講談社現代新書作品一覧

ユダヤ人ゲット-
ユダヤ人ゲット-
著:大澤 武男
講談社現代新書
なぜユダヤ人は隔離居住を強いられたのか。フランクフルトのゲットーの建設から解放までを実証的に跡づける。 ゲットー遺跡をめぐって――1987年2月、〈市の交通サービスセンター建設工事現場で〉ゲットーの遺跡が明るみに出て、公に報道された時、フランクフルトではこの発掘遺跡の保存と工事の中止をめぐって、大論争が持ち上がった。……「数百年にわたり隔離され、しいたげられながら、嘲笑され忍従する生活を強いられた民の遺跡を取り壊し、コンクリートを流し込んで固めてしまうことは、第2次世界大戦のユダヤ人大量虐殺に続く、最終的ユダヤ人の抹殺である」という訴えは、圧倒的多数の心を動かした。「ゲットーからアウシュビッツは一直線ではない」として工事を続行しようとする保守政権側の主張は、完全な敗北に終わり、その結果生まれたのがゲットー博物館なのである。――本書より
「複雑系」とは何か
「複雑系」とは何か
著:吉永 良正
講談社現代新書
21世紀を解く最大のキーワード「複雑系」。生命、自然、物質、社会、経済。あらゆる事象を取りこみ展開していく新たな「知」のパラダイムとは。最先端科学の現場にあなたを誘う恰好の入門書。 〈世界〉の大転換――「複雑系の科学」という出現しつつある新しい科学は、ひょっとすると過去300年にわたり――いや、その根本動機は2千数百年前のギリシアにまでさかのぼる――〈世界〉を改造してきた西欧近代科学を、根底から変革するものになるかもしれない。そのことは、私たちのものの見方や社会のあり方にまで、転回を促すことになるだろう。これほどの大転換の時期に遭遇できる機会など、人類史上めったにあることではない。もちろん、転換には長い時間がかかるだろう。50年ですむかもしれないし、100年かかるかもしれない。だが、私たちはまちがいなくこの転換の入口にいる。科学の諸分野でさまざまな予兆が現われている。「複雑系の科学」の“すごさ”はこの転換を予感し、名づけえない〈世界〉の真実に何らかの形と名前を与えようとしている、その努力にある。――本書より
トルコ民族主義
トルコ民族主義
著:坂本 勉
講談社現代新書
モンゴル高原に源を発した遊牧民は、いかにして世界地図を塗りかえたか。いま、再び歴史の主役に躍り出た民族の歴史と未来像。 二つの顔をみせる民族の問題――民族の問題をイスタンブルから、あるいはトルコから見なおしてみると、……分離的、遠心的な現象とは対極にある第二の局面があることに気づく。それは従来、違った集団として意識し、国も異にしてきた人びとが、地理的な近さ、経済協力の可能性、言語、宗教、文化、歴史などの共通性をてこにしながらたがいに絆を強め、関係を緊密にしていこうとする統合的、求心的な傾向である。……これは広域ナショナリズムと呼ぶことができるだろう。ザカフカスのアゼルバイジャン人や中央アジアのトルクメン人、ウズベク人、カザフ人、キルギス人などがトルコに接近したり、内戦で苦しんでいたボスニアのイスラーム教徒がトルコに援助を求めたりしていることなどがこれにあたる。――本書より
観音・地蔵・不動
観音・地蔵・不動
著:速水 侑
講談社現代新書
宗派を超え、教義を離れて日本人を魅了しつづけた守り本尊。貴族・武士・庶民それぞれの信仰を通して『日本仏教』の根源に迫る。 武士と地蔵――地蔵が戦場に現れて危急を救ってくれるという信仰も、武士政権が成立したこの時代には盛んだった。武士の危急を救う身代わり地蔵の説話としては、『太平記』に記す、壬生寺縄目地蔵の話も名高い。京で足利軍と戦った児島高徳勢が全滅したとき、武蔵国の住人香勾新左衛門高遠だけは囲みを破って壬生寺地蔵堂に逃げこんだ。すると1人の僧が現れ、自分の念珠を高遠の血刀ととりかえてくれた。寄手の兵は、念珠を持って祈っている高遠を参詣人と思い、血刀を持った僧に縄を打ってつれ去った。ところがこの身代わりの僧は牢から姿を消し、のちに壬生地蔵堂の本尊をみると縄目の跡が残っていたという。――本書より
