講談社学術文庫作品一覧

『おくのほそ道』を読む
講談社学術文庫
旅行文学として世界的に有名な『おくのほそ道』。日本人にとってはその文章が、ふと口をついて出てくるほどの親しい古典でもある。著者は俳諧的美意識をもつ俳諧師としての芭蕉に注目し、その視点から解読すると、『ほそ道』の構造がよくわかるという。『ほそ道』は実際の旅を、「俳諧師の、かくありたいと願う形に構成しなおした半創作的なすぐれた旅の記録である」と説く、出色の芭蕉の新しい読み方。

ドイツロマン主義とナチズム
講談社学術文庫
哲学者と詩人と音楽家の国ドイツが、なぜナチスを生んだのか。著書はドイツ第3帝国のイデオロギーの根源を1930年代からルターの宗教改革までさかのぼり明らかにしようとする。信仰の世俗化は、ドイツにおいては哲学や文化のかたちをとり、ロマン主義がドイツ固有のものの一切の実現であり、最高の刻印であると定義。ナチス的なものへの批判を含みつつドイツ精神の本質に迫る文庫オリジナル。

現代思想の展開
講談社学術文庫
原始的商品経済のなかから貨幣がたたき出されるプロセスを「第3項排除」と命名し、排除されたものが乱れた秩序を回復、再建すると強調した〈暴力論〉、資本主義経済下で、本来豊かな労働生活が一面化し単層化したと指摘する〈労働論〉などで現代社会を鋭く分析。さらにマルクス論、イデオロギー論、社会科学認識論などを、批判的精神を視点に展開した。『現代思想の基礎理論』に続く今村哲学の必読の書。

人格の精神分析学
講談社学術文庫
精神分析学の歴史に〈対象関係論〉の礎石を据えた人として知られるフェアベーン。本書では人格の核心、即ち自我から出発することによって、自我を支えてくれる対象に必死で迫ろうとする自我自身の悪戦苦闘のさまを詳細綿密に論じる。人格における分裂的要因から独自のスキゾイド・パーソナリティー論を展開した。精神分析医としての豊富な臨床例をもとに、独創的視点で人格を分析した画期的論考。

『源氏物語』を江戸から読む
講談社学術文庫
中世以来『源氏物語』の注釈は公卿の師弟間の口伝でなされてきたが、出版技術の確立した江戸期に多彩な源氏学が開花した。本居宣長「もののあはれ論」はじめ、国学者・儒学者・文人たちの江戸源氏学の諸相と、井原西鶴『好色一代男』、柳亭種彦『田舎源氏』等のパロディ群出現で庶民に浸透した世俗化現象を分析。江戸文化が不滅の古典『源氏物語』をいかに享受し、消化したかを縦横に考察した意欲作。

現代日本の感覚と思想
講談社学術文庫
人がひとつの思想を見出してそれに共感するのは、その思想に呼応し共振する感覚があるからである。この感覚は、様々な社会構造とその変動を通して得た経験によって形成される。1960年代に始まる高度経済成長は、日本の社会構造を根底からゆさぶり、日本人の精神感覚を、さらに思想を大きく変容させた。現代日本社会の構造と経験と感覚と思想とが、互いに規定し合い変容してゆく仕方を描く好著。

近代文化の構造
講談社学術文庫
欧米で誕生し、発達した近代市民社会の特質を、キリスト教文化の影響を中心に解説。とくにマックス・ヴェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』やアダム・スミスの『道徳感情論』で示された勤勉、節約、質素、自制などの徳目を市民社会の担い手の特性として指摘。西洋近代文化の構造を考察し、キリスト教と他の文化諸領域との緊張関係を説き、更に日本の「近代」文化を批判する。

花の履歴書
講談社学術文庫
人に歴史があるように花にも歴史がある。いつ、誰がどこで、どのように栽培を始め、改良したのか。その歴史を知れば花の世界はもっと豊かになるに違いない。18世紀イギリスの花の探検家たちによる新種の発見や日本への伝来を詳細に記し、著者自ら研究のために訪れた世界各地の植物を紹介。身近な草花百種の文化史を、独自の調査と古今東西の貴重な文献で探り、栽培のこつをも解説した必携の書。

記号論の思想
講談社学術文庫
バルト、ラカン、デリダ、ボードリヤールなどのフランスの思想家を中心に、構造主義から記号論への展開を考察。また、20世紀の消費社会がもたらした映画、写真、デザインなどの大衆文化をも記号論の視点で解読する。著者は様々な記号と思考がからみ合う生態学的な状況において、記号論を形式的な分析装置にはとどめない。現代思想全体への鋭い批評精神を持つ記号論の豊かな可能性を説く意欲作。

ギリシア神話と英雄伝説(下)
講談社学術文庫
ホメーロスの代表的叙事詩『イーリアス』に描かれた、勇将智将の活躍で名高い〈トロイア戦争〉を始め、ゼウスほかギリシアの神々の物語と英雄たちの放浪と冒険の伝説をいきいきと再現する。北欧神話の『エッダ』やゲルマン民族の国民的叙事詩『ニーベルンゲンの歌』なども興味深く紹介した。古代人の豊かな想像力と、人生の神秘、崇高な人間讃歌が随所にあふれた興味尽きない神話物語の新訳決定版。

