訳と執筆を続けた著者は、公表された最後の文章で書いています。「全集邦訳と並んで私の若き日の目標の他の一半であったスピノザの伝記とその哲学解説の作成は、邦訳終了後しばしば試みたにもかかわらず病いと種々の故障に妨げられて遅々として進まず、今の視力ではいつ出来上るかも当てがない。それを思うと私はいつも胸の痛むのをおぼえるのである」(「スピノザを訳した日々のこと」)。本書は、ついにかなわなかったその「目標」の完成した姿を想像させてくれます。それは著者が自宅の庭に植えて大切にした馬酔木が花を咲かせたように、読む人の中で別の姿に成長してくれるはずです。著者の長女である畠中美菜子氏によるエッセイ、そして國分功一郎氏による渾身の解説を収録し、ここに「著者」畠中尚志の完全な集成をお届けいたします。

[本書の内容]
第I部 論 考――訳者解説
 1 スピノザ
 2 ボエティウスからフランダースの犬まで
第II部 論 争
第III部 随 筆

エッセイ(畠中美菜子)
解 説(國分功一郎)


ⒸRemiko Hatanaka

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目次

第I部 論 考――訳者解説
1 スピノザ
『知性改善論』
『国家論』
『神学・政治論』
『エチカ』
『神・人間及び人間の幸福に関する短論文』
『往復書簡集』
『デカルトの哲学原理 附 形而上学的思想』
スピノザの生涯と思想
2 ボエティウスからフランダースの犬まで
ボエティウス──生涯・業蹟・文献
アベラールとエロイーズ並びにその書簡集について
フランダースの犬

第II部 論 争
邦訳「スピノザ全集」の学的価値──齋藤〓(しょう)氏の業績を検討す
齋藤〓(しょう)氏の謬見を正す──スピノザの翻訳問題を中心として
[参考資料]

第III部 随 筆
スピノザ生誕記念日を迎へて
土田さんの一面──エチカの歌を中心として
仰臥追想
私の上京
関心に二つの山──対蹠的な本質論:”福音”と唯物主義
『ヘット・スピノザホイス』、『クロニコン・スピノザヌム』など
一古典訳者のそぞろ言
スピノザの手紙
『デカルトの哲学原理』あれこれ
ある面会日の赤彦先生
島木赤彦と土田耕平
馬酔木を植える
晩翠先生とその画像
スピノザを訳した日々のこと

エッセイ(畠中美菜子)
解 説(國分功一郎)

書誌情報

紙版

発売日

2022年12月15日

ISBN

9784065302286

判型

A6

価格

定価:1,496円(本体1,360円)

通巻番号

2744

ページ数

360ページ

シリーズ

講談社学術文庫

電子版

発売日

2022年12月14日

JDCN

06A0000000000581301P

初出

本書は、畠中尚志氏が公表したすべての文章を集成したものです。テーマごとに全三部構成とし、各部の中は年代順に配列しています。

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