デカルト=哲学のすすめ
デカルト=哲学のすすめ
著:小泉 義之
講談社現代新書
カントやヘーゲルが哲学を完成したのではない。近代哲学とはデカルトの到達した高みかすべり落ちる歴史だった。戦争、宗教、あるいは病いなど今日的課題に答えうる「哲学の王道」を読み直す。 思想を捨てる――私はさしたる困難もなく生き残ってきた。私は今もさしたる苦痛なしに生きている。ところが、悲惨な状態で生き残ってきた人がいる。こちらは恵まれた生活を送っているのに、ぎりぎりの生存をつづけている人がいる。この事態について真摯に考えようとすると、悲惨な生者に対してどのような態度をとればよいのかという疑問がわきあがってくる。とはいえ私は老いてゆくし、いずれ死んでゆく。人間の死が必ず非業の死であるなら、私もいずれ悲惨な状態で死にゆくことになる。この事態について思うとき、死にゆく者として生きている私を、晴朗に肯定する手だてはないのかという疑問がわいてくる。こんな疑問をたずさえて、デカルトを読んでいこうと思う。――本書より
不安の心理学
不安の心理学
著:生月 誠
講談社現代新書
だれもが経験するが、コントロールしにくい不安。心身の反応、思考や行動への影響などを多くの実例から探り、適切な対処のしかたに照準を合わせながら不安の本質に迫る。 不安と課題達成――不安によって動機づけられるのは、身体運動や生理的反応だけでなく、思考や想像活動なども動機づけられる。これらが、その時の外部環境や内部環境と関連して、課題の達成に複雑に影響する。したがって、適度な不安というのは、動物の場合ほど単純ではない。ごく軽い不安でも、課題の達成を妨害することもあれば、かなり強い不安が、一貫して課題の達成を促進することもある。不安の度合だけに着目するのではなく、動機づけられた個々の反応が、不安軽減の予期や課題の達成、ないしその予期とどう関連するのかをチェックすることが、不安と課題の達成との関連の理解には必要である。――本書より
〈わたし〉とは何だろう
〈わたし〉とは何だろう
著:岩田 慶治
講談社現代新書
わたしとわたしの周りの世界とは別もの? 対象として世界を捉える知を捨て、じかに自然に感応しつつ、山川草木のなか自分という風景を描き出す。 こちら側から向こう側へ――最近になって、ケン玉の新しい技法を案出した。それは目を閉じてするケン玉である。目を閉じたままで、闇の中を上下する目に見えないタマを受けとめるのだ。赤タマの動きと剣をもつ手の動きが同調して、スポッと合体する。2が1になる。闇のなかで2が1になる音。闇のなかで不意に生まれる音。私はその音に目を開いててのひらのなかにおこった微小な天地創造のドラマを味わう。音は闇のなかでおこった。微小な天地創造のドラマを味わう。音は闇のなかでおこった。自分のこちら側でもなく、向こう側でもない。自分の内部でもない。スポッという音。これは微小かもしれないが天地創造の音ではなかろうか。――本書より JEUNESSE―ジュネス―とは、年若いこと。若狭とは、いまだ問いを呑み込まず、宇宙の風にさらされること。いわゆる「教養」や「知的好奇心」は、大人のスマートな会話に似合いそうな言葉です。立ち止まってみましょう。自分はどんな問いの渦の上に立っているのか。かすかな謎のささやきに耳を傾ける感性を、また、どんな権威や常識にも頼らぬ思考を、私たちはJEUNESSEと呼びます。古い問題をもう1度新たに問い直し、あたりまえに見える目の前の世界に想像力の自由な視線をめぐらすとき、見たこともない像が立ち上がるのです。現代新書JEUNESSEは、そんな知的感性を大切にしたいと考えます。
