講談社学術文庫作品一覧

現代社会論
現代社会論
著:佐伯 啓思
講談社学術文庫
1980年代から盛んになった市場経済の高度化は既成の歴史の知恵や伝統の権威を拒否して、市場が価値を決定することがむしろ当然とする、ポスト・モダニズムをもたらした。その核心にあるニヒリスティックな価値についての相対主義的態度は、われわれの社会に大きな影響を与えている。情報化社会が到来し、さらなる高度産業化が進展する今日、「市場社会」のイデオロギーを根底から問う刮目の書。
俳句の世界
俳句の世界
著:小西 甚一
講談社学術文庫
名著『日本文藝史』に先行して執筆された本書において、著者は「雅」と「俗」の交錯によって各時代の芸術が形成されたとする独創的な表現意識史観を提唱した。俳諧連歌の第一句である発句と、子規による革新以後の俳句を同列に論じることの誤りをただし、俳諧と俳句の本質的な差を、文学史の流れを見すえた鋭い史眼で明らかにする。俳句鑑賞に新機軸を拓き、俳句史はこの1冊で十分と絶賛された不朽の書。
アメリカ自由主義の伝統
アメリカ自由主義の伝統
著:ルイス・ハ-ツ,訳:有賀 貞
講談社学術文庫
アメリカの政治史を論ずる時、常にアメリカ政治思想論議の出発点となっている『アメリカ自由主義の伝統』。ハーツはアメリカとヨーロッパの政治史を比較対照し、封建的伝統を持たないアメリカは「生まれながらの自由主義社会」であると分析。更に自由主義を絶対化して国民的信念「アメリカニズム」を確立したと論及する。才気溢れた文体と論理を駆使した鋭い洞察によるアメリカ政治史の古典的名著。
老子・荘子
老子・荘子
著:森 三樹三郎
講談社学術文庫
儒家の人為の思想を相対差別の元凶として否定した老子は、無為自然を根本の立場として不浄の哲学を説く。荘子はなお徹底して運命随順を志向し、万物斉同を根本思想とした。著者は老荘の微妙な相違を検証しながら、「道」と「無」に収斂される壮大な思想体系の全貌を明証する。宇宙の在り方に従って生きんとする老荘思想の根本的意義と、禅や浄土宗などを通して日本人に与えた多大な影響を照射する好著。
ヨ-ロッパ封建都市
ヨ-ロッパ封建都市
著:鯖田 豊之
講談社学術文庫
11世紀のヨーロッパに「都市の空気は自由にする」という合言葉が生まれた。荘園領主の専横に苦しむ農民たちの、華やかな商工業活動による経済的自由への希求が、新たな都市文化を築き上げたのである。近代資本主義社会を生み出す市民意識形成の場となった自由都市成立の契機を、日本の封建社会との比較文化的視角を交えて縦横に分析する。史上に比類なき自由都市の興亡を鮮明に描いた必読の都市論。
茂吉秀歌『白桃』から『のぼり路』まで百首
茂吉秀歌『白桃』から『のぼり路』まで百首
著:塚本 邦雄
講談社学術文庫
――このたびの4歌集では、特にその外的要因が顕著な影響を与へてゐる例が多い。――問題点の1つは、初期戦争短歌の評価と処理にあつた。作者個人の人間関係に纏(まつは)る愛憎は、むしろこのとき従たる問題となる。昭和10年代前半に、まさに青春を迎へようとし、結果的には戦争によって、それを完膚なきまでに蝕まれた私にとつて、茂吉のいたましい戦争体験は他人事ではなかつた。(著書「解題」より)
ドイツと日本
ドイツと日本
著:小塩 節,解説:中西 進
講談社学術文庫
ドイツ文学者である著者が、ケルンの日本文化会館館長の体験を交え、日独文化交流の実態を説く。映画「寅さん」の上映による日本的発想の紹介や、在職3年間に150回にのぼった講演など、文化交流に奔走した日々をいきいきと描写。また、幕府により初めてヨーロッパに派遣された文久遣欧使節の足跡をたどり、知られざる国際交流の歴史も明かす。日本とドイツをめぐる興味深い交流の記録と提言