ギリシア神話と英雄伝説(上)
講談社学術文庫
ギリシアの神々と英雄達の物語をいきいきと描き、全世界の家庭で親しまれてきた歴史的名著。ホメーロス、ヘーシオドスの古典をもとに、天空の神・ゼウス、美と愛の女神・アプロディーテー、海の神・ポセイドーン、太陽神・アポローンなどを中心にしたさまざまな神話と伝説の世界が展開する。科学技術優先の時代にあって、内なる自己発見への旅とロマンティシズムを呼び起こす神話物語の最高傑作。

人類学的世界史
講談社学術文庫
火の発見と原子力の発明は人類の歴史にとってどちらが価値があるのか。先史時代に生じた文化の種子はヨーロッパ・アジア・アフリカへと蒔かれ、さまざまな異文化が現代の地球を覆う。著者は豊富な文化人類学の知識をもとに、人類発展の歴史を進化論とは異なる視点で捉え直す。各地域の文化の歴史を検証しながら、宇宙空間への進出も犂の発明も同じ位相にならべて文化の意味を考察した画期的世界史。

鴨長明
講談社学術文庫
隠者文学の代表作といわれる『方丈記』の作者鴨長明は、京都下鴨社社家の次男。自閉的な性格で妻子とも30代の初めに離別した。詩歌管絃にすぐれ、歌人としても活躍したが、50歳のとき下鴨社の人事異動に敗れ、大原に移って出家した。晩年の著作『方丈記』『無名抄』『発心集』に彼の独自な生き方を読みとることができる。生涯、心の救済と格闘し続けた数奇者としての長明の一生を縦横に描いた好著。

科学史の逆遠近法
講談社学術文庫
科学革命以後の近代科学を絶対普遍とみなし、科学史を単線的進歩の過程と捉える硬直した歴史観と対決することは、科学史の第1人者である著者の終生の課題である。魔術・錬金術・占星術など、従来は擬似科学としか評価されなかった西欧中世のオカルト・サイエンスを厳密な方法論により分析。科学革命前夜の神秘思想やヘルメス主義の諸相を論じ、謎に充ちたルネサンス期科学を照射した画期的論考。

日本民族の源流
講談社学術文庫
騎馬民族征服王朝説の公表など、戦後の史学界に大論争を巻き起こした画期的座談会を再現する。民族学の岡正雄、考古学の八幡一郎、東洋史学の江上波夫らの碩学に、文化人類学の石田英一郎が司会として参加。日本民族の起源や国家の成立について世界的視野で論じ、神話の比較文化史的分析と古墳埋葬品の変化などから騎馬民族説を提唱した。古代史研究の金字塔として今日なお評価の高い必読の名著。

宗教人類学
講談社学術文庫
宗教人類学とは、原始〈未開〉民族社会および文明社会の民俗宗教を文化人類学的視点と方法により研究する学問である。今日、いかなる宗教・文化現象もアニミズムや呪術など、原始宗教的な要素を考慮せずには論じられなくなっている。「世界宗教とアニミズムの複合の解明こそ宗教人類学研究の最前線」と唱える著者が、日本および南・東南アジアの民族宗教文化の特質を考察した先駆的な入門書である。

現代社会論
講談社学術文庫
1980年代から盛んになった市場経済の高度化は既成の歴史の知恵や伝統の権威を拒否して、市場が価値を決定することがむしろ当然とする、ポスト・モダニズムをもたらした。その核心にあるニヒリスティックな価値についての相対主義的態度は、われわれの社会に大きな影響を与えている。情報化社会が到来し、さらなる高度産業化が進展する今日、「市場社会」のイデオロギーを根底から問う刮目の書。

俳句の世界
講談社学術文庫
名著『日本文藝史』に先行して執筆された本書において、著者は「雅」と「俗」の交錯によって各時代の芸術が形成されたとする独創的な表現意識史観を提唱した。俳諧連歌の第一句である発句と、子規による革新以後の俳句を同列に論じることの誤りをただし、俳諧と俳句の本質的な差を、文学史の流れを見すえた鋭い史眼で明らかにする。俳句鑑賞に新機軸を拓き、俳句史はこの1冊で十分と絶賛された不朽の書。

アメリカ自由主義の伝統
講談社学術文庫
アメリカの政治史を論ずる時、常にアメリカ政治思想論議の出発点となっている『アメリカ自由主義の伝統』。ハーツはアメリカとヨーロッパの政治史を比較対照し、封建的伝統を持たないアメリカは「生まれながらの自由主義社会」であると分析。更に自由主義を絶対化して国民的信念「アメリカニズム」を確立したと論及する。才気溢れた文体と論理を駆使した鋭い洞察によるアメリカ政治史の古典的名著。

老子・荘子
講談社学術文庫
儒家の人為の思想を相対差別の元凶として否定した老子は、無為自然を根本の立場として不浄の哲学を説く。荘子はなお徹底して運命随順を志向し、万物斉同を根本思想とした。著者は老荘の微妙な相違を検証しながら、「道」と「無」に収斂される壮大な思想体系の全貌を明証する。宇宙の在り方に従って生きんとする老荘思想の根本的意義と、禅や浄土宗などを通して日本人に与えた多大な影響を照射する好著。