藤原氏千年
藤原氏千年
著:朧谷 寿
講談社現代新書
始祖・鎌足から不比等、良房らをへて道長に至り、ついに満天に輝く望月となった藤原一族。権謀、栄華、零落、風雅、伝統…。今に伝わるその足跡をたどる。 兄弟の熾烈な争い――伊尹死去の天禄3年(972)、兼通の権中納言に対して兼家は大納言になっていた。このような同母兄弟間での官位の逆転は異例と言える。この状況からすれば、伊尹の後継者には上位の兼家が有力と、誰しも思ったであろうし、その可能性は大きかった。しかし、実際に関白の座についたのは兼通のほうであった。そのいきさつを『大鏡』に見ると……。兼通は、いずれ弟に追い抜かれることを見越してか、円融天皇の母である妹の安子皇后から生前に「関白をば、次第のままにせさせ給へ、ゆめゆめたがへさせ給ふな」(関白職は兄弟の順にご任じなさいますように、決して違えてはなりませぬ)と書いてもらい、これを御守りのように大切に首にかけて持ち歩いていた。そして、伊尹の死に際して円融天皇の御所に行って示した結果、これが実現したのだという。……このようにして弟に勝った兼通は、いとこの右大臣藤原頼忠を補佐役として政治をおし進めた。この体制で5年目が終わろうという時に兼通は重病に陥った。ここで『大鏡』は、またもや兄弟の熾烈な争いを伝えている。――本書より
聖書VS.世界史
聖書VS.世界史
著:岡崎 勝世
講談社現代新書
天地創造から6000年で人類は終末を迎えると聖書はいう。では、アダムとエヴァより古いエジプトや中国の歴史はどうなるのか。ニュートンの時間概念はどうなるか。聖書と現実の整合性を求めて揺れ続けた西欧知識人の系譜。(講談社現代新書) 西欧は聖書の描く人類史とどう格闘したか。聖書では人間の歴史はアダム以後6千年で終末を迎える。ではエジプトや中国の古い歴史は何なのか、ニュートンの時間概念はどうなるか。西欧の世界観は揺れ続けた。
電子あり
新版・クラシックの名曲・名盤
新版・クラシックの名曲・名盤
著:宇野 功芳
講談社現代新書
あまたある名曲・名盤から何をどう聴くか。好評を博した旧版の推薦盤のほか、曲目を大幅に増補、新発売のCDを加えて改訂した決定版。豊穰の音楽世界への新しい道案内。 ベートーヴェン・弦楽四重奏曲第一四嬰ハ短調Op.131――ベートーヴェンの後期の四重奏曲、それは深い思索とファンタジーが曲のすみずみにまで浸透し、融通無碍な形式の自由さを獲得した幽玄ともいえる精神の声である。彼のモットーである〈苦悩を克服して歓喜へ〉への思想はもはや表面に現われず、孤独の影が濃い。ベートーヴェンは静かに自らの人生と心の内面を見つめているのだ。それにしても、これらは本当に淋しい、本当に孤独な人間でなければ書けない音楽ではあるまいか。人に聴かせるというよりは、彼の心の日記のような音楽なので、老ベートーヴェンと一対一で会話をするようなつもりで味わっていただきたい。当時の彼はもはや筆談でしか相手の意志が伝わらなかったのであるが……。ところで「作品131」だが、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲の最高傑作は何か、と問われれば、10人中9人までがこの曲を挙げるにちがいない。――本書より
アメリカの軍事戦略
アメリカの軍事戦略
著:江畑 謙介
講談社現代新書