新装版 文学評論
新装版 文学評論
著:夏目 漱石,その他:櫻庭 信之
講談社学術文庫
英国留学より帰国した漱石が、東京帝大で講義した18世紀の英国文学をまとめた名著。トーリー党とウィッグ党の争いや、当時流行した珈琲店、倶楽部の様子など、社会と風俗をあざやかに再現。それを背景に登場した『ガリヴァー旅行記』のスウィフトや『ロビンソン・クルーソー』の作者デフォーなどを独自の観点から論じた。的確でユーモア溢れる名講義は比類なき文学評論としてなお高く評価される。
日本の民俗宗教
日本の民俗宗教
著:宮家 準
講談社学術文庫
一般に民間で行われている宗教現象は民間信仰とよばれており、日本人の生活に深く浸透している。民間信仰は日本人が諸宗教を摂取する枠組となっており、著者はこれを民俗宗教と捉える。本書は従来、個々に解明されてきた民間信仰を、宗教学の視点から体系的に理解するため、その鍵となる原風景、歴史、儀礼、物語等を解説し、民俗宗教の中核をなす死と祖霊化の問題を考察した待望の入門書である。
社会科学の方法
社会科学の方法
著:マックス・ヴェ-バ-,訳:祇園寺 信彦,訳:祇園寺 則夫
講談社学術文庫
ヴェーバーにおける社会科学は、人間の諸事象を文化意義という観点から考究し、歴史的個体の把握に努め、歴史事実を分析・総合すべきとする。彼は唯物史観をしりぞけ、抽象的理念だけでなく論理的な現実認識の手法を加えた《理念型》という概念を導入し、新たな社会科学の方法論を確立する。本書はヴェーバー思想の転換点と位置づけられ、その後の展開と体系を理解するうえで必読の書といわれる。
わざとらしさのレトリック
わざとらしさのレトリック
著:佐藤 信夫
講談社学術文庫
われわれは言語が自分の考え方や現実の情景などを忠実に描写・表現するものだと考えがちである。著者はそういった素朴な言語観を否定し、〈まことしやか〉に対する〈わざとらしさ〉のレトリックこそ言述(デイスクール)の本質的な姿だと説く。夏目漱石、小林秀雄、井上ひさし、筒井康隆、ロラン・バルトらの散文表現を素材に、著者独自の言語理論が自在に展開する佐藤レトリック学の〈実践篇〉の位置を占める会心作。
電子あり
トマスによる福音書
トマスによる福音書
著:荒井 献
講談社学術文庫
1945年、エジプトで写本が発見され、「新発見の福音書」として世界にセンセーションをまきおこした。〈トマスによる福音書〉―異端として排斥されたグノーシス派の立場から編まれた114のイエスの語録集である。新約聖書学・グノーシス主義研究の世界的権威がその語録を精緻に注解し、独自の福音書を明らかにした本書は、従来の「正典福音書」のイエス像を一変させることを迫る衝撃の書である。
御岳巡礼 現代の神と人
御岳巡礼 現代の神と人
著:青木 保,解説:梶原 景昭
講談社学術文庫
御岳信仰は、日本人の精神と行動の基層にある超自然的信仰を代表するものである。文化人類学者としてタイ、スリランカ等の宗教と社会の実地調査を重ねてきた著者が、本書では御岳講の列に連なって「神おろし」と呼ばれる憑霊現象はじめ、登拝巡礼の実態を報告する。御岳教の教団史を辿り、古来この信仰がどのように守られてきたかをも考察、霊山信仰を通して〈日本の神〉の本質を明らかにした意欲作。
現象学と表現主義
現象学と表現主義
著:F・フェルマン,訳:木田 元
講談社学術文庫
