講談社学術文庫作品一覧

日本の民俗宗教
講談社学術文庫
一般に民間で行われている宗教現象は民間信仰とよばれており、日本人の生活に深く浸透している。民間信仰は日本人が諸宗教を摂取する枠組となっており、著者はこれを民俗宗教と捉える。本書は従来、個々に解明されてきた民間信仰を、宗教学の視点から体系的に理解するため、その鍵となる原風景、歴史、儀礼、物語等を解説し、民俗宗教の中核をなす死と祖霊化の問題を考察した待望の入門書である。

社会科学の方法
講談社学術文庫
ヴェーバーにおける社会科学は、人間の諸事象を文化意義という観点から考究し、歴史的個体の把握に努め、歴史事実を分析・総合すべきとする。彼は唯物史観をしりぞけ、抽象的理念だけでなく論理的な現実認識の手法を加えた《理念型》という概念を導入し、新たな社会科学の方法論を確立する。本書はヴェーバー思想の転換点と位置づけられ、その後の展開と体系を理解するうえで必読の書といわれる。

わざとらしさのレトリック
講談社学術文庫
われわれは言語が自分の考え方や現実の情景などを忠実に描写・表現するものだと考えがちである。著者はそういった素朴な言語観を否定し、〈まことしやか〉に対する〈わざとらしさ〉のレトリックこそ言述(デイスクール)の本質的な姿だと説く。夏目漱石、小林秀雄、井上ひさし、筒井康隆、ロラン・バルトらの散文表現を素材に、著者独自の言語理論が自在に展開する佐藤レトリック学の〈実践篇〉の位置を占める会心作。

トマスによる福音書
講談社学術文庫
1945年、エジプトで写本が発見され、「新発見の福音書」として世界にセンセーションをまきおこした。〈トマスによる福音書〉―異端として排斥されたグノーシス派の立場から編まれた114のイエスの語録集である。新約聖書学・グノーシス主義研究の世界的権威がその語録を精緻に注解し、独自の福音書を明らかにした本書は、従来の「正典福音書」のイエス像を一変させることを迫る衝撃の書である。

御岳巡礼 現代の神と人
講談社学術文庫
御岳信仰は、日本人の精神と行動の基層にある超自然的信仰を代表するものである。文化人類学者としてタイ、スリランカ等の宗教と社会の実地調査を重ねてきた著者が、本書では御岳講の列に連なって「神おろし」と呼ばれる憑霊現象はじめ、登拝巡礼の実態を報告する。御岳教の教団史を辿り、古来この信仰がどのように守られてきたかをも考察、霊山信仰を通して〈日本の神〉の本質を明らかにした意欲作。

現象学と表現主義
講談社学術文庫
フッサールの現象学の観念論と、文学上の表現主義とを共通の思考形態に帰一させようと試みたフェルマン。彼はフッサールの思考をホフマンスタールやムージル、バルトらの表現主義作家たちの思考との構造上の親縁性を跡づけ、さらに現象学をフロイトの精神分析に近づけることになった還元思想の変容を追跡する。フッサールの現象学の展開をドイツの社会史、精神史のうちに斬新に捉えた画期的論考。

昔話のコスモロジ-
講談社学術文庫
日本を始め世界各地の昔話に数多く見られる人間と動物との婚姻譚。パートナーとなる動物はどこから来るのか。日本の夫は去ってゆく妻をなぜ追いかけようとしないのか――昔話の研究家として知られる著者が、「つる女房」や「天人女房」「ばら」など各国の異類婚姻譚を詳細に比較考察して昔話の本質を追究。他の民族とは異なる昔話をはぐくんできた私たち日本人特有の文化や民族性を解きあかした好著。

国民経済 その歴史的考察
講談社学術文庫
資本主義や民主主義は、どのようにして成立したのか。英米2国の歴史的分析をもとに、社会的分業と協働に基づく国民経済の成立を活写し、そこから生じた共同の利害が民主主義を育んだと主張する。また加工貿易型産業構造のオランダの衰退を指摘し、さらに「南洋の泡沫」事件など十八世紀の熱狂的な株式投機とその崩壊をも考察。今日の政治、経済の本質に鋭く迫るきわめて示唆に富んだ不朽の名著。

歴史学概論
講談社学術文庫
歴史学とは何か。古代ギリシアのヘロドトスから、ローマ帝国末期のアウグスティヌス、ルネサンスの人文学者やフランスの啓蒙思想家を経て、19世紀ドイツのランケに至って近代歴史学は成立した。その発達段階を明快に分析しながら、古代から中世への転換期の歴史意識の研究など、現代思想学の問題点をも論及。西洋史学の泰斗が、「歴史することの妙味」と歴史を学ぶ心構えを懇切に説いた必読の書。

小泉八雲 西洋脱出の夢
講談社学術文庫
西洋人でありながら、小泉八雲として日本人以上に日本を愛し理解したラフカディオ・ハーン。本書では多くの資料を駆使して夏目漱石やマーク・トゥエインなど同時代の作家と比較、また不幸な幼年時代や来日前のアメリカでの新聞記者時代にも光を当てるなど、様々な角度からハーンの全容を分析検証した。今なお日本人の心に生き続ける古びることのない八雲文学の魅力の秘密を、鮮やかに論考した名著。