冷戦後、軍縮が進むなかで空母だけは削減しないのはなぜか? 欧州重視から太平洋重視に転換した理由は? 日米安保再定義から核軍縮までアメリカの「ポスト冷戦」戦略を見通す決定版。 在外米軍基地削減と空母――冷戦が終結し、米国は大幅な軍備の縮小と同時に、海外米軍基地の閉鎖、返還にも着手した。その必要がなくなったのと、配備しておくに十分な数の米軍部隊がなくなったからである。冷戦が終り、地域紛争の増大が予想される時代にあたり、この在外米軍基地の削減と米国の軍事力展開能力の維持という矛盾をどう解決するか。その答えとして米国が目を付けたのが空母の価値であった。その数は、かつてソ連の海軍力増強に対抗して、全世界での制海権を確保するための15隻という規模はもはや必要ではない。だが、削減幅は大方の予想であった半減ではなく、わずか3隻という小幅なものに留まったのである。そして1996年度予算でも、米国議会は10隻目の原子力空母CVN-76の建造費を承認した。――本書より
再入門の英語
再入門の英語
著:長谷川 潔
講談社現代新書
「社内公用語は英語」の時代。使える英語への早道は、中学・高校で学んだ潜在力の活用から。基本16動詞の応用、パターン練習、推理的リスニングで実力アップ! ラジオ「英会話」で自分をチェック―― Listeningに上達するためには、日本語になるべく訳さないことです。いちいち訳していたら、その間にどんどん先に進んでしまいます。最初はわかる単語だけ聞き取るつもりでけっこうです。そのうちわかる単語が少しずつふえてきます。もしどうしても訳が気になる人は、聞いた単語を覚えておいて、あとで辞書で意味を確かめます。とにかくListeningは日本人の好きな英文和訳とは違いますから、訳すことは忘れて耳を英語に集中しましょう。日本語で話を聞いても全部正確に聞き取っているわけではありません。要点だけがわかればいいのです。さらに日本語でも聞きまちがえて聞き返すことがあります。まして英語なのですから、最初から全部理解しようと意気込まないほうがいいのです。気楽な気持ちで聞いて少しずつ英語がわかるようになれば、英語の音の感覚が身につきます。――本書より
意識と存在の謎
意識と存在の謎
著:高橋 たか子
講談社現代新書
1人1人が生きている、生かされているとはどういうことなのか。救いへの道を希求する思索の書。 意識の目覚め――意識とは何でしょうか。一般に言われているそれではなくて、一般に言われている無意識をもふくめた、意識のことですが。存在イコール意識という存在論と表裏をなす意識論における、それ。まず、誰にとってもわかる実例から入ってゆきます。生活の業務をしている時、どこか自分の奥から、ぽっと、その業務とはかならずしも関係なく、何かが湧きでてきて、それに留意していると、だんだんはっきりしてきます。普通は、はっきりしてくる前に、その時している業務の必要事のほうへ注意が戻るので、湧きでてきた何かは消えてしまう。そして、それが何であったかも、そんな発生のことも、すっかり忘れてしまう。――本書より
中国医学の健康術
中国医学の健康術
著:小 修司
講談社現代新書
体・心・病・治癒についての3000年に及ぶ知恵の結晶。五臓六腑を巡る気・血・津液のバランスの観点から、多様な現代病への対応策と心身の健康を保つ養生法とを説く。 「未病」という状態――中国医学には「未病」という考えがあります。気・血・津液という身体を構成している物質の量的な不足や流れの異常が、中国医学の診断法では認められるものの、未だ明らかな病気と認識される以前の状態ということです。別のいい方をすれば、食事や呼吸などさまざまな日常生活の中の摂生、つまり養生をすることで、これらの半病気的状態を脱却できる段階を未病というのです。一般のドックなどの検査では異常と認められないが、既に気・血・津液に何らかの異常が認められ、放置すれば重篤な疾病を引き起こす恐れがあると思われる人は、現代のようにストレスが多く、食生活で不摂生をする人が多い時代には、実際想像以上に多いものです。――本書より
じぶん・この不思議な存在
じぶん・この不思議な存在
著:鷲田 清一