フッサールの現象学の観念論と、文学上の表現主義とを共通の思考形態に帰一させようと試みたフェルマン。彼はフッサールの思考をホフマンスタールやムージル、バルトらの表現主義作家たちの思考との構造上の親縁性を跡づけ、さらに現象学をフロイトの精神分析に近づけることになった還元思想の変容を追跡する。フッサールの現象学の展開をドイツの社会史、精神史のうちに斬新に捉えた画期的論考。
昔話のコスモロジ-
昔話のコスモロジ-
著:小澤 俊夫
講談社学術文庫
日本を始め世界各地の昔話に数多く見られる人間と動物との婚姻譚。パートナーとなる動物はどこから来るのか。日本の夫は去ってゆく妻をなぜ追いかけようとしないのか――昔話の研究家として知られる著者が、「つる女房」や「天人女房」「ばら」など各国の異類婚姻譚を詳細に比較考察して昔話の本質を追究。他の民族とは異なる昔話をはぐくんできた私たち日本人特有の文化や民族性を解きあかした好著。
国民経済 その歴史的考察
国民経済 その歴史的考察
著:大塚 久雄
講談社学術文庫
資本主義や民主主義は、どのようにして成立したのか。英米2国の歴史的分析をもとに、社会的分業と協働に基づく国民経済の成立を活写し、そこから生じた共同の利害が民主主義を育んだと主張する。また加工貿易型産業構造のオランダの衰退を指摘し、さらに「南洋の泡沫」事件など十八世紀の熱狂的な株式投機とその崩壊をも考察。今日の政治、経済の本質に鋭く迫るきわめて示唆に富んだ不朽の名著。
歴史学概論
歴史学概論
著:増田 四郎
講談社学術文庫
歴史学とは何か。古代ギリシアのヘロドトスから、ローマ帝国末期のアウグスティヌス、ルネサンスの人文学者やフランスの啓蒙思想家を経て、19世紀ドイツのランケに至って近代歴史学は成立した。その発達段階を明快に分析しながら、古代から中世への転換期の歴史意識の研究など、現代思想学の問題点をも論及。西洋史学の泰斗が、「歴史することの妙味」と歴史を学ぶ心構えを懇切に説いた必読の書。
小泉八雲 西洋脱出の夢
小泉八雲 西洋脱出の夢
著:平川 弘
講談社学術文庫
西洋人でありながら、小泉八雲として日本人以上に日本を愛し理解したラフカディオ・ハーン。本書では多くの資料を駆使して夏目漱石やマーク・トゥエインなど同時代の作家と比較、また不幸な幼年時代や来日前のアメリカでの新聞記者時代にも光を当てるなど、様々な角度からハーンの全容を分析検証した。今なお日本人の心に生き続ける古びることのない八雲文学の魅力の秘密を、鮮やかに論考した名著。
病因論研究
病因論研究
著:V.V・ヴァイツゼッカ-,訳:木村 敏,訳:大原 貢
講談社学術文庫
フロイトに共鳴したヴァイツゼッカーは、内科学に精神分析を導入するという野心的な試みを行ない、独自の心身相関論を構築した。デカルト以来の心身二元論と、心身両者間の単線的な因果性を徹底的に排除し、心と身体が相互に原因と結果となって、円環の関係で一体となると主張する。発病を人生のドラマ、生活史のドラマと捉える観点の必要性を説いた画期的研究の初訳成る。待望の文庫オリジナル。
花ごよみ
花ごよみ
著:杉本 秀太郎
講談社学術文庫
花がきらいという人に出会ったことはない。古来この国の山野、池沼、路傍、水辺、町のなかに見出される花が好きだし、殊に日本の秋の野に咲くさびしい花が好みに合う。私の格別に好きな花は『古今和歌集』という文芸の余情を帯びている。言葉の綾というものが美しくまとい付いている花…。美しい日本の四季を彩る花づくし132章。古今東西の花にまつわる詩歌について蘊蓄(うんちく)をかたむけた好著。