病因論研究
講談社学術文庫
フロイトに共鳴したヴァイツゼッカーは、内科学に精神分析を導入するという野心的な試みを行ない、独自の心身相関論を構築した。デカルト以来の心身二元論と、心身両者間の単線的な因果性を徹底的に排除し、心と身体が相互に原因と結果となって、円環の関係で一体となると主張する。発病を人生のドラマ、生活史のドラマと捉える観点の必要性を説いた画期的研究の初訳成る。待望の文庫オリジナル。

花ごよみ
講談社学術文庫
花がきらいという人に出会ったことはない。古来この国の山野、池沼、路傍、水辺、町のなかに見出される花が好きだし、殊に日本の秋の野に咲くさびしい花が好みに合う。私の格別に好きな花は『古今和歌集』という文芸の余情を帯びている。言葉の綾というものが美しくまとい付いている花…。美しい日本の四季を彩る花づくし132章。古今東西の花にまつわる詩歌について蘊蓄(うんちく)をかたむけた好著。

リヴァイアサン
講談社学術文庫
世界の部分秩序である国家を、「主権」という、唯一神の「全能」の類比概念によって性格づける国家論は、基本的に誤った思想であり、また帝国の「主権国家」への分裂は、世界秩序に責任をもつ政治主体の消去をもたらした、人類史上最大の誤りではないか……。ホッブズ、ケルゼン、シュミットという西欧の3人の思想家の「国家論」を基軸として、国家史の再構成を試みた画期的論考。文庫オリジナル。

現代情念論
講談社学術文庫
人間の非合理的、無意識的機能としての感情=情念が、いかに現代社会を動かしているのか。第1編「社会化された情念」では、合理主義文明のなかでなぜファシズムがむき出しの力を振るうのかを考察し、現代人の心の深層をフロイト、ユングの理論で分析。第2編「伝統とナショナリズム」では日本的心情としての天皇制に論及する。論壇第一線での注目すべき労作も収録した中村哲学の原点をなす必読の書。

英文収録 茶の本
講談社学術文庫
ひたすらな瞑想により最高の自己実現をみる茶道。本書の冒頭で天心は「茶は、日常の事実における美しいものの崇拝、すなわち審美主義の宗教としての茶道に昂められた」という。明治39年、天心は西洋文明に対する警鐘をこめて、茶の文化への想い即ち東西の文明観を超えた日本茶道の真髄を切々と綴った。精魂をこめた訳文により天心の精神がいま静かに息づく。原典英文収録の名著復刻の決定版!

文化記号論
講談社学術文庫
文化記号論は、言葉を人間の心の働き、すなわち精神の創造的な営みとみなすことから出発し、文化現象のすべてを言語記号の総体として捉える。哲学・文学・社会学・人類学等、あらゆる人文科学の基盤としての中心的役割を担うに至った文化記号論の現在を多面的に考察。意味論・修辞学等の基礎理論から、記号論のめざすべきアクチュアルな課題までを明確に論じた、第一線言語学者による必携の好著。

世紀末ドイツの若者
講談社学術文庫
ドイツの若者のイメージを代表するワンダーフォーゲルは、反世紀末的で、反デカダン的であった。彼らは世紀末を、次の世紀への跳躍の兆候としてとらえた。若者が創り出した雑誌「ユーゲント」も未来への希望を表現した。ドイツの世紀末は、パリやウィーン風の終末論的世紀末と異なり、未来志向の世紀末転換期であった。世紀末に生きるドイツの若者の生態を文化史的観点から斬新に描いた名著。

意味と構造
講談社学術文庫
〈意味〉の問題は、現代の言語学の中心課題である。ライズィは、単語が持つ意味の最小単位を要素(コンポネント)と名づけた。英語とドイツ語の対応語を画期的な分析分類法を駆使して具体的に比較することから出発して、個々の語においてさまざまな要素が作り出す意味の構造を解明。ソシュールに始まる〈20世紀の学問〉としての言語学の流れをもっともラジカルに進めた、意味構造論の先駆的名著。

茂吉秀歌「つゆじも」から「石泉」まで百首
講談社学術文庫
――一般には備忘録の寄せ集め風に考へられてゐる滞欧詠や、何となく埃臭い印象の満関支詠に意外に興味津津の素材が犇き、画期的な文体が散見できることに改めて目を見張った。外国語頻用も特徴の1つである。必ずしも留学作品に限らず、帰国後の日常詠も幻惑的な横綴りを鏤める。世界のいづれの地に赴いても、過たず対象の本質を直感して作品化する、あの抜群の言語感覚は羨ましい。(著者・跋より)

メインの森
講談社学術文庫
自然に学び、自然に生きたアメリカの代表的思想家ヘンリー・D・ソロー。彼はアメリカ東部メイン州の森の奥地を数度にわたり探検し、その野性にみちた大自然のすばらしさを本書にまとめた。荒々しい岩山クタードンの登山やヘラジカとの遭遇、また自然に順応して生きるインディアンのガイドとのふれあい等、興味深い体験の数々が展開される。『森の生活』とならぶ、ソローの思索の到達点を示す名篇。