講談社現代新書
●探せばどこかにじぶんはある? ●女の子は「女装」によって女になる ●過敏になったじぶんの先端 ●小さな不幸がひきたて幸福 ●アイデンティティの衣替え ●わたしはだれにとっての他者か ●他者のなかに位置を占めていない不安 ●泳ぐ視線、のぞく視線、折れ曲がる視線 ●他人の視線を飾る行為 ●じぶんがぼやけることの心地よさ わたしってだれ? じぶんってなに? じぶん固有のものをじぶんの内に求めることを疑い、他者との関係のなかにじぶんの姿を探る。 探せばどこかにじぶんはある?――「じぶんらしく」なりたい、じぶんとはいったいどういう存在なのかを確認したいと思って、じぶんのなかを探す。顔がいい? 走りが速い? 計算が速くて正確? 明るい? ……どれをとってもわたしだけに固有のものってありはしない。このような性質や能力はだれもが多かれ少かれもっているものだ。性別や年齢や国籍などというのは、それこそみんながもっている。だから、その1つ1つはだれもがもっているものであるにしても、それらの組み合わせにひとりひとり独自のものがあるのだ、というのは、そのときだれもが思いつく論理である。が、これがじぶんというものの、かけがえのない不二の存在を証しているなどというには、あまりにも貧弱な論理であるのは、だれもが直観的に気づいている。――本書より JEUNESSE―ジュネス―とは、年若いこと。若さとは、いまだ問いを呑み込まず、宇宙の風にさらされること。いわゆる「教養」や「知的好奇心」は、大人のスマートな会話に似合いそうな言葉です。立ち止まってみましょう。自分はどんな問いの渦の上に立っているのか。かすかな謎のささやきに耳を傾ける感性を、また、どんな権威や常識にも頼らぬ思考を、私たちはJEUNESSEと呼びます。古い問題をもう1度新たに問い直し、あたりまえに見える目の前の世界に想像力の自由な視線をめぐらすとき、見たこともない像が立ち上がるのです。現代新書JEUNESSEは、そんな知的感性を大切にしたいと考えます。
電子あり
名君の賢臣
名君の賢臣
著:百瀬 明治
講談社現代新書
貨幣経済が発達するとともに、江戸幕藩体制は綻び、軋みはじめる。財政難を救った吉宗・鷹山・田沼らの政策・人材登用法・生き方に学ぶ。 なぜ幕政改革が必要になったか?――江戸の武家社会は、周知のように米経済に立脚していた。彼らは、領内の農村で生産される農作物を年貢として吸いあげ、それを金銭に換えて消費生活を営んでいた……。そこへ、新たな経済体制として、貨幣経済、商品経済が急速に成長しはじめた。貨幣経済、商品経済は、国全体の経済規模を拡大する自律性をもち、商品の供給量の増大と物価の上昇をうながす。それに対し、武家の依存する米経済は、毎年の生産量がほぼ一定しているから、基本的に停滞性が強い。そのような因果関係により、米経済と貨幣経済の格差はたちまち逆転し、幕府・諸藩は足並みそろえて赤字財政に苦慮しなければならなくなったのである。さて、そうすると、経済を度外視する仁政では、こうした事態は解決できないことになる。政治・経済の両面にわたって、斬新な手法が必要になってくる。そのような要請にこたえて、諸藩で試みられたのが、いわゆる「藩政改革」であった。といっても、諸藩には独自の事情があり、リーダーの考え方も一様ではなかったから、藩政改革はさまざまな形をとった。そのような藩政改革の代表的な事例を、……概観することにしたい。――本書より
異端審問
異端審問
著:渡邊 昌美
講談社現代新書
ヨーロッパ中世を血の色に染めた狂熱の炎。徹底的に排除され裁かれた「異端」の脅威とは何か。史料を渉猟し、キリスト教社会の闇に迫る。 異端の認定――それよりも驚くのは、異端の認定の峻厳さである。異端者数名とともに人目を避けて葡萄畑に行き、そこで異端の書物を読み、一緒に食事をしたという聖職者が、職務を停止されてサンチャゴ巡礼を科せられたのは理解できないこともないが、少年時代に異端らしい者を見た男、それと知らずに異端者を対岸に渡した渡し船の船頭、渡し船に異端者と乗り合わせたことのある男、異端とは知らずに怪我人の腕に包帯を巻いてやったことのある医師、ある病人の家に異端者が入るのを見かけたことのある男、病児のために医術の評判の高かった異端者に相談した男などが、長途の巡礼を命じられているのだ。異端者が社会の底辺にまで浸透していた時代、彼らと何らかの接触の経験のない者はいなかった。それをしも「幇助者」「迎接者」「秘匿者」と見るならば、全住民が有罪である。事実、この頃の異端審問官は全住民を信仰の敵と考えていたのかもしれない。――本書より
銘酒誕生
銘酒誕生
著:小泉 武夫
講談社現代新書
民族の伝統的知恵と気候風土がはぐくんだ中国の白酒と日本の焼酎。「活力の水」ともいうべきアジアの二大蒸留酒の芳醇かつ多彩な世界を案内する。 固体発酵と理想的リサイクル――白酒製造の際の副産物である蒸留糟は、それらの豚を飼育するのにきわめて重要な飼料となっているのである。固体発酵という特殊な微生物作用を受けてきたために、栄養成分は豊富で消化吸収は他の固体飼料に比べて抜群によい。……豚はこの糟を食べてどんどん大きくなり、そのうちに白酒の肴として食卓に出てくる。その間、豚の糞は畑に撒かれて、白酒の原料を育てる肥料となる。……穀類原料を固体発酵させることにより、そこから白酒を得ると同時に豚肉を得、そして白酒の原料穀物まで得るといった、何ひとつ無駄のないすばらしいリサイクルが成立しているのである。――本書より
ブルゴ-ニュ家
ブルゴ-ニュ家
著:堀越 孝一
講談社現代新書
ヴァロワ家フランスとハプスブルク家ドイツの間に台頭する新勢力ブルゴーニュ家。中世の金色の風景の中に1つの国家を構想した侯家4代の盛衰を描く。 はじめに――ところが14世紀のなかば、ブルゴーニュ侯家に男子の相続者が続かなくなった。なにしろここはフランス王家の親族の領地だからというので、一時王家が直轄領としたが、すぐにまたあたらしい侯家をおこした。時のフランス王ジャンの末っ子フィリップにはじまる家系のブルゴーニュ侯家である。フランス王家をヴァロワ家といったので、ヴァロワ家系ブルゴーニュ侯家という。もしこの侯家が以前のブルゴーニュ家のように、この土地の領主として自足していてくれたなら、「ブルゴーニュ問題」は発生しなかった。わたしがこの本を書く理由もなかったことだろう。ところが「ブルゴーニュ問題」は発生した。この問題、生半可なものではなかった。つきつめればブルゴーニュ家がドイツとフランスのあいだにひとつの国家をつくれるかどうかが問われたのである。――本書より
ト-マス・クックの旅
ト-マス・クックの旅
著:本城 靖久
講談社現代新書
だれでもが、団体割引で、安全・快適な旅をどうぞ! 大英帝国での“レジャーとしての旅行”誕生の様を、創始者の生涯とともに活写する。 歴史的な日帰り団体旅行――トーマス・クックはミッドランド・カウンティーズ鉄道会社を訪れ、必要な人数は自分の方で集めるから、割引料金でグループをレスターからラフバラーまで臨時列車で運び、また連れ帰るように要請した。この鉄道会社はそれまでにもこの種の臨時列車を組織したことがあるので、問題なくこの申し入れを承諾した。大人1人の往復料金は1シリングと決められたが、これは通常料金の半額である。それからの数週間、トーマス・クックは非常に忙しかった。大会のプログラム……昼食やアフタヌーン・ティーの手配……ゲームやダンスの用意……広告……往復乗車券の印刷・販売……このようにして、あの歴史的な日帰り団体旅行は実施されたのである。――本書より